2016年12月29日

物語版「零(zero)に立つ」第20章 一世紀を生きて(8)/通巻154話

天童で産まれ網走で活躍した、中川イセさんの半生を描いた
『零(zero)に立つ〜激動の一世紀を生きた中川イセの物語〜』
※この作品は、もともと、女優・夢実子が演ずる語り劇として書かれたものを、
 脚本を担当したかめおかゆみこがノベライズしているものです。

※これまでのあらすじと、バックナンバーは、こちら


脳溢血であった。

すぐに病院に運ばれ、なんとか一命はとりとめたが、意識は
もどらなかった。

たおれて以来、イセは、ただ昏々と眠りつづけた。

…いや、はたして本当にそうであったろうか。

これは、憶測だけれども、ひとつの可能性として。

全身がまったく動かないために、意識がないと思われてしま
う状態のことを、「ロックトインシンドローム」という。

全身がまひするので、からだのどこも動かすことができない。

声はもちろん出ない。くちびるを動かすことさえもできない。

まわりの話は完全に聴こえているが、それに反応することが
できない。

目も見えているが、まばたきさえできないので、意思を伝え
ることはほぼ不可能になる。

そうしたひとたちが、いわゆる「植物状態」と呼ばれるひと
たちのなかにも、おおぜいいることが、最近の研究によって
わかってきた。

そうしたひとたちの意識回復のためのサイトも存在する。
(「白雪姫プロジェクト」)

イセが、そうでなかったとは、誰にも言うことはできない。

ともあれ、親戚を中心に、まわりのひとたちは、交代で看病
についた。

そうして、2004年が暮れ、回復のきざしも見ないまま、
2005年も暮れていった。

そのかん、イセは、何度か容態が悪化することがあった。

あるときなどは危篤となり、葬儀の日取りを決めたほう
がいいのではないか、という状態にまでなった。

しかし、イセは、そのときでさえ、奇跡のように持ち直した。

まわりのものたちは、イセの強靱な体力と気力に感嘆した。

そうして、2006年も暮れようとするとき、ふたたび容態が
悪化した。

親戚やまわりのものたちが集められたが、小康状態にな
ったこともあり、

「ばっちゃん、今回も大丈夫だろう」

年末年始ということもあって、みなは、帰っていった。

正月をともにむかえたのは、宗治の娘、和子であった。

イセは、初日の出をおがむこともなく、眠りつづけていた。

元旦の日はゆっくりと暮れていき、やがて夜になった。

静かな夜だった。

ふと、時計を見ると、まもなく23時になろうとしていた。

2007年も、このまま、こんなふうに過ぎていくのだろ
うか。

よろこんでもかなしんでも、ときは刻々と過ぎていく。

そのときの流れのなかに、ひとは生まれ、死んでいく。

誰ひとり、その流れから、はずれることはできない。

元旦。1月1日。1が並ぶ日。

(ばあちゃん、一番が好きだったねえ…)

和子が、何気なく、そう思ったときである。

イセの息が、ふっと止まった。

(え…?)

和子は、どきっとした。

「ばあちゃん…? ばあちゃん…!」

声をかけたが、イセは、もう、息をしていなかった。

和子は、あわてて、医師を呼びに病室を飛び出した。

1月1日22時55分。臨終。

「1月1日かあ。さすがは、中川のばっちゃんだ」

知らせを受け、駆けつけたものたちがつぶやいた。

105歳の大往生であった。



(明日、最終回となります)



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※網走以外の、オホーツク地方の写真も掲載していきます。
shiretokotouge.jpg
「知床峠」 
写真提供/北海道無料写真素材集 DO PHOTOさん
posted by 夢実子「語り劇」プロジェクト at 07:11| Comment(0) | 物語版「零(zero)に立つ」 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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