2016年12月12日

物語版「零(zero)に立つ」第19章 駆け抜ける日々(4)/通巻142話

天童で産まれ網走で活躍した、中川イセさんの半生を描いた
『零(zero)に立つ〜激動の一世紀を生きた中川イセの物語〜』
※この作品は、もともと、女優・夢実子が演ずる語り劇として書かれたものを、
 脚本を担当したかめおかゆみこがノベライズしているものです。

※これまでのあらすじと、バックナンバーは、こちら


1964年、総理大臣が、池田勇人から佐藤栄作に変わった。

その前年の1963年、イセは、市議会議員第5期目を、ふ
たたびトップ当選。

1966年には、藍授褒章を受章する。

ちなみに、藍授褒章とは、「会社経営、各種団体での活
動等を通じて、産業の振興、社会福祉の増進等に優れた
業績を挙げた方。国や地方公共団体から依頼されて行わ
れる公共の事務(保護司、民生・児童委員、調停委員等
の事務)に尽力した方」にさずけられるもの。

イセの場合は、人権擁護運動に尽くした功績がみとめられた
ものだろう。

このとき、イセ、65歳。

その翌年の1967年の第6期目も、8位と上位当選だった。

もはや、網走市議会の古株であり、自民党道連の婦人部長を
兼任していることもあって、中央では市長よりも顔が通った。

市長が陳情や視察などで上京するときなど、イセが案内役を
つとめるほどだった。

なかでも、親しかったのが、田中角栄である。

実は、田中とイセには、共通点がある。

ひとつは、貧困の苦労のなかで育っていること。

イセは、小学校4年までしか学校に行っていない(実家に連
れもどされ、それ以降行かせてもらえていない)。

田中も、貧しい家庭で育ち、小学校が最終学歴である。

戦前・戦中にかけて、イセは、牛馬商の鑑札をとり、馬喰と
なったが、田中の父も、牛馬商であった。

田中が議員になったのも、イセと同じ、1947年である。

実際には、田中は、前年の1946年に、衆議院選挙に出馬
しているが、このときはちからおよばず、落選して、2回目
の挑戦であった。

イセは、1961年に道連婦人部長になってからは、ひんぱ
んに上京するようになっていたから、顔をあわせる機会も多
かったことは、想像にかたくない。

ちなみに田中は、イセより17歳年下であるが、若いころか
ら恰幅がよく、2人並んでも、あまり年の差を感じさせない。

田中のほうも、圧倒的に男性議員の多いなか、北海道の端の
網走から、やたら元気のいい女性議員がやってくるのが、お
もしろかったのだろう。

背の低いイセが、会合の際に、男性議員のあいだで埋もれそ
うになっているのを、目ざとく見つけて、「中川さん!」と、
ひとをかきわけて、握手をもとめにきた。

イセのことを知らない議員たちは、ときの大蔵大臣(1962
〜1965)が、わざわざ歩み寄る、この小柄な女性は誰だ?
と注目する。

そんな田中から、「中川さん、北海道はどうですか?」と訊か
れると、イセもうれしくなって、「私にまかしてください!」
などとこたえたものだ。

田中の総理大臣在籍期間は、1972年7月から1974年12
月まで。

そのかんも、イセとの親交はつづいた。

1971年、イセ、勲五等宝冠章、受章。なお、「宝冠章」と
は、女性にあたえられる勲章のことである。

同じ年、イセ、7期目を3位で当選する。

1972年には、25年以上議員をつとめたものにあたえられ
る、全国市議会議長会表彰を受ける。

さらに、1973年、法務省人権擁護局長表彰。

1974年、28年以上議員をつとめたものにあたえられる、
全道市議会議長会表彰。

同年、公益のために私財(500万円以上)を寄附した者を対
象とする、紺綬褒章、受章。

イセの名声は、いやがおうでも高まった。

しかし、このころから、イセは、議員をおりることを考えてい
たのだろう。

まず、1973年に、12年つとめた道連の婦人部長の座をお
りる。

そして、1975年、8期目の不出馬を宣言。

まわりのものたちは、おどろいた。

イセは、74歳になっていたが、まだまだ元気だったし、なん
といっても、これまで、上位当選をキープしてきたのである。

「ばっちゃん、当選まちがいなしなのに、なんで!」

「もったいない。出るべきだ」

誰もが、そう言って止めたが、いったん決めたら、てこでも
引かないイセの性格は、変わらない。

「いつまでも年寄りが居すわっていたら、若いひとの活躍の
場所がないべさ。おりるといったら、絶対おりる」

さっぱり、さばさばと、言い切ったのである。


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※網走以外の、オホーツク地方の写真も掲載していきます。
takinoueshibazakura1.jpg
「滝上芝桜公園 」 
写真提供/北海道無料写真素材集 DO PHOTOさん
posted by 夢実子「語り劇」プロジェクト at 08:00| Comment(0) | 物語版「零(zero)に立つ」 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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