2016年11月24日

物語版「零(zero)に立つ」第17章 イセ、奔走す!(8)/通巻130話

天童で産まれ網走で活躍した、中川イセさんの半生を描いた
『零(zero)に立つ〜激動の一世紀を生きた中川イセの物語〜』
※この作品は、もともと、女優・夢実子が演ずる語り劇として書かれたものを、
 脚本を担当したかめおかゆみこがノベライズしているものです。

※これまでのあらすじと、バックナンバーは、こちら


けれども、7期28年にわたる議員の仕事のなかで、イセが
もっともちからを入れたのは、なんといっても「人権擁護」
の活動だった。

それは、遊廓時代に、女性の権利、いや、ひとの生きる権利
が、どれだけ蹂躙されたかを、身をもって知っていたイセに
とって、生涯をかけるに足る仕事だった。

そもそもの活動は、議員になる前、1943年(昭和18年)
からはじまっている。

この年、イセは、北海道方面委員(戦前の民生委員)をにな
うことになった。

議員になった1947年(昭和22年)、議会のなかでこそ、まだ
発言権はもてなかったが、この年に、釧路家庭裁判所網走
支部の、家事調停委員となっている。

この仕事は、議員をやめる前年の、1974年(昭和49年)
までつづけている。

本格的に、人権擁護の活動に取り組み始めたのは、1950
年(昭和25年)、人権擁護委員に任命されてからである。

イセは、何よりも、女性がお金で買われるような制度を、なく
したかった。しかし、それは簡単なことではなかった。

少し長くなるけれども、「戦後日本の公娼制度廃止にお
ける警察の認識〜内務省警保局保安係「公娼制度廃止
関係起案綴」の分析〜
」から、引用したい。

1946年1月21日、GHQは高級副官部補佐H.W.ア
レン大佐の名前で、日本政府に対する覚書「日本における
公娼の廃止」を発し、公娼制度はデモクラシーの理想に違
反し、個人の自由発達と矛盾するという理由から、その廃
止を命じた。
(略)
しかし、廃娼が即、買売春禁止を意味するものではなかっ
た。廃娼の覚書が発表される直前の1月12日、警視庁保安
部長から「公娼制度廃止に関する件」の通達が発せられ、
公娼制度は廃止しても私娼として存続を認めることが表明
されたからである。
そして、11月14日、第一次吉田茂内閣の次官会議は、
「特殊飲食店」における買売春行為を認める決定をおこな
い、「赤線」と呼ばれる売春街が成立した。


つまり、制度そのものは廃止しても、「私娼」の存在を禁止し
なかったことから、あらたな差別の構造を生むことになるので
ある。

結局、本当の意味で、買売春が禁止される「売春禁止法」が成
立するまでに、なお6年の年月を待たなければならなかった。

もちろん、イセは、だまって手をこまぬいていたわけではない。

初の女性議員となったイセのところには、差別と人権蹂躙にあ
えぐ女性たちから、助けをもとめる声が届くようになったから
である。

イセが、遊廓の出であることを聴き知って、そんな体験をもつ
ひとであれば、きっとわかってもらえる…と、必死の想いをと
どけてくるのだ。

そうした声を聴くたびに、イセのなかに、ふつふつと怒りが湧
きあがってくる。

「同じ人間が、売買の対象にされるなんて、ゆるせない!」

その足で、店に出向いて、店主と直談判である。

イセは、けっして議員という権威をカサに着ることはなかった
が、それでもその肩書きは、それなりにものを言った。

議員じきじきから談判されて…、というよりも、イセにすごま
れれば、たじたじとなり、「待遇を改善する」と約束せざるを
得ない。

本当は、いますぐそんな商売はやめさせたい。しかし、いきな
り仕事をうしなっては、女性も生きていけない。

少なくとも、女性が合意のうえで仕事をしているなら、まず、
待遇をよくさせるのが先だ、というのがイセの考えであった。

しかし、なかには、イセを甘く見て、のらりくらりとごまかそう
とするものも、少なくなかった。

「うちは割烹屋だよ。まあ、お客のなかにはいろいろいるだろ
うけど、細かいこと言ってたら商売にならないからねえ」

「知らないっていうのかい」

「さあねえ」

イセは、店主をぶんなぐってやりたい衝動にかられたが、ぐっ
とそれをこらえた。

代わりに、眼光鋭く、言いはなつ。

「裏はとれてるんだよ。なんなら、新聞社にもちこんで、記事
にしてもらおうか。法務局に通告したっていいんだよ」

イセの口調とまなざしに、さしもの店主も青ざめた。

「ちょ…。かんべんしてくださいよ」

店主が、そっと、手付けをわたそうとするのを、イセはびしっ
とはねのけて、一喝する。

「次にくるときまでに、改善していなかったら、本当に通告す
るからね」

やがて、イセの評判を聴いて、網走以外の市町村からも、うっ
たえが届くようになった。


いよいよ、あさって本番!
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札幌★夢実子 語り劇「掌編・中川イセの物語」
ほか
日時/2016年11月26日(土)10時〜16時45分
会場/ちえりあ演劇スタジオ1
(地下鉄東西線宮の沢駅約5分)
詳細/こちら 
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イセさんの誕生〜北海道に渡るまで。波瀾万丈の人生の幕開けです!
 
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※網走以外の、オホーツク地方の写真も掲載していきます。
サロマ湖竜宮台展望台.jpg
「サロマ湖竜宮台展望台」 
写真提供/北海道無料写真素材集 DO PHOTOさん
posted by 夢実子「語り劇」プロジェクト at 05:57| Comment(0) | 物語版「零(zero)に立つ」 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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