『零(zero)に立つ〜激動の一世紀を生きた中川イセの物語〜』
※この作品は、もともと、女優・夢実子が演ずる語り劇として書かれたものを、
脚本を担当したかめおかゆみこがノベライズしているものです。
※これまでのあらすじと、バックナンバーは、こちら
市議会は、基本的に、本会議と常任委員会、そしていくつか
の特別委員会などから成り立っている。
もともと、なにごとも、一番が好きなイセである。
議会で、それなりの動きをするには、常任委員長になるのが
手っとり早いと考えたのである。
おどろいたのは、古株の議員たちである。
本会議の議長や、常任委員会の委員長などは、何期かつとめ
た、ベテランの議員がつとめるのが常識である。
それを、2期目で、何の実績もないイセが、しかも男性議員
をさしおいて…。
当然、よってたかって、「無理だ」「できるわけがない」と
の反対の声が湧き起こった。
しかし、5位当選で勢いづいているイセは、ひるまない。
「わたすがやって、何が悪い!」
持ち前の、負けん気が頭をもたげる。何をどう言われても一
歩も引かない。
「とにかく、ほかに立候補がいなければ、わたすで決まりじ
ゃないかね」
イセにそう詰め寄られ、このままではまずいと、古株議員の
ひとりが、名乗りをあげた。
「冗談じゃない。それなら、私も立候補しますよ」
しかし、議会では、たいてい、あうんの呼吸でものごとが決
まっていくから、こんな場合の前例がない。
「多数決で決めてはどうかね」という意見が出たが、またま
た、イセがかみつく。
「そんなら、きちんと選挙にすべきだ。それぞれ、何をやり
たいかを表明して、それを吟味してもらう。そのうえでなけ
れば、不公平だ」
古株の議員たちは、イセのしつこさに辟易してきた。ついに、
議長がこう言った。
「じゃんけんで決めたら、いいじゃないですか」
委員長未体験のイセに何ができるか。就任して、まごまごし
て音を上げれば、それで交代すればいい。
…そんな思惑もはたらいたのかもしれない。
ほかのみんなも、「それでいいんじゃないですか」と言い出
し、本当に、じゃんけんで決めることになってしまった。
結果は、イセの勝ちであった!
網走市議会に、初の女性委員長誕生である。
まわりの思惑をよそに、イセは、みごとに委員会を仕切った。
1期目の4年間、「素人は引っ込んでろ」と言われ、だまっ
て議会のようすを観察してきた。
そのかん、どんなふうに会議を進行すれば、うまくいくのか。
議論をもりあげるには何が必要なのか。ずっと考えてきた。
だから、まごまごすることなど、なかったのである。
大切なことは、まず、町民の声を聴くこと。
何が足りていて、何が足りていないのか。何が困っているこ
とで、何を優先的に解決すべきなのか。
しっかりリサーチして、不公平のないように対応する。それ
が、議会の仕事だと思うようになってきた。
とりわけ、イセの関心事は、子どもの教育にあった。
子どもは、未来の宝。そのためには、しっかりした教育環境
をととのえる必要がある。
そのためには、保育園を充実すべきだと考えた。
日本の保育園の歴史は、1871年(明治4年)、アメリカの
宣教師がひらいたのがはじまりである。
その後、日本人によって、さまざまな形態の保育園がつくら
れるが、正式には、1948年(昭和23年)、児童福祉法の
制定により、保育園が法的な位置づけをもつことになる。
これを知ったイセは、積極的に市にはたらきかけ、保育園設
置をすすめるのである。
また、市内のあちこちに、公園をつくった。
子どもたちは、それまで、海や山で遊んでいたが、それだけ
でなく、みぢかで安全な環境で遊べる場もつくりたかったの
である。
けれども、イセの仕事はこれだけではない。
網走のひとが、たとえ、中川イセの名前を知らなくても、き
っと感謝せずにはいられない仕事を、イセはなしとげるので
ある。
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札幌★夢実子 語り劇「掌編・中川イセの物語」ほか
日時/2016年11月26日(土)10時〜16時45分
会場/ちえりあ演劇スタジオ1(地下鉄東西線宮の沢駅約5分)
詳細/こちら
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網走市観光協会さまのサイトより、ご承諾を得て
網走の写真をお借りしています。ありがとうございます。
「ハマナス」
※一般社団法人網走市観光協会さまご提供