2016年11月11日

物語版「零(zero)に立つ」第16章 初の女性市議会議員誕生(5)/通巻122話

天童で産まれ網走で活躍した、中川イセさんの半生を描いた
『零(zero)に立つ〜激動の一世紀を生きた中川イセの物語〜』
※この作品は、もともと、女優・夢実子が演ずる語り劇として書かれたものを、
 脚本を担当したかめおかゆみこがノベライズしているものです。

※これまでのあらすじと、バックナンバーは、こちら


踏切の前で、イセは、目を閉じた。

あのときの光景が、ありありとよみがえってくる。

自分はまだ20歳にもなっていなかった。

遊廓で、お職としてトップの座に立ってはいたが、未来はま
だ何も見えていなかった。

いや、社会の底辺と呼ばれる場所で、誰の目にも、未来は
見えていなかった。

そのなかで、絶望して、いのちを断っていくものもいた…。

(小梅…)

…妹ぶんだった小梅。幸うすかった、さびしそうな笑顔が脳
裏によみがえる。

あの夜、イセは、この場所で、ばらばらになった、小梅のか
らだを、ランプのあかりを頼りに、拾い集めたのだ。

そして、遺体の前で誓ったのだ。

女が、こんな想いをして生きねばなんねえ世の中を、変えて
やる! どうしていいかわからないけれど、絶対に実現させ
てみせる。だから、安心して成仏してくれろ…と。

あれから、30年近い年月が流れた。

いま、自分が議員に立候補したことは、あのときの約束を、
果たすためではなかったか…。

イセは、はじめて、自分がしていることの意味に、気づいた
気がした。

(小梅、聴いてるか…)

イセは、きっぱりと目を開け、メガホンをかまえると、その
朗々とした声をひびかせた。

「中川イセでございます。
網走に住まわせていただいて、28年になります。

わたすは遊廓の出です。尋常小学校も4年しか出ていません。
それだけに、世の底辺に生きるひとたちの苦しさ、つらさを
誰よりも理解しているつもりです。

わたすは、身をもって味わってきた体験を生かして、しいた
げられた女性や、恵まれない人々を守るための防波堤になり
ます!」

ひとびとは、線路に向かって演説をするイセを、不思議そう
に見ていたという。

しかし、その声の奥にひそむ迫力は、何かをうったえるちか
らをもっていたのだろう。

選挙戦は、熾烈をきわめた。

しかも、初の女性候補は、票が読めない。うっかり大量に票
をとられてはかなわないと、中傷やデマを飛ばすものもあら
われた。

イセは、とくにその攻撃にさらされた。

遊廓出身。勘当されての結婚。多額の借金(返済はしたけ
れど)、女だてらに馬喰…などなど、中傷する材料はいくら
でもあったのである。

そのため、支援者のなかには、投票日が近づくにつれて、不
安になるものもあらわれた。

「やっぱり、だめなんじゃないか…」

それでも、イセには、不思議な確信があった。

(きっと、受かる!)

1947年4月30日。投票日。

開票結果。

総得票数182。

全30議席のうち、27番目で、イセは当選した。

5人の女性候補のうち、ただひとりの当選であった。

網走市議会に、初の女性議員誕生である!


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札幌★夢実子 語り劇「掌編・中川イセの物語」
ほか
日時/2016年11月26日(土)10時〜16時45分
会場/ちえりあ演劇スタジオ1
(地下鉄東西線宮の沢駅約5分)
詳細/こちら 
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「零(zero)に立つ」第1巻
イセさんの誕生〜北海道に渡るまで。波瀾万丈の人生の幕開けです!
 
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詳細は、こちら
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網走市観光協会さまのサイトより、ご承諾を得て
網走の写真をお借りしています。ありがとうございます。
20161111255.jpg
「クロユリ」 
一般社団法人網走市観光協会さまご提供

posted by 夢実子「語り劇」プロジェクト at 04:18| Comment(0) | 物語版「零(zero)に立つ」 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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