2016年11月01日

物語版「零(zero)に立つ」第15章 米軍上陸?!(2)/通巻114話

天童で産まれ網走で活躍した、中川イセさんの半生を描いた
『零(zero)に立つ〜激動の一世紀を生きた中川イセの物語〜』
※この作品は、もともと、女優・夢実子が演ずる語り劇として書かれたものを、
 脚本を担当したかめおかゆみこがノベライズしているものです。

※これまでのあらすじと、バックナンバーは、こちら


町長公宅に着くと、もう、ほかの婦人団体の幹部たちは集
まっていた。みな、一様に不安な表情をかくせない。

国防婦人会の会長である、町長夫人が、口火を切った。

「みなさん、よく聴いてください。

もうご存じのことと思いますが、今朝、網走に敵機が襲来
しました。被害も出ています。
かなりの町が、同じようにやられているようです。

いつ、米軍が、上陸してくるかわかりません。もしかした
ら、今夜にかもしれません。
私たちも、いよいよ、覚悟しなければなりません」

町長夫人の、「今夜」ということばに、みなは、緊張した
表情で目を見合わせた。

「あの、覚悟…って」

ひとりが、おずおずと質問した。

「それは…。それをみなさんで話し合っていただくために、
集まっていただいたんです」

町長夫人にも、こたえはないのだった。

「駐屯しておられた師団は…?」

「おられません。おそらく、何か任を受けて、そちらに出
立されたのだと思います」

この網走での非常事態において、一体、どんなほかの任務
があるというのか。

誰もが思ったが、口には出さなかった。

「み、みんなで、竹槍をもって、海岸線で米軍を待ち受け
ましょう!」

ひとりが、意を決したように言った。

たしかに、「御国のために、女子どもも、武器をもってた
たかえ」と、軍事訓練も受けてはきた。

藁束を米兵に見立てて、突き刺す訓練である。

しかし、すでに、家の鍋・釜さえ、武器をつくる材料にす
るため徴集されていた。

竹槍など、どこにも残っていないのだ。木の枝でも伐って、
武器にして立ち向かえというのか? 

そんなことをすれば、まちがいなく、全員死ぬ。

「御国のために死ぬのは名誉なこと」と、教えられてはき
ても、誰だって、進んで死にたくはないのだ。

白旗を振って、降伏する…。

助かるためには、それしか方法はないように思えた。

しかし、「降伏」という手段は、ゆるされていなかった。
国の指令は、「最後のひとりまでたたかえ」である。

降伏などすれば、非国民になってしまう…。

いや、仮に降伏したとしても、うわさに聴く米軍は、鬼の
ようにおそろしいものたちばかりだという。

いのちは助かっても、奴隷にされ、ひどいあつかいを受け
るとしたら、死んだほうがましではないのか。

たたかっても、地獄。待ち受けても、地獄…。

みなは、あらためて自分たちが直面している状況に、おの
のくのだった。

「では、一体、どうすれば…」

そのあとも、いくつか意見は出されたが、どれも現実的で
はないものばかりであった。

とうとう、誰も、発言しなくなってしまい、座は、しーん
としてしまった。

みな、目を伏せて、町長夫人のほうを盗み見るばかりだ。

そのときである。イセが立ち上がった。

「みなさん! 聴いてください! 生き残ることを考えま
しょう! 逃げるんです!」

みんなの視線が、一気にイセに集まった。


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札幌★夢実子 語り劇「掌編・中川イセの物語」
ほか
日時/2016年11月26日(土)10時〜16時45分
会場/ちえりあ演劇スタジオ1
(地下鉄東西線宮の沢駅約5分)
詳細/こちら 
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「零(zero)に立つ」第1巻
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網走市観光協会さまのサイトより、ご承諾を得て
網走の写真をお借りしています。ありがとうございます。
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「流氷ネイチャリング」 
一般社団法人網走市観光協会さまご提供
posted by 夢実子「語り劇」プロジェクト at 05:50| Comment(0) | 物語版「零(zero)に立つ」 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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