2016年10月26日

物語版「零(zero)に立つ」第14章 戦況のなかで(11)/通巻110話

天童で産まれ網走で活躍した、中川イセさんの半生を描いた
『零(zero)に立つ〜激動の一世紀を生きた中川イセの物語〜』
※この作品は、もともと、女優・夢実子が演ずる語り劇として書かれたものを、
 脚本を担当したかめおかゆみこがノベライズしているものです。

※これまでのあらすじと、バックナンバーは、こちら


しかし、イセたちが過ごしたこの時代は、また、15年戦争
の時代とぴたりと一致している。すなわち、

満州事変 1931年
日中戦争 1937年
太平洋戦争 1941年

これらは、相互に不可分の関係にある、ひとつづきの戦争と
して、「15年戦争」と呼ばれるのである。

(戦争状態がつづいたという意味で、ひとつの戦争という意
味ではない)

それは、1945年の第2次世界大戦終結までつづく。

同時に、戦況が悪化する1942年までは、この一連の戦争
によって、日本は戦争景気にわいた。

この時代がなければ、イセたちは、あの巨額の借金を返すこ
とができていただろうか。

(少なくとも別の方法を嵩じる必要があっただろう)

いずれにしても、このかんの記録は、ほとんど残されていない。

時代のうずに巻きこまれ、日々を忙しく、また楽しくはたら
き、10年という年月が、あっというまに過ぎていくのである。

イセは、愛馬婦人会の会長として、100名をこす会員をまと
めた。

国防婦人会の活動にもかかわった。

女ながらに「軍曹待遇」という呼称もあたえられ、馬をつらね
て、師団の慰問などにでかけていったりもした。

卓治は、牛馬商(馬喰)組合や畜産組合の会長として、網走
地方を一手にまとめた。

中川牧場の経営は、ほとんど、息子の卓治がになうようにな
っていった。

養子にした清も、調教師として成長し、中川牧場の支え手と
なった。

もちろん、その時間は、イセと愛子のあいだをも、次第にや
わらかなものにしていった。

ぎこちなさはあったものの、愛子は、イセを「母さん」と呼ぶ
ようになり、家での仕事を手伝った。

のちになって、愛子は、

「正直、はじめのころは、これが本当に、血のつながった母
親なのかとうたがったわ」

と笑って話すのだが、それが笑い話として話せるようになっ
ていった、ということでもある。

記録には残っていないが、おそらく、このかん、卓治の母親
も、静かに、あの世に旅立っていると思われる。

(イセより11歳年上の卓治は、1941年当時、51歳になっ
ていたはずだから、その母親は、70歳以上。当時の平均寿
命を越している)

1941年4月、東京で開催された、興亜馬事大会で、イセは、
愛馬婦人会会長として、国策に貢献したとして、表彰された。

イセの乗馬姿が全国紙に載り、もちろん、網走じゅうの評判
にもなった。

そんなさなかに、さらに、うれしいことがあった。

清と愛子のあいだに、恋が芽生えたのである。

もともと同い年の2人は、ともに暮らすなかで、少しずつこ
ころの距離をちぢめていった。

清もまた、この家では新参者であったから、愛子とは、気持
ちが通ずるところもあったのかもしれない。

清は、中川家の養子ではあるが、愛子は引き取ったとはいえ、
中川家の「養女」にしたわけではない。

2人が一緒になることは、血のつながりのうえでも、形式的
にも、なんの問題もないのであった。

いや、しいていえば、愛子の父親は、地方のしがない芸人で
ある。かつてなら、親戚筋が文句を言ったかもしれないが、

愛馬婦人会での活躍で、最近では、中川家の親戚たちも、お
もてだって、イセの批判をすることもなくなっていた。

愛子が、中川家にやってきて、10年。

1942年、24歳になった2人は、祝言をあげた。そして、その
年のうちに、愛子は身ごもることになる。

海の向こうでは、戦況は悪化しはじめていたが、北の果ての
網走では、まだそれをさほど感じることはない。

ひとときの幸せが、中川家をつつんでいたのである。


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札幌★夢実子 語り劇「掌編・中川イセの物語」
ほか
日時/2016年11月26日(土)10時〜16時45分
会場/ちえりあ演劇スタジオ1
(地下鉄東西線宮の沢駅約5分)
詳細/こちら 
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網走市観光協会さまのサイトより、ご承諾を得て
網走の写真をお借りしています。ありがとうございます。
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「チューブボブスレー オホーツク流氷館(旧)」 
一般社団法人網走市観光協会さまご提供
posted by 夢実子「語り劇」プロジェクト at 05:55| Comment(0) | 物語版「零(zero)に立つ」 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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