2016年10月19日

物語版「零(zero)に立つ」第14章 戦況のなかで(6)/通巻105話

天童で産まれ網走で活躍した、中川イセさんの半生を描いた
『零(zero)に立つ〜激動の一世紀を生きた中川イセの物語〜』
※この作品は、もともと、女優・夢実子が演ずる語り劇として書かれたものを、
 脚本を担当したかめおかゆみこがノベライズしているものです。

※これまでのあらすじと、バックナンバーは、こちら


イセは、五十嵐家に手紙を書いた。

五十嵐家では、突然の申し出におどろいたが、自分たちの
子どもが産まれていたこともあり、愛子をてばなすことに抵抗
はもたなかった。

だが、愛子は、最初、山形を離れるのをしぶった。

それも無理からぬことである。

イセにとっては、かたときも忘れたことのない娘であっても、
愛子から見れば、乳飲み子のときに里子に出されて以来、
一度も会ったことのない、いわば「知らない母」なのである。

また、これもあとで知ったことであるが、愛子の父親である、
あの八重松は、ごくたまにではあるが、ふらっと、愛子に会
いに、五十嵐家をたずねていた。

イセとのことは、その場かぎりの出来心であっても、産まれ
た娘のことは、かわいかったらしい。

ふだんは、知らん顔をして、会ったときだけ、土産をもってか
わいがるのだから、無責任のきわみではあるが、五十嵐家
は、これを黙認していた。

愛子がよろこんでいるなら、それでよし、と思ったのである。

そんな調子だから、イセから、網走に引き取るという知らせ
があったとき、愛子は、ふともらしたものだ。

「このうちを出なきゃならないなら、父親のうちのほうがいい」

愛子にしてみれば、行ったこともない、北の果ての土地に行
くのは不安…という気持ちだったろうが、その返事に、イセ
はかっとなった。

愛子にたいして、というよりも、八重松にたいする怒りが再
燃したのである。

それは15年経っても、消えることのない怒りであった。

「そんな気持ちなら、親子の縁を切る!」

この剣幕に、びっくりした愛子は、すぐに返事を撤回し、中川
家にひきとられることになったのである。

15歳の娘にひとり旅をさせるわけにはいかないので、こちら
から迎えに行くことになる。

卓治は、当然、イセも一緒に迎えに行くものと想っていたが、
イセはことわった。

「だって、はたらき手が2人ともいなくなったら、牧場が困る
じゃないか。少しでも借金を返さなくちゃならないときにさ」

「そったらこと言ったって、ほんの1週間ばかりでねえか。誰
か、牧場仲間にでもたのめば大丈夫だべ」

「2人でいけば、そのぶん、旅費もかかるよ。だったら、女の
わたすより、男のあんたが行ってくれたほうが、道中、愛子
も安心だし」

「そんなものかなあ」

卓治は、首をかしげながらも、承知し、出かけていった。

本当は、イセとて、一緒に行きたかった。

行けば、なつかしい、親友のみよしとも会えたろう。里親の
コウにも、元気な姿を見せられたろう。

それでもなお、あの八重松が生きている町に行くことへの嫌
悪が、イセをそこにとどめたのである。


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posted by 夢実子「語り劇」プロジェクト at 04:39| Comment(0) | 物語版「零(zero)に立つ」 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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