2016年10月13日

物語版「零(zero)に立つ」第14章 戦況のなかで(2)/通巻101話

天童で産まれ網走で活躍した、中川イセさんの半生を描いた
『零(zero)に立つ〜激動の一世紀を生きた中川イセの物語〜』
※この作品は、もともと、女優・夢実子が演ずる語り劇として書かれたものを、
 脚本を担当したかめおかゆみこがノベライズしているものです。

※これまでのあらすじと、バックナンバーは、こちら


1931年(昭和6年)、満州事変勃発。
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1931年(昭和6年、民国20年)9月18日に中華民国奉天(現瀋陽)
郊外の柳条湖で、関東軍が南満洲鉄道の線路を爆破した事件(柳条湖
事件)に端を発し、関東軍による満洲(現中国東北部)全土の占領を
経て、1933年5月31日の塘沽協定成立に至る、日本と中華民国との間の
武力紛争(事変)である。中国側の呼称は九一八事変。(以下略) 

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出典はこちら

日本は、ここから、太平洋戦争終結までの15年戦争に突入
していくわけだが、それはやがて、イセたちの日常にも、じわ
りと影響をおよぼしていく。

しかし、いまはまだ、イセたちは、日々をやりくりすることに、
懸命の日々を送っていた。

馬喰の仕事は、好調だった。

何より、イセは、馬の売買において、けっして相手をだまし
たり、故意に値をつり上げようとしなかった。

それどころか、故障をもつ馬については、その故障のことを
正直に伝え、馬に合ったはたらきかたまで提案した。

こんなエピソードがある。

一軒の農家が、ある馬喰から、農耕馬を買った。

ところが、いざ使ってみると、馬は、なぜかまっすぐ歩く
ことができず、右へ右へと曲がってしまう。これでは畑で
畝を引くこともできない。

困った農家の奥さんが、イセに相談をした。イセが、その
馬を点検すると、左の目が見えていないことがわかった。

馬を売った馬喰が、それに気づかぬはずがない。わざ
と知らんふりをして、農家に馬を押しつけたのである。

「いまさら言ったって、どうにもならんだろうねえ」

奥さんは、途方に暮れた。

たしかに、「おまえんとこで、おかしくしたんだろう」と、うそ
ぶかれるのがおちだろう。

かといって、新しい馬を買う金などどこにもない。

肩を落としている奥さんに、イセは、あっさりと言った。

「よかったら、うちのいい馬と交換しないかい? まあ、
ちょっとだけ上乗せはしてもらうけどさ」

「いいのかい? でも、この馬はどうするんだい」

「まかしておいて。なんとかするから」

そう言って、イセが連れてきてくれた馬は、若くて元気で、
もりもりと、力強く畝を引いた。

おかげで、遅れていた仕事を、あっというまに、とりもどす
ことができた。農家は、こころからイセに感謝した。

そして、あの左目の見えない馬はどうなったか。

さけ番屋が、船を陸に引き上げる際、綱を巻くための馬を一
頭さがしていた。

イセは、この情報を聴きつけてきたのである。

「この馬は、左目が見えないけど、右まわりにまわしてやる
ようにすると、問題ないよ」

そこまで説明して引き渡した。さけ番屋としても、必要な仕
事をしてくれる馬が手に入るなら問題はない。

こうして、万事かうまくおさまったわけで、イセの評判はま
すます高まり、遠くから引き合いがくるほどになった。


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「零(zero)に立つ」第1巻
イセさんの誕生〜北海道に渡るまで。波瀾万丈の人生の幕開けです!
 
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札幌★夢実子 語り劇「掌編・中川イセの物語」
ほか
日時/2016年11月26日(土)10時〜16時45分
会場/ちえりあ演劇スタジオ1
(地下鉄東西線宮の沢駅約5分)

詳細/こちら! 
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夢実子ゲスト出演!講話「中川イセのあきらめない精神」
10月22日・東京  詳細/こちら
 
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夢実子の語り劇を上演してみませんか?



網走市観光協会さまのサイトより、ご承諾を得て
網走の写真をお借りしています。ありがとうございます。
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「あばしりオホーツク流氷まつり」 
一般社団法人網走市観光協会さまご提供
posted by 夢実子「語り劇」プロジェクト at 04:16| Comment(0) | 物語版「零(zero)に立つ」 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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