『零(zero)に立つ〜激動の一世紀を生きた中川イセの物語〜』
※この作品は、もともと、女優・夢実子が演ずる語り劇として書かれたものを、
脚本を担当したかめおかゆみこがノベライズしているものです。
※これまでのあらすじと、バックナンバーは、こちら
しかし、本当に大変なのはそれからであった。まずは、最初
の3年を乗り切らなければならない。
処分できるものは処分し、少しでも金に換えた。
また、牧場も、飼育をするだけでは、高い収益は得られない。
馬喰(ばくろう)の資格をとろうということになった。
馬喰とは、馬の売買や仲介にかかわる仕事で、馬のもつ能
力や性質を見抜き、病気の治療にまであたる。
馬の売買は許可制だったため、鑑札をとる必要があった。
「わかった。わたすもその鑑札をとるよ」
イセは言った。
もともと、馬喰は男の仕事だ。荒っぽく、売買をめぐっては、
駆け引きもあり、ときにはけんか沙汰になることもある。
しかし、卓治は、イセが自分と一緒に鑑札をとってくれるこ
とをよろこんだ。
卓治は馬の目利きは一流だったが、性格がら、およそ駆け
引きなどというものには向いていない。
その点、イセは、なにごとにもものおじせず、思ったことは
はっきり言える。
牧場ではたらくようになって4年。馬に関する知識のうえで
も、もうすっかり、卓治と並ぶほどになっていた。
「おらとイセと2人でやれば、百人力だ」
卓治がうれしそうに手をたたいて言うと、そばで聴いていた
宗治が口をはさんだ。
「馬の仕事なんだから、百人力でなくて、百馬力だ。父ちゃ
ん、オレも一緒に手伝うよ」
「そうか、それはたのもしい。そしたら、3人で百万馬力だ」
3人は、そんな他愛ない冗談を言って、笑いあうのだった。
一方、イセが馬喰の鑑札をとったという話は、またたくまに
町じゅうのうわさになった。
卓治は単純によろこんでいたが、それほど、男社会の馬喰の
世界に、女が入るというのは、特別なケースだったのである。
しかも、当時の馬喰のなかには、少しでも馬を高く売りつけ
ようと、故障をごまかしたりなどする、悪どいものも少なから
ずいた。
そのため、あまり評判のいい仕事とは言えなかった。
これにがまんならなかったのは、ほかでもない、卓治の妹、
タマである。
親戚の集まりで顔をあわせたとたん、いきなり卓治にかみつ
いてきた。
「兄さん! それって、本当の話なの? 女だてらに、そん
な仕事につくなんて、はずかしいったらありゃしない。私、
東条の身内に顔向けできないわ。いますぐやめさせてちょう
だい!」
それを聴いた卓治は、顔色を変えた。
「タマっ! おまえ、イセが、なして、馬喰になったかわかっ
てるのか! もとはといえば東条の選挙の借金を返すためで
ねえか! 二度とそんな口きいてみろ。兄妹の縁を切るど!」
ふだんの卓治からは想像もつかない激昂ぶりに、タマは呆然
とし、おそれをなした。
そして、それ以後、その話にふれることは、すっかりやめた。
そうして、がむしゃらにはたらく日々がはじまったのだが、
時代もまた、おおきな曲がり角を見せていた。
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