2016年10月11日

物語版「零(zero)に立つ」第13章 茂市の死(9)/通巻99話

天童で産まれ網走で活躍した、中川イセさんの半生を描いた
『零(zero)に立つ〜激動の一世紀を生きた中川イセの物語〜』
※この作品は、もともと、女優・夢実子が演ずる語り劇として書かれたものを、
 脚本を担当したかめおかゆみこがノベライズしているものです。

※これまでのあらすじと、バックナンバーは、こちら


じっとだまって聴いていた頭取だったが、イセが語り終え
ると、ほうっと息をついて、こう言った。

「うまいことを言うねえ、君。こんなことを言われたのは、
初めてだよ。君にはやられた」

それから、真顔になって、考えるふうに間をおいて、頭取
は言った。

「わかりました。50年割賦、引き受けましょう」

「本当ですか?! ありがとうございます!」

飛び上がりそうになるイセを、頭取はおさえるように言った。

「ただし、ふたつ、条件があります。

ひとつは、50年で返すといっても、額が額ですから、私
どもとしても、まず、あなたがたが本当に返済能力がある
かどうかを、たしかめなくてはなりません。

3年間、まずはこちらが提示した額をはらってください。
3年間、遅延なく支払いができた時点で、正式に50年契
約を結びましょう。もちろん、一度でも遅延があれば、即
財産没収です」

イセは、神妙にうなずいた。頭取はつづけた。

「もうひとつは、利子です。お貸しした金額にくわえて、
当然、利子が付随します」

イセは、とまどった。利子のことまで頭になかったからだ。

「それについては、元金をはらい終わってから、返済して
いただく。利子といっても、ばかにならない金額ですからね」

イセは、はっとして頭取を見た。それは、イセたちにたい
する救済策にほかならないではないか?

目が合った頭取は、これまでと打って代わって、柔和な笑
顔を見せて、イセに言った。

「いや、毎日、借金を50年割賦にしろと言ってくる客が
いる、という話は、下から聴いてはいたんですよ。

もちろん、そんなこと、許可できるわけがない。だから、
帰ってもらえと返事をした。

ところが、何度ことわっても、毎日毎日、その客はやって
くる。

しかも、銀行のあく時間には、もう外に待っていて、誰よ
りも早く入ってくる。

しかも、銀行中にひびきわたるような声で、『おはようご
ざいます!』と、あいさつをしてね。

ある行員が言ったんですよ。普通、借金をしているものは、
もっと陰気な顔をしている。あんな満面の笑顔で、はきは
きした声で、あいさつなんかしないって。

それを聴いてね、一体どんなひとだろうと、興味をもって
いたんですよ」

それから、頭取は、ふっとため息をついて言った。

「実は、茂市さんには、拓銀網走支店をつくるときに、
大変お世話になってるんですよ。

顧客になりそうなところを紹介していただいたり、一軒、
一軒、一緒にまわっていただいたりしたそうです。

当時、開発担当だったものから、そういう話も聴いてお
りまして。まあ、そのご恩に報いるという気持ちもあり
ましてね」

そのことばに、イセは深々と頭を下げた。

そして、網走にもどり、卓治に結果を報告すると、ひと
息ついて、しみじみ言ったのだった。

「なんだか、わたすひとりのちからでやった、なんて気
分になっていたけど、お義父さんが、あの世から助けて
くれていたんだねえ」

そんなイセのことばに、卓治は、

「なんも、親父がこさえた借金だもの。そんくらいのこ
と、して当たり前だべ」

と言って、豪快に笑ったのだった。

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日時/2016年11月26日(土)10時〜16時45分
会場/ちえりあ演劇スタジオ1
(地下鉄東西線宮の沢駅約5分)

詳細/こちら! 
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夢実子ゲスト出演!講話「中川イセのあきらめない精神」
10月22日・東京  詳細/こちら
 
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網走市観光協会さまのサイトより、ご承諾を得て
網走の写真をお借りしています。ありがとうございます。
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「あばしりオホーツク流氷まつり」 
一般社団法人網走市観光協会さまご提供
posted by 夢実子「語り劇」プロジェクト at 05:04| Comment(0) | 物語版「零(zero)に立つ」 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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