2016年10月06日

物語版「零(zero)に立つ」第13章 茂市の死(7)/通巻97話

天童で産まれ網走で活躍した、中川イセさんの半生を描いた
『零(zero)に立つ〜激動の一世紀を生きた中川イセの物語〜』
※この作品は、もともと、女優・夢実子が演ずる語り劇として書かれたものを、
 脚本を担当したかめおかゆみこがノベライズしているものです。

※これまでのあらすじと、バックナンバーは、こちら


1928年。網走と札幌を結ぶ、石北本線は、まだ開通して
いない。

イセは、9年前、遊廓に入るため、山形から旭川を経由し、
網走までやってきたルートを、逆にもどることになる。

(この路線のことについては、エッセイ「消えた線路」で詳
しくふれた)

あのとき背負った借金など、比べものにならないほどおお
きな借金を、いま、イセたちは背負っている。

けれども、不思議なほど、こころは重くはなかった。

たしかに、この先、50年、それを返しつづけることを思うと、
心臓がぎゅっとちぢむ想いにかられることもある。

けれども、何よりも、自分で決めたという自負が、イセには
あった。何もいわず、それをあと押ししてくれた卓治への深
い信頼もあった。

(これまでだって、乗り切ってきたんだ。やってやる!)

イセのなかに、ふつふつと熱い想いがわきあがってくるのだ
った。

しかし、現実はそう簡単には運ばない。

「網走の支店長から、話は通っております」

北海道拓殖銀行本店の受付でそう告げても、

「それは承知しております。が、ご用件につきましては、当
行としてましては、規則にないことは受けることができない
との上からの回答がありますので」

との一点張りである。

「とにかく、上のひとと直接、話をさせてください」

何度頭を下げても、通らない。

イセは困った。札幌本店にさえくれば、話は通ると想ってい
たのに、かんじんの話をさせてもらうことができないのである。

安い宿に泊まってはいたが、それでも宿賃はかさむ。

思い余って、イセは卓治に電報を打った(この時代、まだ電話
は一般には普及していない)

卓治の返事はこうだった。

「イッタンモドレ。ソウダンスベシ」

それで、イセもいったん網走にもどることにした。

もどってみると、卓治は卓治なりに動いてくれていた。

そして、知人のアドバイスもあり、卓治の妹・タマの夫、東条
貞をとおして、東条が以前、北海道議会で議員をしていた
ころの知り合いを、紹介してもらえることになったのだ。

「いいのかねえ、関係ないひとまで引っ張りこんで」

イセが逡巡すると、めずらしく、卓治が強い口調で言い切った。

「もとはといえば、東条の選挙資金のために、こったら借金
ができたんだ。本来だば、東条が返すべきもんだべ。やつに
頼むのは、なんもはずかしいことではねえと思う」

それでも納得のいかないイセではあったが、とにかく、いま
一番大切なことは、この借金を返すめどをつけることだ。

「わかった。だけど、余計な口出しは無用だよ。わたすは、
わたすのやりかたで、相手を説得したいんだ」

そんなやりとりの結果、札幌在住の道議会議員が、イセに
同行してくれることになり、イセは、ふたたび札幌に出向
くことになったのだった。


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10月22日・東京  詳細/こちら
 
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網走市観光協会さまのサイトより、ご承諾を得て
網走の写真をお借りしています。ありがとうございます。
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「JRノロッコ号内部」 
一般社団法人網走市観光協会さまご提供
posted by 夢実子「語り劇」プロジェクト at 05:48| Comment(0) | 物語版「零(zero)に立つ」 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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