2016年10月05日

物語版「零(zero)に立つ」第13章 茂市の死(6)/通巻96話

天童で産まれ網走で活躍した、中川イセさんの半生を描いた
『零(zero)に立つ〜激動の一世紀を生きた中川イセの物語〜』
※この作品は、もともと、女優・夢実子が演ずる語り劇として書かれたものを、
 脚本を担当したかめおかゆみこがノベライズしているものです。

※これまでのあらすじと、バックナンバーは、こちら


支店長は、自分の耳をうたがった。

割賦というのは、わかる。検討してみないこともない。が、
50年なんて長期の割賦など…。

「中川さん、失礼ですが、50年という割賦は…」

「わかっております。ないことは承知でお願いしておりま
す。でも、私どもは、本気で全額お支払いする気でおりま
す。私ら夫婦はまだ若い。これから開拓する牧場もある。
拓銀さんとしても、この先50年、そこからずっと収入が
入りつづけるわけですから、損な話ではないはずです」

支店長はふたたびうなった。すぐに返すことばが出なか
った。

イセの理屈は、おもしろい。ときどきこんなふうに、強引
に自説を押してくる。子どものときからそうだった。

14歳で家出するとき、親の金5円をもちだしたときも、
「学校にも行かせずに、さんざんはたらかせたぶんの給
金だ」と言い切った。

今回も、自分たちは金を返したいから、ローンの期限を
延ばせとは、なんと無茶な要求だろう。

しかし、その気迫が、けっしてその場しのぎのごまかしで
はなく、本気の決断であることを伝えてくる。

「しかし、規則にないものは…」

支店長は、弱々しく抵抗をこころみたが、そんなことばで、
イセが引き下がらないことは、すでに感じとっていた。

「わかりました。しかし、規則外のことを、我々のような一
支店がやるわけにはいかんのです。札幌の本店に行って
聴いてみてください。ご紹介はします」

支店長は、その場で、札幌本店に電話をかけた。

「…はい、そういうわけで。ええ、もちろん、おことわり
しましたが…。ですから、会うだけでも会ってやってくだ
さい。とにかく、本人は全額返すということですので…」

なかば押し切るように、支店長は電話を切った。

「そういうことですので、本店に行ってみてください」

「わかりました! 支店長さん、ありがとうございます! 
ご恩は忘れません!」

イセは、何度も何度も深々と頭を下げた。

「うまくいくように、願ってますよ」

イセを見送りながら、支店長は、自分がなかば本気で
そう想っていることに気づいて、おどろいた。

「たいしたひとだ。まだ若いのに。いつか何か、おお
きなことをしとげるかもしれないな…」

思わずそんなことを、ひとりごちるのであった。

ちなみに、イセ、このとき、27歳。


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会場/ちえりあ演劇スタジオ1
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詳細/こちら! 
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10月22日・東京  詳細/こちら
 
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網走市観光協会さまのサイトより、ご承諾を得て
網走の写真をお借りしています。ありがとうございます。
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「てんとらんど祭」 
一般社団法人網走市観光協会さまご提供
posted by 夢実子「語り劇」プロジェクト at 04:15| Comment(0) | 物語版「零(zero)に立つ」 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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