2016年09月14日

物語版「零(zero)に立つ」第11章 樺太にて(11)/通巻82話

天童で産まれ網走で活躍した、中川イセさんの半生を描いた
語り劇『零(zero)に立つ
〜激動の一世紀を生きた中川イセの物語〜』


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2017首都圏公演を実現させるぞ!チームミーティング
日時/2016年9月21日(水)19時30分〜21時
会場/東京都品川区西五反田2-9-7 テルミ五反田アンメゾン413
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札幌★夢実子×ゆみこ 語り劇&ワークショップ

日時/2016年11月26日(土)10時〜16時45分
会場/ちえりあ演劇スタジオ1(地下鉄東西線宮の沢駅約5分)
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「零(zero)に立つ」第1巻 
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脚本担当・かめおかゆみこです。

山谷一郎著『岬を駈ける女』を主要資料としながら、かめおかの視点で、イセさんの
物語をつむいでいます。物語ですので、すべてが事実ではなく、想像やフィクション
がまじる部分もあります。けれども、イセさんの生きかたの根本ははずさないで書い
ていくつもりです。ご感想をいただければ励みになります。よろしくお願いします。


第1章     第2章      10 11 12 13 14 
第3章 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25
第4章 26 27 28 29 30 31 第5章 32 33 34 35 36 
37 第6章 38 39 40 41 42 43 44 第7章 45 46 47 
48 49 第8章 51 52 53 54 55 56 57 58 59
第9章 60 61 62 63 64 65 66 第10章 67 68 69 
70 71 第11章 72 73 74 75 76 77 78 79 80 81
※これまでのあらすじは、こちら


肋骨3本を折り、全身打撲。

全治3か月というのが、医者の見立てであった。

当時の病院は、いまとは比べようもなく費用がかかる。

また、完全看護などもないから、家族が誰かつきそいにつか
なければならない。

庶民には、気軽に行ける場所ではなかったのである。

冬のあいだにたくわえた、たんぽもちの代金でしばらくはも
ちそうだったが、とても3か月は無理そうではあった。

「すまなかったなあ、イセ」

酔いのさめた卓治は、しょんぼりとあやまったが、イセは首
をふった。

「慣れない土地にきて、あんたも苦労してるもの。つい、お
酒を飲みたくなる気持ちもわかるさあ。だけど、からだにだ
けは気をつけてね。一人のからだじゃないんだから」

それから、昼間は仕事をしては、夜は病院で卓治につきそう。
二重生活がはじまった。

きつかったが、どちらも休むわけにはいかなかった。

ある日、家にもどると、めずらしいお客が待っていた。
網走の柔道場でお世話になった、後藤万次郎先生だった。

「ごぶさたしてます」

万次郎先生をたよって樺太にきたイセたちだったが、仕事に
追われて、なかなかたずねるよゆうもなかったのだ。

深々と頭を下げるイセに、万次郎先生は笑顔で言った。

「イセちゃん、武勇伝を聴いたよ」

イセが、消防団の男を投げ飛ばしたといううわさは、あっと
いうまに広まっていたのだ。

「おはずかしい話です」

言いながらも、イセは、ひそかに、男相手に対等にたたかえ
たことに、誇りを感じていた。

「それで、たまには乱稽古もどうかと想って、誘いにきたん
だよ」

「えっ、先生とですか? 光栄です!」

網走にいたときも、先生は高段者を指導することが多く、直
接相手にしてもらえることは、ほとんどなかったのだ。

このところ、重い気持ちがつづいていたので、気晴らしにも
なると思い、イセははりきって出かけた。

樺太に、先生がかまえたちいさな道場で、イセは、万次郎先
生と向き合った。

「さあ、どこからでもかかってきなさい」

「はいっ!」

イセが、いきおいよく、万次郎先生のふところに飛びこむ。

次の瞬間だ。

あざやかな一本背負いを食らって、イセは、したたかに床に
打ちつけられた。

背中に、じーんとしびれが走る。息もできないほどの痛みだ。
それほどにはげしい投げかただった。

「さあ、次っ!」

万次郎先生の声が飛ぶ。

「はっ、はいっ!」

わけがわからず、イセは、万次郎先生に突進する。

今度は、大外刈り。

またしても、イセは、どうと床に打ちたおされた。

それからというもの、およそ、技の見本市であるかと想える
ほど、万次郎先生はさまざまな技を繰り出し、イセを打ちの
めした。

「先生! ありがとうございました! もう限界です!」

へとへとになって、イセが頭を下げると、万次郎先生は、イ
セの肩をぽんとたたいて、うなずいた。

「わかったら、それでいい。いくら、イセちゃんが柔道に長
けているからといって、この樺太には、そんなものが通用し
ない荒らくれどもは、わんさといるんだ。やたらとちからを
使うもんじゃない。何よりも、いのちを大切にするんだ」

イセは、はっとした。おのれのひそかな慢心。万次郎先生は、
そこまでお見通しだったのか…。

胸に熱いものがこみあげてきて、イセは、ただただ頭を下げ
つづけるのだった。


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網走市観光協会さまのサイトより、ご承諾を得て
網走の写真をお借りしています。ありがとうございます。
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「流氷観光砕氷船おーろら」 
一般社団法人網走市観光協会さまご提供
posted by 夢実子「語り劇」プロジェクト at 04:07| Comment(0) | 物語版「零(zero)に立つ」 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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