語り劇『零(zero)に立つ
〜激動の一世紀を生きた中川イセの物語〜』
夢実子の語り劇を上演してみませんか?
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脚本担当・かめおかゆみこです。
山谷一郎著『岬を駈ける女』を主要資料としながら、かめおかの視点で、イセさんの
物語をつむいでいます。物語ですので、すべてが事実ではなく、想像やフィクション
がまじる部分もあります。けれども、イセさんの生きかたの根本ははずさないで書い
ていくつもりです。ご感想をいただければ励みになります。よろしくお願いします。
第1章 1 2 3 4 第2章 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14
第3章 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25
第4章 26 27 28 29 30 31 第5章 32 33 34 35 36
37 第6章 38 39 40 41 42 43 44 第7章 45 46 47
48 49 第8章 51 52 53 54 55 56 57 58 59
第9章 60 61 62 63 64 65 66 第10章 67 68 69
70 71 第11章 72 73 74 75 76 77
※これまでのあらすじは、こちら
一方、卓治も、現場監督の役をまかされて、落ち着きどころ
を見つけたようだ。
何しろ、「樺太鴉」事件のことは、港じゅうのものが知って
いたから、卓治が現場監督で、どんとかまえていると、作業
もとどこおりなく進んでいくのであった。
イセたちが、ようやく、樺太での暮らしに慣れてきたころ、
冬がやってきた。
北海道でも、真冬ともなると、−20度は当たり前、ところに
よっては、−30度、−40度と下がるところさえある。
(ちなみに、北海道人は、冬になると、気温にいちいち「マイ
ナス」をつけず、普通に、「今日は20度だ」などという)
さらに北に位置する樺太は、それにもまして、しばれるので
ある。
川の水も凍ってしまうため、木材運搬の仕事はできなくなる。
そのため、島田夫婦は、いったん仕事をやめて、春先まで網
走に帰っていった。
作業をしていた男たちも、それぞれに、郷里に帰るもの、夏
のたくわえで冬を過ごすもの、さまざまである。
網走に帰れないイセたちは、樺太の冬をそのまま過ごすこと
にした。
誰もいなくなった飯場に、イセたち3人は、肩を寄せ合って
暮らした。一家3人水いらずの暮らしである。
それは、かつてないほど、おだやかな幸せを感じさせた。
卓治の息子、宗治は、イセのことを実の母親のように慕って、
なついてくれる。
イセも、そんな宗治を、こころからかわいがった。
郷里においてきた愛子のことは、かたときも忘れたことはな
かったが、生後まもなく分かれて、一度も顔を見ていない。
ともすれば、いつもそばで慕ってくれる宗治に、こころを寄
せてしまう自分がいた。
「わたすは、薄情な母親かねえ…」
思わず、ぽつりと卓治にもらすと、卓治は、そのおおきな手
で、イセの頭をわしわしとなぜた。
「一緒に暮らして、顔を合わせるようになれば、気持ちもつ
ながる。そったらに気にすることはないべ」
そんなふうに、樺太の冬を過ごしていたある日のことだ。
イセは、ふと、里親のコウがつくってくれた、たんぽもちの
ことを、思い出した。
とたんに胸のなかが、なつかしさでいっぱいになった。
イセは、さっそくごはんを炊くと、いそいそと、ちいさくまる
めて、木の櫛にさし、火であぶってみた。
いいにおいが、部屋のなかに充満する。においをかぎつけ
て、卓治と宗治も顔をのぞかせる。
「母ちゃん、何つくってんの?」
「いいから、食べてごらん」
焦げ目のついたそれに、みそをまぶしたものを、宗治にわた
してやる。
宗治は、一口かぶりついて、叫んだ。
「うまい、母ちゃん、これ、うまいよ!」
卓治も、待ちきれず、子どものように手を出して、ほおばった。
「おお、こりゃ、本当にうまい!」
そんな2人の顔を、目を細めて見ていたイセのこころに、不意
にひらめくものがあった。
「これ、売ってみたら、どうだろうね」
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