2016年09月05日

物語版「零(zero)に立つ」第11章 樺太にて(4)/通巻75話

天童で産まれ網走で活躍した、中川イセさんの半生を描いた
語り劇『零(zero)に立つ
〜激動の一世紀を生きた中川イセの物語〜』


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脚本担当・かめおかゆみこです。

山谷一郎著『岬を駈ける女』を主要資料としながら、かめおかの視点で、イセさんの
物語をつむいでいます。物語ですので、すべてが事実ではなく、想像やフィクション
がまじる部分もあります。けれども、イセさんの生きかたの根本ははずさないで書い
ていくつもりです。ご感想をいただければ励みになります。よろしくお願いします。


第1章     第2章      10 11 12 13 14 
第3章 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25
第4章 26 27 28 29 30 31 第5章 32 33 34 35 36 
37 第6章 38 39 40 41 42 43 44 第7章 45 46 47 
48 49 第8章 51 52 53 54 55 56 57 58 59
第9章 60 61 62 63 64 65 66 第10章 67 68 69 
70 71 第11章 72 73 74  
※これまでのあらすじは、こちら


卓治の連れてきた客を見たとたん、旅館の主人は、一瞬顔を
くもらせた。

客たちが2階にあがるのを見送った主人は、卓治に耳打ちした。

「あんたには教えてなかったからしかたないけど、今度からは、
ああいう手合いは連れてきたら困るよ」

当時、樺太には、仕事をもとめて、大勢の人足たちが流れ込ん
できていた。

なかには、かなり気の荒い連中もいて、黒ずくめの服装から、
「樺太鴉」と呼ばれていたのだ。

何しろ、けんかは日常茶飯事、店に入れば、さんざん飲み食
いしたあげくに踏み倒すこともしばしば…というのだから、い
やがられるのも無理はない。

その一団を連れてきてしまったのだから、店の主人が渋い顔
をするのは当然だ。

案の定、男たちは深夜まで大騒ぎし、ほかの部屋から苦情を
受けて話をつけにいった別の番頭が、なぐられるという事態
となった。

いよいよ警察を呼ぶしかない…と浮足立つ店の主人たちを前
に、卓治は、すっと立ち上がった。

「オレの責任だから、オレが行って話をつけてくる」

「卓治さん、やめときなよ。下手したら殺されちまうよ」

しかし、卓治は動じず、2階にあがると、いきなりふすまをが
らりと開けた。

男たちは一瞬、そちらを見たが、そこにいるのが、自分たちを
連れてきた客引きと知ると、また大騒ぎをはじめようとする。

「ほかの部屋の客から苦情がきてる。おまえら、外へ出ろや」

卓治が太い声で言った。

男たちのひとりが、目をむいた。

「誰に向かって言ってるつもりだ。さっきのやつみたいに、鼻
血流してひっくり返りてえか!」

しかし、卓治は眉毛ひとつ動かさず、さらに太い声で繰り返した。

「話は外でつけるべ。出ろ」

「なんだと!」

ほかの男たちも、ぞろっと立ち上がったが、親分とおぼしき男が、
それを制した。

「わかった。…おまえら、行くぞ」

卓治は、うなずくと、先に立って階段をおり、外へ出た。そのあと
から、男たちがぞろぞろとつづく。

男たちは殺気だって、いまにも卓治におそいかかろうとするが、
あの凡庸に見えた客引きの後ろ姿には、どうしたことか、寸分の
すきもないのである。

「イセさん、一体どうなってるんだい。卓治さん、殺されちまうよ」

店の主人がふるえながら言ったが、イセは無言で、首をふった。

そして、騒ぎを聴きつけて集まってきた、野次馬たちともども、距
離を開けて、あとをついていった。

卓治と男たちは、港まで着くと、歩みを止めた。

その瞬間だ。卓治がふりかえる間もなく、ひとりの男が、卓治に
向かってとびかかった。


【著者注】 文中、「人足」は、現在は放送禁止用語として使用され
ていませんが、当時の雰囲気を出すため、そのまま使用しています。



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網走市観光協会さまのサイトより、ご承諾を得て
網走の写真をお借りしています。ありがとうございます。
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「JR藻琴駅」 
一般社団法人網走市観光協会さまご提供
posted by 夢実子「語り劇」プロジェクト at 05:27| Comment(0) | 物語版「零(zero)に立つ」 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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