2016年08月19日

物語版「零(zero)に立つ」第9章「小梅」の死(5)/通巻64話

天童で産まれ網走で活躍した、中川イセさんの半生を描いた
語り劇『零(zero)に立つ
〜激動の一世紀を生きた中川イセの物語〜』


本日、公演8日前!

イセさんの「あきらめない精神」を伝えたい!
動画、予告編は、こちら

日時/2016年8月27日(土)18:00開演
会場/シベールアリーナ(客席数456)
観劇料/3000円(当日3500円)
チケット購入先
 オフィス夢実子(事務局・菅野)080-6020-8837
         メール・zeronitatsu@yumiko333.com
 シベールアリーナ 023-689-1166
 八文字屋POOL(山形市) 023-622-2150
 TENDO八文字屋(天童市)023-658-8811、
 「零(zero)に立つ」公演サポーターズメンバー、他
    


「零(zero)に立つ」第1巻お申し込み受付中!
※イセさんの誕生〜北海道に渡るまでを、まとめて一気に読めます。
※今回かぎりの特典ゲットは、8月25日まで!



脚本担当・かめおかゆみこです。

山谷一郎著『岬を駈ける女』を主要資料としながら、かめおかの視点で、イセさんの
物語をつむいでいます。物語ですので、すべてが事実ではなく、想像やフィクション
がまじる部分もあります。けれども、イセさんの生きかたの根本ははずさないで書い
ていくつもりです。ご感想をいただければ励みになります。よろしくお願いします。


第1章     第2章      10 11 12 13 14 
第3章 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25
第4章 26 27 28 29 30 31 第5章 32 33 34 35 36 
37 第6章 38 39 40 41 42 43 44 第7章 45 46 47 
48 49 50 第8章 51 52 53 54 55 56 57 58 59
第9章 60 61 62 63
※これまでのあらすじは、こちら


まわりの制止を振り切って、線路のそばまで走り寄ったイセ
は、目の前にあるものを見た瞬間、足ががくがくふるえ出す
のを感じた。

そこに、「小梅」はいなかった。

いや、「ひと」と呼べるものは、いなかった。
「ひとであったもの」だけが、そこにあった。

意を決し、イセは、ふるえる手で、その遺体を、一つ、ひと
つ、「ひろい」集めた。

そのようすは、鬼気せまるものがあったかもしれない。

取り囲んで見ている、やじうまたちが、次第にしんとなって
いく。しかし、誰も、手を貸してくれるものはいない。

怖かった。泣きたかった。逃げ出したかった。

でも、やりとげなければならないと想った。こうしてやれる
のは、自分だけだ、とも想った。

この当時、北海道でも、電気事業ははじまっていたが、まだ、
一般に普及しているとは言いがたい。

だから、このとき、線路のまわりは、ほとんど暗闇で、せい
ぜいランプの明かりくらいしかなかったはずだ。

その暗闇のなかを、イセは、必死になって、「小梅」を
「ひろい」集めたのだ。

夜は、とうに更けていたが、娼妓たちは、みな起きて、イセ
の帰りを待っていた。

小梅が使っていた布団に、袋におさめた「小梅」を安置し、
ろうそくを立てて、みなは手を合わせた。

「小梅ちゃん、もう苦しくないよね…」

「小梅ちゃん、どうか成仏してね」

娼妓たちにとって、小梅の死は、ひとごとではなかった。

返せない借金をかかえて、誰もが、自分のなかの「小梅」
を感じていたのだから。

ところが、ここで不思議なことが起きた。

風もないのに、小梅の枕元にともした、ろうそくの灯が、
つけてもつけても、消えてしまうのだ。

みなは、それに気づくと、こわごわ顔を見合わせた。

それを見ていた、まかないのトヨばあさんが、イセを呼ん
で、そっと言った。

「これはなあ、昔、年寄りから聴いた話なんだが、仏さま
のからだの足りないところがあるとな、そろえてくれろと
言うて、ろうそくの灯を消すんだと」

イセは、こくりとちいさくうなずいた。

夜がしらじらと明けるのを待って、イセは、ふたたび、線
路の現場まで出かけた。

そうして、草や石ころをかき分けながら、イセは、ついに、
ちいさなひらたいものを見つけたのである。

それは、頭の皿とかはちとか呼ばれる、脳天の部分の骨
なのだった。

それを大切に手拭いにくるんで帰り、そっと、「小梅」の袋
のなかに入れ、ふたたびろうそくの灯をつけた。

すると、ろうそくの灯はもう二度と消えずに、静かに燃え
つづけるのだった。


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網走市観光協会さまのサイトより、ご承諾を得て
網走の写真をお借りしています。ありがとうございます。
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「市立郷土博物館」 
一般社団法人網走市観光協会さまご提供
posted by 夢実子「語り劇」プロジェクト at 04:36| Comment(0) | 物語版「零(zero)に立つ」 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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