語り劇『零(zero)に立つ
〜激動の一世紀を生きた中川イセの物語〜』
本日、公演31日前!
★イセさんの「あきらめない精神」を伝えたい!
★動画、予告編は、こちら!
日時/2016年8月27日(土)18:00開演
会場/シベールアリーナ(客席数522)
観劇料/3000円(当日3500円)
チケット購入先
オフィス夢実子(事務局・菅野)080-6020-8837
メール・zeronitatsu@yumiko333.com
シベールアリーナ 023-689-1166
八文字屋POOL(山形市) 023-622-2150
TENDO八文字屋(天童市)023-658-8811、
「零(zero)に立つ」公演サポーターズメンバー、他
脚本担当・かめおかゆみこです。
山谷一郎著『岬に駈ける女』を主要資料としながら、かめおかの視点で、イセさんの
物語をつむいでいます。物語ですので、すべてが事実ではなく、想像やフィクション
がまじる部分もあります。けれども、イセさんの生きかたの根本ははずさないで書い
ていくつもりです。ご感想をいただければ励みになります。よろしくお願いします。
第1章 1 2 3 4 第2章 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14
第3章 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25
第4章 26 27 28 29 30 31 第5章 32 33 34 35 36
37 第6章 38 39 40 41 42 43 44 第7章 45 46
※これまでのあらすじは、こちら
きつい消毒液の匂いに、イセは、意識をとりもどした。目を
開けると、しみだらけの、古びた天井が、目に入った。
そこは、病院のベッドの上だった。
イセは、虫垂炎をこじらせ、腹膜炎になっていたのである。
旭川で、イセが入るはずになっていた遊廓の楼主は、
「五百円の大金はらったのに、稼ぎもしないうちに病院とは、
どういうことだ!」と毒づいた。
しかし、それこそ死んでしまっては、元も子もない。しぶしぶ、
入院することを許可したようだ。
イセの病状は、思った以上に重かった。
「からだが頑丈だから助かった。並の娘なら、死んでもおかし
くない」と、医者がおどろいたそうだ。
入院中、遊廓からは、日に二度、食事が届けられたが、イセは
ひと目見て、顔をしかめた。
明らかに、誰かが箸をつけたあとや、かじった痕跡があるので
ある。おそらく、客に出したお膳の残りなのであろう。
イセは、みじめさに身震いしたが、生きるためには食べなけれ
ばならなかった。
何より、病状が重く、さしものイセも、このときばかりは、抵抗
する気力も体力もなく、そんな食事であっても、手をつけるより
ほか、なかったのである。
結局、入院は三か月近くにおよんだ。
はじめての北海道の冬を、イセは、病院のベッドのうえで過ご
したことになる。
三月。まだ雪は深かったが、日差しは少しずつやわらぎはじめ
ていた。
ようやく退院してきたイセに、楼主はにべもなく言った。
「入院費で、あんたの借金は千円になったよ。ここでなく、網走
に行ってはたらいてもらうことにしたから」
イセの意思を確認する気などさらさらない。まるで、ものと同じ
ように、イセは、自分のあずかり知らぬところで、売り買いされ
たのである。
病気で弱っていたイセであるが、生来の負けん気が、ここでむく
むくと頭をもたげてきた。
「なして、三か月で、借金が二倍にもなるんだ! しかも、あん
な、残飯食わせておいて!」
イセは、「入院費の領収書を見せろ」とせまったが、楼主はまる
でとりあわない。
憤懣やるかたなく、イセは、駅前の駐在所に飛びこんで、わけを
話した。が、ここでも、警官の返事はつれなかった。
「どのみち借金は返さなければならんのだろう。踏み倒せば、監
獄行きだ。それだったら、言われたとおりに網走に行って、そこ
で、いいだんな見つけて身請けしてもらうほうが、ずっとましだ
ろう」
大正8年。いまから約100年前の、女性にたいする人権意識な
ど、こんな程度だったのである。
イセは愕然とし、この運命からは逃げられないのだとさとった。
「落ちるところまで落ちたら、あとは這い上がればいい」と、覚
悟してきた北海道ではあったが、その底は、どこまでも深いので
あった。
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「冬の網走港」
※一般社団法人網走市観光協会さまご提供