語り劇『零(zero)に立つ
〜激動の一世紀を生きた中川イセの物語〜』
本日、公演36日前!
★動画、予告編は、こちら!
日時/2016年8月27日(土)18:00開演
会場/シベールアリーナ(客席数522)
観劇料/3000円(当日3500円)
チケット購入先
オフィス夢実子(事務局・菅野)080-6020-8837
メール・zeronitatsu@yumiko333.com
シベールアリーナ 023-689-1166
八文字屋POOL(山形市) 023-622-2150
TENDO八文字屋(天童市)023-658-8811、
「零(zero)に立つ」公演サポーターズメンバー、他
脚本担当・かめおかゆみこです。
山谷一郎著『岬に駈ける女』を主要資料としながら、かめおかの視点で、イセさんの
物語をつむいでいます。物語ですので、すべてが事実ではなく、想像やフィクション
がまじる部分もあります。けれども、イセさんの生きかたの根本ははずさないで書い
ていくつもりです。ご感想をいただければ励みになります。よろしくお願いします。
第1章 1 2 3 4 第2章 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14
第3章 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25
第4章 26 27 28 29 30 31 第5章 32 33 34 35 36
37 第6章 38 39 40 41 42 43
※これまでのあらすじは、こちら
イセが、遊廓につとめるためにかわした契約書を、安蔵にわた
すと、安蔵は、意外にもあっさりと、署名をし、印鑑を押した。
そこには、いたわりやはげましのことばもなかった。
イセは、ともかく、用件だけはすまさなければと、頭を下げて
こう言った。
「どうか、ときどきでいいから、愛子の様子を見に行ってやっ
てください。寒河江の五十嵐さんちに、この育て賃、わたして
やってください」
そうして、自分のこれからの3年間と引き換えに手に入れた、
五百円を、さしだした。
とたんに、そばで見ていた、継母モヨの態度が変わった。
「イセちゃん、大変だったわねえ。北海道までいってはたらく
なんて、誰にもできることじゃないよ。えらいわあ」
ひとが変わったように、やさしく甘い声で、イセに声をかけて
きたのである。
「育て賃を、一度にわたしたらだめだよ。これは私が、毎月に
分けて、届けてあげる。だから、安心して行っておいで」
イセは、このとき、7年前のことを思い出さなかったのだろうか。
里親コウの家から、強引にイセを連れもどすとき、モヨが、同
じように甘い声で、「ほしいものはなんでも買ってあげる」と
言ったことを。
その約束は、何ひとつ守られなかったのである。
イセのもつ素直さが、こんなところに出たのかもしれない。あ
るいは、窮地にあって、こころのゆとりがなかったせいかもし
れない。
いずれにしても、イセは、モヨのことばを信じた。信じるしか
なかった。
けれども、案の定、というべきか、イセが身を賭して手に入れ
たそのお金は、ただの一円も、里親の五十嵐家にわたることは
なかった。
イセが、そのことを知るのは、しばらくあとのことである。
旅立ちにあたって、イセは、コウと、親友のみよしに、別れを
告げにいった。
二人は、イセの決断におどろき、悲しみ、「からだを大切にし
て。ようすを知らせてくれよ」と、何度も何度も、涙ながらに
言った。
さらに、コウは、旅立ちの日、駅までやってきて、イセに、麦
のにぎりめしが五つも入った包みをわたしてくれた。
貧しい暮らしで苦労しどおしのコウが、そのにぎりめしをどん
な想いでにぎったか。イセには痛いほどよくわかった。
寒風ふきすさぶ山形駅で、コウは、ふるえる手で、イセの手を
にぎって言った。
「おれが生きているうちに、きっと帰ってきてくれよ」
愛子との別れにも、安蔵の冷たいしうちにも涙を流さなかった
イセだが、そのことばは、何よりも強くこころをゆさぶった。
けれども、いまは泣くときではない。これからもっと大変な暮
らしが待っているのだから。
イセは、必死で涙をこらえて言った。
「うん。あや(お母さん)も、達者でな」
汽車の扉がしまる。汽笛がひびく。
1918年(大正7年)暮れ。
こうして、イセは、ほかの何人かの娘たちとともに、北海道に
向かって旅立った。
運命の歯車は、ここからおおきく回りだすのである。
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「冬の樹木」
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