2016年07月14日

物語版「零(zero)に立つ」第6章 運命の歯車(2)/通巻39話

天童で産まれ網走で活躍した、中川イセさんの半生を描いた
語り劇『零(zero)に立つ
〜激動の一世紀を生きた中川イセの物語〜』


本日、公演44日前!

日時/2016年8月27日(土)18:00開演
会場/シベールアリーナ(客席数522)
観劇料/3000円(当日3500円)
チケット購入先
 オフィス夢実子(事務局・菅野)080-6020-8837
         メール・zeronitatsu@yumiko333.com
 シベールアリーナ 023-689-1166
 八文字屋POOL(山形市) 023-622-2150
 TENDO八文字屋(天童市)023-658-8811、
 「零(zero)に立つ」実行サポーターズメンバー、他
    


脚本担当・かめおかゆみこです。

山谷一郎著『岬に駈ける女』を主要資料としながら、かめおかの視点で、イセさんの
物語をつむいでいます。物語ですので、すべてが事実ではなく、想像やフィクション
がまじる部分もあります。けれども、イセさんの生きかたの根本ははずさないで書い
ていくつもりです。ご感想をいただければ励みになります。よろしくお願いします。


第1章     第2章      10 11 12 13 14 
第3章 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25
第4章 26 27 28 29 30 31 第5章 32 33 34 35 36 
37 第6章 38 
※これまでのあらすじは、こちら


人絹工場を抜け出したイセは、織物工場時代の女工仲間の家を
たずねた。結婚して、米沢市内で、夫婦で機織り工場をやって
いたのだ。

とりあえずは、そこではたらかせてもらいながら、イセは、あ
れこれ考えあぐねた。

女工仲間の家は居心地がいいけれど、同じ米沢市内のこと、い
つか、戸田茂雄に会ってしまうかもしれない。そのことが気が
かりだった。

茂雄と、米沢駅で別れてから、まだ1年そこそこだ。

あれから、実家での縁談話、東京への家出と、東京暮らしがあ
り、山形にもどって人絹工場に入り、そこを抜け出して、いま、
女工仲間のところではたらいている。

なんてめまぐるしい日々だったろう。

茂雄に会いたい、という気持ちがないといえば、うそになる。
でも、イセは、いまの自分のままでは、茂雄には会いたくない
と感じていた。

(人絹工場での借金ぶんをはたらいたら、どこか別のところ
に行ったほうがいいかもしれない)

そんなことを考えていたある日。街なかを歩いていたら、不
意に声をかけられた。

「あれ? もしかして、イセちゃんでないかい?」

どきっとして顔を上げると、そこには、40くらいの男が立
っていた。その顔に、イセは見覚えがあった。

「あ…、八重松さん?」

10歳で、里親コウのもとから、連れもどされて、しばらく
実家にいたときのこと。家に出入りする芸人たちのなかに、
祭文語りの八重松がいた。

祭文とは、もとは祭りのとき,神に奉ることばをさす。

中世以降は、山伏が法螺貝や錫杖に合せて語り歩いた山伏
祭文、江戸時代には、三味線に合わせた、『お染久松』
『八百屋お七』のようなニュース種を語る歌祭文が流行した。

大正時代のこの時期には、それらのなかから、説経節と結
んだ「説経祭文」、地方の盆踊りに入った「祭文音頭」、
浪花節の祖となった「でろれん祭文」などが出てきていた。

新版祭文-明治33年国華堂-日本近代歌謡史.jpg
※出典は、こちら

「いやあ、女の子はわからんねえ。ちょっと見ない間に、す
っかりみちがえたよ」

八重松が、ひどくなつかしいというように、声をあげた。

イセも、同じく、なつかしさに気持ちがゆるんだ。

学校にも行かせてもらえず、一日中家の仕事に追われたあの
時期、芸人たちにまじって、歌や三味線を習ったよろこびは、
忘れない。

もちろん、祭文も、見よう見まねでやってみた。それを教え
てくれたのが、八重松だったのだ。

イセは、いまは、実家を出て、米沢の知人のところではたら
いていることを、かいつまんで話した。

八重松は、うなずきながらそれを聴き、また感心したように
言った。

「若いのに、たいしたもんだ。こんなところで会ったのも、
何かの縁だ。どうだい、そばの一杯でもごちそうするよ」

言われるまま、イセは八重松のあとについて、近くの小料
理屋ののれんをくぐった。そして、そのまま、2階の個室に
とおされた。


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網走市観光協会さまのサイトより、ご承諾を得て
網走の写真をお借りしています。ありがとうございます。
0714057.jpg
「網走市北浜付近」 
一般社団法人網走市観光協会さまご提供
posted by 夢実子「語り劇」プロジェクト at 06:05| Comment(0) | 物語版「零(zero)に立つ」 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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