2016年07月13日

物語版「零(zero)に立つ」第6章 運命の歯車(1)/通巻38話

天童で産まれ網走で活躍した、中川イセさんの半生を描いた
語り劇『零(zero)に立つ
〜激動の一世紀を生きた中川イセの物語〜』


本日、公演45日前!

日時/2016年8月27日(土)18:00開演
会場/シベールアリーナ(客席数522)
観劇料/3000円(当日3500円)
チケット購入先
 オフィス夢実子(事務局・菅野)080-6020-8837
         メール・zeronitatsu@yumiko333.com
 シベールアリーナ 023-689-1166
 八文字屋POOL(山形市) 023-622-2150
 TENDO八文字屋(天童市)023-658-8811、
 「零(zero)に立つ」実行サポーターズメンバー、他
    


脚本担当・かめおかゆみこです。

山谷一郎著『岬に駈ける女』を主要資料としながら、かめおかの視点で、イセさんの
物語をつむいでいます。物語ですので、すべてが事実ではなく、想像やフィクション
がまじる部分もあります。けれども、イセさんの生きかたの根本ははずさないで書い
ていくつもりです。ご感想をいただければ励みになります。よろしくお願いします。


第1章     第2章      10 11 12 13 14 
第3章 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25
第4章 26 27 28 29 30 31 第5章 32 33 34 35 36 
37
※これまでのあらすじは、こちら


山形に帰ったものの、実家に帰れば、また縁談話が再燃するに
ちがいない。

イセは考えた末、知人を頼って、米沢の人絹工場に行き、35円
を前借りして、3年の年季奉公をすることにした。

のちに「テイジン」となる、この人絹工場「米沢人絹製造所」
は、当時でも200名もの従業員のいる、おおきな工場であった。

「米沢人絹製造所」が正式に建設されたのは、1914年
(大正3年)11月だから、このときまだ、建設されて3年目
くらいであった。

女子工員の仕事は、おもに、紡糸といって、「糸の原液を多数
の小さい穴から、押し出して糸にする」作業だった。

しかし、当時は、人絹をつくる技術は発展途上で、設備も充分
なものとはいえなかった。

紡糸装置.JPG
※出典は、こちら

酸をあつかう作業のため、工場のなかはいつも酸の強いにおい
がたちこめ、もれた酸が霧状にただよっていたり、床に付着し
てどろどろになっていたりした。

もちろん、これが健康にいいわけがない。

とくに、結膜炎、角膜炎を起こすものが続出した。作業工程で
使われる二硫化炭素を吸ってしまい、精神のバランスをくずす
ものもいた。

そのため、工場では、欠勤者が多く、辞めるものもあとを断た
なかった。

(しまった。ここは長くいるべきところじゃない)

イセは後悔した。しかし、前借りをして入ってしまったからに
は、借金を返すまでは辞めることはゆるされない。

また、織物工場のときには、仕事は大変でも、まだ、女工仲間
との楽しい語らいの時間化あった。

けれども、ここでは、作業は交替制で、宿舎では、ほかのもの
が寝ていたふとんに、もぐりこむという状態。気持ちの切り替
えようもないのである。

イセの気持ちは、急速に萎えていった。

(ひとまず逃げよう。借金はあとで返せばいい)

ついに、イセは決心した。

3月の、寒い夜、みんなが寝静まったのを見定めて、イセは、
こっそり宿舎を抜け出した。闇にまぎれて板塀のところまでた
どり着いたが、塀は高くて手が届かない。

ようやくとっかかりを見つけてよじのぼり、塀のうえに張りめ
ぐらされたバラ線をよけながら、えいっとばかりに飛び越えた。

…と想ったのもつかのま、いきなり強く何かに引っ張られた。

次の瞬間、イセは、塀の外に、宙づりになってぶら下がってい
た。バラ線に、着物が引っかかったのである。

さすがのイセも、目を白黒させた。このままでは、夜が明けて
見つかってしまう。いや、その前に、寒さでこごえてしまうか
もしれない。

もう、なりふりかまっているよゆうはなかった。イセは、むちゃ
くちゃにからだをよじり、つかむところをさがして手をふりま
わした。

さいわい、少しくぼんでいるところに、指が引っかかった。イ
セは思い切り、ちからをこめて、からだを引き寄せた。

ビリッ! と音がしたかと想うと、着物がやぶれ、イセは、ど
さっと地面にころがっていた。

ともかくも、脱出は成功したのである。


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網走市観光協会さまのサイトより、ご承諾を得て
網走の写真をお借りしています。ありがとうございます。
0713056.jpg
「網走市北浜白鳥公園のオオハクチョウ」 
一般社団法人網走市観光協会さまご提供
posted by 夢実子「語り劇」プロジェクト at 09:08| Comment(0) | 物語版「零(zero)に立つ」 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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