2016年07月07日

物語版「零(zero)に立つ」第5章 女優志願(3)/通巻34話

天童で産まれ網走で活躍した、中川イセさんの半生を描いた
語り劇『零(zero)に立つ
〜激動の一世紀を生きた中川イセの物語〜』


本日、公演51日前!

日時/2016年8月27日(土)18:00開演
会場/シベールアリーナ(客席数522)
観劇料/3000円(当日3500円)
チケット購入先
 オフィス夢実子(事務局・菅野)080-6020-8837
         メール・zeronitatsu@yumiko333.com
 シベールアリーナ 023-689-1166
 八文字屋POOL(山形市) 023-622-2150
 TENDO八文字屋(天童市)023-658-8811、
 「零(zero)に立つ」実行サポーターズメンバー、他
    


脚本担当・かめおかゆみこです。

山谷一郎著『岬に駈ける女』を主要資料としながら、かめおかの視点で、イセさんの
物語をつむいでいます。物語ですので、すべてが事実ではなく、想像やフィクション
がまじる部分もあります。けれども、イセさんの生きかたの根本ははずさないで書い
ていくつもりです。ご感想をいただければ励みになります。よろしくお願いします。


第1章     第2章      10 11 12 13 14 
第3章 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25
第4章 26 27 28 29 30 31 第5章 32 33 
※これまでのあらすじは、こちら


やると決めたら、あとは実行あるのみ。

がまん強さもひと一倍もっているが、いざ決めたら、くよくよ
悩むことがない。このいさぎよさが、イセの生きるちからにな
っていたことは、まちがいがない。

だがしかし、山形まで歩いたような調子で、東京に行くことは
できない。汽車賃や当座の生活費が必要である。

イセは、これもあっさり決断した。家の金を持ち出すことにし
たのである。

「家の仕事、ずっとやってきて、一銭だって給金もらったこと
ないもの。その代わりとしてもらっても、安いくらいだ」

というのが、イセの言い分である。

以前、男の子たちに集団でいじめられて、仕返しに、相手の家
の庭の柿の実を全部落としたことがあるが、あのときも、自分
のやったことはまちがっていないと主張した。

そんな強引さは、安蔵の血を引いていると言えなくもない。

ともあれ、5円のお金を持って、イセは意気揚々と家を出た。

東京どころか、県外に出るのも初めての体験であるが、こころ
は、「女優」の一文字に埋めつくされ、怖れの気持ちはかけら
も感じなかった。

それでも、いざ東京につくと、そこは、これまで見たこともな
い、にぎやかできらびやかな場所だった。

帝国劇場は、1911年(明治44年)に、東京は丸の内に建
てられた、本邦初の西洋式演劇劇場である。
帝国劇場.JPG
(出典は、こちら

のちに、1923年の関東大震災で焼失したが、翌1924年
に再建されている。

イセが上京したのは、大正5年前後と想われるから、落成から
まだ6年ほどのころだ。華やかさもひとしおだったと想像される。

何度もひとにたずねながら、イセは、ようやく帝国劇場にたどり
着いた。さすがに正面から入るのはためらわれたので、建物沿い
にまわってみると、楽屋口があった。

ちょうどそこで、掃き掃除をしている老人がいたので、イセは、
どきどきしながら、声をかけた。

「あの、松井先生に合わせてほしいんだけど」

老人は、掃除の手を止め、じろりとイセを見た。

「いないよ」

「…え?」

聴き返そうとするイセにたいして、老人は、それきり目を合わ
そうともせず、黙々と掃除をつづけた。

イセは知らなかったけれども、当時、芸術座は、演出家・島村
抱月と、看板女優・松井須磨子の道ならぬ恋で、すったもんだ
していた。

それに反感をもつものたちも当然いたわけで、老人の対応もさ
もありなんというところだろう。

ちなみに、芸術座は『復活』の大成功で、興行収入もどんどん
入り、1915年(大正4年)の12月には、自前の劇場(芸術
倶楽部)も完成させている。

抱月・須磨子は、劇場の完成と同時にここに移り住んだから、
どのみち、帝国劇場にいなかったのは、まちがいない。

そんな裏事情など知るよしもなく、イセはただ、あぜんとして、
立ち尽くすばかりであった。


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網走市観光協会さまのサイトより、ご承諾を得て
網走の写真をお借りしています。ありがとうございます。
0707049.jpg
「能取湖サンゴ草」 
一般社団法人網走市観光協会さまご提供
posted by 夢実子「語り劇」プロジェクト at 07:37| Comment(0) | 物語版「零(zero)に立つ」 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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