2016年07月04日

物語版「零(zero)に立つ」第4章 イセの初恋(6)/通巻31話

天童で産まれ網走で活躍した、中川イセさんの半生を描いた
語り劇『零(zero)に立つ
〜激動の一世紀を生きた中川イセの物語〜』


本日、公演54日前!

日時/2016年8月27日(土)18:00開演
会場/シベールアリーナ(客席数522)
観劇料/3000円(当日3500円)
チケット購入先
 オフィス夢実子(事務局・菅野)080-6020-8837
         メール・zeronitatsu@yumiko333.com
 シベールアリーナ 023-689-1166
 八文字屋POOL(山形市) 023-622-2150
 TENDO八文字屋(天童市)023-658-8811、
 「零(zero)に立つ」実行サポーターズメンバー、他
    


脚本担当・かめおかゆみこです。

山谷一郎著『岬に駈ける女』を主要資料としながら、かめおかの視点で、イセさんの
物語をつむいでいます。物語ですので、すべてが事実ではなく、想像やフィクション
がまじる部分もあります。けれども、イセさんの生きかたの根本ははずさないで書い
ていくつもりです。ご感想をいただければ励みになります。よろしくお願いします。


第1章     第2章      10 11 12 13 14 
第3章 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25
第4章 26 27 28 29 30 
※これまでのあらすじは、こちら


イセが、工場に走ってもどってくると、女工仲間たちがイセに走
り寄ってきて、口々に言った。

「イセちゃん、大変! お父さんがきてるわよ!」

「工場長と口げんかしてる!」

「えっ?! どういうこと?」

どうして、居場所がばれてしまったんだろう…。

茂雄のことで胸がいっぱいだったイセは、今度は、安蔵のことで
頭がいっぱいになった。

工場長の部屋に駆けつけたが、安蔵はすでに帰ったあとだった。

「ああ、今野さん、いやはや、びっくりしたよ」

ふだんは温厚な工場長が、汗を拭きながら言った。

「すみません。父が失礼なことをしなかったですか」

「何もされてはいないけど、ひとの娘を親のことわりもなしに、
勝手にはたらかせるのはなにごとだって、どなられてねえ」

「そんなこと…」

イセはくちびるを噛んだ。

(もとはといえば、自分から追いだしたくせに…)

「君もいなかったから、今日のところは、とりあえずは帰って
もらったけどもね」

工場長の困惑がありありと伝わってくる。

その夜、イセは、じっと考えた。

ここは、仕事も楽しく、友だちもできて、居心地もいい。

けれども、居場所がわかったからには、安蔵は、きっとまた、
自分を連れもどしにやってくるにちがいない。

騒ぎを起こされるのはいやだ。しかも、安蔵は、かっとなった
ら暴力ざただって起こしかねない。

そして、茂雄のこと…。

自分のことを、お嫁さんにしたいと言ってくれた。茂雄さんと
結婚できたら、どんなにうれしいだろう。

だけど、自分とつきあったために、親のものをもちだしてしま
うようなひとにしてしまってはいけない。

いまは、離れよう。また会える日がくるかどうかはわからない
けど、それが一番いい方法だ…。

決めたら、行動しなければ気が済まないイセである。

「お世話になりました」

工場をやめることを告げて、工場長に頭を下げた。

「ええ、イセちゃん、やめちゃうの?」

「米沢にきたら、遊びにきてね。絶対だよ!」

仲間たちは、こころから、イセとの別れを惜しんでくれた。

茂雄には、ことば少なに告げた。

「急に親もとにもどらねばならなくなった。今日の汽車で
発つから…」

茂雄はおどろいて、いろいろ訊いていたけれども、イセは
ただ、「親が…」の一点張りをとおした。

茂雄は、米沢駅まで、イセを送ってくれて、ホームまでき
て、見送りをしてくれた。

「茂雄さん、ありがとうございました」

イセは、深々と頭を下げた。

「イセさん、からだを大切にして。必ず連絡ください」

茂雄のことばにちいさくうなずき、イセは、やってきた汽
車に乗り込んだ。

汽笛を鳴らして、汽車はホームを離れる。

そっと肩ごしに振り返ると、柱の陰からずっとこちらを見
ている、茂雄の姿が目に入った。

涙があふれそうになって、イセは、ぎゅっとこぶしを握り、
歯をくいしばった。

そして、これが、茂雄との最後の出会いになったのだった。


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網走市観光協会さまのサイトより、ご承諾を得て
網走の写真をお借りしています。ありがとうございます。
0704046.jpg
「能取湖サンゴ草」 
一般社団法人網走市観光協会さまご提供
posted by 夢実子「語り劇」プロジェクト at 10:40| Comment(0) | 物語版「零(zero)に立つ」 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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