2016年07月01日

物語版「零(zero)に立つ」第4章 イセの初恋(5)/通巻30話

天童で産まれ網走で活躍した、中川イセさんの半生を描いた
語り劇『零(zero)に立つ
〜激動の一世紀を生きた中川イセの物語〜』


本日、公演57日前!

日時/2016年8月27日(土)18:00開演
会場/シベールアリーナ(客席数522)
観劇料/3000円(当日3500円)
チケット購入先
 オフィス夢実子(事務局・菅野)080-6020-8837
         メール・zeronitatsu@yumiko333.com
 シベールアリーナ 023-689-1166
 八文字屋POOL(山形市) 023-622-2150
 TENDO八文字屋(天童市)023-658-8811、
 「零(zero)に立つ」実行サポーターズメンバー、他
    


脚本担当・かめおかゆみこです。

山谷一郎著『岬に駈ける女』を主要資料としながら、かめおかの視点で、イセさんの
物語をつむいでいます。物語ですので、すべてが事実ではなく、想像やフィクション
がまじる部分もあります。けれども、イセさんの生きかたの根本ははずさないで書い
ていくつもりです。ご感想をいただければ励みになります。よろしくお願いします。


第1章     第2章      10 11 12 13 14 
第3章 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25
第4章 26 27 28 29 
※これまでのあらすじは、こちら


茂雄がさしだしたそれは、きれいなケースに入った絹のハン
カチだった。

「どうしたの? これ」

「毎日、仕事をしていると、汗をかくこともあるだろうから」

「わだすのために?」

「うん。受け取ってもらえたら、うれしいな」

そう言われて、イセは、礼を言って受け取ったが、心の片隅
に、釈然としないものが残った。

たしかに、茂雄はお金持ちの家の息子で、絹のハンカチだっ
て、買おうと思えば、造作なく買えるのかもしれない。でも…。

イセは、もらったハンカチを、使えないまま、そっと、自分の
行李のなかにしまっておいた。

そして、その疑問は、しばらく経って、はっきりした。

次に、茂雄がイセにプレゼントしようとしたもの。それは、光
る石をつなげたネックレスだったのだ。

イセはそうした装飾品については、とんと知識がうとかったが、
それでも、見るからに、値打ちがあるとわかるものだった。

「…わだす、もらえないよ、こんな高価なもの。茂雄さん、
これ、自分で買ったんではないよね?」

言われて、茂雄は、ちょっと困った顔をした。

「う、うん。でも、引き出しに入ったきり、誰も使ってなか
ったものなんだ。それだったら、イセさんに使ってもらった
ほうがいい」

「そんなら、本当は、お母さんのものでないの? ますます
もらえないよ」

イセが固辞すると、茂雄は、いつになく強い口調で言った。

「ぼくは、学校を出たら、イセさんをお嫁さんに迎えたいと
思ってるんだ。だから、受け取ってもらいたいんだ」

「茂雄さん…」

いきなり、お嫁さんと言われ、頭のなかが真っ白になった。
でも、それとこれとは別である。

「わだす、今日は帰る!」

イセは、茂雄の手に、ネックレスをねじこむと、走ってその
場を離れた。

イセだって、いつか、茂雄さんのお嫁さんになれたら…と、
思わなかったわけではない。

手ひとつにぎらずとも、お互いに想いは通じあっていたの
だ。茂雄が、そのことを口に出してくれたことが、うれしく
てしかたなかった。

けれども、あまりにも身分がちがいすぎるのである。

茂雄の家は、いくつもの事業を手がけ、町の名士と言われ
る家柄。かたや、イセは、やくざものの安蔵の娘。

茂雄が何を言おうと、親からゆるしがおりるわけがない。

この時代、いまとちがって、そのくらい、身分の差というも
のは、おおきな壁となって、立ちはだかっていたのである。

大好きなひとと一緒になれたら、どんなにうれしいだろう。

でも、その大好きなひとが、いま、自分のために、親のもの
をだまって持ち出すなんてことをしてしまった。

このままでは、茂雄さんを、まちがった道に進ませてしまう
かもしれない。

イセのこころは乱れた。

夢中で走って、工場へもどってくると、今度は、工場で、ち
ょっとした騒ぎがもちあがっていた。


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網走市観光協会さまのサイトより、ご承諾を得て
網走の写真をお借りしています。ありがとうございます。
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「北浜トウフツ湖 ヒオウギアヤメの群落」 
一般社団法人網走市観光協会さまご提供
posted by 夢実子「語り劇」プロジェクト at 05:05| Comment(0) | 物語版「零(zero)に立つ」 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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