2016年06月30日

物語版「零(zero)に立つ」第4章 イセの初恋(4)/通巻29話

天童で産まれ網走で活躍した、中川イセさんの半生を描いた
語り劇『零(zero)に立つ
〜激動の一世紀を生きた中川イセの物語〜』


本日、公演58日前!

日時/2016年8月27日(土)18:00開演
会場/シベールアリーナ(客席数522)
観劇料/3000円(当日3500円)
チケット購入先
 オフィス夢実子(事務局・菅野)080-6020-8837
         メール・zeronitatsu@yumiko333.com
 シベールアリーナ 023-689-1166
 八文字屋POOL(山形市) 023-622-2150
 TENDO八文字屋(天童市)023-658-8811、
 「零(zero)に立つ」実行サポーターズメンバー、他
    


脚本担当・かめおかゆみこです。

山谷一郎著『岬に駈ける女』を主要資料としながら、かめおかの視点で、イセさんの
物語をつむいでいます。物語ですので、すべてが事実ではなく、想像やフィクション
がまじる部分もあります。けれども、イセさんの生きかたの根本ははずさないで書い
ていくつもりです。ご感想をいただければ励みになります。よろしくお願いします。


第1章     第2章      10 11 12 13 14 
第3章 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25
第4章 26 27 28
※これまでのあらすじは、こちら


それから2人は、休日のたび、そのうち、イセの工場での仕事が終
わったあと、毎日のように会うようになった。

工場勤務が終わって、着替えて門の外に出ると、茂雄が自転車を
用意して待っている。2人でそれに乗って、米沢城址のある松が岬
公園に出かけるのだ。

そうして、石段に腰かけて、小1時間ばかり話をするのは、最初の
デートのときから変わらないパターンであった。

茂雄は、驚くほど博識であった。とくに、社会、なかでも歴史に関
する知識に長けていた。

「山形県というのは、実に由緒のある土地なんだ。いまから3万年
前には、もう、人間が移り住んでいたと言われているんだ」

「3万年?!」

そのたびに、イセは目を白黒させる。小学校では、読み書きとそろ
ばんはやったけれど、歴史なんてほとんど学んでこなかったからだ。

それどころか、まわりの誰もそんな話をするのを、聴いたことがない。

「最上川や荒川、それに赤川…山形のおおきな川のそばでは、土
器とか昔の道具がよく見つかるよ。そのときからいままで、ずーっと、
歴史はつながっているんだ」

茂雄のことばは、次第に熱を帯びる。イセは、なんだか、学校の授
業を受けているような、不思議な気分になってきた。

(わだすが、小学校も出てないって言ったから、一所懸命、教えて
くれようとしているのかな)

そんなことを想いながらも、知らない知識を吸収することは、イセ
にとってもうれしいことだ。

そして、さまざまな知識を知り、それを惜しみなく教えてくれる茂
雄にたいして、尊敬の念がましてくるのだった。

「上杉家は、いまから100年くらい前には、借金が20万両くらい
あって、財政は完全に行き詰まっていた。そこで、新藩主になっ
た上杉治憲(はるのり)殿は、きびしい倹約をおこなったんだ」

「はるのり? はじめて聴く名前」

「鷹山公のことだよ。鷹山っていうのは、隠居したあとの名前。
とにかく、そのあとも、天明の大飢饉とか大変なことがたくさんあ
ったんだけど、とうとう藩の財政を立ち直らせたんだ」

茂雄は、まるで自分の手柄のように、うれしそうに語る。

その生き生きとした表情を見ていると、イセは、自然に胸がどきど
きしてきた。

「そして、これからの時代は学問が必要だからと、いったん閉鎖さ
れいた藩の学校、興譲館を復活させて、身分を問わず、学問を学
べる場所をつくったんだよ」

茂雄は、そこまで話すと、あらためて気がついたように、イセの顔
を見た。

「あ、ちょっとむずかしかったかな?」

イセは、大急ぎで、首を横に振った。

「すごくおもしろい。知らないことばっかりなんだもの」

「そうか。よかった」

茂雄はほっとしたように笑った。その笑顔を見て、イセの胸は、ま
たどきどき高鳴ってくるのであった。

手をにぎることさえない、おさない、おさない恋である。

最初のうちこそ、イセが帰ってくるたびに、「どうだった?」と質問
責めにしていた、女工仲間たちも、最近では、「お帰り〜」という
だけである。

いや、下手に訊こうものなら、今度は、イセの口から「鷹山ってい
うのは、隠居したあとの名前で…」なんて、「講義」がはじまりか
ねない。

仲間たちは、「イセちゃん、それよりも、いつもの歌を歌って。お
話を聴かせて」と、せがんで、話をそらすのである。

そんな日々を重ねながら、2人のこころの距離は、会うたびに近
づいていった。

あるとき、帰りぎわに、茂雄は、イセに、そっと何かを手わたした。

「これ、よかったら、使って」


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網走市観光協会さまのサイトより、ご承諾を得て
網走の写真をお借りしています。ありがとうございます。
0630041.jpg
「能取岬のフクジュソウ」 
一般社団法人網走市観光協会さまご提供
posted by 夢実子「語り劇」プロジェクト at 10:51| Comment(0) | 物語版「零(zero)に立つ」 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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