2016年06月29日

物語版「零(zero)に立つ」第4章 イセの初恋(3)/通巻28話

天童で産まれ網走で活躍した、中川イセさんの半生を描いた
語り劇『零(zero)に立つ
〜激動の一世紀を生きた中川イセの物語〜』


本日、公演59日前!

日時/2016年8月27日(土)18:00開演
会場/シベールアリーナ(客席数522)
観劇料/3000円(当日3500円)
チケット購入先
 オフィス夢実子(事務局・菅野)080-6020-8837
         メール・zeronitatsu@yumiko333.com
 シベールアリーナ 023-689-1166
 八文字屋POOL(山形市) 023-622-2150
 TENDO八文字屋(天童市)023-658-8811、
 「零(zero)に立つ」実行サポーターズメンバー、他
    


脚本担当・かめおかゆみこです。

山谷一郎著『岬に駈ける女』を主要資料としながら、かめおかの視点で、イセさんの
物語をつむいでいます。物語ですので、すべてが事実ではなく、想像やフィクション
がまじる部分もあります。けれども、イセさんの生きかたの根本ははずさないで書い
ていくつもりです。ご感想をいただければ励みになります。よろしくお願いします。


第1章     第2章      10 11 12 13 14 
第3章 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25
第4章 26 27 
※これまでのあらすじは、こちら


約束の時間、イセが、緊張した面持ちで、松か岬公園の門のところ
で待っていると、茂雄は自転車に乗ってやってきた。

ときは、大正時代。大正デモクラシーの時代をむかえて、都会では
「モダンガール」がはなばなしく台頭し、街なか自転車で乗り回す
ものもいた。

けれども、一般の庶民にとっては、自転車はまだまだ高嶺の花。ま
して、山形の一地方都市では、中学生が自分の自転車をもっている
など、特別なことなのだった。

茂雄は、イセを見つけると、うれしそうに笑顔を見せた。

「こんにちは。君、自転車には乗ってこなかったの?」

「あ、あれは、出入りの業者さんのだから」

イセは、どぎまぎしてこたえた。茂雄は、あの自転車乗りの自分
の姿を見ていたのだ…。

「そうだったんだ。今日は来てくれてありがとう。君のこと、イセ
さんって呼んでいいかな?」

「は、はい」

「ぼくのことは、よかったら、茂雄って呼んでください」

「茂雄…さん」

「はい」

茂雄は、イセの返事ににこっとし、門の脇に自転車をおくと、す
たすたと歩きだした。

「行こうか。まず、上杉公にお参りをしよう」

イセも、あわててそのあとを追う。

「ここはもともと、米沢城があった場所なんだ。上杉謙信公、上杉
鷹山公のことは、知ってるよね?」

「あ、…うん、いえ…、はい!」

山形県人で、上杉謙信、上杉鷹山の名前を知らぬものは、もちろん
いないだろう。

けれども、小学校を4年までしか出ていないイセが、詳しく知って
いるかといえば、それはまた別の話だ。

「ここが謙信公御堂跡。明治5年に、謙信公を祭神として、上杉神
社が建てられて、明治9年には、正式に社殿を建てたと言われてる。
ここは、 米沢では一番神聖な場所とされてるんだよ」

石段に腰かけて、茂雄の話はまだまだつづく。イセは、なかばあっ
けにとられて、茂雄の顔を見ているばかりだった。

「茂雄…さん、お詳しいんですね」

イセが、精一杯の敬語をまじえてたずねると、茂雄は、またにこっ
と笑顔を見せて、こたえた。

「うん。ぼくは、米沢に生まれて米沢に育った。米沢のことをとて
も誇りに想ってるんだ。だから、なんでも勉強したいんだ」

イセは、そのことばを聴いて、どきっとした。イセにとって、故郷
の天童は、いい想い出がほとんどない。誇りに…なんて、意識した
ことは、一度もなかったからだ。

小一時間も、そんなふうに話をしたろうか。(正確には、茂雄の話
を一方的に聴いていた、という感じではあったのだが)

ようやく、帰ってきたイセを、女工仲間たちがわっと取り囲んだ。

「ね、ね、どうだった? 何話したの?」
「どんなひとだった? やさしかった?」
「どこに行ってきたの? ねえ、話してよ」

10代の娘たちにとって、コイバナ(とは当時は言わなかったけれ
ども)は、最大の関心事である。夢中になるのも無理はない。

イセは、そのいきおいに押されつつ、しどろもどろにこたえた。

「うん。たくさん、話、聴いた。米沢のことがよくわかった」

「何、それ〜?」

イセの話に、娘たちは、あきれ、そして、大爆笑するのであった。


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網走市観光協会さまのサイトより、ご承諾を得て
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「市営能取牧場」 
一般社団法人網走市観光協会さまご提供
posted by 夢実子「語り劇」プロジェクト at 05:26| Comment(0) | 物語版「零(zero)に立つ」 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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