2016年06月23日

物語版「零(zero)に立つ」第3章 はじめての家出(10)/通巻24話

天童で産まれ網走で活躍した、中川イセさんの半生を描いた
語り劇『零(zero)に立つ
〜激動の一世紀を生きた中川イセの物語〜』


本日、公演65日前!

日時/2016年8月27日(土)18:00開演
会場/シベールアリーナ(客席数522)
観劇料/3000円(当日3500円)
チケット購入先
 オフィス夢実子(事務局・菅野)080-6020-8837
         メール・zeronitatsu@yumiko333.com
 シベールアリーナ 023-689-1166
 八文字屋POOL(山形市) 023-622-2150
 TENDO八文字屋(天童市)023-658-8811、
 「零(zero)に立つ」実行サポーターズメンバー、他
    


脚本担当・かめおかゆみこです。

山谷一郎著『岬に駈ける女』を主要資料としながら、かめおかの視点で、イセさんの
物語をつむいでいます。物語ですので、すべてが事実ではなく、想像やフィクション
がまじる部分もあります。けれども、イセさんの生きかたの根本ははずさないで書い
ていくつもりです。ご感想をいただければ励みになります。よろしくお願いします。


第1章     第2章      10 11 12 13 14 
第3章 15 16 17 18 19 20 21 22 23
※これまでのあらすじは、こちら


「イセちゃんのおかげで、本当に助かるわ」

授乳をすませたツヤ先生は、ほっこりとイセにほほえみかけた。

イセは、さっき、ツヤ先生がきたときに手に持っていた教科書が、
机の上におかれているのを、見やった。

「ツヤ先生、ひとつ、お願いがあるんだけど」

「なあに、言ってごらんなさい」

「いらなくなった教科書、あったら、ほしいんだ」

イセのことばに、ツヤ先生は一瞬びっくりした顔をしたが、すぐに
また笑顔を見せて、こたえた。

「いらない教科書というのはないけど、いま、私が使っているもの
なら、家にいるあいだ、見てかまわないわよ」

「ありがとうございます!」

その日の夕餉の時間、ツヤは夫である船山先生にも、その話をした。

つねづね、イセの才能を感じ取っていた船山先生は、おおいにここ
ろを動かされたと見えて、イセを呼んでこう言った。

「イセ。これからは、男・女関係なく、学問が必要な時代がやって
くる。おまえは勉強が好きなようだから、今日から少しずつ、私が
教えてやろう」

イセは、このことばに、舞い上がるようなよろこびをおぼえた。

船山先生は、約束をたがわず、その日から、イセのために、時間を
とってくれた。読み書き、算術だけでなく、歴史や生物・化学など、
その内容は、広範囲に及んだ。

イセの飲み込みは、すばらしかった。まるで、砂漠に水がしみこん
でいくような、あるいは水を得た魚のような。そんなてごたえがあ
った。

そんなようすに、船山先生夫妻は、「イセはたいしたものだ。教え
たことは忘れない。むずかしい理屈もひと晩で飲み込んでしまう」
などと感心しあうのだった。

さらに、ツヤ先生も、イセが毎日、学校に赤ん坊を連れていくたび
に、いろいろな本を見せてくれた。それは、絵本や図鑑のこともあ
って、イセのこころは、学びの意欲と好奇心でぱんぱんになった。

そして、ある日など、ツヤ先生は、こっそりイセを教室に呼んでく
れた。休んだ子どもの机が空いていて、イセをそこにすわらせてく
れたのだ。

かごに入れた赤ん坊をわきに寝かせて、もしも泣いてしまったとき
は、教室の外であやしてね…という条件つきではあったけれど。

まわりの子どもたちは、イセのことが気になるようで、ちらちらと
盗み見てくる。が、そんな視線はまったく気にならない。

教室で授業が受けられる! そのことがうれしくてうれしくて仕方
がなかったのである。

赤ん坊も、そんなイセの気迫が伝わるのか、泣いたりぐずったりす
ることもなく、すやすやと眠ってくれているのだった。

この、船山先生夫妻の家での暮らしが、どれだけ幸福だったかは、
イセがのちに、市議会議員になり、網走市名誉市民になってからも、
忘れずに語っていたほどであるから、よほどのことだったのだろう。

しかし、その幸福も永遠にはつづかない。

翌春、船山先生に、一通の辞令が届くのである。


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網走市観光協会さまのサイトより、ご承諾を得て
網走の写真をお借りしています。ありがとうございます。
0623031.jpg
「晩秋の収穫作業」 
一般社団法人網走市観光協会さまご提供
posted by 夢実子「語り劇」プロジェクト at 15:34| Comment(0) | 物語版「零(zero)に立つ」 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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