2016年06月21日

物語版「零(zero)に立つ」第3章 はじめての家出(8)/通巻22話

天童で産まれ網走で活躍した、中川イセさんの半生を描いた
語り劇『零(zero)に立つ
〜激動の一世紀を生きた中川イセの物語〜』


本日、公演67日前!

日時/2016年8月27日(土)18:00開演
会場/シベールアリーナ(客席数522)
観劇料/3000円(当日3500円)
チケット購入先
 オフィス夢実子(事務局・菅野)080-6020-8837
         メール・zeronitatsu@yumiko333.com
 シベールアリーナ 023-689-1166
 八文字屋POOL(山形市) 023-622-2150
 TENDO八文字屋(天童市)023-658-8811、
 「零(zero)に立つ」実行サポーターズメンバー、他
   


脚本担当・かめおかゆみこです。

山谷一郎著『岬に駈ける女』を主要資料としながら、かめおかの視点で、イセさんの
物語をつむいでいます。物語ですので、すべてが事実ではなく、想像やフィクション
がまじる部分もあります。けれども、イセさんの生きかたの根本ははずさないで書い
ていくつもりです。ご感想をいただければ励みになります。よろしくお願いします。


第1章     第2章      10 11 12 13 14 
第3章 15 16 17 18 19 20 21
※これまでのあらすじは、こちら


「君には、ここに寝泊まりしてもらうから」

船山先生が、家の一番端にあるこぢんまりした部屋を、イセに
案内した。こざっばりと、きれいな部屋である。

「オレ、何からすればいいんですか?」

イセがたずねると、船山先生はまじめな顔でこたえた。

「イセ、自分のことをオレと言うのは、あまり感心しないな。
今度からは、わたし、と言いなさい」

里親のコウも、親友のみよしも、まわりの子どもたちも、ここい
らでは、みんな、「オレ」と言っているけどなあ…。と、イセは
こころのなかで、思ったけれども、口には出さず、うなずいた。

船山先生夫妻は、なまりはあったけれど、とてもていねいで、き
れいなことば使いをした。その話しかたに、ほんのりとしたあこ
がれを感じたからだ。

それでも、なまりの強いイセは、なかなかきれいに「わたし」と
は言えず、たいてい、「わたす」とか「わだす」になってしまう
のだが、船山先生はそれ以上は言わず、にこにこ聴いてくれた。

仕事は、安蔵やモヨから言いつけられてきたものから比べると、
拍子抜けするくらい、楽なものだった。

なんといっても、船山先生夫妻は、夫婦二人で暮らしていたので、
炊事ひとつとっても、あつかう量はかぎられていたからだ。

朝、日が昇るとともに目を覚ますと、イセは、まだ眠っている船
山先生夫妻を起こさないように、そうっと起き上がると、炊事場
と廊下の窓を開ける。

朝のすがすがしい空気が、家じゅうに流れこんでくる。その空気
を思い切り吸い込み、家の裏の井戸から水を汲んできて、まずは
顔を洗う。

はたきをかけ、掃き掃除をすると、残った水で、雑巾がけをする。
ちからをこめて、床をみがきあげるのは、なんとも気持ちのいい
ものである。

そうこうするうちに、ツヤが起きてくるから、一緒に朝食のした
くをする。

「イセちゃんは、はたらきものね」

イセの仕事ぶりに、ツヤは目を丸くして言った。とても12歳と
思えぬほどに、手際がよかったからだ。

「いっつも、10人ぶんとか、20人ぶんをつくってたから」

イセが言うと、ツヤはますます目を丸くして、イセの話を聴きた
がるのだった。

ツヤがあんまり熱心に聴いてくれるので、イセも思わず、過去の
あれこれを思い出しては語った。

そうして語っていると、つらかったこともくやしかったことも、
不思議と、気持ちが洗い流されて、すっきりしてくるのだった。

ふたりが学校に出かけたあとに、先生の部屋の掃除をする。

あるものの位置は動かさないようにと言われていたから、ちょっ
とおっかなびっくりに、はたきをかける。

先生の部屋には、壁いっぱいに書棚があって、そこはびっしりと
本で埋めつくされていた。学校で使う本だけでなく、小説もたく
さん、並んでいた。

森鴎外、小泉八雲、樋口一葉、泉鏡花、尾崎紅葉、島崎藤村
などなど…ずらりと、名前が並んでいる。船山先生は、読書好き
で、よく夜更けまで、それらの本を読んでいるのだった。

そんな書棚を見ていると、イセは、胸がきゅんとしめつけられる
ような気がした。

「学校、行きてえなあ。ほかの子みたいに、本を読みたい。字も
習いたい。そろばんもしたい…」

イセは、書棚の本の背表紙をなぜながら、ちいさくつぶやいた。

10歳の春以来、実家で、一日じゅう仕事に明け暮れているうち
に、いつか思うことさえやめていた気持ちであった。それがいま、
あふれるようにこみあげてきてならないのである。


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網走市観光協会さまのサイトより、ご承諾を得て
網走の写真をお借りしています。ありがとうございます。
0621029.jpg
「はなてんと 網走市天都山」 
一般社団法人網走市観光協会さまご提供
posted by 夢実子「語り劇」プロジェクト at 16:11| Comment(0) | 物語版「零(zero)に立つ」 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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