2016年06月20日

物語版「零(zero)に立つ」第3章 はじめての家出(7)/通巻21話

天童で産まれ網走で活躍した、中川イセさんの半生を描いた
語り劇『零(zero)に立つ
〜激動の一世紀を生きた中川イセの物語〜』


日時/2016年8月27日(土)18:00開演
会場/シベールアリーナ(客席数522)
観劇料/3000円(当日3500円)
本日、公演68日前!

本日より、いよいよチケット発売開始!
 オフィス夢実子(事務局・菅野)080-6020-8837
         メール・zeronitatsu@yumiko333.com
 シベールアリーナ 023-689-1166
 八文字屋POOL(山形市) 023-622-2150
 TENDO八文字屋(天童市)023-658-8811、
 「零(zero)に立つ」実行サポーターズメンバー、他
   


脚本担当・かめおかゆみこです。

山谷一郎著『岬に駈ける女』を主要資料としながら、かめおかの視点で、イセさんの
物語をつむいでいます。物語ですので、すべてが事実ではなく、想像やフィクション
がまじる部分もあります。けれども、イセさんの生きかたの根本ははずさないで書い
ていくつもりです。ご感想をいただければ励みになります。よろしくお願いします。


第1章     第2章      10 11 12 13 14 
第3章 15 16 17 18 19 20 
※これまでのあらすじは、こちら


「ごめんください。仕事探してください」

声に、「おや?」と玄関先に出た口入れ屋は、一瞬目を見張った。
そこにいたのは、まだ年端もいかぬ、小柄な女の子だったからだ。
しかもはだしの。

「おとっつあんやおっかさんは、一緒じゃないのかい」

女の子は、きっぱりとかぶりを振ってこたえた。

「家を出てけって言われたから、出てきたの。自分ではたらいて、
暮らしたいから、仕事探してください。できたら、勉強もできる
ところがいい」

ものおじせず、はきはきとものを言う。仕事がら、たくさんのひ
とをみてきた口入れ屋だけに、すぐにその才覚を見抜いた。

(この子には、ちゃんとした環境を用意してやるほうがいい…)

「名前は?」

「今野イセ。もうすぐ12になる」

と、イセはそう名乗って、一円札をさしだした。

実は、イセの本名は、「いせよ」だが、誰もその名前でイセを呼
ばなかった。そのため、イセ自身、のちに戸籍謄本を見るまで、
自分の本名を知らなかった。

(「いせよ」と名付けられた経緯は、こちら

イセからあずかった一円札で、口入れ屋は、まず、下駄と前掛け
を買ってやった。いくらなんでもはだしではどうにもならないし、
この年齢の子に紹介してやれるのは、女中くらいなものだからだ。

口入れ屋の2階に寝泊まりすること、約1週間。

「おまえさんにぴったりの仕事口が見つかったよ」

そう言って、連れて行ってくれたのが、ともに教員をしている船
山英七・ツヤ夫妻の家だった。

「おや、ずいぶんちいさな子だね」

船山先生の第一声に、イセは、またかと思った。たしかに、イセ
の身長は、成人しても144センチしかなかったから、当時でも
小柄な部類に入ったのだ。

「ちいさくないです。もう12です。いままでも、水汲みから煮炊き、
掃除、そのほか、言われた仕事はなんでもやってきたから、ちゃ
んとできます」

きっぱり言い返すと、船山先生は「ほう」と、感心したように目
を細めた。そしてかたわらにいる妻、ツヤに語りかけた。

「ずいぶんしっかりしているじゃないか。どう思う?」

ツヤも、にこにこしてこたえた。

「私はかまいませんよ。うちの中に女の子がいるなんて、雰囲気
が明るくなって、うれしいわ。この子のお姉ちゃんになってくれ
るでしょうしね」

そのツヤの腕には、まだ生後数か月の赤ん坊が抱かれていた。
イセは、ひそかに、胸がどきどきするのをおぼえた。船山先生と
ツヤの会話は、イセの耳に新鮮なおどろきをもたらしたからだ。

実家での、安蔵とモヨの会話は、どなりあいかだましあいのどち
らかだった。そこには、お互いにたいする尊重の気持ちなど、み
じんも感じ取れなかった。

里親のコウの家では、家長である祖父、幸七が絶対的な実権をもっ
ていて、誰もさからうものはいなかった。

船山先生とツヤのあいだには、やさしさとあたたかさが満ちてい
る気がした。イセは、なんだか、あたらしい世界の入り口に立っ
たような気がした。

「この子の子守をやってもらったり、家のなかのこまごましたこ
とをやってほしいんだ。よろしく頼むよ」

「はいっ! よろしくお願いします!」

イセは、ほおを上気させながら、おおきな声でこたえた。

こうして、イセのあたらしい生活がはじまった。


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網走市観光協会さまのサイトより、ご承諾を得て
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0620028.jpg
「はなてんと 網走市天都山」 
一般社団法人網走市観光協会さまご提供
posted by 夢実子「語り劇」プロジェクト at 04:28| Comment(0) | 物語版「零(zero)に立つ」 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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