語り劇『零(zero)に立つ
〜激動の一世紀を生きた中川イセの物語〜』
日時/2016年8月27日(土)18:00開演
会場/シベールアリーナ(客席数522)
観劇料/3000円(当日3500円)
チケット発売開始は、6月20日!
本日、公演71日前!
脚本担当・かめおかゆみこです。
山谷一郎著『岬に駈ける女』を主要資料としながら、かめおかの視点で、イセさんの
物語をつむいでいます。物語ですので、すべてが事実ではなく、想像やフィクション
がまじる部分もあります。けれども、イセさんの生きかたの根本ははずさないで書い
ていくつもりです。ご感想をいただければ励みになります。よろしくお願いします。
第1章 1 2 3 4 第2章 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14
第3章 15 16 17 18 19
※これまでのあらすじは、こちら
怒りにまかせて歩いているうちに、イセは、だんだん落ち着いてきた。
それとともに、ずしんと気持ちは重くなり、歩く速度も落ちてきた。
家にもどる気はもとよりなかったが、それにしてもこの先、どこへ行
けばいいのだろう…。頼れる相手といえば、里親のコウしかいない。
しかし、いま、のこのこと、荒谷の佐藤家にころがりこんでも、コウ
にまたまた肩身のせまい想いをさせるだけだ…。
そのとき、イセの背中に向けて、「イセちゃーん」と呼ぶ声がした。
振り向くと、安蔵の子分のひとり、三次が、息せき切って走ってくる。
安蔵の子分のなかでも、兄貴分のひとりだ。安蔵と同じく、ヤクザも
のはヤクザものではあるが、兄貴分だけあって、子分たちにたいする
面倒みのいい男でもある。
その三次が、追いつき、イセの肩をつかんだ。
「イセちゃん、短気起こすなよ。家出なんかしてどうするんだ。親分
には、俺からそれとなくあやまってやっから」
「止めたって、帰らないよ。あんな家、二度ともどるもんか」
さっきまでの重い気持ちはどこへやら、イセのこころのなかには、
安蔵やモヨにたいする怒りが、まためらめらと燃え上がった。
それを感じ取ったのか、三次は、ちいさくため息をついた。
「わかった。じゃあ、達者でがんばれよ。これ、もってきな」
三次は、イセの手に、ぐいっと何かを押しこむと、きびすを返し
て、早足で歩き去っていった。手をひらいて見るとそれは、1円
札であった。
当時の一円は、いまに換算すると、およそ1万円くらいであろう
か。しかもいまに比べると、1万円の価値はさらに高い。
※画像は、こちらから拝借しました。
イセは、三次のとっさのこころづかいに、ひそかに感謝した。そ
して、その1万円札をぐっとにぎると考えた。
この金をもって、佐藤家にやっかいになるのも方法だ。でも、金
は金。しょせんは、なくなってしまうもの。そしたら、元の木阿
弥だ。
イセは、決めた。山形(市)へ行こう。山形へ行けば、口入れ屋
がある。口入れ屋で、住み込みの仕事をさがしてもらって、はた
らこう。これは、そのための支度金だ。
口入れ屋とは、いまでいう、ハローワーク、職業安定所みたいな
ところである。イセの家には、いろいろなひとが出入りしていた
から、そういうところがあることも、イセは見聞きして知ってい
たのである。
いったん決めたら、くよくよ迷ったり悩んだりしない。あとは実
行に移すのみ。それがイセの気性である。イセは、黙々と、山形
に向かって歩き出した。
天童から山形までは、約20キロ。子どもの足ではかなりの距離
だが、毎日、自転車をこいで桑集めをしているイセの足は、しっ
かり筋肉もついている。
何より、これからは、自分の生きかたを自分で決めるんだという
想いが、イセのこころを奮い立たせた。
ぼろぼろになっていた草履は、歩くうちにすりきれて、鼻緒もと
れてしまった。その草履をいきおいよく放り投げると、イセは、
はだしのまま、山形への道を歩きつづけた。
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