2016年06月16日

物語版「零(zero)に立つ」第3章 はじめての家出(5)/通巻19話

天童で産まれ網走で活躍した、中川イセさんの半生を描いた
語り劇『零(zero)に立つ
〜激動の一世紀を生きた中川イセの物語〜』


日時/2016年8月27日(土)18:00開演
会場/シベールアリーナ(客席数522)
観劇料/3000円(当日3500円)
チケット発売開始は、6月20日!
本日、公演72日前!


脚本担当・かめおかゆみこです。

山谷一郎著『岬に駈ける女』を主要資料としながら、かめおかの視点で、イセさんの
物語をつむいでいます。物語ですので、すべてが事実ではなく、想像やフィクション
がまじる部分もあります。けれども、イセさんの生きかたの根本ははずさないで書い
ていくつもりです。ご感想をいただければ励みになります。よろしくお願いします。


第1章     第2章      10 11 12 13 14 
第3章 15 16 17 18 
※これまでのあらすじは、こちら


さて。そんな日々に転機がおとずれる。実家にもどってから2年目の
夏。まもなく、12歳を迎えようというときである。

その日は、ひどく暑かった。たまたま、荒谷の方向ではない地区をま
わっていたこともあり、みよしの家で、水分を補給することもできな
い。イセは、のどがからからでしかたがなかった。

「ただいま」

勝手口を開け、中に入ったが、誰もいない。流し台におかれたおけは、
空っぽになっていて、水は井戸から汲んでくるしかなかった。イセは、
集めてきた桑をどさりと床におくと、ふと、戸棚を見やった。

たしか、あのなかに、先日、安蔵が買い求めてきた、黒砂糖があった
はずだ。なめれば、のどのかわきも少しはやわらぐのではないか。

開けると、はたして、黒砂糖があった。イセは、そのひとかたまりを
つかむと、夢中で口に入れた。しびれるような甘さが、口のなかいっ
ぱいに広がった。のどのかわきも、すうっと引いていく。

そのときだ。モヨが、家の奥から、すっとあらわれた。そして、イセ
を見るやいなや、目をつり上げて、叫んだ。

「この泥棒ねこが! ことわりもなく、何を食べてるんだい!」

イセは、むっとした。思わず、ことばが口をついて出る。

「泥棒ねこって、なんだい! オレはこのうちの子だよ! 自分ちの
砂糖なめて、どこが悪いんだよ」

一歩も引かない、イセの態度に、モヨの怒りは炸裂した。

「なんて、生意気な口をきくんだろうね。あんたなんか、うちで養っ
てやらなきゃ、いまごろのたれ死んでるとこだろうに。その恩も忘れ
て、よくもそんな口をきけたもんだ」

もはや、イセもがまんの限度を超えた。

「そっちこそ、よくもそんなことが言えたもんだ。学校にも行かせね
で、朝から晩まではたらかせて、それでいて駄賃の一つも寄こさねえ。
それに、砂糖ひとつで泥棒ねこって言うんなら、たんすから反物くす
ねて、売っぱらってるのは、なんて言うんだ!」

モヨのこめかみが、ぴくっと引きつった。自分のしていることが、イセ
に知られているとは、思ってもいなかったからである。

そのときだ。ガラッと戸が開いて、外から安蔵がもどってきた。モヨは、
とっさに、安蔵にどなり散らした。

「あんた! あたしは、こんな強情な子どもの面倒は、もう見切れませ
ん。親に対して、これっぽっちもわきまえがないんだから。こんな子と
一緒に暮らすくらいなら、あたしが家を出ます!」

いきなりどなられて、目を白黒させた安蔵だが、このところ、モヨのヒ
ステリーには、ほとほと手を焼いている。これ以上おこらせるのは損だ
と踏んだ安蔵は、いきなり、イセをどなりつけた。

「おうよっ。イセっ! あやまれっ!」

「なんだよ、理由も聴かねえで。オレにはあやまる理由なんかない。
出ていきたかったら、出ていったらいいんだ」

イセの強気に、安蔵もついかっとなった。

「ばかやろう! 親に対して、なんて口のききかたをするんだ! 
おまえのほうこそ、出てけっ!」

言うが早いか、イセの首根っこをつかむと、いきなり、外に放り出し
てしまったのだ。

「二度ともどってくるな。もどってきても、家には入れんからなっ!」

どなりざま、そのまま、戸をぴしゃりと閉める。

いきなり放り出され、戸まで閉められて、イセは一瞬ぽかんとした。
しかし腹の底から、急激に怒りがこみあげてきた。

「育て賃も出さねで、10年間も、ひとの家にあずけっばなしにして、
気が変わったら今度は連れて帰る。そんで、今度はまた出てけ、か。
おとななんて勝手なもんだな! ああ、出ていってやる! こんな家、
二度ともどってくるか!」

そう言うなり、イセは立ち上がると、振り向きもせずに、家の前の道
を歩きはじめたのである。


ぜひ、感想をお聴かせください
物語版「零(zero)に立つ」の感想を、ぜひお寄せください。
日曜日のブログにて、紹介させていただきます。
ブログのコメント欄にお書きいただくか、
こちらまで、メールでお寄せいただければ幸いです。

その際、掲載してよいお名前を教えてください。(匿名・イニシャル可)
また、ブログ等をおもちのかたは、URLも、よかったらお知らせください。
あわせて、ご紹介させていただきます。


網走市観光協会さまのサイトより、ご承諾を得て
網走の写真をお借りしています。ありがとうございます。
0616009.jpg
「キカラシ畑」 ※一般社団法人網走市観光協会さまご提供
posted by 夢実子「語り劇」プロジェクト at 05:59| Comment(0) | 物語版「零(zero)に立つ」 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント: