2016年06月15日

物語版「零(zero)に立つ」第3章 はじめての家出(4)/通巻18話

天童で産まれ網走で活躍した、中川イセさんの半生を描いた
語り劇『零(zero)に立つ
〜激動の一世紀を生きた中川イセの物語〜』


日時/2016年8月27日(土)18:00開演
会場/シベールアリーナ(客席数522)
観劇料/3000円(当日3500円)
チケット発売開始は、6月20日!
本日、公演73日前!


脚本担当・かめおかゆみこです。

山谷一郎著『岬に駈ける女』を主要資料としながら、かめおかの視点で、イセさんの
物語をつむいでいます。物語ですので、すべてが事実ではなく、想像やフィクション
がまじる部分もあります。けれども、イセさんの生きかたの根本ははずさないで書い
ていくつもりです。ご感想をいただければ励みになります。よろしくお願いします。


第1章     第2章      10 11 12 13 14 
第3章 15 16 17 
※これまでのあらすじは、こちら


それからというもの、イセは、休んだ芸人の穴埋め、ときには、
お客のもとめに応じて、しばしば舞台に立つようになった。

実際、イセは、こうした芸事の素地があり、声は朗々とひびい
て、聴くもののこころを打ったし、小柄なからだで、三味線を
あやつる姿は、ほほえましくも、いじらしくもあった。

そんなわけで、イセの人気はあがる一方。安蔵としても、小屋
にひとが呼べるのは悪いことではないので、イセが、芸人たち
の部屋に入り浸り、稽古をしていることについても、あまりと
やかく言うことはなかった。

とはいえ、農閑期が過ぎると、小屋がけのシーズンも終わりで
ある。芸人たちは、「また来年、会おうな」と、散っていく。
その約束が果たされるかどうかは、わからないのだけれど…。

また、朝から晩まで仕事に明け暮れる日々がもどってきた。
それでも、芸人たちとの出会いから芸事にめざめたことは、
イセに、うれしい副産物をもたらした。

桑集めのために、自転車を走らせながら、イセは、おおきな声
で歌を歌うのである。民謡やわらべ唄、ときには、当時流行し
た、歌謡曲を歌うこともあった。

どんなにいやなことがあっても、継母のモヨに冷たくあたられ
ても、歌っていると、気持ちが晴れた。さっそうと自転車を走
らせ、歌うイセの姿に、誰もが思わず振り向いたものだ。

そして、そんな歌声を心待ちにしているものたちがいた。
里親のコウと、その隣家に住む、親友のみよしであった。

イセは、言いつけられた仕事は手を抜かず、しっかりつとめた
から、安蔵もそのうち、あまりうるさいことは言わず、仕事を
まかせてくれるようになっていた。

そこで、イセは、できるだけ、コウやみよしのいる荒谷の方向
に立ち寄れるように、桑集めにまわるルートを工夫した。

大声で歌うイセの声は、遠く離れていてもよくひびいた。その
声を聴きつけると、みよしは、家を飛び出してきて、イセを迎
え、みよしの家に招き入れるのだ。

コウも、イセの歌声に気づいている。家の仕事に区切りをつけ
ると、そっと、みよしの家の門をくぐる。

自転車を、外から見えないところに置き、イセは、コウやみよ
しと、こころおきなく語り合った。

ふたりは、イセが大食らいなことを知っていて、いつも、団子
やら干菓子やら、イセの好きそうなものを用意して待っていた。

「食え、食え、遠慮なく食え」

「ほんとか。これ、全部、食っていいのか?」

「イセちゃんのために用意してたんだもの。遠慮すんなあ」

思わずもりもりと口にほうりこむイセを、コウとみよしは、目
を見合わせて、ほくほく笑う。イセも、口の端に、食べかすを
くっつけたまま、笑う。

実家に帰ったにもかかわらず、こころかよわせることのできる
相手は、ひとりもいない。そんなイセにとって、このひとときが、
どれだけそのこころを癒したかは、はかりしれないものがあるの
だった。


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網走市観光協会さまのサイトより、ご承諾を得て
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「網走川」 ※一般社団法人網走市観光協会さまご提供
posted by 夢実子「語り劇」プロジェクト at 20:23| Comment(0) | 物語版「零(zero)に立つ」 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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