語り劇『零(zero)に立つ
〜激動の一世紀を生きた中川イセの物語〜』
日時/2016年8月27日(土)18:00開演
会場/シベールアリーナ(客席数522)
観劇料/3000円(当日3500円)
チケット発売開始は、6月20日!
本日、公演74日前!
脚本担当・かめおかゆみこです。
山谷一郎著『岬に駈ける女』を主要資料としながら、かめおかの視点で、イセさんの
物語をつむいでいます。物語ですので、すべてが事実ではなく、想像やフィクション
がまじる部分もあります。けれども、イセさんの生きかたの根本ははずさないで書い
ていくつもりです。ご感想をいただければ励みになります。よろしくお願いします。
第1章 1 2 3 4 第2章 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14
第3章 15 16
※これまでのあらすじは、こちら
次から次へと言いつけられる仕事のあいまに、イセには、もうひと
つ楽しみができた。それは、農閑期になるとやってくる、芸人たち
との交流だった。
安蔵は、興行師でもあったから、秋、農家の仕事が一段落するころ
から、芸人たちを呼び寄せて、小屋をかける。
三味線などの楽器のほか、祭文(祝詞の原型のようなもの)、浪花節
などの民衆芸能がおもであるが、小屋を開けているあいだ、その芸人
たちが、イセの家に泊まりこむのだ。
そのまかないから一切がっさいの世話が、イセの肩にかかるわけだか
ら、なおいっそう大変にはなるのだが、芸人たちは想いのほか、イセ
にやさしかった。
「おう、ちっこいくせに、がんばるなあ」
「ちっこくねえ。もう、10(とう)を過ぎてるもの」
「俺たちからしてみたら、ちっこいに変わりないさ。どうだ。三味線
に、興味はあるか? ちっとさわってみるか?」
「ほんとに? いいのか?!」
イセは、何事にたいしても、好奇心旺盛である。そして、手ほどきを
受けると、あっというまにおぼえて、みるみる上達した。
「ほう、こりゃ、すじがいい」
「どれどれ? ほんとだ。器用に弾くじゃないか」
「ちっこいのに、たいしたもんだ」
いちいち、ちっこいと言われるのは、癪にさわったが、上手とほめら
れて、いやな気はしない。食事を運んだり片づけをしたりするあいま
に、たびたび、「もっと教えてくれ」とせがむようになった。
芸人たちも、このちいさな芸人の誕生をおもしろがって、イセのため
に時間をつくってくれた。三味線にとどまらず、イセは、歌や祭文も、
砂に水がしみこむいきおいでおぼえていった。
ある日のことだ。そろそろ幕開けという時間になって、ひとりの芸人
が、脂汗を流して、うめき出した。
「どうした? 何か悪いものでも食ったか?」
「わからねえ。急に腹が…、うっ…」
芸人は、そのままうめいて、どうと倒れると気を失ってしまった。
ほかのものがあわてて、安蔵を呼びに行く。
「なんだと。しょうがねえな。まもなく幕が開くぞ。誰か代わりに
なるやつはいねえのか」
芸人の容体よりも、舞台に穴があくことを安蔵は心配した。
「今日の演しものは、このメンツで、総掛かりなんで…」
そのときだ、別のひとりが声をあげた。
「そうだ! イセちゃんにやってもらったらどうだ!」
病人を寝かせながら、ひたいに手ぬぐいをあてていたイセは、その
ことばに、えっ?と振り返った。ほかの芸人たちも口々に言う。
「そうだ。イセちゃんなら大丈夫だ。できる!」
「なんだと? 何、寝言を言ってるんだ」
きつねにつままれたような顔の安蔵に、芸人たちは口々に、いかに、
イセが、芸事に秀でているかをまくしたてた。
「おめえ、仕事をするふりをして、こんなところで油を売ってやが
ったのか!…まあ、いい。出てみろ」
安蔵は、ぎょろりとイセをにらんだが、思いがけず許可してくれた。
たとえ下手でも、穴があくよりましと考えたのかもしれない。
誰かが、大急ぎで、衣装を用意してきてくれた。丈や袖口は、ぶか
ぶかではあったが、帯をきりりとしめて、イセは舞台に立った。
その日の小屋は、かつてないほど、湧いた。
お客もまた、このちいさな芸人のデビュー(ということばは当時は
なかったろうけれど)をこころから歓迎し、拍手喝采したのだった。
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