2016年06月10日

物語版「零(zero)に立つ」第3章 はじめての家出(1)/通巻15話

天童で産まれ網走で活躍した、中川イセさんの半生を描いた
語り劇『零(zero)に立つ
〜激動の一世紀を生きた中川イセの物語〜』


日時/2016年8月27日(土)18:00開演
会場/シベールアリーナ(客席数522)
観劇料/3000円(当日3500円)
チケット発売開始は、6月20日!
本日、公演78日前!


脚本担当・かめおかゆみこです。

山谷一郎著『岬に駈ける女』を主要資料としながら、かめおかの視点で、イセさんの
物語をつむいでいます。物語ですので、すべてが事実ではなく、想像やフィクション
がまじる部分もあります。けれども、イセさんの生きかたの根本ははずさないで書い
ていくつもりです。ご感想をいただければ励みになります。よろしくお願いします。


第1章     第2章      10 11 12 13 14 
※これまでのあらすじは、こちら 


「いつまで寝てるんだね。起きるんだよ!」

実家に帰った翌朝。

イセは、モヨの声に起こされた。まだ夜も明けきらぬ早朝である。
イセがびっくりして飛び起きると、モヨが、部屋の入り口に、おけ
をもって立っていた。

「朝ごはんのしたくをするから、さっさとしたくをして、井戸から
水を汲んでおいで」

いきなり、おけを手渡されて、きょとんとしていると、モヨは、な
おもまくしたてるように言った。

「なんだい。親の言いつけを聴くのは当たり前だろう? それとも、
佐藤の家では、そんなしつけもしてなかったのかい?」

イセは、ぶるぶると首を横に振った。

この当時、子どもが、家の手伝いをするのは当たり前の時代だった。
いや、「手伝い」ということばさえなかった。子どもは、それを自
分の「仕事」としてやっていたものだ。

だから、昨日と打って変わって粗雑な、モヨの言いかたは気になっ
たものの、イセは、言われたことを当然のこととして受けとめた。

手早く着替えると、イセは、家の裏の井戸から、水を汲み、炊事場
へと運んだ。おけは、思ったよりおおきく、うでを持ち上げるよう
にしなければ、地面を引きずってしまいそうだ。

炊事場に入ると、モヨが、子分にさしずをして、朝食のしたくをし
ているところだった。そして、イセの姿をちらりと見ると、そっけ
なく言った。

「それはそこに開けて。あと、5杯ほど汲んできておくれ」

ちからもちのイセとはいえ、おとなが使うおけは、おおきくて重い。
言われたとおり、5往復したときには、さすがにうでがしびれた。

そのあとも、休むひまなく、モヨは、次から次へと、イセに用を
言いつけた。ようやく朝食にありつけたときには、すでに日は高く
のぼっていた。

(もう、学校がはじまってる時間だなあ…)

イセは、ちらりと、時計を見ながら思った。イセは、学校が好き
だった。モヨに、「なんでも買ってあげる」と言われて、まっ先
に思い浮かべたのは、新品のノートと鉛筆だった。

しかし安蔵もモヨも、学校の話はひとことも口にしない。

(まだ、手続きとかがすんでないのかもしれないな…)

そう思って、数日待ってみたが、やはり、何も言ってくれない。
それどころか、一日じゅう、次から次へと、仕事を言いつけられ、
休むひまもないのである。

ある日、とうとう、イセはモヨに訊いてみた。

「オレ、早く、学校に行きたいんだけど、いつから行かせてもら
えるんだ?」

モヨは、一瞬、鋭い目をしたが、すぐに、隣にいた安蔵に、視線
を送って言った。

「そういうこと決めるのは、あんたのお父っつあんだからね」

すると、安蔵は、急に何か用事を思い出したとでも言うように、
腰を浮かして立ち上がり、廊下に消えた。イセが何か言おうとす
るのを待たず、そのあとを、モヨが追いかけた。

廊下の向こうで、安蔵が何か言うのが聴こえた。とたんに、モヨ
が、甲高い声をあげた。

「冗談じゃないよ。あんたが言うのがすじだろ。はっきり言えば
いいんだよ。そんなむだ金使う気なんかさらさらないってね!」

「てめえ、女房の分際で、俺にさしずする気か」

「あんたがはっきりしないから言ってやってるんだよ! 10歳
のガキを前にかっこつけやがって!」

「なんだと!」

そのあと、ものが飛び交う音がして、何かがガシャンと割れた。

イセは、こわいというよりも、あっけにとられ、そのまま、部屋
に座りこんだまま、嵐が去るのを待つしかなかった。どうやら話
がちがうらしい、ということだけが伝わってきた…。


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一昨日より、網走観光協会さまのサイトより、ご承諾を得て
網走の写真をお借りできることになりました。ありがとうございます。
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「能取岬への道」 ※一般社団法人網走観光協会さまご提供
posted by 夢実子「語り劇」プロジェクト at 17:12| Comment(0) | 物語版「零(zero)に立つ」 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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