2016年06月08日

物語版「零(zero)に立つ」第2章 差別と貧しさのなかで(9)/通巻13話

天童で産まれ網走で活躍した、中川イセさんの半生を描いた
語り劇『零(zero)に立つ
〜激動の一世紀を生きた中川イセの物語〜』


日時/2016年8月27日(土)18:00開演
会場/シベールアリーナ(客席数522)
観劇料/3000円(当日3500円)
チケット発売開始は、6月20日!
本日、公演80日前!


脚本担当・かめおかゆみこです。

山谷一郎著『岬に駈ける女』を主要資料としながら、かめおかの視点で、イセさんの
物語をつむいでいます。物語ですので、すべてが事実ではなく、想像やフィクション
がまじる部分もあります。けれども、イセさんの生きかたの根本ははずさないで書い
ていくつもりです。ご感想をいただければ励みになります。よろしくお願いします。


第1章     第2章      10 11 12 
※これまでのあらすじは、こちら 


さまざまなことはありつつも、イセは大病をすることもなく、すく
すくと成長した。

小柄ではあったが、骨も筋肉もひとなみ以上に、しっかりしてい
た。ひとりで米俵をもちあげて、おとなたちをおどろかせたこと
もあるほどだ。

「このからだがあったから、ここまで生きてこれた」と、のちに、
90歳を超えたイセさんは語ったそうである。

からだの弱かった実母サダのことを思えば、この丈夫さも、父・
安蔵からゆずり受けたものと言えなくもない。

よそに女はつくる。育て賃も出さない。顔を見せにもこない。
およそ父親としては、失格の安蔵ではあるが、そこだけはイセ
に貢献したと、言えるのかもしれない。

さて。その安蔵であるが、ばくちでつかまって、しばらく刑務所
暮らしをしていたのだが、イセが10歳、4年生のときに、よう
やく出所してきた。

当時、今野家には、サダ亡きあと、後妻で入ったモヨと、モヨの
連れ子の孝一が住み、安蔵の子分たちが何人も出入りしていた。

また、安蔵は興行師でもあったから、年がら年じゅう、安蔵の家
には、旅芸人たちが寝泊まりしていた。

サダがからだをこわしたのも、こうしたものたちの世話を、何か
ら何までしなければならないことが一因だった。心身ともに、サ
ダは疲弊したのである。

ところが、後妻に入ったモヨは、サダのように、夫の言うことに、
だまってしたがう女ではなかった。

もともと、天童の温泉旅館の芸者をしていたモヨだが、山形一の
美女とうわさで、客にちやほやされることが常だった。

そんなモヨにとって、安蔵と結婚したものの、芸人の世話まで見
なければならないなどということは、とてもがまんのできること
ではなかった。

「そんなことのために、あんたと結婚したんでないよ。女中のひ
とりもやとったらどうさ」

「そうはいっても、しばらく仕事ができなかったから、よぶんな
金はないしなあ」

そんなやりとりをしているうちに、モヨの頭にふとひらめいたの
が、会ったこともない、安蔵の娘・いせよ(イセ)のことだ。聴け
ば、荒谷に里子に出しているというではないか。

「あんた、育て賃も出さないで里子に出したんだって? もう
10歳にもなるんだってね。あたしゃ、ひとから言われたよ。
さぞかし、その子も肩身のせまい思いをしているだろうねえ。
かわいそうじゃないか。うちで引き取って一緒に暮らそうよ。
あたしも、子育てってことをしてみたいしさあ」

安蔵は、びっくりして、モヨの顔を見た。どう考えても、そんな
殊勝なことを考えるタマではない。

モヨだって、安蔵がそんなことを信じるとは思ってもいない。し
かし、わざとすましてことばをつづけるのだ。

「そしたら、その子と一緒に、子分たちの世話でもなんでもする
よ。血がつながっていなくたって、きっと仲良くなれるよ」

ははあ、これは、イセを女中代わりに使うつもりだな…と、安蔵
は、ぴんときたが、そこはキツネとタヌキの化かしあい、そんな
そぶりはおくびにも出さず、安蔵はこたえる。

「そうさなあ。オレも、10年近くほったらかしにしちまったか
ら、あいさつのひとつもしに、いかねばならんだろうな」

と、二人で、佐藤家をたずねる算段をしはじめたのである。そし
て、ここから、イセの運命はおおきく変わりはじめるのである。


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本日より、網走観光協会さまのサイトより、ご承諾を得て
網走の写真をお借りできることになりました。ありがとうございます。
アップ用001.jpg
「能取岬」 ※一般社団法人網走観光協会さまご提供
posted by 夢実子「語り劇」プロジェクト at 11:52| Comment(0) | 物語版「零(zero)に立つ」 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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