語り劇『零(zero)に立つ
〜激動の一世紀を生きた中川イセの物語〜』
日時/2016年8月27日(土)18:00開演
会場/シベールアリーナ(客席数522)
観劇料/3000円(当日3500円)
チケット発売開始は、6月20日!
本日、公演82日前!
脚本担当・かめおかゆみこです。
山谷一郎著『岬に駈ける女』を主要資料としながら、かめおかの視点で、イセさんの
物語をつむいでいます。物語ですので、すべてが事実ではなく、想像やフィクション
がまじる部分もあります。けれども、イセさんの生きかたの根本ははずさないで書い
ていくつもりです。ご感想をいただければ励みになります。よろしくお願いします。
第1章 1 2 3 4 第2章 5 6 7 8 9 10
※これまでのあらすじは、こちら
※シベールアリーナ通信に掲載された記事は、こちら
イセは、よく学び、よく遊び、よく食べ、そして、よくけんかした。
しかも、男の子たちと、よくけんかした。
けんかの理由はさまざまだった。イセのぼろぼろの身なりは、かっこう
のからかいの的になった。「貧乏人」「ただ飯食らい」「里子だから」
などのことばに、イセはがまんすることができない。
父親の安蔵も、「けんか安」と言われるほど、けんかっ早い男だったか
ら、これはある意味、遺伝かもしれない。「けんか安の子」と呼ばれる
ことも、またけんかの種となった。
さらには、そんな安蔵が、賭場をひらいたことで警察にしょっぴかれ、
刑務所に入れられたときも、それが、からかいといじめのもとになった。
2年生のときに、こんな逸話がある。男の子を平気で投げ飛ばしてしま
うイセにたいして、あるとき、上級生の男の子5人が、いっせいにかか
ってきたのである。
いくらけんかに強いといっても、まだ8歳。自分より体格のおおきな男
子が、5人も束になってかかってきたのだから、かなうはずがない。
なぜそんないきさつになったのかはわからないが、弟をやっつけられて
腹を立てた兄もいたり、イセの態度をふだんから生意気だと感じて、こ
らしめてやろうと思ったものもいたようだ。
しかし、はがいじめにされ、なぐられ、蹴られながらも、イセは、泣き
声ひとつ立てなかった。破れた着物と、青あざをいくつもつくりながら、
家に帰って、里親のコウに、うったえることもしなかった。
もちろん、泣き寝入りをしたわけではない。その晩、イセは、ふとんの
なかで、じっくりと「反撃」の方法を考えていたのだ。
イセが考えた「反撃」の方法。それは、なんと、自分を殴った相手の家
に行き、庭になっている柿の実を、たたき落としてしまうというものだ。
翌日、イセはその考えを、さっそく実行に移した。夜、5人のうちの一
番リーダー格の男の子の家の庭に入りこむと、柿の木にのぼって、棒で、
柿の実をひとつ残らず、たたき落としてしまったのだ。
しかも、次の日、学校に行くと、イセは、悪びれることなく、その男の
子に堂々と宣言したのだ。
「柿の実を落としたのは、オレだ。あやまらないと、ほかのうちの柿も、
全部落とすよ」
これには、男の子もびっくり仰天した。それぞれ家に帰って、「イセが、
家の柿の実を落とすと言ってる」と、親に報告したから、たまらない。
親たちがそろって、佐藤家に押しかけてきた。
ちなみに、いまでも、柿は山形の名産のひとつであり、ことに有名な庄
内柿は、県外出荷の歴史100年におよぶ。農家でなくとも、当時から、
庭に柿を植えて、食用としている家は多かった。
「なんぼなんでも、悪さが過ぎるんでないか」
コウは、ちぢみあがって、あやまろうとしたが、イセは、いささかもひ
るむことなく、反論した。
「上級生のくせして、下級生の女子ば、よってたかってなぐるようなや
つには、こんぐらいのことして当たり前だ」
それを聴いて、今度は親たちの方がびっくりし、家に帰って、こっぴど
くわが子を叱りつけるということになるのだが…。
思い立ったらてこでもひかない。そんなイセの言動は、しばしば悶着を
起こした。そのたびに、コウが家まで行って、頭を下げてまわるという
ことも少なくなかった。
イセもそのたびに、大好きなコウを悲しませて申し訳ないと思うのだけ
れども、だまって泣き寝入りするということは、もっといやだった。
そんなイセの反骨精神は、同じ子ども相手だけにはとどまらなかった…。
![網走港.jpg](https://katari-geki.up.seesaa.net/image/E7B6B2E8B5B0E6B8AF-thumbnail2.jpg)
※網走港よりオホーツク海を臨む