2016年05月27日

物語版「零(zero)に立つ」第2章 差別と貧しさのなかで(1)/通巻5話

天童で産まれ網走で活躍した、中川イセさんの半生を描いた
語り劇『零(zero)に立つ〜
激動の一世紀を生きた中川イセの物語〜」


日時/2016年8月27日(土)18:00開演
会場/シベールアリーナ(客席数522)
観劇料/3000円(当日3500円)
チケット発売開始は、6月20日!
本日、公演92日前!


脚本担当・かめおかゆみこです。

山谷一郎著『岬に駈ける女』を主要資料としながら、かめおかの視点で、イセさんの
物語をつむいでいます。物語ですので、すべてが事実ではなく、想像やフィクション
がまじる部分もあります。けれども、イセさんの生きかたの根本ははずさないで書い
ていくつもりです。ご感想をいただければ励みになります。よろしくお願いします。


第1章         


佐藤家の暮らしは、お世辞にも楽なものとは言えなかった。英七・コウ
夫婦には、すでに食べ盛りの2人の娘がいたし、義父の幸七と、英七の
がもたらす稼ぎは、細々としたものだった。

一家6人が暮らしていくだけで精一杯のところに、イセが加わることに
なったわけだ。コウは、自分の着物をほどいて、イセの着物に変えた。
自分の食べるぶんをへらして、イセにあたえた。

「おまえの責任で育てろ」と言い放った幸七は、それ以来、イセのこと
については、口をはさもうとしない。夫の英七は、それなりに、イセの
こともかわいがってくれる。

一時はどうなるかと肝を冷やしはしたものの、イセの運の強さのゆえ
か、実母のサダが、あの世から守ってくれているのか、イセは佐藤家
の一員として、コウの厚い庇護のもと、すくすくと育っていった。

けれども、こころないことばを投げかけてくるものは、いつの世にもい
るものだ。イセが成長するにつれ、近所の子どもたちが、イセが里子で
あること、身なりのあまりに貧しいことを、ことあるごとにからかった。

「里子のくせに」
「もらわれっ子のくせに、えらそうな顔すんな」
「乞食みてえな服、着てよぉ」

また、実父の安蔵が、賭場をひらくなど、博打に手を出していることも、
おとなたちのうわさから、聞きおよんでいた子どもたちが、さらに残酷
なことばを投げつけてくることもあった。

「やーい、ヤクザもんの子!」
「おまえの親父、バクチ打ちなんだってな!」

これにたいして、イセは、めそめそと泣き寝入りするような子どもでは
なかった。なんと、自分よりおおきな男の子たちにたいしても、からだ
ごと、ぶつかっていったのだ。

小柄なイセが、つかみかかってくるのを、男の子たちは、最初、こばか
にした顔で見ていた。ところが、イセは、思いのほかちからが強かった。
いきなり、体当たりして、男の子をひっくり返してしまったのだ。

「な、何すんだ!」

イセもいきおいで一瞬よろけたが、立ち上がりさま、土くれをつかんで、
反撃しようとした男の子の顔に向かって、投げつけた。

「わっ! 痛い、痛いよう!」

男の子が、ひたいをおさえてしゃがみこんだ。土くれのなかに、小石
がまじっていたようだ。なおもぶつかっていこうとするイセを、他の
男の子たちが、よってたかって突き飛ばした。

しかし、イセの目のなかに燃える強い光におそれをなしたのか、それ
以上はかかってこず、なおもさわいでいる男の子を引っ張って、そそ
くさと退却していった。

「ヤクザもんの子だけあって、おっかねえな!」
「おなごのくせして、男ば突き飛ばすなんてよ」

そんな捨てぜりふを残しながら。

まだ4、5歳でしかないイセのなかに、あきらめてはいけない。運命
にたいして、徹底的にたたかってやる、という気持ちが芽生えたのは、
このころからであったかもしれない…。


能取岬3.jpg
※能取岬の先に広がるオホーツク海。冬になると、この海は流氷に埋めつくされる。
posted by 夢実子「語り劇」プロジェクト at 13:12| Comment(0) | 物語版「零(zero)に立つ」 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント:

×

この広告は180日以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。