語り劇『零(zero)に立つ〜
激動の一世紀を生きた中川イセの物語〜」
日時/2016年8月27日(土)18:00開演
会場/シベールアリーナ(客席数522)
観劇料/3000円(当日3500円)
チケット発売開始は、6月20日!
本日、公演95日前!
脚本担当・かめおかゆみこです。
山谷一郎著『岬に駈ける女』を主要資料としながら、イセさんの物語をつむいで
いきたいと思います。物語であるので、すべて事実というよりも、多少の想像や
フィクションがふくまれることはご了承ください。お読みいただき、忌憚のないご
意見やご感想をいただければ幸いです。よろしくお願いいたします。
その1
娘の誕生でご機嫌の安蔵ではあったが、一方、イセの母、サダは、
胸中に言い知れぬ不安をいだいていた。もともとからだは強いほう
ではない。それが、お産のあと、どうにも体調のすぐれない日が
つづいていたのだ。
現代とちがって、過去には「産後の肥立ちが悪く、亡くなるひとも
珍しくはなかった。サダも、自分は長くは生きられないだろうとい
うことを、うすうす感じるようになっていた。
そうなると、心配なのは、イセの行く末である。自分が死んだら、
この子は一体どうなるのだろう。安蔵が立派な父親になってくれる
とは、とうてい思えない…。
そう思うと、サダは、いてもたってもいられず、里親をさがすこと
を考え、病の身を押して、たずねてまわった。
そんななかで、出会ったのが、同じく東村山郡干布村(現 天童市)
荒谷の、佐藤コウである。コウは、貧しい職人の家の嫁であったが、
はたらきもので、気立てのいい女だった。
コウもまた、サダの話を聴いて、同じ女としてのせつない胸のうち
に共感した。これは、どうしても自分が親代わりになって育ててや
りたいと、こころに誓った。
それに、夫の栄七と、二人の子ども、英七の両親をかかえるコウの
家の暮らしは、苦しかった。イセをあずかることで、育て賃が入る
なら、コウの家にとってもありがたいことなのだ。
「わかったよ、サダさん。万が一のときには、私がイセちゃんを、
しっかり育ててあげる。でもね、気をしっかりもって、どうぞ、
長生きしてちょうだい。それがイセちゃんにとって、一番の幸
せなんだから」
コウのはげましに、サダは胸の内があたたかくなるのを感じたが、
自分の身のことは自分が一番よく知っている、とも感じていた。
実際、コウと、里親の約束をかわしたあと、サダは、ろうそくの
火が消えるように弱っていき、ついに、帰らぬ人になってしまっ
たのである。
イセは、そのときまだ、2歳にもなっていなかった。
※能取岬に立つ灯台。初点灯が大正8年とあるので、イセさん一家
が能取岬で暮らしはじめたころにはすでに建っていたようだ。