2016年12月24日

最後の「これまでのあらすじ」/卓治の評判

天童で産まれ網走で活躍した、中川イセさんの半生を描いた
『零(zero)に立つ〜激動の一世紀を生きた中川イセの物語〜』
※この作品は、もともと、女優・夢実子が演ずる語り劇として書かれたものを、
 脚本を担当したかめおかゆみこがノベライズしているものです。

土日祝日は、連載はお休みさせていただいています。


これまでのあらすじ

★第1章★ いせよ誕生
明治34年(1901年)、今野安蔵・サダの娘、いせよ(のちの中川イセ)
誕生。サダは、産後の肥立ちが悪く、死を予感。ヤクザものの安蔵にあとを
託すことを怖れ、佐藤コウに里親を頼むと、その年のうちに亡くなった。
    

★第2章★ 差別と貧しさのなかで
イセは佐藤家の里子になった。佐藤家は貧しく、イセはまわりからいじめられ
たり、差別を受けたりするが、コウの愛情、親友・渡辺みよしの存在、自身の
負けず嫌いの性格で、それらをはね返して成長していく。
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★第3章★ はじめての家出
10歳で実家に連れもどされイセは、学校にも行けず、仕事に明け暮れる。
11歳の夏、モヨとの口論から、初めての家出。山形の船山先生夫妻の
家で住み込みの女中をし、かわいがられるも、翌春、船山先生に満州へ
の転勤辞令が出て、再び実家にもどることになる。
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★第4章★ イセの初恋
またまた家出し、米沢の寮づきの織物工場ではたらく。仲間もできて楽し
い日々。そんな中、隣に住む名家の次男坊・戸田茂雄との初恋も体験。し
かし、安蔵にイセの居場所を知られたことで、イセは実家に帰ることに…。
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★第5章★ 女優志願
実家にいる間、地域巡演で山形にきた松井須磨子(実はにせもの)にあこが
れ、家出して上京する。しかし、たずねた帝国劇場に須磨子はおらず、い
くつかの仕事を転々とするが、結局あきらめて山形にもどることになる。
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★第6章★ 運命の歯車
人絹工場、機織り工場などではたらくうち、かつて実家に出入りしていた
芸人・八重松と再会。乱暴されて子どもを身ごもり、17歳で娘・愛子を
出産。その後、北海道の遊廓への話をもちかけられ、悩んだ末、イセは3
年で500円の借金をし、そのお金で愛子を里子に出すことにする。
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★第7章★ 網走まで
大正7年暮れ、イセは北海道に旅立った。ところが途中で虫垂炎から腹
膜炎をおこし、到着した旭川で即入院。借金が倍の1000円となり、
網走の遊廓に売られることに。駅前の島田食堂の夫婦にかわいがられる。
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★第8章★「お職」になる!
自転車を借りて町内を乗り回したり、柔道場に通ったりしたイセだが、娼
妓になると今度は、囲碁や将棋をおぼえ、お客を楽しませる工夫をした。
また酒に強く、何度も杯を重ね、そこから収益をあげることも考えた。
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★第9章★「小梅」の死
イセは、娼妓に乱暴した客を一本背負いで投げ飛ばすなどで、娼妓たちの
信頼を勝ち得ていった。しかし一方で、妹ぶんの「小梅」が、失恋を苦に
自死。小梅の死をきっかけに、娼妓みんなでちからをあわせることを誓う。
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★第10章★中川卓治という男
イセは、柔道場で出会った中川卓治と親しくなり、急速に気持ちが近づい
ていく。卓治の妹・タマは、2人の交際をはげしく反対するが、卓治はイ
セに求婚し、イセは身請けされて、ついに遊廓を出る。
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★第11章★樺太にて
中川家よりもイセを選んだ卓治。2人は樺太にわたり、仕事を見つけて
はたらき、暮らしを立てた。卓治は、酒がもとでけんかをして大けがを
したりもするが、ついに茂市の許しが出て、網走に帰れることになる。
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★第12章★岬の日々
網走の能取岬にある中川牧場の管理をまかされたイセたち。その雄大な
景色にイセは魅了される。乗馬も覚え、少しずつ馬との暮らしに親しみ、冬
になれば、流氷の美しさに見とれる。平和な日々がすぎていく。
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★第13章★茂市の死
卓治の父・茂市が、娘婿・東条貞の選挙資金調達で14万円の借金を残
して死去。イセと卓治はその借金を引き受ける。拓銀に50年割賦(ロー
ン)を頼むため、イセは札幌本店に出向き、交渉を成立させる。
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★第14章★戦況のなかで
借金返済のため、卓治とイセは、馬喰となった。また、念願の愛子をひき
とり、やがて、養子の清と結婚させる。しかし、清は、海軍に招集され、戦死。
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★第15章★米軍上陸?!
1945年7月、網走空襲。米軍が上陸するかも…という緊迫感のなか、イセ
は自分がおとりになるから、みんなは逃げろと宣言し、町長公宅に泊まり込む。
しかし米軍は上陸せず、8月15日、終戦をむかえる。
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★第16章★初の女性市議会議員誕生
1947年4月、網走が市政変更になったのを受け、初の市議会議員選挙。女
性参政権ができて最初の選挙となり、イセはまわりにおされて立候補。30議
席に83人の立候補だったが、下から3番目で当選。最初の街頭演説の日、
イセは、踏み切りの前に立ち、遊廓時代に亡くなった小梅に演説を聴かせる。
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★第17章★イセ、奔走す!
議員1期めから2期目へ。家の前でのラジオ体操。保育園建設。そして、日
本鋼管とかけあっての、網走での水道敷設。イセは精力的に動きつづけた。
なかでも、一番力を注いだのは、人権擁護の活動だった。遊廓まがいの商売
をしている店に乗り込み、商売替えさせたり、法務局に通告したりした。
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★第18章★塀の向こう
人権擁護委員のイセのもとに、網走刑務所から、受刑者に話をしてほしいと
依頼がきた。イセは、北海道の道路をつくるために、たくさんの受刑者がい
のちを落としたことを知り、感謝する。そして、みずからの生い立ちを語る
と、受刑者たちは涙ながらにイセの話を聴いた。
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★第19章★駆け抜ける日々
自民党道連の婦人部長に抜擢されたイセは、中央の政治家とのつながりもつ
くる。そんななか、夫・卓治と、孫の尋仁が次々に亡くなる。74歳で議員
引退後も、保育園創設、博物館「網走監獄」の理事長と活躍をつづける。阪
神淡路大震災のあとは、修学旅行の生徒たちを歓待もした。
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★第20章★一世紀を生きて(2016.12.22ぶんまで)
イセは、その数奇な運命が話題となり、メディアにとりあげられるように
なる。また、天童市への訪問も果たし、コウの墓に花をたむけ、親友みよ
しとも再会する。また、イセを主人公にした舞台が、天童でも上演される。
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いつもご愛読ありがとうございます

卓治の評判

社会的に活躍したひとのことは、やはり、なんだかんだ、記
録にも残り、ひとびとの記憶にも残っているから、情報は集
めやすい。

(それでも、わからないことはたくさんあるけれども)

けれども、その周辺のひとの記録となると、ほとんど残って
いないことが多い。

今回の「零(zero)に立つ」においては、イセさんの夫、卓治
がそうだ。

1919年〜1920年ころに出会い、亡くなる1962年まで、
イセと生活をともにした。

その卓治の記録は、馬喰組合の組合長をしていたことなど、
ごく一部しか残っていない。

ただ、一部の資料や、今回、取材をしてまわった範囲におい
ては、実はあまりかんばしい評判がないのだ。

とにかく、若いときから酒癖が悪い。

誰も明確に書いていないので、想像で書くけれども、おそら
くアルコール依存症の傾向があったのではないか。

樺太時代も、仕事ぶりについての評価は、あまりいいものが
ない。

鷹揚で、おおらかな性格、というのはまちがいないようだ。

街の名士の長男とあって、「ぼんぼん」であったことはたし
かだろう。

それゆえに、ちょっとしたことでくじける、こころの弱さをもっ
たひとではなかったか、と勝手に想像してしまう。

戦後は、年代はわからないが、脳卒中を起こし、後年は家で
静養する日々がつづいたようだ。

これも見かたによっては、若いころからの酒癖のツケがまわ
った、と言えなくもない。

と、さんざんに書いてしまったが、けれども、イセさん自身
は、卓治について批判的なことをまったく言っていない。

実情はわからないが、どの資料を見ても、あるいは取材を
していても、そういった話はひとつも聴かない。

むしろ、卓治が亡くなったことを、後年になっても、さびしく
想っている記録さえある。

だから、卓治本人がどんな人間であろうと、イセさんにとっ
ては、かけがえのない人生の伴侶であったことは、まちがい
ないのだ。

ひととひとのめぐりあいとは、そのようなものなのかもしれ
ない。

酒癖の悪い、ぼんぼん亭主だったからこそ、若いころのイ
セさんは、いっそうがんばったかもしれない。

何より、卓治が身請けをしてくれたからこそ、イセさんは、遊
廓を出ることができたのだから。

(イセさん自身が最初に背負った借金は、みずから返したよ
うだが、遊廓にいるあいだの、日々の生活費などによる借金
は残っていたらしい)

それだけで、イセさんは、一生ぶんの感謝を、卓治にたいし
て感じていたのかもしれない。

そして、卓治にとって、イセさんはどんな存在だったろう。

戦後直後、市議会議員になることを応援はしたものの、その
後、全国に名を知られる存在になるとは、想像もしていなか
ったろう。

議員時代のイセさんは、忙しかった。だから、卓治とゆっく
り過ごす時間も、充分にはとれなかったかもしれない。

イセさんが、自分から離れていくようなさびしさを、卓治は
感じてはいなかったか。

いや、そんなさびしさを感じさせぬよう、イセさんはふるま
ったかもしれないけれども…。

物語を書いていると、どうしても、イセさんにばかり光をあ
ててしまうけれども、すべてのひとびとの存在があってはじ
めて、そのひとの人生は成り立つ。

いま、卓治は、天国で、イセさんをとりもどしているのだろ
うか。

それとも、やはり、あちらでも、イセさんは飛び回ることに
忙しくて、おいてけぼりを食らっているだろうか。(笑)

いやいや、すべて解放されて、天国の酒を存分に飲みながら、
この物語を、にまにましながら、読んでいるかもしれない。

「イセ、おめえだら、死んでからも落ちつかねえなあ。たま
には、ここにすわって、一緒に酒でも飲むべ」

などと、つぶやきながら。…合掌。


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※網走以外の、オホーツク地方の写真も掲載していきます。
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「神の子池」 
写真提供/北海道無料写真素材集 DO PHOTOさん
posted by 夢実子「語り劇」プロジェクト at 08:57| Comment(0) | エッセイ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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