2016年12月22日

物語版「零(zero)に立つ」第20章 一世紀を生きて(4)/通巻150話

天童で産まれ網走で活躍した、中川イセさんの半生を描いた
『零(zero)に立つ〜激動の一世紀を生きた中川イセの物語〜』
※この作品は、もともと、女優・夢実子が演ずる語り劇として書かれたものを、
 脚本を担当したかめおかゆみこがノベライズしているものです。

※これまでのあらすじと、バックナンバーは、こちら


直木賞候補にもなった『馬喰一代』という小説がある。のち
に、三船敏郎主演で、映画にもなった。

(さらにそののち、三国連太郎主演で再度映画化)

著者は、中山正男。中山は、道東の佐呂間町の出身であり、
イセとは親交があった。

その中山が、乗馬姿であぐらをかくイセを見て、「あぐらば
っちゃん」とあだ名をつけた。

そしてそのイセの話を、東京の大宅壮一に話し、大宅が、週
刊朝日の、徳川夢声との対談「問答有用」で、「網走に、すご
いばあちゃんがいる」と話した。

これが、イセの名前が、全国的に知られるきっかけになった
という。

1967年には、中山の義妹の金子きみが、イセの半生記を
小説化した『雪と風と青い天』を出版した。

もっとも、金子自身も書いているように、かなりフィクション
的要素が加えられてはいたが。

しかし、これが、TBSの目に止まり、1968年には、渚まゆ
み主演のテレビドラマ「流氷の女」として、全国放送される。

そして、このドラマに感銘を受けた、網走在住の作詞家・纓
片實(おがたみのる)と、作曲家・加山ひろしにより、同名
の曲『流氷の女』が、1968年にリリースされた。

イセは、生まれて初めて、自分の曲ができたことに感激し、
纓片との交流は、のちのちまでつづいた。

また、イセ自身も、その後、NHKの『こんにちは奥さん』な
ど、複数回、テレビ出演する機会を得、結果的に、ますます知
名度をあげる。

1969年には、イセと親交のあった、山形の佐々木悦によ
る「あぐらばあちゃん」(山形新聞連載)が、出版された。

ここには、おもに、17歳で北海道にわたるまでが描かれて
いる。

1987年には、北海道放送のラジオ番組『涙流す間もなし
〜流氷の町に生きる女〜』で、イセの半生記が紹介された。

この番組は、同年の日本民間放送連盟賞の教養部門で最優
秀番組に選ばれた。

そして、この物語「零(zero)に立つ」を書くにあたっての主要
資料となる、山谷一郎著『岬を駈ける女』が出版されたのが、
1992年。

ただし、山谷は、1986年に、ほぼ同内容の『オホーツク
凄春記』を出版していて、『岬を駈ける女』は、この改訂版と
見られる。

この本は、イセが選挙に初当選するところで、終わっている。

1990年、この本を原作として、北海道演劇集団による舞
台『岬を駈ける女』(澁谷健一脚本・山根義昭演出)が、札幌
と網走で上演された。

網走公演では、1500人の会場が超満席となった。イセも
娘の愛子とともに観劇した。

舞台は、一部、原作とはまたちがった脚色がほどこされてい
たが、イセは、それはそれとして楽しんだようだ。

そう。イセは、歌も得意だったが、お芝居も好きだった。

14歳のとき、松井須磨子を頼って、女優になるため、東京
の帝国劇場までたずねていったことを、いつまでもなつかし
そうに語っていた。

実は、戦時中には、愛馬婦人会で、お芝居をつくって出演も
していた。

ただし、内容は戦意高揚劇であったから、戦後はおおっぴら
には語れない話になってしまったが。

1993年、北海道演劇集団が、『岬を駈ける女』を再演する
ことを決定した。

しかも今度は、札幌、網走に加え、旭川、そして、イセの郷
里である天童でも公演するという。

天童市は、これを、市制35周年記念事業とすることにした。

イセが里子時代を過ごした天童市荒谷地区には、当時、地
域の婦人たちでつくる「若妻会」があった。

その若妻会に、北海道演劇集団から連絡が入った。

「第2幕、網走空襲のあと、米軍が上陸してくるかもしれな
い緊迫した状況のなか、イセが『わたすがおとりになる!』
と、みんなを説得する場面で、ぜひ、そこに集まったひとび
と役として、出演してほしい」

びっくりはしたが、このころには、天童市でも、イセのこと
はよく知られ、みな、イセに好意をもっていた。

「荒谷に名指しがあったからには、ぜひやりましょう」という
ことになって、7名が、名乗りをあげた。

原作を読み、発声練習などを重ね、みなでイセへの想いを
深めながら、稽古をすすめる。

やがて、北海道メンバーがやってきての合同稽古、前日のリ
ハーサルを経て、本番。満場の拍手がいつまでもつづいた。

出演者のひとり、佐藤恵子は述懐する。

「イセさんのような大きな視野で、大きな心で生きていけた
らすばらしい。弱きを知る強い人。出身地元の誇りです」


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※網走以外の、オホーツク地方の写真も掲載していきます。
yamabikonotaki.jpg
「山彦の滝」
写真提供/北海道無料写真素材集 DO PHOTOさん
posted by 夢実子「語り劇」プロジェクト at 08:47| Comment(0) | 物語版「零(zero)に立つ」 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする