2016年12月21日

物語版「零(zero)に立つ」第20章 一世紀を生きて(3)/通巻149話

天童で産まれ網走で活躍した、中川イセさんの半生を描いた
『零(zero)に立つ〜激動の一世紀を生きた中川イセの物語〜』
※この作品は、もともと、女優・夢実子が演ずる語り劇として書かれたものを、
 脚本を担当したかめおかゆみこがノベライズしているものです。

※これまでのあらすじと、バックナンバーは、こちら


それ以来、イセは、たびたび、天童市をおとずれるようにな
った。

知り合いもふえた。親しく行き来する間柄もできた。

菩提寺である三宝寺には、たいてい寄って、住職と親しく語
らった。

親友のみよしは、実家の近くの「マルゼン」商店に嫁いでい
た。だから、イセは、天童にいくたびに、必ず、「マルゼン」
をたずねて、みよしと話しこんだ。

地元の荒谷では、イセがくるたびに、「イセさんきったど」
「マルゼンさいったど」…そんな会話がかわされたという。

91歳になった1992年(平成4年)の4月、イセは、選ばれ
て、網走市名誉市民になった。

当時の安藤哲郎市長は、このように推薦理由を述べている。

「婦人の地位向上、青少年の育成、社会福祉の充実、人権
問題、地方自治の発展など、北海道を代表する婦人活動家
として、幅広く活動。

豊富な経験と人間味あふれる人柄は、子どもたちや青年婦
人、お年寄りなど多くの市民に親しまれ、敬愛されてきました」

祝賀会には、450名もの市民がつどったという。

また、郷里の天童市でも、実行委員会が発足して、11月に
祝賀会がひらかれ、280名の市民がつどった。

イセは、 故郷への感謝の気持ちとともに、約15分にわた
って、北海道での活動について、スピーチをした。

天童のひとびとは、92歳のイセの、その年齢に似合わぬ、
はつらつとした風情と、パワフルな語りに、どぎもを抜か
れたという。

そしてこの祝賀会が縁になって、天童市に伝承される山寺
踊りが、海を越えて、網走で披露されることになった。

博物館「網走監獄」保存財団の理事長をつとめていたイセが、
「(翌年の)開館10周年記念の席で、ぜひ踊ってほしい」
と依頼したのである。

また、この年、イセは、出身校である荒谷小学校と、誕生
の地にある干布小学校に、教育資金を寄贈した。

荒谷小学校では、これで図書を購入し、「中川文庫」と名前
をつけて活用した。

干布小学校では、和太鼓2台を購入した。

イセの、小学校への寄付は、その後もたびたびおこなわれ、
干布小学校でも、のちに「中川文庫」を創設している。

寄付は、天童第一中学校などにもおこなわれたという。

もともと、子ども好きなイセのこと、子どもたちの成長を助
けになることに、よろこびをおぼえたのだろう。

1998年(平成10年)、市制施行40周年記念として、
天童市は、イセに特別功労表彰をおこなっている。

それを記念し、干布小学校で、「受賞お祝いの会」が催さ
れた。

イセが行くと、子どもたちが鼓笛隊の演奏でむかえた。

イセはよろこび、あいさつのなかで、子どもたちに向けて
熱をこめて語った。

「人間は、やればなんでもできるんだよ」

「一生懸命はたらいて、からだを動かして、丈夫で、かし
こいひとになるんだよ」

「みんなのために、社会のためになることをするんだよ」

このとき、イセ、97歳。

イセの天童市訪問は、これが最後になった。

しかし、その後も、子どもたちとの手紙のやりとりは、と
ぎれず、つづけられたのである。

2002年(平成14年)7月には、「天童が生んだ女性展」
が、天童市で開催された。

そのなかには、もちろん、イセの名前もふくまれていた。

この展示会に、招待を受けた網走市大場脩市長(当時)
が、天童市を訪問し、ここから、市レベルでの交流がはじ
まる。

そして、2004年(平成16年)、網走市と天童市は、観
光物産交流都市の協定を結ぶのである。


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※網走以外の、オホーツク地方の写真も掲載していきます。
saromako.jpg
「サロマ湖 冬 」
写真提供/北海道無料写真素材集 DO PHOTOさん
posted by 夢実子「語り劇」プロジェクト at 09:29| Comment(0) | 物語版「零(zero)に立つ」 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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