『零(zero)に立つ〜激動の一世紀を生きた中川イセの物語〜』
※この作品は、もともと、女優・夢実子が演ずる語り劇として書かれたものを、
脚本を担当したかめおかゆみこがノベライズしているものです。
※これまでのあらすじと、バックナンバーは、こちら
博物館「網走監獄」での、イセの日々は、まだまだつづくけれ
ども、ここでいったん、そのほかの活動にも目を向けたい。
イセにとって、弱い立場のひとたちを守ることは、もはや使
命ともいうべきものになっていた。
子どもたち、女性、そして、高齢者である。
おそらく、からだがふたつ、三つあれば、心身にハンデをも
つひとたちをもカバーしたかったろう。
が、さすがに無理で、それはできうるかぎりの、可能な範囲
にとどまった。
さて。その高齢者の話である。
実は、1981年に、社会福祉法人網走愛育会を設立したのは、
もともと、高齢者のための施設をつくりたいという想いがあ
ったからだった。
しかし、網走にはすでに1軒、老健施設があったことなど、諸
事情があり、まずは保育園から、という流れになったようだ。
そして、保育園の運営も順調に運び、問題となっていた諸案
件も解決してきたところで、いよいよ、高齢者施設を…とい
う運びになった。
イセは、想いのたけを、熱く語った。
「年寄りのための施設が、ただ死ぬのを待っているような場
所であっちゃいけないんだ。
年をとったからといって、仕事ができない、何もできないって
いうことはないんだよ。
何もかも、ひとまかせにしてしまうと、何もできなくなっていく。
やらないから、ますますできなくなっていくだけ。
そうして、体力がおとろえたら、気持ちもおとろえる。それじ
ゃ悪循環だ。
ひとのために何かできるってことは、生きるための希望、生
きるちからになるんだよ。
からだを動かして、仕事をしてこそ、元気で長生きができる。
そのためのリハビリができる施設、年寄りが希望をもてる施
設を、わたすはつくりたいんだよ!」
そんなイセの願いを入れて構想した施設は、老人保健施設
であり、ケアハウスであり、通所リハビリ、通所介護、居宅介
護支援、訪問介護をもふくむことになる。
見積もってみると、建設にかかる総予算は、約16億円にも
なった。
イセの想いに賛同して、設立にかかわったものたちも、その
額にはさすがに青ざめた。
「ばっちゃん、いくらなんでも、これは無理だ。規模を縮小
したほうがいいんじゃないですか」
「大体、どうやったら、そんな大金を、ひねり出すことがで
きるんですか?」
そんなふうに詰め寄るものもいた。
イセは、それらのことばをじっとだまって聴いていたが、ち
ょっととぼけたような表情を見せて、こう言った。
「そうだねえ。わたすにもどうしていいかわからないが、な
ぜだか、わたすがかかわると、神風が吹くんだよ」
その返事に、みなは絶句し、そして、なぜか妙に納得した。
結局、計画は変更せず、イセの望みを入れたまま進められ、
なんとか融資してくれるところも決まって、建設着工となる。
施設の名前は、発起人であるイセの名前をとって、「いせの里」
と名付けられた。完成と同時に、イセは理事長に就任した。
1997年。96歳のときである。
※「いせの里」ホームページよりお借りしました。
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「上湧別チューリップ公園の風車」
写真提供/北海道無料写真素材集 DO PHOTOさん