天童で産まれ網走で活躍した、中川イセさんの半生を描いた
『零(zero)に立つ〜激動の一世紀を生きた中川イセの物語〜』
※この作品は、もともと、女優・夢実子が演ずる語り劇として書かれたものを、
脚本を担当したかめおかゆみこがノベライズしているものです。
土日祝日は、連載はお休みさせていただいています。
※これまでのあらすじと、バックナンバーは、こちら
思いがけないつながり(向陽が丘病院のこと)
7か月あまりの連載のなかで、私は、現在進行形で、イセさ
んの仕事にふれてきた、という気がする。
昨年、語り劇「零(zero)に立つ」の脚本を書いてはいたが、
それは、おもに、山谷一郎著「岬を駈ける女」を主要資料と
してのものだった。
(もちろん、その他の資料も参考にはさせてもらったが)
けれども、そのときは、まだまだイセさんの全体像をつかみ
きれていなかったように思うのだ。
なんとか、骨格をつかみ、舞台化できる部分を抽出したとい
うのが正直なところだろう。
こうして、幼少時から晩年にいたるまでを、経年で書くこと
によって、やっと全体が見えてきたという感じなのだ。
で、当然ながら、見落としもある。
「あっ、こんなエピソードもあった!」と気づいたが、す
でにその章は終わっていたりするわけだ。
そのうちのひとつが、北海道立向陽ケ丘病院(当初は、網走
市立向陽ケ丘病院)の誘致の話だ。
上水道敷設をめぐって、日本鋼管とかけあっていた1950
年ころ、もうひとつ、イセさんがかかわっていたのが、病院
誘致だった。
当時の北海道知事である田中敏文のもとへ、イセさんはお
とずれ、網走への病院誘致を請願した。
ところが、そのころ、ほかの市町村から同様の請願はなかっ
たのだが、イセさんが動いたことを知るや、他の市町村も、
がぜん動き出したらしい。
そして、猛勢をかけた他の市の請願が、先にとおってしまっ
たのである。
これには、イセさんは大憤慨した。何しろ負けず嫌いな性格
である。
「私が一番先に願い出たのに、あっちの運動が激しいから、
そっちにするっていうのはどういうことか! 女だからって
バカにするのか!」
と、知事に食ってかかったらしい。
「女だから」というのは、ほとんど思いこみの言いがかりの
ような気がしないでもないが、ある意味、イセさんらしいと
いえば、らしい。(笑)
結果、イセさんの剣幕に、田中はついに根負けし、1952
年に同病院が設置されたという。
ちなみに、この向陽ケ丘病院、私にはひとかたならぬ思い
出のある病院なのだ。
向陽ケ丘病院の診療科目は、精神科と神経科である。
私は、4歳のときに、てんかんに似た発作を起こし、向陽ケ
丘病院の神経科のお世話になった。
そのときの脳波の検査で、「通常時には出ない脳波が出て
いる」(記憶なのでさだかではないが、そんな表現だった)
と言われ、継続して、脳波の検査を受けることになった。
年に2回、頭に電極をつないで検査を受け、中身はさだか
ではないが、毎日、薬を飲むように言われた。
子どもだった私は、「脳波をはかると、考えていることも全
部知られる」と思いこみ、検査中はできるだけ何も考えない
ようにしていた、記憶がある。(笑)
また、毎日の薬は、正直、面倒だった。
学校で昼食後に薬を飲んでいると、きまって、友だちに
「何の薬か?」と訊かれるのである。
毎日のことなので、「風邪」とか「胃腸」とかこたえることも
できない。
「アタマのよくなる薬」と、まんざらうそでもない?返事を
すると、友だちは、わかったようなわからないような顔をし
て、それ以上聴いてこなかった。
発作は、幼少時のみで、その後はまったく起きなかったが、
相変わらず、通常時にはない脳波は、出つづけていた。
発作が起きないので、薬をどんどんさぼるようになり、し
まいには、めったに飲まなくなった。
19歳で地元を離れることになったとき、「そんだけ、薬
をさぼっていても、症状が出ないなら、まあ、大丈夫でし
ょう」というわけで、灰色放免となった。
いまもって、脳波は出つづけているかもしれないが、たし
かめようがない。
イセさんの取材のなかで、私が15年の長きにわたって通
った病院が、実は、イセさんの請願と無茶ぶり!によって
建てられたと知った。
こんなところで、イセさんと私はつながっていたのだ、と
勝手な感慨にふけった…という、大変、個人的なハナシ
なのである。
いずれにしても、網走市民のみならず、周辺市町村のひと
びとは、知らないところで、イセさんの恩恵にあずかって
いるのかもしれないのだった。
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「屈斜路湖(美幌峠)」
写真提供/北海道無料写真素材集 DO PHOTOさん
posted by 夢実子「語り劇」プロジェクト at 06:21|
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