2016年11月28日

物語版「零(zero)に立つ」第17章 イセ、奔走す!(10)/通巻132話

天童で産まれ網走で活躍した、中川イセさんの半生を描いた
『零(zero)に立つ〜激動の一世紀を生きた中川イセの物語〜』
※この作品は、もともと、女優・夢実子が演ずる語り劇として書かれたものを、
 脚本を担当したかめおかゆみこがノベライズしているものです。

※これまでのあらすじと、バックナンバーは、こちら


イセからの連絡に、店主はいきどおった。

「勝手に女たちを連れ出しやがって。営業妨害でうったえ
てやる!」

「女たちは、自分たちの意思で、店を出たんだよ。
それに、うったえて困るのは、あんたのほうでないのかい。

女たちから話を聴いたよ。ずいぶん、あこぎなはたらかせ
かたをしてるみたいじゃないか。

料理屋だったら、料理屋の仕事ってもんがあるだろう。
それ以外のはたらかせかたをして、しかも、はたらいたぶ
んの金を、まともに払っていない。

自分のやっていることが、商売人としてどころか、ひとの
道にもはずれてるってことを、よくよく考えてみなさい。

女たちは、料理屋の仕事であれば、店にもどって、よろこ
んですると言ってる。どうする?」

店主はなおも、いきまいたが、イセはがんとして自説を曲
げない。もちろん、女たちのいどころも明かさない。

店主は困り果て、町の接待業組合の組合長に相談した。

組合長は、話を聴くと、顔をしかめて言った。

「そいつは相手が悪い。あの中川イセって議員は、もとは、
遊廓の出らしい。だから、そういう商売をやってるところ
を、つぶしてまわってるって話だ」

「遊廓出の議員? そんなこと、あり得るのか?」

「本当だ。しかも、この前の選挙ではトップ当選だと。

それに、網走の水道を通すのに、日本鋼管の社長に談判し
て、交渉成立させたとか聴いたぞ。おまけに、柔道の達人
だそうだ。相手がまずすぎる」

「冗談じゃねえ。そんなやつに営業妨害されたら…。組合
長、なんとかしてくれ」

「わかった。なんとか話をつけてくる」

組合長は、網走までやってくると、イセに会うと、頭を下
げて言った。

「店主も反省してますんで、なんとか穏便に…。店がつぶ
れてしまっては、女たちも仕事をうしないますし…」

何度も頭を下げられ、「私が責任をもちますので」とまで
言うので、イセも、「わかった」とうなずき、女たちを店
に帰すことにした。

けれども、完全に、店主や組合長を信用したわけではない。

表面では、きれいごとを言って、その実、裏腹なことをや
っているものたちを、さんざん見てきたからである。

3か月ほど経ったころ、イセは、予告なしに、ふたたび店
をおとずれた。

イセの顔を見た瞬間、店主の顔色が変わった。

同時に、女たちがほっとした表情を見せるのを見て、イセ
は、すべてをさとった。

「いや、あの…、これにはわけが…」

店主が言い訳するのを無視し、イセは店をあとにした。

そのまま、法務局に出向くと、「届け出にない、違法営業
をやっている店がある。とりしまってくれ」と通告した。

店は、営業停止となった。

イセは、女たちがあたらしい仕事につけるよう、とりはか
らった。

このうわさもまた、ひとびとの知るところとなり、なおい
っそう、助けをもとめる声が、イセに寄せられるようにな
るのである。


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※網走以外の、オホーツク地方の写真も掲載していきます。
氷のトンネル.jpg
「氷のトンネル」 
写真提供/北海道無料写真素材集 DO PHOTOさん
posted by 夢実子「語り劇」プロジェクト at 08:40| Comment(0) | 物語版「零(zero)に立つ」 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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