『零(zero)に立つ〜激動の一世紀を生きた中川イセの物語〜』
※この作品は、もともと、女優・夢実子が演ずる語り劇として書かれたものを、
脚本を担当したかめおかゆみこがノベライズしているものです。
※これまでのあらすじと、バックナンバーは、こちら
「ばっちゃん、また、水もらってもいいかい?」
「ああ、いいよ。好きなだけ汲んでいきな」
毎朝のように、イセの家には、ひとがくる。
網走では、昔から、水がまずいと言われていた。
井戸を掘ると、黄色いしょっぱい水が出てくる。場所によっ
ては、アンモニア臭までする。
原因は、わからない。土中の鉱物や植物が影響しているとも
言われていた。
いずれにしても、まずくて、そのままではとても飲用にはで
きない。
そのため、ひとびとは、自分たちで工夫して水を濾過したり、
網走湖まで汲みにいったり、たまたま飲める水が出るところ
から、分けてもらったりしていた。
そして、そのまともな水の出る井戸のひとつが、イセの家の
井戸だった。
そんなわけで、毎朝、イセの家の前には、バケツをもって、
水をもとめるひとびとの行列ができた。
ときにその行列は、50人にもおよぶことがあった。
「ばっちゃん、この水のこと、なんとかならんもんかね」
水汲みにきたひとから、相談されることもしばしばであった。
イセも、気になっていたことであったから、議員2期目にな
ると、さっそく、この議題を議会に提案した。
「きちんとした水道を引いて、市民が安心して、おいしい水
を飲めるようにしなければなりません」
これには、さすがに反対する議員はいなかった。
水道敷設にかかわるチームが立ち上げられ、提案者のイセも、
そこにくわわることになった。
まずは、水源さがしである。
市内のいくつかの湧き水、あるいは、網走湖の伏流水などが、
候補としてあげられた。現地調査もおこなわれた。
「水質からいって、だめでしょう」
「水質はいいとして、水量が足りませんよ」
「いま、水量は足りてるが、将来はどうかね」
そんなふうに意見がかわされた。
そんななかであがってきたのが、藻琴(もこと)山八号目の
湧き水である。
たしかに、藻琴山の湧き水といえば、知るひとぞ知る名水で、
水質・水量ともに申し分ない。
しかし、問題があった。
藻琴山は、1947年に網走から分村した東藻琴村に位置する。
網走市からは約30キロの距離がある。
東藻琴村との調整はつけられるとしても、その距離に上下水
道を敷設するためには、莫大なお金がかかる。
試算した結果、総工費約2億〜2億5千万円、かかると予想
された。
当時の網走市の年間一般予算が、1億6千万円の時代に、で
ある。
「引き受けてくれる会社があるのかね」
「やってみなけりゃ、わからんでしょう」
イセは、立ち上がった。
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札幌★夢実子 語り劇「掌編・中川イセの物語」ほか
日時/2016年11月26日(土)10時〜16時45分
会場/ちえりあ演劇スタジオ1(地下鉄東西線宮の沢駅約5分)
詳細/こちら
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網走市観光協会さまのサイトより、ご承諾を得て
網走の写真をお借りしています。ありがとうございます。
「白いハマナス」
※一般社団法人網走市観光協会さまご提供