2016年11月30日

物語版「零(zero)に立つ」第18章 塀の向こう(1)/通巻134話

天童で産まれ網走で活躍した、中川イセさんの半生を描いた
『零(zero)に立つ〜激動の一世紀を生きた中川イセの物語〜』
※この作品は、もともと、女優・夢実子が演ずる語り劇として書かれたものを、
 脚本を担当したかめおかゆみこがノベライズしているものです。

※これまでのあらすじと、バックナンバーは、こちら


「わたすがですか? 普通、そういうところで話をするって
いえば、お坊さんとか牧師さんとかではないんですか?」

「いえ、ふだんはそうなんですが、中川さんがこれまでいろ
いろご苦労をなさっているという話を聴いて、ぜひ、囚人た
ちに聴かせてやりたいと想いまして」

「わたすなんかでいいんでしょうかねえ」

「中川さんは、人権擁護委員もなさってますから、立場的に
も問題ありませんよ」

「そうですか…」

話しながら、イセの脳裏に、不意に、遠い昔の記憶がよみが
えってきた。

あれは、まだ18歳そこそこ。遊廓に入ってまもないころのこ
とである。

金松楼の先輩娼妓のひとりが、お守り袋のなかから、何か
を大事そうに取り出して見せてくれた。

「イセちゃん、こんなの、見たことないでしょう?」

「何ですか?」

ぱっと見に、糸くずのかたまりかと想ったが、よく見ると、
草鞋のかたちをした飾りものなのであった。

それも、指先にちょこんと載るくらい、ちいさなものだ。

そのくせ、本物の草鞋と同じように、きっちりていねいに、
編み込まれている。

本物とちがうところは、そこに何本かの長めの糸がついてい
るところだ。

「わあ、本物そっくり。よくできてますねえ」

「これ、誰がつくったかわかる?」

「誰って…。土産ものやさんとかじゃないんですか?」

先輩娼妓は、自慢げに、首を振って言った。

「囚・人・さん」

「え?…あの、監獄の…ですか?」

イセは、思わず、金松楼の近くを流れる網走川のほうに目を
やった。

その網走川を少しのぼると、大曲(おおまがり)といって、
ぐっと流れが湾曲するところがあり、その川向こうに、網走
監獄は建っていた。

歴史的にいえば、1890年、「釧路監獄署網走囚徒外役所」
として開設され、のちに「北海道集治監網走分監」となる。、

「網走監獄」として改称されたのは、1903年(明治36年)。

その後、1922年(大正11年)に「網走刑務所」と改称さ
れるが、イセがいた当時は、まだ「監獄」と呼ばれていた。

当時の網走監獄は、いまとちがって、無期懲役や20年、30
年は当たり前というものたちばかりが、収容されていた。

その長い年月、檻のなかで暮らすものたちが編み出したのが、
この「豆草鞋」づくりなのである。

それは相当な熟練を要し、習熟するのに3年、5年とかかる
ものであった。

しかも、見つかれば没収の、いわば反則品である。

だからこそ、人手にわたると、ただの飾りものではない、値
打ちをもつ。

囚人たちは、晴れて出所が決まると、これをこっそりと荷物
のなかにしのばせておく。

それは、遊廓で、ひと晩過ごせるだけの値をもったのである。

「囚人さんって、おっかなくないんですか?」

イセが聴くと、先輩娼妓は首を振ってこたえた。

「普通のひとと変わんないよ。それよりも、世間さまから隔
離されて生きてるとこなんざ、あたしたちと似たような気が
して、他人に思えないんだよね…」

先輩娼妓は、豆草履を大事そうにさすりながら、しみじみと
つぶやいた。

「これを見るたびに、思うのさ。あの塀の向こうで、何十年
も耐えたひとがいたんだ。あたしも、どんなに苦しくても、
がんばろうって…」

それを聴きながら、イセのなかで、これまでいだいていた、
監獄や囚人にたいするイメージが、変わっていくのを感じ
ていた。

「中川さん…?」

電話の向こうの声に、イセははっと我に返った。

「どうでしょう? 引き受けていただけますでしょうか?」

「…あ、はい、わたすでよければ、よろこんでお話しさせて
いただきます」

「ああ、よかった。それでは、日程は…」

電話の向こうの声が、ぱっと明るくなった。


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2016年11月29日

物語版「零(zero)に立つ」第17章 イセ、奔走す!(11)/通巻133話

天童で産まれ網走で活躍した、中川イセさんの半生を描いた
『零(zero)に立つ〜激動の一世紀を生きた中川イセの物語〜』
※この作品は、もともと、女優・夢実子が演ずる語り劇として書かれたものを、
 脚本を担当したかめおかゆみこがノベライズしているものです。

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1957年には、ようやく売春防止法が成立した。

イセは、ますます、積極的に、そうした店と交渉し、商売替
えさせるなどのはたらきかけをした。

それでも、あこぎなやりかたをあらためない店は、法務局に
かけあって、廃業させることもした。

「あのやろう、店をつぶしやがった。痛い目にあわせてやら
ねえと、気が済まねえ」

そんなことをいきまくものもいたようである。

事実、何度か、道を歩いていて、つけられていると感じるこ
とがあった。

しかし、イセが有段者であることが知れ渡っていたせいだろ
うか、さいわいにも、襲われるようなことは、なかったので
ある。

そのころになると、網走市内にかまえたイセの家は、ひとび
との相談所のような状態になっていた。

「明日食べるものがないんです…」

「夫の暴力に苦しんでます。ころされるかもしれない」

そんなうったえが、ひっきりなしに入ってくる。

そのたびに、イセは、ていねいに話を聴いた。出てこられ
ないもののために、出向いて話を聴くこともあった。

さらには、必要とあれば、逃げ出すための汽車賃や、当座
の生活費までわたしてやる。

女たちは、びっくりしてイセを見る。

「ありがとうございます。…でも、私、このお金、お返しでき
ません」

「これは、貸すんでない。あんたにあげるんだ。そのかわり、
苦しいことがあっても逃げずに、がんばるんだよ」

「ありがとうございます!…ありがとうございます!」

イセに助けられた女たちは、拝むようにして、そのお金を受
け取った。

それを見ていた支援者のひとりが、あきれて言った。

「イセばっちゃん、またですか。そんなに気前よくお金をわ
たしていて、生活、大丈夫なんですか」

「だって、困ってるんだから、しかたないじゃないか」

「せめて、あげるのではなく、貸すことにしては」

「いのちからがら逃げて、精一杯のところに、今度は、借金
を背負わせるのかい。そんなことはできないよ」

「でも…」

「大丈夫。わたすは、これまでいろんな苦労を乗り越えてき
たんだ。なんとかやっていけるもんだよ」

そう言って、からっぽになった財布を振って、笑ってみせた。

イセが、最初に人権擁護委員になったのは、1950年。

その後も、さまざまな要職につくことになる。

1953年には、網走市の母子相談員、社会教育委員、防犯
協会理事を兼任。

1958年には、網走市人権擁護協議会会長となる。

それにともない、1953年には、法務省から感謝状を受け、
1961年には、全国人権擁護委員連合会会長表彰、1963
年には法務大臣表彰を受けている。

イセは、そうした肩書きや表彰を、ことさら自慢するようなこ
とはなかった。むしろ、低姿勢で、「わたすのようなものが」
と受け取った。

それでも、さんざん苦労を重ね、たどりついたこの網走で、
こうして、自分が受け入れられ、みとめられることは、よろこ
び以外のなにものでもなかった。

そんな日々のなか、イセのもとに一本の電話がかかってきた。

「網走刑務所ですが、囚人たちに、ぜひ、中川さんのお話を
聴かせていただきたいと想いまして」


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2016年11月28日

物語版「零(zero)に立つ」第17章 イセ、奔走す!(10)/通巻132話

天童で産まれ網走で活躍した、中川イセさんの半生を描いた
『零(zero)に立つ〜激動の一世紀を生きた中川イセの物語〜』
※この作品は、もともと、女優・夢実子が演ずる語り劇として書かれたものを、
 脚本を担当したかめおかゆみこがノベライズしているものです。

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イセからの連絡に、店主はいきどおった。

「勝手に女たちを連れ出しやがって。営業妨害でうったえ
てやる!」

「女たちは、自分たちの意思で、店を出たんだよ。
それに、うったえて困るのは、あんたのほうでないのかい。

女たちから話を聴いたよ。ずいぶん、あこぎなはたらかせ
かたをしてるみたいじゃないか。

料理屋だったら、料理屋の仕事ってもんがあるだろう。
それ以外のはたらかせかたをして、しかも、はたらいたぶ
んの金を、まともに払っていない。

自分のやっていることが、商売人としてどころか、ひとの
道にもはずれてるってことを、よくよく考えてみなさい。

女たちは、料理屋の仕事であれば、店にもどって、よろこ
んですると言ってる。どうする?」

店主はなおも、いきまいたが、イセはがんとして自説を曲
げない。もちろん、女たちのいどころも明かさない。

店主は困り果て、町の接待業組合の組合長に相談した。

組合長は、話を聴くと、顔をしかめて言った。

「そいつは相手が悪い。あの中川イセって議員は、もとは、
遊廓の出らしい。だから、そういう商売をやってるところ
を、つぶしてまわってるって話だ」

「遊廓出の議員? そんなこと、あり得るのか?」

「本当だ。しかも、この前の選挙ではトップ当選だと。

それに、網走の水道を通すのに、日本鋼管の社長に談判し
て、交渉成立させたとか聴いたぞ。おまけに、柔道の達人
だそうだ。相手がまずすぎる」

「冗談じゃねえ。そんなやつに営業妨害されたら…。組合
長、なんとかしてくれ」

「わかった。なんとか話をつけてくる」

組合長は、網走までやってくると、イセに会うと、頭を下
げて言った。

「店主も反省してますんで、なんとか穏便に…。店がつぶ
れてしまっては、女たちも仕事をうしないますし…」

何度も頭を下げられ、「私が責任をもちますので」とまで
言うので、イセも、「わかった」とうなずき、女たちを店
に帰すことにした。

けれども、完全に、店主や組合長を信用したわけではない。

表面では、きれいごとを言って、その実、裏腹なことをや
っているものたちを、さんざん見てきたからである。

3か月ほど経ったころ、イセは、予告なしに、ふたたび店
をおとずれた。

イセの顔を見た瞬間、店主の顔色が変わった。

同時に、女たちがほっとした表情を見せるのを見て、イセ
は、すべてをさとった。

「いや、あの…、これにはわけが…」

店主が言い訳するのを無視し、イセは店をあとにした。

そのまま、法務局に出向くと、「届け出にない、違法営業
をやっている店がある。とりしまってくれ」と通告した。

店は、営業停止となった。

イセは、女たちがあたらしい仕事につけるよう、とりはか
らった。

このうわさもまた、ひとびとの知るところとなり、なおい
っそう、助けをもとめる声が、イセに寄せられるようにな
るのである。


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「氷のトンネル」 
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2016年11月27日

盛況でした! ありがとうございます!

天童で産まれ網走で活躍した、中川イセさんの半生を描いた
『零(zero)に立つ〜激動の一世紀を生きた中川イセの物語〜』
※この作品は、もともと、女優・夢実子が演ずる語り劇として書かれたものを、
 脚本を担当したかめおかゆみこがノベライズしているものです。

土日祝日は、連載はお休みさせていただいています。


※これまでのあらすじと、バックナンバーは、こちら


昨日は、夢実子さんの声と言葉のレッスン、
語り劇「掌編・中川イセ物語」
かめおかの「聴く」を磨く講座。

おかげさまで、盛況でした♪

ありがとうございます!!


本日、移動日につき、詳細は今夜アップします。

まずは、感謝!!

honnbann_n.jpg
posted by 夢実子「語り劇」プロジェクト at 09:26| Comment(0) | 報告 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2016年11月26日

これまでのあらすじ/信頼関係をつなぎながら

天童で産まれ網走で活躍した、中川イセさんの半生を描いた
『零(zero)に立つ〜激動の一世紀を生きた中川イセの物語〜』
※この作品は、もともと、女優・夢実子が演ずる語り劇として書かれたものを、
 脚本を担当したかめおかゆみこがノベライズしているものです。

土日祝日は、連載はお休みさせていただいています。


これまでのあらすじ

★第1章★ いせよ誕生
明治34年(1901年)、今野安蔵・サダの娘、いせよ(のちの中川イセ)
誕生。サダは、産後の肥立ちが悪く、死を予感。ヤクザものの安蔵にあとを
託すことを怖れ、佐藤コウに里親を頼むと、その年のうちに亡くなった。
    

★第2章★ 差別と貧しさのなかで
イセは佐藤家の里子になった。佐藤家は貧しく、イセはまわりからいじめられ
たり、差別を受けたりするが、コウの愛情、親友・渡辺みよしの存在、自身の
負けず嫌いの性格で、それらをはね返して成長していく。
     10 11 12 13 14 

★第3章★ はじめての家出
10歳で実家に連れもどされイセは、学校にも行けず、仕事に明け暮れる。
11歳の夏、モヨとの口論から、初めての家出。山形の船山先生夫妻の
家で住み込みの女中をし、かわいがられるも、翌春、船山先生に満州へ
の転勤辞令が出て、再び実家にもどることになる。
15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25

★第4章★ イセの初恋
またまた家出し、米沢の寮づきの織物工場ではたらく。仲間もできて楽し
い日々。そんな中、隣に住む名家の次男坊・戸田茂雄との初恋も体験。し
かし、安蔵にイセの居場所を知られたことで、イセは実家に帰ることに…。
26 27 28 29 30 31 

★第5章★ 女優志願
実家にいる間、地域巡演で山形にきた松井須磨子(実はにせもの)にあこが
れ、家出して上京する。しかし、たずねた帝国劇場に須磨子はおらず、い
くつかの仕事を転々とするが、結局あきらめて山形にもどることになる。
32 33 34 35 36 37 

★第6章★ 運命の歯車
人絹工場、機織り工場などではたらくうち、かつて実家に出入りしていた
芸人・八重松と再会。乱暴されて子どもを身ごもり、17歳で娘・愛子を
出産。その後、北海道の遊廓への話をもちかけられ、悩んだ末、イセは3
年で500円の借金をし、そのお金で愛子を里子に出すことにする。
38 39 40 41 42 43 44 

★第7章★ 網走まで
大正7年暮れ、イセは北海道に旅立った。ところが途中で虫垂炎から腹
膜炎をおこし、到着した旭川で即入院。借金が倍の1000円となり、
網走の遊廓に売られることに。駅前の島田食堂の夫婦にかわいがられる。
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★第8章★「お職」になる!
自転車を借りて町内を乗り回したり、柔道場に通ったりしたイセだが、娼
妓になると今度は、囲碁や将棋をおぼえ、お客を楽しませる工夫をした。
また酒に強く、何度も杯を重ね、そこから収益をあげることも考えた。
51 52 53 54 55 56 57 58 59

★第9章★「小梅」の死
イセは、娼妓に乱暴した客を一本背負いで投げ飛ばすなどで、娼妓たちの
信頼を勝ち得ていった。しかし一方で、妹ぶんの「小梅」が、失恋を苦に
自死。小梅の死をきっかけに、娼妓みんなでちからをあわせることを誓う。
60 61 62 63 64 65 66 

★第10章★中川卓治という男
イセは、柔道場で出会った中川卓治と親しくなり、急速に気持ちが近づい
ていく。卓治の妹・タマは、2人の交際をはげしく反対するが、卓治はイ
セに求婚し、イセは身請けされて、ついに遊廓を出る。
67 68 69 70 71 

★第11章★樺太にて
中川家よりもイセを選んだ卓治。2人は樺太にわたり、仕事を見つけて
はたらき、暮らしを立てた。卓治は、酒がもとでけんかをして大けがを
したりもするが、ついに茂市の許しが出て、網走に帰れることになる。
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★第12章★岬の日々
網走の能取岬にある中川牧場の管理をまかされたイセたち。その雄大な
景色にイセは魅了される。乗馬も覚え、少しずつ馬との暮らしに親しみ、冬
になれば、流氷の美しさに見とれる。平和な日々がすぎていく。
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★第13章★茂市の死
卓治の父・茂市が、娘婿・東条貞の選挙資金調達で14万円の借金を残
して死去。イセと卓治はその借金を引き受ける。拓銀に50年割賦(ロー
ン)を頼むため、イセは札幌本店に出向き、交渉を成立させる。
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★第14章★戦況のなかで
借金返済のため、卓治とイセは、馬喰となった。また、念願の愛子をひき
とり、やがて、養子の清と結婚させる。しかし、清は、海軍に招集され、戦死。
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★第15章★米軍上陸?!
1945年7月、網走空襲。米軍が上陸するかも…という緊迫感のなか、イセ
は自分がおとりになるから、みんなは逃げろと宣言し、町長公宅に泊まり込む。
しかし米軍は上陸せず、8月15日、終戦をむかえる。
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★第16章★初の女性市議会議員誕生
1947年4月、網走が市政変更になったのを受け、初の市議会議員選挙。女
性参政権ができて最初の選挙となり、イセはまわりにおされて立候補。30議
席に83人の立候補だったが、下から3番目で当選。最初の街頭演説の日、
イセは、踏み切りの前に立ち、遊廓時代に亡くなった小梅に演説を聴かせる。
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★第17章★イセ、奔走す!(2016.11.18ぶんまで)
議員1期めから2期目へ。家の前でのラジオ体操。保育園建設。そして、日
本鋼管とかけあっての、網走での水道敷設。イセは精力的に動きつづけた。
なかでも、一番力を注いだのは、人権擁護の活動だった。
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いつもご愛読ありがとうございます


信頼関係をつなぎながら

昨日は、北海道新聞千歳支局におじゃましてきました。

支局長の石原宏治さんは、かつて、「私のなかの歴史」(中川
イセさん)の連載を担当されました。そのときのお話をうかが
いたいと想ったのです。

そのとき、石原さんは、まだ20代なかばだったそうです。
20代なかばの青年が、92歳のイセさんを取材したわけです。

感動しました。

単発の記事ではなく、16回の連載でした。それを、その若さ
の青年にまかせるという、デスクのふところの深さ。

しかも、それを、数回の取材でまとめたのではなく、半年もの
時間をかけて、イセさんとの信頼関係をつなぎながら、まとめ
あげたのです。

いまはなんでも、すぐ、即、みたいな雰囲気で、ものごとが流
れていきがちですが、信頼関係をつなぐには、ときに時間も必
要です。

それが許容される時代だったのか、あるいは、デスクが、若手
を育てることの意味を知っていたのか…。

おそらく、その両方であっただろうと想われるのです。

お話は、2時間にもおよび、すっかりおじゃましてしまいまし
たが、いくつものエピソードをお聴きすることができました。

この連載にも、加味されていくことになると想います。

どうぞお楽しみに!

さあ、今日はいよいよ、本日、札幌公演!

ぜひ、会場でお会いしましょう! 

おもて面小.JPG うら面小.JPG
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札幌★夢実子 語り劇「掌編・中川イセの物語」
ほか
日時/2016年11月26日(土)10時〜16時45分
会場/ちえりあ演劇スタジオ1
(地下鉄東西線宮の沢駅約5分)
詳細/こちら 
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「サロマ湖展望台」 
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2016年11月25日

物語版「零(zero)に立つ」第17章 イセ、奔走す!(9)/通巻131話

天童で産まれ網走で活躍した、中川イセさんの半生を描いた
『零(zero)に立つ〜激動の一世紀を生きた中川イセの物語〜』
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ある日のことだ。見知らぬ女性の名前で、手紙が届いた。

開けてみると、津別の料理屋につとめているという、女性か
らだった。

「助けてください。私たちは、〇〇という店につとめている
ものです。
表向きは料理やですが、裏では、男をとらせているんです。

私たちは、住み込みではたらいていて、店主におどされて、
しかたなくしたがっています。

でも、先日、◇◇さんが病気になって伏せっているとき、
『ただで置かせておくことはできない』と言って、◇◇さん
にまで、お客をとらせようとするんです。

私たちは、相談して、あなたに手紙を書くことにしました。
中川イセさんというひとは、弱い女性の味方だと、店にきた
ひとが話しているのをきいたからです」

たどたどしい筆致からは、慣れない手紙を必死で書いたこと
が伝わってくる。

津別は、網走から60キロあまり離れたところにある町である。

イセは、すぐに汽車に乗り、津別のこの店に出向いた。

(当時、網走から津別までは、網走〜美幌(びほろ)まで石北
線で行き、美幌から相生線に乗り換える。ちなみにこの相生
線は、1985年に廃線になった)

最初、名刺を見ると、店主はけげんそうな顔で、イセを見た。

「網走の議員が何しにきた」

「ちょっと気になるうわさを聴いたのでね。たしかめにきた
んですよ」

店主は、一瞬いやな顔をしたが、そっけなく言った。

「ここは津別だ。あんたには関係ない」

「あんたにはなくても、私にはあるんだよ。ちょっと、はた
らいているひとたちと、話をさせてもらいたいんだけど」

イセは、なかば強引に店主を押しきり、2階の座敷に女た
ちを集めると、話を聴いた。女たちは、全部で6人いた。

「まさか、きてくれるなんて思ってもみなかった」

涙ぐむ女たちに、

「助けをもとめられたのに、ほっとくわけにはいかないよ」

イセはそう言って、手紙を書いたという女をはじめ、ほか
の女たちの話にも耳をかたむけた。

「私たち、どうしたらいいんですか」

「ここをやめても、はたらくところがなくて…」

イセは、女たちをはげました。

「あきらめちゃだめだ。人間、本気で生きてりゃなんとかな
る。まずは、いったん、ここを出ることだ」

「でも、私たち、お金も店主に管理されてるんです」

やはり、かつての遊廓と変わらないやりかたで、女たちは自
由をうばわれていたのだった。

「だったら…」

イセは、財布からお金を出すと、そっと、女たちに手渡した。

「夜中になったら、こっそり店を抜け出して、汽車に乗って、
網走の私のうちまで逃げておいで」

女たちは、おどろいた。

「え、でも、私たち、お金を返せません」

「返さなくていい。これは私から、あんたらにやるんだか
ら。駅から、私のうちは…」

イセは、駅からの地図も書いて、女たちにわたした。

その日は、店主には何も言わず、そのまま帰った。

女たちは、あとから相談したようで、その夜の最終列車で、
6人全員が、網走までやってきた。

「よくきたね。まずは休んで、この先どうするか考えよう」

女たちは、顔を見合わせた。意を決してきたものの、先のこ
とまで、じっくり考えたわけではない。

イセも、無責任に、女たちを世間に放り出すことはできない
と考えていた。

女たちは、これまで、自分の意思などかえりみられることな
く、いつもひとの思惑に動かされて生きてきたのだ。

それは、ひととしての尊厳をうばわれた生きかたではあるが、
女たち自身も、どこかそれをよしとしてきた面があった。

自分が変わると決めなければ、だめなのだ。

これまで、大勢のひとと出会って、その生きかたを見てきた
イセは、そのことがよくわかっていた。

「本気で店を出たいのか? それとも、待遇が改善されれば、
このままはたらいてもいいのか」

イセは、女たちの話をじっくりと聴いた。

男をとらされるのはいやだ。でも、普通に料理屋としての仕
事だけでいいのであれば、これまでどおりはたらきたい。

それが、女たちの気持ちだった。

「わかった」

イセは、店主に連絡をとった。


いよいよ、明日本番!
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札幌★夢実子 語り劇「掌編・中川イセの物語」
ほか
日時/2016年11月26日(土)10時〜16時45分
会場/ちえりあ演劇スタジオ1
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2016年11月24日

物語版「零(zero)に立つ」第17章 イセ、奔走す!(8)/通巻130話

天童で産まれ網走で活躍した、中川イセさんの半生を描いた
『零(zero)に立つ〜激動の一世紀を生きた中川イセの物語〜』
※この作品は、もともと、女優・夢実子が演ずる語り劇として書かれたものを、
 脚本を担当したかめおかゆみこがノベライズしているものです。

※これまでのあらすじと、バックナンバーは、こちら


けれども、7期28年にわたる議員の仕事のなかで、イセが
もっともちからを入れたのは、なんといっても「人権擁護」
の活動だった。

それは、遊廓時代に、女性の権利、いや、ひとの生きる権利
が、どれだけ蹂躙されたかを、身をもって知っていたイセに
とって、生涯をかけるに足る仕事だった。

そもそもの活動は、議員になる前、1943年(昭和18年)
からはじまっている。

この年、イセは、北海道方面委員(戦前の民生委員)をにな
うことになった。

議員になった1947年(昭和22年)、議会のなかでこそ、まだ
発言権はもてなかったが、この年に、釧路家庭裁判所網走
支部の、家事調停委員となっている。

この仕事は、議員をやめる前年の、1974年(昭和49年)
までつづけている。

本格的に、人権擁護の活動に取り組み始めたのは、1950
年(昭和25年)、人権擁護委員に任命されてからである。

イセは、何よりも、女性がお金で買われるような制度を、なく
したかった。しかし、それは簡単なことではなかった。

少し長くなるけれども、「戦後日本の公娼制度廃止にお
ける警察の認識〜内務省警保局保安係「公娼制度廃止
関係起案綴」の分析〜
」から、引用したい。

1946年1月21日、GHQは高級副官部補佐H.W.ア
レン大佐の名前で、日本政府に対する覚書「日本における
公娼の廃止」を発し、公娼制度はデモクラシーの理想に違
反し、個人の自由発達と矛盾するという理由から、その廃
止を命じた。
(略)
しかし、廃娼が即、買売春禁止を意味するものではなかっ
た。廃娼の覚書が発表される直前の1月12日、警視庁保安
部長から「公娼制度廃止に関する件」の通達が発せられ、
公娼制度は廃止しても私娼として存続を認めることが表明
されたからである。
そして、11月14日、第一次吉田茂内閣の次官会議は、
「特殊飲食店」における買売春行為を認める決定をおこな
い、「赤線」と呼ばれる売春街が成立した。


つまり、制度そのものは廃止しても、「私娼」の存在を禁止し
なかったことから、あらたな差別の構造を生むことになるので
ある。

結局、本当の意味で、買売春が禁止される「売春禁止法」が成
立するまでに、なお6年の年月を待たなければならなかった。

もちろん、イセは、だまって手をこまぬいていたわけではない。

初の女性議員となったイセのところには、差別と人権蹂躙にあ
えぐ女性たちから、助けをもとめる声が届くようになったから
である。

イセが、遊廓の出であることを聴き知って、そんな体験をもつ
ひとであれば、きっとわかってもらえる…と、必死の想いをと
どけてくるのだ。

そうした声を聴くたびに、イセのなかに、ふつふつと怒りが湧
きあがってくる。

「同じ人間が、売買の対象にされるなんて、ゆるせない!」

その足で、店に出向いて、店主と直談判である。

イセは、けっして議員という権威をカサに着ることはなかった
が、それでもその肩書きは、それなりにものを言った。

議員じきじきから談判されて…、というよりも、イセにすごま
れれば、たじたじとなり、「待遇を改善する」と約束せざるを
得ない。

本当は、いますぐそんな商売はやめさせたい。しかし、いきな
り仕事をうしなっては、女性も生きていけない。

少なくとも、女性が合意のうえで仕事をしているなら、まず、
待遇をよくさせるのが先だ、というのがイセの考えであった。

しかし、なかには、イセを甘く見て、のらりくらりとごまかそう
とするものも、少なくなかった。

「うちは割烹屋だよ。まあ、お客のなかにはいろいろいるだろ
うけど、細かいこと言ってたら商売にならないからねえ」

「知らないっていうのかい」

「さあねえ」

イセは、店主をぶんなぐってやりたい衝動にかられたが、ぐっ
とそれをこらえた。

代わりに、眼光鋭く、言いはなつ。

「裏はとれてるんだよ。なんなら、新聞社にもちこんで、記事
にしてもらおうか。法務局に通告したっていいんだよ」

イセの口調とまなざしに、さしもの店主も青ざめた。

「ちょ…。かんべんしてくださいよ」

店主が、そっと、手付けをわたそうとするのを、イセはびしっ
とはねのけて、一喝する。

「次にくるときまでに、改善していなかったら、本当に通告す
るからね」

やがて、イセの評判を聴いて、網走以外の市町村からも、うっ
たえが届くようになった。


いよいよ、あさって本番!
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2016年11月23日

北海道新聞に情報が掲載されました!/23年前の舞台

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というわけで、応援、よろしくお願いいたします

北海道新聞に、掲載していただきました

情報クリップ.jpg

11月22日付の北海道新聞「情報クリップ」(たぶん、札幌版
になるのかと思います)に、掲載していただきました!

また、同じく、11月22日の北海道新聞に折り込みされる、
「札幌10区」にも情報が掲載されました。

札幌10区_n.jpg
札幌10区とは?
http://sapporo-talk.hokkaido-np.co.jp/prom/

そして、こんなタイミングで、すてきな出会いがありました!

いまから23年前、イセさんを主人公にした舞台「岬を駈ける
女」が、北海道演劇集団によってつくられました。

それが、札幌、網走、天童で上演されています。

今回の夢実子さんの札幌公演も、当時、演出助手をつとめてい
たかたが、開催メンバーとして加わってくださっています。

もちろん、最初からわかっていてお願いしたわけではなく、た
またまのご縁なのです。

イセさんがらみでは、こうした不思議なご縁のつながりが、び
っくりするくらいたくさんあります。

話をもどすと、その道演集の天童上演の際、地元の「若妻会」
のメンバーが、共演しているのだそうです。

そして、そのメンバーのおひとりが、夢実子さんが先日、荒
谷フェスティバルで、「掌編・中川イセの物語」を上演した
荒谷公民館の、館長さんの奥さま、佐藤恵子さんなのだそう
です。

その恵子さんが、「せっかくだから役立ててほしい」とおっし
ゃって、当時のパンフレット、台本、ちらし等を、夢実子さん
にプレゼントしてくださったのです。

今日、夢実子さんが、それを写真に撮って、フェイスブックに
アップしてくださいました。

「岬を駈ける女」台本.jpg

現物は、夢実子さんの手元にありますので、25日、札幌で
合流したときに見せていただく予定です。楽しみ!!

この23年前の公演の詳細は、今回の公演が終わったあとで、
ゆっくりご紹介させていただきますね〜

さあ、いよいよ、本番3日前です

お近くのかたに、お声かけして、ぜひいらしてくださいね


おもて面.JPG うら面.JPG

ちらし設置場所(敬称略・順不同)

ちえりあ
エルプラザ
かでる27
芸術の森
札幌市こどもの劇場やまびこ座
大通情報センター
ふれあいパンフレットコーナー(地下鉄大通りコンコース)
ターミナルプラザことにPATOS
札幌市社会協議会
豊平館
市内全図書館
中央区民センター
北区民センター
東区民センター
白石区民センター
豊平区民センター
南区民センター
西区民センター
手稲区民センター
札幌文学館
教育文化会館
札幌市資料館
近代美術館
三岸好太郎美術館図書館
山の手まちづくりセンター
澄川まちづくりセンター
情報図書館(野幌)
朝日ヶ丘地区センター
あけぼのアート&コミュニティセンター
江別ホール
ドラマシアターども
小樽図書館
小樽文学館
小樽美術館
san-en
かえるめがね
パンとケーキのショコラ
夢横丁
みんたる
まなびやカフェ あけぼの分校 給食室
コンカリーニョ
詩とパンとコーヒー・モンクール
スープカレーポレポレ
ライブ&バー アフターダーク

※お名前がもれているところがありましたら、
 お知らせください。すぐに追加いたします。


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2016年11月22日

物語版「零(zero)に立つ」第17章 イセ、奔走す!(7)/通巻129話

天童で産まれ網走で活躍した、中川イセさんの半生を描いた
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それにしても、イセの、土壇場での「はったり力(りょく)」とも
いうべき、押しの強さ。

あれは、20代、卓治と宗治とともにわたった樺太で、卓治
が消防団にからまれて、いのちを落としそうになったとき。

「柔道三段の中川イセだ。かかってこい」と言って、相手に
一目置かせた。

実は、あのときも、柔道はやってはいたが、まだ三段にはな
っていなかったのだ。

それより前、17歳のとき、自分を妊娠させた八重松に、
愛子を認知するようせまったとき。

「ことわれば、東京の新聞社の知り合いにたのんで、記事に
してもらう!」と言ったのも、やはり、はったり。

ここぞというときに繰り出される、「はったり力」は、その
つど、イセの人生を、窮地からすくってきたのだった。

自分のためではなく、誰かのためにと発したそれが、結果的
には、功を奏してきたのである。

さて、翌日である。

イセたちが、日本鋼管の応接室で緊張して待っていると、社
長とともに、5、6人のひとたちが、なかに入ってきた。

「役員のみなさんです。会議の結果をお伝えします」

社長は、役員たちを紹介し、イセたちに言った。

「みなさんの熱意に負けました。この仕事、日本鋼管が、引
き受けさせていただきます」

課長が、小躍りしそうな歓喜の表情で、イセたちを見た。

しかし、そのとたん、木下がぶるぶるとふるえだした。

契約成立はうれしいが、どうやって担保をはらおうか、その
ことを案じているのだ。

それは、イセとて同じ気持ちである。

イセは訊いた。

「あの、私たちの財産は、どうすればいいんですか?」

社長は、にこやかにこたえた。

「自治体との仕事に、個人の担保を入れることはありません
よ。いりません。あなたがたを信用して、網走市と仕事をさ
せていただきます」

その瞬間、三人とも起立して、社長と役員たちに、深々と頭
を下げた。

「ありがとうございます! 市民たちがどれほどよろこぶか
わかりません」

まさか、担保をはらわないですんでよかった、とは言えなか
ったが、うれしかったのは本心である。

こうして、2億5千万円をかけた、網走の水道敷設工事がは
じまった。

藻琴山8号目の湧水から、30キロ近く離れた網走まで、水
道管をとおす工事である。

工事は、2年の歳月をかけ、1954年(昭和29年)には
完成した。

清の忘れ形見、愛子の子ども、11歳になった尋仁が、水道
の蛇口をひねって、無色透明な水が出るのを見て、歓声をあ
げた。

「ばあちゃん! ばあちゃんの水だよ!」

それを見て、イセも目を細める。

自分が何をしたかは問題ではなかった。こうして、誰もが安
心しておいしい水を飲めることになったことが、何よりのよ
ろこびであった。

この水道事業を完成させたことで、イセの人気は、確固たる
ものとなった。

「イセばっちゃんが、からだを張って、日本鋼管と交渉して
くれたから、水道事業を引き受けてもらえた」

そんなうわさが、町じゅうをかけめぐったからである。

1955年。イセにとっては、3回目の網走市議会議員選挙。
ここで、イセは、堂々のトップ当選を果たすことになる。


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2016年11月21日

物語版「零(zero)に立つ」第17章 イセ、奔走す!(6)/通巻128話

天童で産まれ網走で活躍した、中川イセさんの半生を描いた
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社長もおどろいたようだ。

「あなたがたは、自分の財産を、担保にするんですか?」

あわてる木下を無視して、イセはいきおいづいて言った。

「もちろんです。私らは、ただ、自分の生活を楽にしたいた
めに、ここにきてるんじゃない。
未来の子どもたちのために、きてるんです。

この先、ずっと不健康な水を、子どもたちに飲ませるわけに
はいかない。
そのためなら、何を投げ出したって惜しくはないです!」

社長はだまりこんでしまった。

かたわらで、ずっと成り行きを見守っていた課長が、感極ま
ったように、口をひらいた。

「社長! 私も長年この会社につとめさせていただいてきま
したが、こんなに真剣な想いをぶつけてこられた事業者は、
はじめてです。どうか、引き受けてやってください」

社長は、めんくらったように、課長にたずねた。

「君は、このひとたちと、以前から知り合いだったのかね?」

課長は、首を横に振った。

「とんでもない。今回がはじめてです。
しかし、私は、このかたがたの気持ちに、感動しました。
こういうかたがたとこそ、一緒に仕事がしたい。

もし、会社がこの仕事をことわるというなら、私は辞表を出
します!」

イセたちもおどろいた。

好意的に、社長まで話をつなげてくれた課長ではあったが、
そこまで自分たちに気持ちを寄せてくれるとは、思ってもみ
なかったからだ。

そして、そこまで言われた社長も、こころを動かされずには
いられなかったようだ。

「…わかりました。
とにかく、申し訳ないが、私の一存でおこたえすることはで
きない。今日、緊急の役員会議をひらきます。

私としても、できるかぎりの対応はしますが、決めるのは役
員会です。明日、もう一度、きてください」

イセたちは、顔を見合わせた。先行きはまだわからないが、
一歩前進したのは、たしかである。

「どうか、よろしくお願いします!」

3人で、深々と頭を下げて、社長室を辞したのであった。

さて。この話にはつづきがある。

旅館にもどったとたん、木下が、たまりかねたように、イセ
にかみついた。

「中川さん、あんたは、なんてことを言い出すんだ! 社長
の前でなかったら、張り倒していたところだ」

イセは、ばつが悪そうな顔で、こたえた。

「だって、ああでも言わなきゃ、門前払いだったじゃないで
すか」

「そういう問題じゃない! 
そもそも、あんたの牧場の150頭の馬っていうのも、まわ
りの農家からあずかったものが大半だろう。

おれのうちの土地だって、全部、ほかの担保に入ってるんだ」

そう。実は、イセが言った牧場の馬も、木下の土地の話も、
まったくのうそではないが、半分ははったりだったのだ。

イセは、こたえた。

「そりゃ、木下さんまで巻き添えにして、申し訳なかったと
は思いますよ。でもそのおかげで、役員会議までもっていけ
たじゃありませんか」

それを聴いた助役も、イセに食ってかかった。

「それで、わかった、やりましょうって言われたらどうする
んだ! どうやって担保を払うんだ!」

そう言われて、イセも困ってしまった。何しろ、なんとか話
をつなぎとめたい一心での、思いつきだったからだ。

「いや、わたすだって、ああもすんなり、話が通るとは思っ
てもみなかったから…」

「ばかか、あんたは!」

すんでのところで、つかみあいのけんかになりそうになった
が、そのとき、宿のものが、部屋にやってきて言った。

「お客さまがいらしておりますが」

出てみると、なんと、日本鋼管の、あの課長であった。

「な、何か、忘れものでも、ありましたか?」

課長は、真顔で首を振った。

「いえ、今日のお礼にきたんです。

私、長年この仕事をしてまいりましたが、私利私欲でなく、
ここまで本気で、地域の未来を考えて、お仕事をされている
かたがたに、はじめて出会いました。感動しました!

もし、この契約がかなわなかったときには、私は、本当に、
会社をやめます! 
そのときは、どうか、網走で私を使ってください!」

そう言って、深々と頭を下げたのだ。

思いがけない展開に、イセたちは、目を白黒させて、お互い
の顔を見た。

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2016年11月20日

たとえ、名前は忘れられても…

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土日祝日は、連載はお休みさせていただいています。

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中川イセさんは、2005年の誕生日のあと、脳梗塞にたお
れ、2007年1月1日に逝去されました。

お元気であれば、まだまだやりたいことがあったと思います。

実際、晩年を過ごされた高齢者施設「いせの里」(ご自身も
設立にかかわった)にて、2014年、取材させていただい
た折には、

もうひとつ、ダンスホールつきの高齢者施設をつくりたいと
話されていた、というお話もうかがいました。

(記憶なので、多少ちがっていたらごめんなさい)

いずれにしても、高齢者がただ老いていくだけでなく、日々
のよろこびを大切にする生きかたをしてほしいと語っておら
れた、と記憶しています。

イセさん自身は、本当に、休むことなく、人生を疾走された
かただと思います。

それも、自分自身のためというよりも、いつでも誰かのため
に。ひとのために。

そんなイセさんが、病にたおれた最後の1年あまりの時間は、
ある意味、まわりのひとたちにとっては、イセさんにたいし
て、積年の恩を返せる時間。

イセさんにとっても、誰かのささえやたすけを、無条件に
受け入れる時間。(本人にとっては不本意な時間だったか
もしれませんが…)

人生って、おあいこになっているのかもしれないなあと、
そんなふうに思います。

残念ながら、たったひとりの娘さんである愛子さんの、お
子さん・尋仁さんは、20歳で亡くなってしまいます。

(これは、まだ、物語ではふれていない部分ですが、亡く
なった理由は確認できていません)

イセさんの直接の血をひくひとは、もうどなたもおられま
せん。

それもまた、運命なのかもしれません。

それよりも、血ではなく、イセさんの精神をつぐひとがい
ればいいのだと思うのです。

夢実子さんが、語り劇「零(zero)に立つ」をとおして、
イセさんの精神を伝えつづけようとしているように。

また、このところ、あちこちからお声がかかって、「中川
イセ精神を語る」という講話をされているように。

あるいは、この劇をごらんになったかた、講話を聴かれた
かたが、それをまた誰かに伝えていくことで、イセさんの
想いはつながっていくのだと想います。

ちょうど、イセさんたちの尽力によって開通した、網走の
水道が、いまもなお、おいしい水を、イセさんのことを知
らない網走市民にも提供しつづけているように、

たとえ、「中川イセ」という名前は忘れられても、その底
に流れる生きかた、ありかたが、伝わっていけばいいのだ
と思います。

勝手な想像ですが、天国のイセさんも、同じように思って
くださるのではないでしょうか。

作家としては何の名もない私ですが、こうしてあらためて、
イセさんの物語をリメークすることをとおして、

その、伝わりの一端をになうことができれば、私のいのち
をも、少しは有効に使うことができたのかなと、思ってみ
たりもするのです。


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網走市観光協会さまのサイトより、ご承諾を得て
網走の写真をお借りしています。ありがとうございます。
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一般社団法人網走市観光協会さまご提供
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2016年11月19日

これまでのあらすじ/国家の繁栄と国民の幸福を願って

天童で産まれ網走で活躍した、中川イセさんの半生を描いた
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土日祝日は、連載はお休みさせていただいています。


これまでのあらすじ

★第1章★ いせよ誕生
明治34年(1901年)、今野安蔵・サダの娘、いせよ(のちの中川イセ)
誕生。サダは、産後の肥立ちが悪く、死を予感。ヤクザものの安蔵にあとを
託すことを怖れ、佐藤コウに里親を頼むと、その年のうちに亡くなった。
    

★第2章★ 差別と貧しさのなかで
イセは佐藤家の里子になった。佐藤家は貧しく、イセはまわりからいじめられ
たり、差別を受けたりするが、コウの愛情、親友・渡辺みよしの存在、自身の
負けず嫌いの性格で、それらをはね返して成長していく。
     10 11 12 13 14 

★第3章★ はじめての家出
10歳で実家に連れもどされイセは、学校にも行けず、仕事に明け暮れる。
11歳の夏、モヨとの口論から、初めての家出。山形の船山先生夫妻の
家で住み込みの女中をし、かわいがられるも、翌春、船山先生に満州へ
の転勤辞令が出て、再び実家にもどることになる。
15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25

★第4章★ イセの初恋
またまた家出し、米沢の寮づきの織物工場ではたらく。仲間もできて楽し
い日々。そんな中、隣に住む名家の次男坊・戸田茂雄との初恋も体験。し
かし、安蔵にイセの居場所を知られたことで、イセは実家に帰ることに…。
26 27 28 29 30 31 

★第5章★ 女優志願
実家にいる間、地域巡演で山形にきた松井須磨子(実はにせもの)にあこが
れ、家出して上京する。しかし、たずねた帝国劇場に須磨子はおらず、い
くつかの仕事を転々とするが、結局あきらめて山形にもどることになる。
32 33 34 35 36 37 

★第6章★ 運命の歯車
人絹工場、機織り工場などではたらくうち、かつて実家に出入りしていた
芸人・八重松と再会。乱暴されて子どもを身ごもり、17歳で娘・愛子を
出産。その後、北海道の遊廓への話をもちかけられ、悩んだ末、イセは3
年で500円の借金をし、そのお金で愛子を里子に出すことにする。
38 39 40 41 42 43 44 

★第7章★ 網走まで
大正7年暮れ、イセは北海道に旅立った。ところが途中で虫垂炎から腹
膜炎をおこし、到着した旭川で即入院。借金が倍の1000円となり、
網走の遊廓に売られることに。駅前の島田食堂の夫婦にかわいがられる。
45 46 47 48 49 

★第8章★「お職」になる!
自転車を借りて町内を乗り回したり、柔道場に通ったりしたイセだが、娼
妓になると今度は、囲碁や将棋をおぼえ、お客を楽しませる工夫をした。
また酒に強く、何度も杯を重ね、そこから収益をあげることも考えた。
51 52 53 54 55 56 57 58 59

★第9章★「小梅」の死
イセは、娼妓に乱暴した客を一本背負いで投げ飛ばすなどで、娼妓たちの
信頼を勝ち得ていった。しかし一方で、妹ぶんの「小梅」が、失恋を苦に
自死。小梅の死をきっかけに、娼妓みんなでちからをあわせることを誓う。
60 61 62 63 64 65 66 

★第10章★中川卓治という男
イセは、柔道場で出会った中川卓治と親しくなり、急速に気持ちが近づい
ていく。卓治の妹・タマは、2人の交際をはげしく反対するが、卓治はイ
セに求婚し、イセは身請けされて、ついに遊廓を出る。
67 68 69 70 71 

★第11章★樺太にて
中川家よりもイセを選んだ卓治。2人は樺太にわたり、仕事を見つけて
はたらき、暮らしを立てた。卓治は、酒がもとでけんかをして大けがを
したりもするが、ついに茂市の許しが出て、網走に帰れることになる。
72 73 74 75 76 77 78 79 80 81 82 83 84 

★第12章★岬の日々
網走の能取岬にある中川牧場の管理をまかされたイセたち。その雄大な
景色にイセは魅了される。乗馬も覚え、少しずつ馬との暮らしに親しみ、冬
になれば、流氷の美しさに見とれる。平和な日々がすぎていく。
85 86 87 88 89 90 

★第13章★茂市の死
卓治の父・茂市が、娘婿・東条貞の選挙資金調達で14万円の借金を残
して死去。イセと卓治はその借金を引き受ける。拓銀に50年割賦(ロー
ン)を頼むため、イセは札幌本店に出向き、交渉を成立させる。
91 92 93 94 95 96 97 98 99

★第14章★戦況のなかで
借金返済のため、卓治とイセは、馬喰となった。また、念願の愛子をひき
とり、やがて、養子の清と結婚させる。しかし、清は、海軍に招集され、戦死。
100 101 102 103 104 105 106 107 108 109 110 
111 112

★第15章★米軍上陸?!
1945年7月、網走空襲。米軍が上陸するかも…という緊迫感のなか、イセ
は自分がおとりになるから、みんなは逃げろと宣言し、町長公宅に泊まり込む。
しかし米軍は上陸せず、8月15日、終戦をむかえる。
113 114 115 116 117

★第16章★初の女性市議会議員誕生
1947年4月、網走が市政変更になったのを受け、初の市議会議員選挙。女
性参政権ができて最初の選挙となり、イセはまわりにおされて立候補。30議
席に83人の立候補だったが、下から3番目で当選。最初の街頭演説の日、
イセは、踏み切りの前に立ち、遊廓時代に亡くなった小梅に演説を聴かせる。
118 119 120 121 122

★第17章★イセ、奔走す!(2016.11.18ぶんまで)
古株議員の圧力で何もできない議員1期めから2期目へ。イセは自分にできる
ことを精力的にやりはじめた。家の前でのラジオ体操。保育園建設。そして、
日本鋼管とかけあっての、網走での水道敷設。市の年間一般会計が1億5千万
円の時代に、2億5千万円かかる工事を、どうやって引き受けてもらうのか…。
123 124 125 126 127

いつもご愛読ありがとうございます


国家の反映と国民の幸福を願って

これまで、主要資料とさせていただいていた、山谷一郎さん
の「岬を駈ける女」は、イセさんが市議会議員になるところ
で終わっています。

いまは、石原宏治記者の聴き語り「(中川イセ)私のなかの
歴史」(北海道新聞連載)を資料とさせていただいています。

新聞記事ですから、あまり詳細は書かれていません。そこは、
想像力でおぎなって書いています。

また、時代が近くなってきたことで、これまでよりいっそう、
時代考証が必要になることも多々あります。

また、このくらい近い時代になると、ネットの資料も充実し
ていて、検索さえうまくやれば、いろいろ出てくるものです。

おかげで、あたらしい発見もたくさんありました。

以前、地域の市民ミュージカルで、明治の実業家、渋沢栄一、
岩崎弥太郎、安田善次郎…のあたりをあつかったことがあり、

(登場人物は男性ばかりなのに、出演者の8割が女性もしく
は子どもで、どうしようかと思った記憶が…)(笑)

「日本鋼管」の歴史を調べているときに、渋沢栄一が設立に
かかわっていることを知り、ほう…と感動したものです。

当時の実業家も、政治家たちも、私利私欲より、国家の繁栄
と国民の幸福に、気持ちが向いていたように感じます。

ある友人いわく
「昔は、与党野党問わず、困っているひとのために、足で歩
いて(自分が動いて)、はたらいた政治家たちがいた」と。

どうも、過去形に書いてしまうと、怒られそうですが、いま、
どれだけの実業家・政治家のかたがたが、本気で、市民の想
いに耳をかたむけ、おおきな展望をもって仕事をされている
のかなあ。

市町村クラスの議会議員には、何人か友人がいて、その友人
たちは、がんばっているようすが見えますが…。

そして、イセさんもそういうひとりだったのだと思います。

「日本鋼管」のお話のあと、次は、イセさんの本領発揮の
お話があります。来週をお楽しみに!

そしてそして、いよいよ、いよいよ、札幌公演が来週末にせ
まりました。

ぜひ、会場でお会いしましょう! 

ご参加になれないかたは、どうぞ、札幌周辺のお友だちな
どに、お知らせしていただけるとうれしいです。

ブログ、メルマガ、フェイスブック等での告知も、大歓迎です!


ちらし設置場所(敬称略・順不同)

ちえりあ
エルプラザ
かでる27
芸術の森
札幌市こどもの劇場やまびこ座
大通情報センター
ふれあいパンフレットコーナー(地下鉄大通りコンコース)
ターミナルプラザことにPATOS
札幌市社会協議会
豊平館
市内全図書館
中央区民センター
北区民センター
東区民センター
白石区民センター
豊平区民センター
南区民センター
西区民センター
手稲区民センター
札幌文学館
教育文化会館
札幌市資料館
近代美術館
三岸好太郎美術館図書館
山の手まちづくりセンター
澄川まちづくりセンター
情報図書館(野幌)
朝日ヶ丘地区センター
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江別ホール
ドラマシアターども
小樽図書館
小樽文学館
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まなびやカフェ あけぼの分校 給食室
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詩とパンとコーヒー・モンクール
スープカレーポレポレ
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 お知らせください。すぐに追加いたします。

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日時/2016年11月26日(土)10時〜16時45分
会場/ちえりあ演劇スタジオ1
(地下鉄東西線宮の沢駅約5分)
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2016年11月18日

物語版「零(zero)に立つ」第17章 イセ、奔走す!(5)/通巻127話

天童で産まれ網走で活躍した、中川イセさんの半生を描いた
『零(zero)に立つ〜激動の一世紀を生きた中川イセの物語〜』
※この作品は、もともと、女優・夢実子が演ずる語り劇として書かれたものを、
 脚本を担当したかめおかゆみこがノベライズしているものです。

※これまでのあらすじと、バックナンバーは、こちら


依頼書は出していたものの、正式な交渉受諾の返事をもらっ
ていたわけではない。

まずは、訪問して、面会を取り付けなければならない。

3人で、日本鋼管に通う日々がはじまった。

さいわい、事業部の課長には、わりとすんなりつないでもら
うことができた。

イセたちの熱意をこめたうったえに、課長はこころを動かさ
れたようだ。

「いや、お話はよくわかりました。そんな状態では、町のみ
なさんもお困りでしょう。私のほうから上のほうにつないで
みますから、何日かお待ちください」

3人はほっとして宿に帰った。

そして待つこと数日、課長から連絡が入った。

「社長が、会ってもよいということです!」

3人は、小躍りしてよろこんだ。とはいえ、まだ、工事をひき
うけてもらえたわけではない。

会社に出向き、南部助役と木下市議が事業企画書をひろ
げ、説明をする。

ひとしきり説明を終えたところで、するどい指摘が飛んだ。

「これでは、担保が足りませんな。概算で工事費は2億をく
だらないでしょう。それに見合う担保を出してください」

言われることは予想していた。

「そこを、なんとかお願いしたくて、まいったのです。我が市
としても、これが限界なものですから」

頭を下げるが、聴きいれてはもらえない。

「うちも道楽で会社をやっているわけではありませんからね」

2人のそばで、だまって聴いていたイセが、口をはさんだ。

「失礼ながら、私どもが、日本鋼管さんに工事をお願いした
いと思ったのは、日本鋼管さんが、国民のために仕事をなさ
る、立派な会社だと思ったからです」

社長は、おどろいた顔をして、イセを見た。

「これまでだって、全国で、地域の活性化につながるような
仕事を、たくさんなしとげてこられたではないですか。

それなのに、北海道の東の果てで、一所懸命生きているひと
たちのためには、ちからを貸してくださらないのですか。

きれいでおいしい水が飲めるということは、町のひとたちに
とっては、いのちにかかわることなんです!」

助役と木下は、あわてて、イセの袖を引っ張ったが、イセは
ふりかえりもせず、まっすぐに社長を見据えたままだ。

社長は、イセのことばにこころを動かされたようだ。

「いや、たしかに、私どもは創業当初から、国家の繁栄と、
国民のみなさんの幸福につながる事業を理念にかかげて、
さまざまな事業を推進してきました。

けっして、私益のみをもとめてきたわけではありません」

「そんなら、おわかりいただけるでしょう。

いま、網走の市民は、その日の飲み水を確保するために、
毎日、ひとの家の前に、行列をつくって水をもらわらなけ
ればならないような状況に、おかれているんです。

この苦しい状況を、助けてはくださらないのですか」

イセは、さらに詰め寄った。

社長は、うっと息をのんだが、少しの沈黙ののち、申しわけ
なさそうな顔でこたえた。

「お気持ちはわかりました。しかし、そうはいっても、担保の
とれない仕事を、はいそうですかと引き受けることはできない
んですよ。会社は、私ひとりのものではありませんから」

こうして、話は、振り出しに戻ってしまった。

助役と木下は、やっぱりだめかというように、そっと顔を見
合わせた。

かたわらで、やりとりを聴いていた課長も、気の毒そうに、
イセたちを見ている。

しかし、イセは、引き下がろうとしなかった。

さらに一歩、社長に詰め寄ると、こう言い放った。

「わかりました。そんでは、うちの牧場を担保に入れます。
うちは、300uのでっかい牧場に、馬を150頭飼ってま
す。それ全部、担保にしてください。それで足りなければ…」

イセは、ちらっと木下を見た。

「ここにいる、木下の土地も入れます。木下は、網走に土地
をいっぱいもってます。それもあわせて担保に入れる。それ
でもまだ足りないですか!」

その瞬間、木下の顔色が変わり、目がおよいだ。


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日時/2016年11月26日(土)10時〜16時45分
会場/ちえりあ演劇スタジオ1
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2016年11月17日

物語版「零(zero)に立つ」第17章 イセ、奔走す!(4)/通巻126話

天童で産まれ網走で活躍した、中川イセさんの半生を描いた
『零(zero)に立つ〜激動の一世紀を生きた中川イセの物語〜』
※この作品は、もともと、女優・夢実子が演ずる語り劇として書かれたものを、
 脚本を担当したかめおかゆみこがノベライズしているものです。

※これまでのあらすじと、バックナンバーは、こちら


明治末期、ガス・水道事業の発展にともない、国内では、製
鉄会社が相次いで設立された。

そんななかで、1912年に設立されたのが、日本鋼管である。

設立に当たっては、当代の実業家・渋沢栄一が発起人に名を
連ね、どれだけこの会社の設立にちからを入れていたかをう
かがわせる。

戦後も、脈々と生き残ってきた会社のひとつである。

イセたちは、この日本鋼管に、網走の水道事業を委託しよう
と決めた。

「しかし、引き受けてくれるかね。1年ぶんの一般関係予算
より、工事費のほうが高いんだからな」

「おおきな工事をするときには、何年か分割で払うのは、ほ
かでもやっていることだ」

「それでも、もっと資金を確保してからでないと、交渉のテ
ーブルについてもらえないのでは」

「それではいつ着手できるかどうかわからないぞ」

「まずは交渉だ。東京まで行って、直接交渉するしかない」

「誰が行く?」

議員たちは、顔を見合わせた。

これまで、地元出身の国会議員のところに陳情に行くという
ことはあっても、一大事業の交渉になど、そうそう立ち合っ
たものはいない。

まして、行けばいいというものではない。相手を説得して、
交渉を成立させる必要があるのである。

ひとりは、市長か助役かということになり、結局、南部正助
役に決まった。

もうひとりは、木下弥三吉市議。木下は、戦前から登山の愛
好者で、網走山岳会の創設者でもある。

知床登山道の開削にはじめて取り組んだ功績もある。

いまも、知床には「木下小屋」という山小屋があり、木下を
顕彰する記念碑が建っている。

藻琴山の湧水を発見することができたのも、この木下の豊富
な山岳知識によるところがおおきい。

もうひとり、というところで、イセに白羽の矢が立った。

「あんたが行ってくればいい」

「わたすが?!」

水道敷設の話を、議会に提案したのは、たしかにイセである
が、議員2期目。まだ何の実績もない。

「女性代表っちゅうことだ」

これまでさんざん、「素人は」「女のくせに」と言っていた
くせに、腑に落ちないところはあったが、交渉に参画できる
のはいやなことではない。

「わかりました。引き受けさせていただきます」

こうして、3人は、東京に向かうことになった。

ちなみに、網走地方には、現在、女満別空港があり、東京へ
の直行便がたくさん出ているが、当時、網走から東京へ行く
には、いったん札幌に出るしかなかった。

ちなみに、女満別空港は、1935年、気象観測用の飛行場
としてつくられたものを、戦時中、海軍が美幌第二飛行基地
として使用していた。

戦後、連合国軍により爆破され使用不能になり、1952年、
アメリカ軍が接収。1958年に返還されている。

また、札幌から東京に行くにも、現在の新千歳空港は、まだ
できておらず、航空自衛隊千歳基地の飛行場を、民間と共有
していた。

もともと敗戦直後から、GHQが、すべての日本国籍の飛行
機の運航を停止しており、それが解除されたのは、1950
年のこと。

羽田−札幌航路の開設も、1951年11月のことであり、
そうでなければ、東京まで、陸路で行かなければならなかっ
たろう。

そんなわけで、これが、イセの飛行機搭乗初体験となる。

いつもは、議会で熱弁をふるい、古株議員をやりこめたりす
るイセも、このときは、まるで、子どものようであった。

飛行機が離陸した瞬間に、「わっ! 地球から離れた!」と
叫び、まわりで聴いていたものが吹き出した。

そのあとも、上昇するときには、「わー、酔いそう!」
上空にあがってからも、「すごい! 雲が下に見える!」
乱気流でゆれると、「お、落ちないかね」

そのたびに、まわりがくすくす笑うものだから、南部助役と
木下市議が、「だまってろ!」と命じる始末。

1952年(昭和27年)はじめのことである。


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2016年11月16日

物語版「零(zero)に立つ」第17章 イセ、奔走す!(3)/通巻125話

天童で産まれ網走で活躍した、中川イセさんの半生を描いた
『零(zero)に立つ〜激動の一世紀を生きた中川イセの物語〜』
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「ばっちゃん、また、水もらってもいいかい?」

「ああ、いいよ。好きなだけ汲んでいきな」

毎朝のように、イセの家には、ひとがくる。

網走では、昔から、水がまずいと言われていた。

井戸を掘ると、黄色いしょっぱい水が出てくる。場所によっ
ては、アンモニア臭までする。

原因は、わからない。土中の鉱物や植物が影響しているとも
言われていた。

いずれにしても、まずくて、そのままではとても飲用にはで
きない。

そのため、ひとびとは、自分たちで工夫して水を濾過したり、
網走湖まで汲みにいったり、たまたま飲める水が出るところ
から、分けてもらったりしていた。

そして、そのまともな水の出る井戸のひとつが、イセの家の
井戸だった。

そんなわけで、毎朝、イセの家の前には、バケツをもって、
水をもとめるひとびとの行列ができた。

ときにその行列は、50人にもおよぶことがあった。

「ばっちゃん、この水のこと、なんとかならんもんかね」

水汲みにきたひとから、相談されることもしばしばであった。

イセも、気になっていたことであったから、議員2期目にな
ると、さっそく、この議題を議会に提案した。

「きちんとした水道を引いて、市民が安心して、おいしい水
を飲めるようにしなければなりません」

これには、さすがに反対する議員はいなかった。

水道敷設にかかわるチームが立ち上げられ、提案者のイセも、
そこにくわわることになった。

まずは、水源さがしである。

市内のいくつかの湧き水、あるいは、網走湖の伏流水などが、
候補としてあげられた。現地調査もおこなわれた。

「水質からいって、だめでしょう」

「水質はいいとして、水量が足りませんよ」

「いま、水量は足りてるが、将来はどうかね」

そんなふうに意見がかわされた。

そんななかであがってきたのが、藻琴(もこと)山八号目の
湧き水である。

たしかに、藻琴山の湧き水といえば、知るひとぞ知る名水で、
水質・水量ともに申し分ない。

しかし、問題があった。

藻琴山は、1947年に網走から分村した東藻琴村に位置する。

網走市からは約30キロの距離がある。

東藻琴村との調整はつけられるとしても、その距離に上下水
道を敷設するためには、莫大なお金がかかる。

試算した結果、総工費約2億〜2億5千万円、かかると予想
された。

当時の網走市の年間一般予算が、1億6千万円の時代に、で
ある。

「引き受けてくれる会社があるのかね」

「やってみなけりゃ、わからんでしょう」

イセは、立ち上がった。


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2016年11月15日

物語版「零(zero)に立つ」第17章 イセ、奔走す!(2)/通巻124話

天童で産まれ網走で活躍した、中川イセさんの半生を描いた
『零(zero)に立つ〜激動の一世紀を生きた中川イセの物語〜』
※この作品は、もともと、女優・夢実子が演ずる語り劇として書かれたものを、
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市議会は、基本的に、本会議と常任委員会、そしていくつか
の特別委員会などから成り立っている。

もともと、なにごとも、一番が好きなイセである。

議会で、それなりの動きをするには、常任委員長になるのが
手っとり早いと考えたのである。

おどろいたのは、古株の議員たちである。

本会議の議長や、常任委員会の委員長などは、何期かつとめ
た、ベテランの議員がつとめるのが常識である。

それを、2期目で、何の実績もないイセが、しかも男性議員
をさしおいて…。

当然、よってたかって、「無理だ」「できるわけがない」と
の反対の声が湧き起こった。

しかし、5位当選で勢いづいているイセは、ひるまない。

「わたすがやって、何が悪い!」

持ち前の、負けん気が頭をもたげる。何をどう言われても一
歩も引かない。

「とにかく、ほかに立候補がいなければ、わたすで決まりじ
ゃないかね」

イセにそう詰め寄られ、このままではまずいと、古株議員の
ひとりが、名乗りをあげた。

「冗談じゃない。それなら、私も立候補しますよ」

しかし、議会では、たいてい、あうんの呼吸でものごとが決
まっていくから、こんな場合の前例がない。

「多数決で決めてはどうかね」という意見が出たが、またま
た、イセがかみつく。

「そんなら、きちんと選挙にすべきだ。それぞれ、何をやり
たいかを表明して、それを吟味してもらう。そのうえでなけ
れば、不公平だ」

古株の議員たちは、イセのしつこさに辟易してきた。ついに、
議長がこう言った。

「じゃんけんで決めたら、いいじゃないですか」

委員長未体験のイセに何ができるか。就任して、まごまごし
て音を上げれば、それで交代すればいい。

…そんな思惑もはたらいたのかもしれない。

ほかのみんなも、「それでいいんじゃないですか」と言い出
し、本当に、じゃんけんで決めることになってしまった。

結果は、イセの勝ちであった!

網走市議会に、初の女性委員長誕生である。

まわりの思惑をよそに、イセは、みごとに委員会を仕切った。

1期目の4年間、「素人は引っ込んでろ」と言われ、だまっ
て議会のようすを観察してきた。

そのかん、どんなふうに会議を進行すれば、うまくいくのか。
議論をもりあげるには何が必要なのか。ずっと考えてきた。

だから、まごまごすることなど、なかったのである。

大切なことは、まず、町民の声を聴くこと。

何が足りていて、何が足りていないのか。何が困っているこ
とで、何を優先的に解決すべきなのか。

しっかりリサーチして、不公平のないように対応する。それ
が、議会の仕事だと思うようになってきた。

とりわけ、イセの関心事は、子どもの教育にあった。

子どもは、未来の宝。そのためには、しっかりした教育環境
をととのえる必要がある。

そのためには、保育園を充実すべきだと考えた。

日本の保育園の歴史は、1871年(明治4年)、アメリカの
宣教師がひらいたのがはじまりである。

その後、日本人によって、さまざまな形態の保育園がつくら
れるが、正式には、1948年(昭和23年)、児童福祉法の
制定により、保育園が法的な位置づけをもつことになる。

これを知ったイセは、積極的に市にはたらきかけ、保育園設
置をすすめるのである。

また、市内のあちこちに、公園をつくった。

子どもたちは、それまで、海や山で遊んでいたが、それだけ
でなく、みぢかで安全な環境で遊べる場もつくりたかったの
である。

けれども、イセの仕事はこれだけではない。

網走のひとが、たとえ、中川イセの名前を知らなくても、き
っと感謝せずにはいられない仕事を、イセはなしとげるので
ある。


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札幌★夢実子 語り劇「掌編・中川イセの物語」
ほか
日時/2016年11月26日(土)10時〜16時45分
会場/ちえりあ演劇スタジオ1
(地下鉄東西線宮の沢駅約5分)
詳細/こちら 
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2016年11月14日

物語版「零(zero)に立つ」第17章 イセ、奔走す!(1)/通巻123話

天童で産まれ網走で活躍した、中川イセさんの半生を描いた
『零(zero)に立つ〜激動の一世紀を生きた中川イセの物語〜』
※この作品は、もともと、女優・夢実子が演ずる語り劇として書かれたものを、
 脚本を担当したかめおかゆみこがノベライズしているものです。

※これまでのあらすじと、バックナンバーは、こちら


右も左もわからぬまま、議員になったイセだったが、最初か
ら何もかもうまくいったわけではない。

古株議員たちから、いきなり釘を刺された。

「弱い立場の味方だかなんだか知らないが、行政のことなど
ひとつも知らんのだろう。じゃまになるだけだから、素人は、
口を出すな」

「素人は」ということばには、同時に「女は」というニュア
ンスもこめられていた。

女のイセが当選したことで、落選した現職議員もいた。そこ
への恨みも、暗黙のうちにあったにちがいない。

頭ごなしのその言いかたに、イセはむっときたが、たしかに、
何も知らないのはたしかである。

議会では、ただすわっていることしかできなかったが、その
あいだに、過去の資料などをひっくり返し、少しずつ勉強を
はじめた。

その一方で、自分にもできることはないかと考えてみた。

元刑事で、武術家の武田時宗を師範にはじめた合気道の道場
は、次第に、参加する子どもたちもふえ、盛況となった。

暮らしが落ち着いてきたこともあいまって、けんかや泥棒の
話を聴くことも、このところ、減ってきたようである。

それでも、ひとびとの暮らしは、まだ完全に回復したわけで
はない。

イセは、子どもたちが何か、気持ちをひとつにしたり、元気
が出たりする活動はないかと考えた。

子どもが元気になれば、町が活気づく。そこで思いついたの
が、ラジオ体操である。

ラジオ体操は、旧通産省が主導し、日本人の体格向上のため、
「老若男女を問わず、誰にでも平易にでき、内でも外でも、い
かなる場所でもできる」体操として、開発されたものである。

昭和のはじめにはじまって、すでに広く知られていた。

このころ、イセたちは、能取の牧場を完全に宗治にまかせて、
網走の町のなかに住むようになっていた。

議員の活動をするうえでも、そのほうが都合がよかったので
ある。

その自宅の前に、広場のようになっている空き地があったの
で、そこを会場にすることにした。

まずは、近所の子どもたちに声をかけてみた。

「やってみないかい」

「いいよー」

6時半。毎朝のラジオ体操がはじまった。

はじめてみると、これが予想以上に楽しかった。

何より、毎朝、子どもたちの元気な笑顔が見られる。

娯楽らしい娯楽など、ほとんどない時代である。評判を聴い
て、たちまち子どもたちが集まりはじめた。

子どもたちは、気さくなイセのことを、「ばっちゃん」と呼ん
で、慕うようになった。

「ばっちゃん、おはよう!」

「ばっちゃん、今日は、友だちをつれてきたよ!」

そうなると、イセもますます楽しくなるので、皆勤賞やら努
力賞などをもうけて、もりあげる工夫をした。

飴玉やら、ちょっとしたお菓子を自腹で買って、賞品にした。

やがて、通ってくる子どもの数は、100人を超えるように
なった。

それにつれて、子どもたちの親ともかかわりが生まれる。

よもやま話で、日々の生活のなかで困っていることや、相談
事のあれこれなどを聴いていると、自然に町のなかのことが
わかってくる。

それは、議会ですわっているだけでは得られない知識だった。

そんなふうにして、議員生活第1期が終わった。

そして、第2回目の市議会議員選挙。

イセは、30議席中、5番目の得票率で当選した。初回が27
番目だったことを思えば、大躍進である。

「よしっ!」

イセは、勢い込んで、議会に出向き、宣言した。

「わたすが、常任委員長になる!」


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2016年11月13日

演劇が生み出す価値

天童で産まれ網走で活躍した、中川イセさんの半生を描いた
『零(zero)に立つ〜激動の一世紀を生きた中川イセの物語〜』
※この作品は、もともと、女優・夢実子が演ずる語り劇として書かれたものを、
 脚本を担当したかめおかゆみこがノベライズしているものです。

土日祝日は、連載はお休みさせていただいています。

※これまでのあらすじと、バックナンバーは、こちら


今日はちょっと閑話休題。

私は中学校で演劇部に入って以来、ずっと演劇とかかわる活
動をしています。

夢実子さんも、小学校のころから舞台にあこがれ、高校で演
劇部、その後、地域の劇団を経て、東京で声優や舞台の仕事
をし、現在は、地元を拠点に活動をつづけています。

日本では、演劇は、まだまだ、「少数派」という印象が否め
ません。

もちろん、劇団〇季など、広く知られている劇団もあります
が、多くのひとにとって、演劇は、日常とは関係のない世界
です。

これ、日本人にとっては、当たり前の感覚なのですが、世界
的に見ると、逆に少数派なんですよね。

たとえば、多くの先進国では、小学校に、(正規の授業とは
かぎりませんが)「演劇」の授業が存在します。

あるとき、海外の児童文学を読んでいたら、「演劇の時間」
ということばが、当たり前のように出てきて、おどろいた
記憶があります。

ただし、日本では演劇というと、即舞台発表をイメージしや
すいのにたいして、海外のそれらは、発表は必須ではありま
せん。

さまざまな表現を体験する機会として、演劇が活用されてい
るのです。

舞台をつくるのは、高学年、場合によっては中学校以降とい
うところさえあります。

また、それ以外に、発表の機会としては、キリスト教圏では、
クリスマスの生誕劇がありますね。

そんな土壌があるせいか、おとなになっても、演劇と親しむ
おとなが多いのです。

演劇の王国・イギリスでは、街のそこかしこに、ちいさな劇
場があり、「シアターパブ」なのものがあると聴いて、うら
やましく想った記憶があります。

また、ジャズダンスやヨガをやるような感覚で、一般のひと
のための演劇教室があり、趣味感覚で、演劇を楽しむのだ
そうです。

家族で食事を楽しんだあと、観劇に…なんて、うらやましい
スタイルだってあるのです。

ヨーロッパには、劇場が街の文化の拠点になっているところ
もある、と聴いたこともあります。

国立の劇団のある国もあります。

そういう話を聴くと、つくづく、この日本の状況が残念だな
あと感じてしまうのです。

子どものころから、もっと、自分を表現するチャンスに恵ま
れていたら、もっと、自分の気持ちを伝えることができるよ
うになるのではないでしょうか?

それに、演劇は、総合芸術と呼ばれるのですが、どんな子ど
もにも、才能を活かせるチャンスがあるんです。

ひとまえに立ちたい子には、役者の役割。全体をまとめたい、
リーダーシップをとりたい子には、演出。

スタッフもさまざまです。音響、照明、衣装、メーク、小道
具、大道具、その他特殊効果。そして、舞台全体を統括する
舞台監督の仕事もあります。

舞台に立つ役者さんだけが大切なではなく、スタッフの誰が
欠けても舞台は成り立ちません。

お芝居をつくる過程には、さまざまなドラマがうまれます。

それを乗り越えて、ひとつの作品を完成させることで、チー
ムワークがうまれ、ひととつながるよろこびも体験できます。

さまざまな人種が集まる国では、お互いのちがいを知り、お
互いを尊重しあう必要があり、演劇はそれを体験する、大事
な時間になるともいえます。

演劇には「競争」はありません。順位づけもありません。な
ぜなら、表現には優劣は存在しないからです。

もちろん、技術的、技巧的な優劣はありますが、もしそれだ
けを「表現」というのなら、人間でなくてもできてしまう可
能性がありますからね。

そのひとが、そのひとでしかあらわせないかたち。それが表
現なのです。

その表現を尊重しあうときに、互いのこころに和がうまれ、
仲間の輪がつながります。

私は、演劇(表現)にふれることは、平和へのプロセスだと
信じているのです。

それは、いま、一緒に、「零(zero)に立つ」や「掌編・中川
イセ物語」をつくっている、夢実子さんも同じ気持ちだと想
います。

どうか、その気持ちに共感してくださるかたに、ぜひ、今回
の作品を観にきていただきたいと想っています。

中川イセさんという、ひとりの魅力ある存在が、かつて(20
〜30年前)は本にもなり、テレビドラマにもなったけれど、
ときを経て、忘れられてしまう。

それって、とてももったいないことです。

私たちのこの活動は、私たちのみぢかに存在した、魅力ある
人物をとおして、生きかたの多様さ、生きることのゆたかさ
を伝えることでもあると想っています。

この記事をお読みのあなたは、札幌から遠いところに住んで
おられるかもしれませんが、あなたがこの記事を、ブログや
フェイスブックなどでシェアしてくださると、

あなたとつながる誰かに届くかもしれません。

そのひとは、こうした出会いをもとめているかもしれません。

当日まで、あと2週間を切りました。ぜひ、応援していただ
けたらうれしいです♪


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2016年11月12日

これまでのあらすじ/ぜひ、ちらしをごらんください。

天童で産まれ網走で活躍した、中川イセさんの半生を描いた
『零(zero)に立つ〜激動の一世紀を生きた中川イセの物語〜』
※この作品は、もともと、女優・夢実子が演ずる語り劇として書かれたものを、
 脚本を担当したかめおかゆみこがノベライズしているものです。

土日祝日は、連載はお休みさせていただいています。


これまでのあらすじ

★第1章★ いせよ誕生
明治34年(1901年)、今野安蔵・サダの娘、いせよ(のちの中川イセ)
誕生。サダは、産後の肥立ちが悪く、死を予感。ヤクザものの安蔵にあとを
託すことを怖れ、佐藤コウに里親を頼むと、その年のうちに亡くなった。
    

★第2章★ 差別と貧しさのなかで
イセは佐藤家の里子になった。佐藤家は貧しく、イセはまわりからいじめられ
たり、差別を受けたりするが、コウの愛情、親友・渡辺みよしの存在、自身の
負けず嫌いの性格で、それらをはね返して成長していく。
     10 11 12 13 14 

★第3章★ はじめての家出
10歳で実家に連れもどされイセは、学校にも行けず、仕事に明け暮れる。
11歳の夏、モヨとの口論から、初めての家出。山形の船山先生夫妻の
家で住み込みの女中をし、かわいがられるも、翌春、船山先生に満州へ
の転勤辞令が出て、再び実家にもどることになる。
15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25

★第4章★ イセの初恋
またまた家出し、米沢の寮づきの織物工場ではたらく。仲間もできて楽し
い日々。そんな中、隣に住む名家の次男坊・戸田茂雄との初恋も体験。し
かし、安蔵にイセの居場所を知られたことで、イセは実家に帰ることに…。
26 27 28 29 30 31 

★第5章★ 女優志願
実家にいる間、地域巡演で山形にきた松井須磨子(実はにせもの)にあこが
れ、家出して上京する。しかし、たずねた帝国劇場に須磨子はおらず、い
くつかの仕事を転々とするが、結局あきらめて山形にもどることになる。
32 33 34 35 36 37 

★第6章★ 運命の歯車
人絹工場、機織り工場などではたらくうち、かつて実家に出入りしていた
芸人・八重松と再会。乱暴されて子どもを身ごもり、17歳で娘・愛子を
出産。その後、北海道の遊廓への話をもちかけられ、悩んだ末、イセは3
年で500円の借金をし、そのお金で愛子を里子に出すことにする。
38 39 40 41 42 43 44 

★第7章★ 網走まで
大正7年暮れ、イセは北海道に旅立った。ところが途中で虫垂炎から腹
膜炎をおこし、到着した旭川で即入院。借金が倍の1000円となり、
網走の遊廓に売られることに。駅前の島田食堂の夫婦にかわいがられる。
45 46 47 48 49 

★第8章★「お職」になる!
自転車を借りて町内を乗り回したり、柔道場に通ったりしたイセだが、娼
妓になると今度は、囲碁や将棋をおぼえ、お客を楽しませる工夫をした。
また酒に強く、何度も杯を重ね、そこから収益をあげることも考えた。
51 52 53 54 55 56 57 58 59

★第9章★「小梅」の死
イセは、娼妓に乱暴した客を一本背負いで投げ飛ばすなどで、娼妓たちの
信頼を勝ち得ていった。しかし一方で、妹ぶんの「小梅」が、失恋を苦に
自死。小梅の死をきっかけに、娼妓みんなでちからをあわせることを誓う。
60 61 62 63 64 65 66 

★第10章★中川卓治という男
イセは、柔道場で出会った中川卓治と親しくなり、急速に気持ちが近づい
ていく。卓治の妹・タマは、2人の交際をはげしく反対するが、卓治はイ
セに求婚し、イセは身請けされて、ついに遊廓を出る。
67 68 69 70 71 

★第11章★樺太にて
中川家よりもイセを選んだ卓治。2人は樺太にわたり、仕事を見つけて
はたらき、暮らしを立てた。卓治は、酒がもとでけんかをして大けがを
したりもするが、ついに茂市の許しが出て、網走に帰れることになる。
72 73 74 75 76 77 78 79 80 81 82 83 84 

★第12章★岬の日々
網走の能取岬にある中川牧場の管理をまかされたイセたち。その雄大な
景色にイセは魅了される。乗馬も覚え、少しずつ馬との暮らしに親しみ、冬
になれば、流氷の美しさに見とれる。平和な日々がすぎていく。
85 86 87 88 89 90 

★第13章★茂市の死
卓治の父・茂市が、娘婿・東条貞の選挙資金調達で14万円の借金を残
して死去。イセと卓治はその借金を引き受ける。拓銀に50年割賦(ロー
ン)を頼むため、イセは札幌本店に出向き、交渉を成立させる。
91 92 93 94 95 96 97 98 99

★第14章★戦況のなかで
借金返済のため、卓治とイセは、馬喰となった。また、念願の愛子をひき
とり、やがて、養子の清と結婚させる。しかし、清は、海軍に招集され、戦死。
100 101 102 103 104 105 106 107 108 109 110 
111 112

★第15章★米軍上陸?!
1945年7月、網走空襲。米軍が上陸するかも…という緊迫感のなか、イセ
は自分がおとりになるから、みんなは逃げろと宣言し、町長公宅に泊まり込む。
しかし米軍は上陸せず、8月15日、終戦をむかえる。
113 114 115 116 117

★第16章★初の女性市議会議員誕生(2016.11.11ぶんまで)
1947年4月、網走が市政変更になったのを受け、初の市議会議員選挙。女
性参政権ができて最初の選挙となり、イセはまわりにおされて立候補。30議
席に83人の立候補だったが、下から3番目で当選。最初の街頭演説の日、
イセは、踏み切りの前に立ち、遊廓時代に亡くなった小梅に演説を聴かせる。
118 119 120 121 122


いつもご愛読ありがとうございます


ぜひ、ちらしをごらんください。

物語版「零(zero)に立つ」では、ついに、イセさんが、初の
女性網走市議会議員になりました。

主要資料とさせていただいてきた、山谷一郎さんの「岬に駈
ける女」は、実は、ここまでしか書かれていません。

第16章以降の資料は、1993年に北海道新聞に連載され
た、石原宏治記者聴き書きによる、「中川イセ 私のなかの歴
史」しかありません。

ラストが見えてきました」にも書きましたが、連載そのも
のは、年内に終了するでしょう。

主要資料があるとはいえ、日刊の連載形式での物語を書いた
のは、はじめてですから、自分でもちょっと感慨深いものが
あります。

…と、感傷にひたるのはさておいて。(笑)

いよいよ、札幌公演がちかづいてきました。

今回、本編「零(zero)に立つ」ではなく、ショートバージョン
の「掌編・中川イセ物語」のほうにもかかわらず、

本当にたくさんの応援や支援をいただいています。

何よりもありがたかったのは、札幌市ならびに札幌市教育委
員会の後援をいただけたこと。

さらには、女のスペースおんさんの、協賛がいただけたこと。

おかげで、区民センターなどにちらしをもっていっても、ど
こも、こころよく置かせていただけています。

そのちらしも、順調に、お持ち帰りいただけているようです。

これも、札幌の実行委員のメンバーのみなさんが、本当に精
力的に動いてくださっているおかげです。

上記のちらし配布も、市内公演でのちらし折り込みも、本当
に、ここまでやってくださるのかというほど、こまめに機敏
に動いていただき、感謝の気持ちでいっぱいです。

ちらしは、下記の場所においていただいています。

札幌のかたは、きっとお近くにあると思いますので、ぜひ手
にとってごらんくださいませ。

そして、ご来場いただけましたら、大変うれしいです。


ちらし設置場所(敬称略・順不同)

ちえりあ
エルプラザ
かでる27
芸術の森
札幌市こどもの劇場やまびこ座
大通情報センター
ふれあいパンフレットコーナー(地下鉄大通りコンコース)
ターミナルプラザことにPATOS
札幌市社会協議会
豊平館
市内全図書館
中央区民センター
北区民センター
東区民センター
白石区民センター
豊平区民センター
南区民センター
西区民センター
手稲区民センター
札幌文学館
教育文化会館
札幌市資料館
近代美術館
三岸好太郎美術館図書館
山の手まちづくりセンター
澄川まちづくりセンター
情報図書館(野幌)
朝日ヶ丘地区センター
あけぼのアート&コミュニティセンター
江別ホール
ドラマシアターども
小樽図書館
小樽文学館
小樽美術館
san-en
かえるめがね
パンとケーキのショコラ
夢横丁
みんたる
まなびやカフェ あけぼの分校 給食室
コンカリーニョ
詩とパンとコーヒー・モンクール
スープカレーポレポレ
ライブ&バー アフターダーク

※お名前がもれているところがありましたら、
 お知らせください。すぐに追加いたします。

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2016年11月11日

物語版「零(zero)に立つ」第16章 初の女性市議会議員誕生(5)/通巻122話

天童で産まれ網走で活躍した、中川イセさんの半生を描いた
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踏切の前で、イセは、目を閉じた。

あのときの光景が、ありありとよみがえってくる。

自分はまだ20歳にもなっていなかった。

遊廓で、お職としてトップの座に立ってはいたが、未来はま
だ何も見えていなかった。

いや、社会の底辺と呼ばれる場所で、誰の目にも、未来は
見えていなかった。

そのなかで、絶望して、いのちを断っていくものもいた…。

(小梅…)

…妹ぶんだった小梅。幸うすかった、さびしそうな笑顔が脳
裏によみがえる。

あの夜、イセは、この場所で、ばらばらになった、小梅のか
らだを、ランプのあかりを頼りに、拾い集めたのだ。

そして、遺体の前で誓ったのだ。

女が、こんな想いをして生きねばなんねえ世の中を、変えて
やる! どうしていいかわからないけれど、絶対に実現させ
てみせる。だから、安心して成仏してくれろ…と。

あれから、30年近い年月が流れた。

いま、自分が議員に立候補したことは、あのときの約束を、
果たすためではなかったか…。

イセは、はじめて、自分がしていることの意味に、気づいた
気がした。

(小梅、聴いてるか…)

イセは、きっぱりと目を開け、メガホンをかまえると、その
朗々とした声をひびかせた。

「中川イセでございます。
網走に住まわせていただいて、28年になります。

わたすは遊廓の出です。尋常小学校も4年しか出ていません。
それだけに、世の底辺に生きるひとたちの苦しさ、つらさを
誰よりも理解しているつもりです。

わたすは、身をもって味わってきた体験を生かして、しいた
げられた女性や、恵まれない人々を守るための防波堤になり
ます!」

ひとびとは、線路に向かって演説をするイセを、不思議そう
に見ていたという。

しかし、その声の奥にひそむ迫力は、何かをうったえるちか
らをもっていたのだろう。

選挙戦は、熾烈をきわめた。

しかも、初の女性候補は、票が読めない。うっかり大量に票
をとられてはかなわないと、中傷やデマを飛ばすものもあら
われた。

イセは、とくにその攻撃にさらされた。

遊廓出身。勘当されての結婚。多額の借金(返済はしたけ
れど)、女だてらに馬喰…などなど、中傷する材料はいくら
でもあったのである。

そのため、支援者のなかには、投票日が近づくにつれて、不
安になるものもあらわれた。

「やっぱり、だめなんじゃないか…」

それでも、イセには、不思議な確信があった。

(きっと、受かる!)

1947年4月30日。投票日。

開票結果。

総得票数182。

全30議席のうち、27番目で、イセは当選した。

5人の女性候補のうち、ただひとりの当選であった。

網走市議会に、初の女性議員誕生である!


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2016年11月10日

物語版「零(zero)に立つ」第16章 初の女性市議会議員誕生(4)/通巻121話

天童で産まれ網走で活躍した、中川イセさんの半生を描いた
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ふたを開けてみると、網走市議会定員30名のところ、83名
もが立候補する、大混戦になっていた。

うち、女性は、イセをふくめ、5名だった。

そのなかには、町でとりあげた赤ん坊が、3000人と言われ
る、産婆さんや、送り出した卒業生が1600人いるという、
元小学校の先生もいた。

これまでの選挙といえば、立候補するのは、大半が現職議員。

何人か新人がいても、たいていは、引退した議員の二世だっ
たり、関係者だったりした。

そもそも、落選するひとの数のほうが、圧倒的に少なかった
のである。

だから、票を読むのは、それほどむずかしいことはなかった。

ところが、このときの選挙だけはちがった。何しろ、2.7倍の
激戦である。

どの候補たちも、票集めに血まなこになった。

選挙事務所で酒をふるまったり、仕出しの料理を用意するな
どして、選挙違反まがいのことをやるものも、少なからずいた。

そんななかで、イセたちはどうしていたか。

何しろ、推薦されて立候補したまではいいが、主力は、牧場
の関係者。選挙に通じているものが、誰ひとりいないのである。

頼りの卓治も、差し入れの一升瓶をごきげんに開けて、気持
ちよく床にころがっている。

「さあて、どうすべか」

とりあえず、知り合いの書道の先生に頼んで、半紙に、「立
候補 中川イセ」と書いてもらい、「選挙ちらし」をつくっても
らった。

それを電信柱に貼るのであるが、背の届く低い位置は、すで
にほかの候補のちらしが貼られてしまっている。

そこで、貼れそうな壁のある家を見つけては、「貼らせても
らっていいか」と頼む。

イセは、もともと、自分から議員になろうと想って、立候補
したわけではない。

だから、基本的に腰が低い。かといって、票のためにこび
へつらうわけでもない。

気持ちよくお願いをし、OKしてもらえてもことわられても、
いつもの笑顔と明るい声で「ありがとうございます」と言う。

そんなイセに共感して、「がんばんなさい」と、応援してく
れるひともいた。

いや、なかには、

「なんだか頼りないねえ。どうせ誰に入れていいかわかんな
いし、あんまり少ないのもかわいそうだから」

と同情して、票を入れてくれたひともいるらしい。
(イセ自身が、のちに述懐している)

そして、いよいよ、街頭演説である。

イセは、久しぶりに自転車を引っ張りだしてきた。

ここしばらくは、馬に乗り慣れてきたが、町のなかをこまめ
にまわるには、やはり自転車のほうがいい。

思い切りペダルをこぎ、能取の家を出発する。町までは約
12キロ。そこまでは人家はほとんどない。

イセは、さらにペダルをこぐ足にちからを入れた。

早春の風が、顔にあたる。気持ちがいい。

林にも道にも、雪はまだ残っていたが、イセは得意の運動神
経で、あぶなげなく、走りぬけていく。

流氷はとっくに去って、オホーツクの海は、日の光を反射し
て、美しく光っていた。

やがて、町並みが見えてきた。

釧網本線の線路が、海岸沿いから町のなかに向かって伸
びている。

かつては、海の近くにあった網走駅も、1932年(昭和7年)、
には、現在の内陸寄りの場所に移転していた。

その海沿いの踏切の近くで、イセは自転車をおりた。

イセについて、集まってきた支援者が、たずねる。

「イセさん、演説なら、もう少し、町のなかに入ってからの
ほうが」

しかし、イセは首を振った。

「いや、ここでいいんだ」

イセは、メガホンをもち、ゆっくりと息を吸った。


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札幌★夢実子 語り劇「掌編・中川イセの物語」
ほか
日時/2016年11月26日(土)10時〜16時45分
会場/ちえりあ演劇スタジオ1
(地下鉄東西線宮の沢駅約5分)
詳細/こちら 
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「零(zero)に立つ」第1巻
イセさんの誕生〜北海道に渡るまで。波瀾万丈の人生の幕開けです!
 
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2016年11月09日

物語版「零(zero)に立つ」第16章 初の女性市議会議員誕生(3)/通巻120話

天童で産まれ網走で活躍した、中川イセさんの半生を描いた
『零(zero)に立つ〜激動の一世紀を生きた中川イセの物語〜』
※この作品は、もともと、女優・夢実子が演ずる語り劇として書かれたものを、
 脚本を担当したかめおかゆみこがノベライズしているものです。

※これまでのあらすじと、バックナンバーは、こちら


1945年12月17日、改正衆議院選挙法が改正され、女性
の参政権がみとめられた。

翌1946年4月10日の、戦後初の衆議院議員選挙で、日本
初の女性議員39名が誕生する。

ちなみにこのときの議席数は、466。(ただし、アメリカ占領
下にあった沖縄の定数2はふくまれず)

女性の議席は約8%ということになるが、この数字も、次の
第23回衆議院議員総選挙では激減して、15名になり、わず
か3%。

その後、増減はあるものの、2005年の第44回総選挙まで、
最初の39名を超えることができなかったというから、おどろ
くほかない。

さて。その翌年1947年。網走は、市制変更により、町から
市に移行した。

それにともない、女性も立候補できる、初めての市議会議員選
挙がおこなわれることになった。

町が、そんなもりあがりを見せている、ある日のことである。

卓治が組合の寄り合いから帰って来ると、玄関先でおおきな声
でイセを呼ぶ。

「おーい、イセ!」

声の調子から、酒も入っているようである。

「お帰りなさい、あんた。なんですか、おおきな声を出して」

呼ばれて、イセが出てくると、卓治は、太い声をさらに太くし
て言った。

「イセ! おめえ、選挙に出ろ!」

「はあ?」

イセが、ぼかんとした顔をすると、卓治は、いきおいづいて
言う。

「いま、寄り合いで、選挙の話になってな。
組合員が、おらに立候補しろって言うんだ。

だども、おらは、堅苦しいことは苦手だし、しゃべるのも得
意じゃねえ。

だから、おらより、イセのほうが向いてるって言ったら、そ
だなってことになって、全会一致で決定だ!」

「ちょっと待って。そんな大事なこと、わたすにことわりも
なく…」

「なんだとうっ! 亭主のおらがいいって言ってることが、
聴けないってか」

以前のようにあばれなくはなったものの、酒を飲んでいると
きの卓治は、威勢がいい。

しかし、そこで負けているイセではない。

「いやだと言ったら、いやです! あんた、お義父さんが、
なんで、あんな大変な借金をしたか、忘れたの? もとはと
いえば、選挙のためのお金だったでしょ」             

「いや、待て。それは、昔の選挙の話だ。いまは、そういう
ことをすると、選挙違反になるんだと」

いくら言われても、納得のいかないイセではある。

しかし、卓治は、それ以上、イセの話を聴こうとせず、「もう
休む」と言うなり、家の奥へと入っていった。

「とにかく、全会一致で決まったもん、くつがえすわけには
いかねえから、そのつもりでいろ」

とりつく島もなく、困り果てたイセが、翌日、馬小屋で馬の
世話をしていると、顔なじみの組合員が、ひとり、馬をあず
けにやってきた。

イセは、その男をつかまえて、昨日の寄り合いの話を聴い
てみた。

男は言った。

「ああ、ほんとだよう。今度の選挙には、女が十人も出るん
だって。んだけど、どのひとより、イセさんのほうが立派だっ
つうんで、みんな、賛成しただよ」

「そんな、いいかげんな…」

すると、男は、真顔になって言った。

「いいかげんな気持ちでねえ。

これまで、選挙っつったら、ぺこぺこ頭下げてきて、受かっ
たが最後、いばりくさって、おれらのこと、見向きもしねえ、
そんなやつらばっかりだったよ。

馬喰なんて、やくざな仕事みてえに見下げられてるけど、イ
セさんだったら、おれらの気持ちをわかってくれる。

だから、おれらは、本気でイセさんに議員になってもらいた
いんだ」

そのことばに、イセは胸をうたれた。

自分自身、遊廓から身を起こして、ここまでやってくるあい
だ、どれだけさげすみの目で見られてきただろう。

弱いものの気持ちがわかるのは、弱いものだけだ。
自分が出ることで、助かるものがいるのなら、やってみよう。

ようやく、イセの腹が決まった。


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2016年11月08日

物語版「零(zero)に立つ」第16章 初の女性市議会議員誕生(2)/通巻119話

天童で産まれ網走で活躍した、中川イセさんの半生を描いた
『零(zero)に立つ〜激動の一世紀を生きた中川イセの物語〜』
※この作品は、もともと、女優・夢実子が演ずる語り劇として書かれたものを、
 脚本を担当したかめおかゆみこがノベライズしているものです。

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戦争は終わったが、ひとびとのこころに、さまざまな影を落
としていた。

このところ、組合の寄り合いなどで、気になるうわさを聴く。

子どものけんかや泥棒がふえているというのである。

「ひどいもんさあ。庭に積んでおいた野菜、ごっそりとって
いくんだも」

「子どもがやったって、なしてわかるの?」

「見たひとがいるんだってさ。見張り立てて、何人かでごそ
っと…」

「うちも、物置のかぎ、こわして中に入られた」

「ここんとこ、けんかもひどいな」

「ああ、町んなかで、よく見かける」

「気持ちがすさむんだよな。このご時世で、学校出たって、
どこも行き場がないしな」

聴きながら、イセは考えた。

たしかに、時代の先行きは明るくはない。子どもの気持ちが
すさむというのもわかる。

それをそのままにしていいものだろうか?

イセは、子どもが好きだった。

実の子の愛子は、直接育てることはかなわなかったが、4歳
からずっと一緒だった宗治を、実の子のようにかわいがって
きた。

牧場仲間が、子どもを連れてくると、いつも、何かしら、お
やつをこしらえては、あげてもいた。

子どもたちも、「中川のおばちゃん」と呼んでしたってくれた。

子どもは未来の宝だ。あのとき、米軍のおとりになっても…
と決意したのは、その子どもたちを、みすみす死なせてはな
らないと思ったからだ。

せっかく生き延びたいのちを、泥棒やけんかでおとしめては
いけない。

イセは、思い立って、網走警察署に出向いた。

「誰か、武道を教えてくれるひとはいないかね」

武道であれば、礼にはじまって、礼に終わる。子どもたちの
気持ちを、まっすぐに立て直してくれるのではないかと思っ
たのだ。

「なるほど、たしかに。このところ、子どもの非行には、我
々も手を焼いていたところですからなあ」

そう言って、退職した元刑事を紹介してくれた。加藤という、
合気道の有段者だった。

「中川さん、いい考えですね。やりましょう」

加藤も、こころよく承諾してくれた。

イセはこのとき知らなかったが、加藤は、大東流合気柔術の
師範であった。

合気道というと、植芝盛平の名が著名であるが、大東流合気
柔術は、それより前に、武田惣角が創始した武術である。

剣、槍、鉄扇などの武器術も、その技のなかにふくまれる、
実践的な武術といっていい。

イセは、のちに、棒術でも初段をとるが、大東流を学んだこ
とが影響しているのは、まちがいないだろう。

さいわい、知り合いの漁師が、使わなくなっていた、ニシン
かすの倉庫を無償で貸してくれた。これで道場もできた。

さっそく看板をかかげ、生徒を募集することにした。

「中川さん、せっかくだから、一緒にやりませんか。樺太で
の武勇伝、うわさに聴いていましたよ」

「その話はしないでください。若気の至りですよ。んでも、
わたすも習いたいです、その大東流」

そんなわけで、イセも、道場に通うことになり、久しぶり
に、汗を流すことになった。

最初のころは、ニシンかすのにおいがぷんぷんして、辟易し
たが、からだを動かしていると、気持ちがよくて、そんなこ
とも忘れてしまう。

「中川イセが、今度は、合気道の道場をはじめたそうだぞ」

いつも何をやらかすかわからないイセの評判は、またまた、
町のなかをかけめぐった。

子どもたちの非行に手を焼いていた親たちは、こぞって、道
場をのぞきにくる。そして、イセの姿に目をみはる。

やがて、道場に通う子どもたちの姿がふえていった。


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2016年11月07日

物語版「零(zero)に立つ」第16章 初の女性市議会議員誕生(1)/通巻118話

天童で産まれ網走で活躍した、中川イセさんの半生を描いた
『零(zero)に立つ〜激動の一世紀を生きた中川イセの物語〜』
※この作品は、もともと、女優・夢実子が演ずる語り劇として書かれたものを、
 脚本を担当したかめおかゆみこがノベライズしているものです。

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戦争は終わったが、しばらくのあいだ、イセは緊張を解くこ
とができなかった。

愛馬婦人会の会長として、軍馬を通じて軍隊に貢献していた
自分は、きっと、戦犯として引っ張っていかれるだろうと想っ
ていたのである。

しかし、その年も終わり、翌年になっても、いっこうにその
気配はない。

一月の公職追放令が出ても、自分のところには何も音沙汰
はない。

「女だから、見逃してくれたんかなあ。アメリカ人は、女には
甘いっていうからねえ」

のちに、そんなことをつぶやいたものである。

しかし、この公職追放令で、卓治の妹・タマの夫、東条貞は
議員を失職し、政界から引退することになる。そして、5年
後、65歳で亡くなっている。

いずれにしても、この時代、敗戦国である日本は、生きてい
くのが精一杯という暮らしに突入していった。

しかし、さいわいなことに、網走は、食糧的にはあまり困る
ことはなかった。山に行けば山の幸が、海に行けば海の幸が
あったからである。

また、戦後復興で、農耕馬の需要が急速に伸びた。もともと、
中川牧場は規模が大きいから、この需要にも対応できた。

さらに、戦後のインフレで、貨幣の価値が下がったことも、
イセたちにとっては幸いした。

一生かかると思った借金を、ぐんぐん返していけるのである。

50年かけて返すはずの借金が、終戦の翌年の1946年に
は、あと少しというところまで減っていた。

「ねえ、あんた、いっそのこと、土地を少し売って、残りを返
してしまおうよ」

あるとき、イセは、卓治にそう言った。

卓治は、またイセが突拍子もないことを言い出したと、目を
丸くした。

「なんも、50年で借りてるんだから、そったら急ぐことは
ねえべ。これから、土地だって値上がりするだろうし」

しかし、思い込んだら一徹のイセは、がんとしてゆずらない。

「いいえ、あと少しだからこそ、けりをつけて、すっきりした
いの」

何度も何度も言ってくるものだから、卓治も、いいかげん面
倒になってきた。

もともと細かいことにはこだわらないたちである。

「わかった、わかった。おめえの好きなようにすればいいよ」

根負けして、そう言い渡したのである。

イセは、さっそく、牧場の一部を売りに出し、それはすぐに
買い手がついた。

そのお金をかばんに詰めると、イセは、意気揚々と、北海道
拓殖銀行網走支店をたずねた。

「借金の残り、いますぐ全部返したいんだけど!」

びっくりしたのは、支店のほうである。

「少々お待ちください」

あわてて、支店長室に案内された。

支店長が、あわただしく、札幌の本店に電話をかけたり、行
員と何やらやりとりをしたりしている。

(これ、受け取ってくれればいいだけなのに、何、手間かか
ってるんだ?)

内心で想いながら、イセは、じっと待っていた。

ようやく、支店長が、イセの前にすわった。

「中川さん、お待たせしてすみません。利子の計算をし直し
ていたものですから、時間がかかりまして」

「利子…?」

「まさか、お忘れじゃないでしょうね。元金のほかに、利子
がございます。割賦にする際、支払いが大変だろうから、利
子は、元金の支払いが済んでからということにしたのを」

イセは、うろたえた。利子のことなど、すっかり忘れていた
のだ。

「そ、そうでしたね…。今日は、これしかもってきていませ
んので、このぶんだけの領収書を書いてください」

そう言って、肩を落として帰って来たのである。

「がっかりだよう。これで全部返せると意気込んでいったら
さあ。あんたの言うとおり、土地なんか売らずに、地道に返
していればよかった」

イセが、めずらしく愚痴っぽくこぼすのを、卓治は、はっは
っはと豪快に笑って、言った。

「なんもなんも、気にすんな。いままでどおり、しっかりか
せいで、返していけばいいんだ。いまの景気だら、あっと言
う間だべ」

それを聴いて、イセも、ようやく明るい顔にもどったのであ
った。

そして、そのことばにたがわず、2人はせっせとはたらき、
その年のうちに、利子も返してしまうことになるのである。

50年割賦を、銀行にみとめさせたときにも、町の評判にな
ったが、それを20年足らずで返済してしまったことは、さら
なる評判を呼ぶことになるのである。


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2016年11月06日

荒谷フェスティバルにて、語り劇「掌編・中川イセの物語」

天童で産まれ網走で活躍した、中川イセさんの半生を描いた
『零(zero)に立つ〜激動の一世紀を生きた中川イセの物語〜』
※この作品は、もともと、女優・夢実子が演ずる語り劇として書かれたものを、
 脚本を担当したかめおかゆみこがノベライズしているものです。

土日祝日は、連載はお休みさせていただいています。

※これまでのあらすじと、バックナンバーは、こちら


本日は、天童市荒谷の荒谷公民館で、「荒谷フェスティバル」
が開催され、夢実子さんが、語り劇「掌編・中川イセ物語」
と、講話で出演しました。

荒谷地区は、現在、夢実子さんが住んでいる地区で、この同じ
荒谷で、イセさんは、10歳までを過ごしたのでした。

言わば、ホームでの公演。うれしいですね♪

ちなみに、この情報、前もって聴いてはいたのですが、時間な
どをきちんと確認していなかったため、事前に告知できず、
すみません。

「零(zero)に立つ」は見ていても、「掌編」のほうはまだご
らんになっていないかたも、いらっしゃると思うので、ほん
とにすみませんでした。

今後は、できるだけ事前に情報を掲載するようにしますね。

というわけで、フェイスブック掲載の、夢実子さんの投稿と、
写真で、今日はシツレイいたします。

2枚めと3枚目は、音響を担当していただいた、アキラさん
の撮影です。


荒谷公民館フェスティバルにて、語り劇 掌編・中川イセの物語
+講話をさせていただきました。

会場いっぱいの地元の皆様に喜んでいただき、
佐藤公民館館長さんからも
「今までで一番多い人が来てくれた」と、喜んでいただきました。

地元のみなさま、ありがとうございました。
これからもどうぞよろしくお願いいたしますm(_ _)m

いつも助けてくれる音響のアキラさん、
お疲れさまでした。ありがとうございました。


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2016年11月05日

これまでのあらすじ/ラストが見えてきました。

天童で産まれ網走で活躍した、中川イセさんの半生を描いた
『零(zero)に立つ〜激動の一世紀を生きた中川イセの物語〜』
※この作品は、もともと、女優・夢実子が演ずる語り劇として書かれたものを、
 脚本を担当したかめおかゆみこがノベライズしているものです。

土日祝日は、連載はお休みさせていただいています。


これまでのあらすじ

★第1章★ いせよ誕生
明治34年(1901年)、今野安蔵・サダの娘、いせよ(のちの中川イセ)
誕生。サダは、産後の肥立ちが悪く、死を予感。ヤクザものの安蔵にあとを
託すことを怖れ、佐藤コウに里親を頼むと、その年のうちに亡くなった。
    

★第2章★ 差別と貧しさのなかで
イセは佐藤家の里子になった。佐藤家は貧しく、イセはまわりからいじめられ
たり、差別を受けたりするが、コウの愛情、親友・渡辺みよしの存在、自身の
負けず嫌いの性格で、それらをはね返して成長していく。
     10 11 12 13 14 

★第3章★ はじめての家出
10歳で実家に連れもどされイセは、学校にも行けず、仕事に明け暮れる。
11歳の夏、モヨとの口論から、初めての家出。山形の船山先生夫妻の
家で住み込みの女中をし、かわいがられるも、翌春、船山先生に満州へ
の転勤辞令が出て、再び実家にもどることになる。
15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25

★第4章★ イセの初恋
またまた家出し、米沢の寮づきの織物工場ではたらく。仲間もできて楽し
い日々。そんな中、隣に住む名家の次男坊・戸田茂雄との初恋も体験。し
かし、安蔵にイセの居場所を知られたことで、イセは実家に帰ることに…。
26 27 28 29 30 31 

★第5章★ 女優志願
実家にいる間、地域巡演で山形にきた松井須磨子(実はにせもの)にあこが
れ、家出して上京する。しかし、たずねた帝国劇場に須磨子はおらず、い
くつかの仕事を転々とするが、結局あきらめて山形にもどることになる。
32 33 34 35 36 37 

★第6章★ 運命の歯車
人絹工場、機織り工場などではたらくうち、かつて実家に出入りしていた
芸人・八重松と再会。乱暴されて子どもを身ごもり、17歳で娘・愛子を
出産。その後、北海道の遊廓への話をもちかけられ、悩んだ末、イセは3
年で500円の借金をし、そのお金で愛子を里子に出すことにする。
38 39 40 41 42 43 44 

★第7章★ 網走まで
大正7年暮れ、イセは北海道に旅立った。ところが途中で虫垂炎から腹
膜炎をおこし、到着した旭川で即入院。借金が倍の1000円となり、
網走の遊廓に売られることに。駅前の島田食堂の夫婦にかわいがられる。
45 46 47 48 49 

★第8章★「お職」になる!
自転車を借りて町内を乗り回したり、柔道場に通ったりしたイセだが、娼
妓になると今度は、囲碁や将棋をおぼえ、お客を楽しませる工夫をした。
また酒に強く、何度も杯を重ね、そこから収益をあげることも考えた。
51 52 53 54 55 56 57 58 59

★第9章★「小梅」の死
イセは、娼妓に乱暴した客を一本背負いで投げ飛ばすなどで、娼妓たちの
信頼を勝ち得ていった。しかし一方で、妹ぶんの「小梅」が、失恋を苦に
自死。小梅の死をきっかけに、娼妓みんなでちからをあわせることを誓う。
60 61 62 63 64 65 66 

★第10章★中川卓治という男
イセは、柔道場で出会った中川卓治と親しくなり、急速に気持ちが近づい
ていく。卓治の妹・タマは、2人の交際をはげしく反対するが、卓治はイ
セに求婚し、イセは身請けされて、ついに遊廓を出る。
67 68 69 70 71 

★第11章★樺太にて
中川家よりもイセを選んだ卓治。2人は樺太にわたり、仕事を見つけて
はたらき、暮らしを立てた。卓治は、酒がもとでけんかをして大けがを
したりもするが、ついに茂市の許しが出て、網走に帰れることになる。
72 73 74 75 76 77 78 79 80 81 82 83 84 

★第12章★岬の日々
網走の能取岬にある中川牧場の管理をまかされたイセたち。その雄大な
景色にイセは魅了される。乗馬も覚え、少しずつ馬との暮らしに親しみ、冬
になれば、流氷の美しさに見とれる。平和な日々がすぎていく。
85 86 87 88 89 90 

★第13章★茂市の死
卓治の父・茂市が、娘婿・東条貞の選挙資金調達で14万円の借金を残
して死去。イセと卓治はその借金を引き受ける。拓銀に50年割賦(ロー
ン)を頼むため、イセは札幌本店に出向き、交渉を成立させる。
91 92 93 94 95 96 97 98 99

★第14章★戦況のなかで
借金返済のため、卓治とイセは、馬喰となった。また、念願の愛子をひき
とり、やがて、養子の清と結婚させる。しかし、清は、海軍に招集され、戦死。
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★第15章★米軍上陸?!(2016.11.4ぶんまで)
1945年7月、網走空襲。米軍が上陸するかも…という緊迫感のなか、イセ
はおとりになると宣言し、町長公宅に泊まり込む。しかし米軍は上陸せず、8
月15日、終戦をむかえる。
113 114 115 116 117


いつもご愛読ありがとうございます


ラストが見えてきました。

今週で、一番の山場である、「米軍上陸」の章が終わりました。

このあと、戦後に移り、はじめて、女性に参政権ができ、イセ
さんは、網走市議会議員選挙に立候補することになります。

今回、主要資料にさせていただいている、山谷一郎さんの
「岬に駈ける女」は、実は、そこで終わっています。

語り劇「零(zero)に立つ」も、ほぼ、そこで完了です。

「岬に駈ける女」が書かれたのは、1992年。

ただしこの作品は、それより6年前に出版された、「オホーツク
凄春記」のリメーク版です。

このとき、イセさんは85歳。そこからまだ、18年は現役の人
生がつづくわけです。

ですから、本当なら、連載はそこまでつづくわけです。

けれども、イセさんのことを直接語れる、みぢかな関係者は、
ほとんど亡くなってしまいました。

夫の宗治さんはもちろんですが、息子の宗治さんも、旅立た
れました。

娘の愛子さんも長寿であったようですが、80代で亡くなった
と聴いています。

イセさん自身は、遊廓時代の、からだへの無理がたたってか、
その後、お子さんはできませんでした。

清さんと愛子さんのあいだにできたお子さんは、たしか、イ
セさんより早くに亡くなられたように記憶しています。

ですから、イセさんの血を直接つぐかたは、もうどなたも残
っておられないのです。

山谷さんが書かれた「岬を駈ける女」以降、残念ながら、イ
セさんのことを記した著書は、どなたも書いておられません。

それにしたがえば、この連載も、あと数回で終わりになります。

ただ、もうひとつの資料とさせていただいている、北海道新
聞での集中連載「中川イセ 私のなかの歴史」(石原宏治記
者)は、1993年、もう少しあとまでを追っています。

そこまでは、連載に反映させていただこうと想っています。

なお、今月、ご縁あって、札幌で、語り劇「掌編・中川イセ物
語」を上演させていただく予定です。

それにあわせて、この新聞記事を聴き書きされた、石原さん
とお会いできることになりました。

直接、イセさんに取材されたかたのお話が聴けるのは、とて
も貴重な機会で、楽しみにしています。

そんなわけで、たぶん、この連載、単発のエピソードを含め
ても、今年いっぱいくらいで、完結することになるのではな
いかと考えています。

10月22日のエッセイで、「零(zero)に立つ」第2巻
ことについて、書きました。

原稿はすでに書き終え、あとは印刷するだけなのですが、少
部数のため、ある程度の冊数が出ないと、制作費に達しません。

もし、この連載をお読みいただき、おもしろいと想っていた
だけましたら、第1巻をご購入いただけると、大変ありがた
いです。(それが第2巻の制作資金にもなります…)

どうぞよろしくお願いいたします。


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札幌★夢実子 語り劇「掌編・中川イセの物語」
ほか
日時/2016年11月26日(土)10時〜16時45分
会場/ちえりあ演劇スタジオ1
(地下鉄東西線宮の沢駅約5分)
詳細/こちら 
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「零(zero)に立つ」第1巻
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2016年11月04日

物語版「零(zero)に立つ」第15章 米軍上陸?!(5)/通巻117話

天童で産まれ網走で活躍した、中川イセさんの半生を描いた
『零(zero)に立つ〜激動の一世紀を生きた中川イセの物語〜』
※この作品は、もともと、女優・夢実子が演ずる語り劇として書かれたものを、
 脚本を担当したかめおかゆみこがノベライズしているものです。

※これまでのあらすじと、バックナンバーは、こちら


町長公宅にもどってみておどろいた。たくさんの町のひとが
詰めかけているのである。

「イセさん、よく決意してくれた」

「話を聴きました。神さまみたいなひとだわ」

「誰にも真似できない心意気だよ」

次々と、はげましのことばがかけられた。

「これ、飲んでくれ。家の室(むろ)にかくしておいたやつだ」
と言って、酒をおいていくものもいる。

そんなひとたちも、日が暮れるころには、顔を見合わせ、帰
っていく。米軍が来るとしたら、夜の可能性が高いからである。

さらに夜が更けると、町長夫人も、自室へもどっていき、イ
セはたったひとりになった。

差し入れされた安酒を飲んでみたが、まったく酔わない。

もともと酒には強いイセだが、それほど緊張していたという
ことだろう。

静かな夜であった。

その静けさのなかで、かすかな気配さえも聴きもらすまいと、
イセはさらに耳をそばだてた。

そして、一睡もできないまま、やがて、夜が明けた。

米軍は、上陸してこなかった。

がっかりするような、ほっとするような、妙な気分である。

しかし、ゆだんはできない。昨夜はまだようすを見ていただ
けかもしれない。

事態が緊迫していることに、変わりはないのだから。

イセは、外へ出ると、早朝の海岸へ馬を飛ばしてみた。

美しいオホーツクの海が、すがすがしく、朝日を浴びて輝い
ている。

戦争など、まるで関係ないかのように…。

イセは、ぶるっと首を振ると、念のため、弧を描く海岸線
沿いに馬を走らせ、軍艦の影がないことをたしかめた。

町長公宅にもどってくると、朝食が用意されていた。

「このくらい、自分でつくりますから」と言っても、

「いいの、あなたには、そんなこと、させられませんから」
と言って、何もさせてくれない。

日が高くなると、また、町のひとたちがやってきて、イセ
に激励のことばをかけ、日が暮れる前に帰っていく。

翌日も、米軍はこなかった。

そんな日が、何日もつづいた。

イセは、だんだん、気持ちが鬱々としてくるのを感じた。

勇気が失せたのではない。

たずねてくるひとたちの顔を見るのが、いやになってきた
のである。

米軍を引きつけ、おとりになれば、万にひとつも助からな
い。それは誰でも知っている。

そのためか、誰もが、人身御供、いや、仏壇にかざられた
遺影でも見るかのような目をして、イセを見るのである。

(わたすは、まだ生きてるんだよ!)

思わず、そう叫びたくなるのである。

ある日など、あまりに気分がふさいできたので、ひとり、
馬に乗って海岸線を走り、大声で叫んでみた。

「アメリカのやろう! とっとときやがれ! 中川イセが
相手になってやる!!」

しかし、ただ、頭上高く、ウミネコが飛び去っていっただ
けであった。

そうして、むなしく一か月が過ぎ、その日は、網走の夏祭
りの日であった。

戦争のさなかとはいえ、あれ以来、空襲もない。

「気持ちを鼓舞することが大切です。米軍も、昼日中から
おそってくることはないでしょう」

という判断で、祭りがおこなわれることになっていた。

ただ、前日になって、「明日の正午、重大発表がおこなわ
れるので、必ずラジオの前にいて聴くように」という通達
がきていた。

そのため、婦人会幹部を中心に、役職をもつおもだったも
のたちが、町長公宅に集まっていた。

正午になった。

古いラジオが、ギシギシと雑音を立てながら、君が代を流
し、次いで、その重大発表を流した。

「耐えがたきを耐え、忍びがたきを忍び…」

それは、前日のうちにレコード盤に録音された、天皇の声
であった。世に言う、「玉音放送」である。

(天皇の声が高貴を意味する「玉」で、玉音放送というの
ではなく、玉音盤というレコード盤に録音したので、玉音
放送という)

実際のところ、文章は難解で、また、天皇の語り口の独特
の節回し、さらにはラジオの性能の低さもあって、ことば
は、ほとんど聴きとれなかった。

そのあと、ふたたび君が代が流れ、「終戦の招請を受けて
の内閣告諭」のアナウンスがあり、ひとびとは、はじめて
終戦を理解したのである。

長い長い戦争が、310万人という死者の犠牲のうえに、
ようやく終わったのである。

その同じころ、能取の牧場では、卓治たちも、この放送を
聴いていた。

「日本は戦争に負けたんですか?」

青ざめて、そうたずねる愛子に、卓治は静かにうなずきな
がら、こころのなかで、つぶやいていた。

(イセがもどってくる! 生きてもどってくる…!)


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2016年11月03日

物語版「零(zero)に立つ」第15章 米軍上陸?!(4)/通巻116話

天童で産まれ網走で活躍した、中川イセさんの半生を描いた
『零(zero)に立つ〜激動の一世紀を生きた中川イセの物語〜』
※この作品は、もともと、女優・夢実子が演ずる語り劇として書かれたものを、
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誰も、イセの考えに、反論できなかった。

そんな途方もない考えが、うまくいくのかどうかもわからな
かったが、別の案を思いつけるものもいなかったのである。

ようやく、町長夫人が口をひらいた。

「イセさん、あなたの考えはわかったわ。あなたこそ、皇国
の婦人の誇りです。
能取の家からでは、藻琴や北浜に駆けつけるのには遠す
ぎるでしょう。この家を、拠点として使ってください」

みなが、おどろきながらも、ほっとしたように、町長夫人を
見た。誰からともなく、自然に拍手がわいた。

「ありがとうございます。では、いったん家にもどって、し
たくをしてきます」

イセは、一礼して、その場を辞した。

イセは、その足で、能取の牧場にもどった。そして、卓治
に、この話を打ち明けた。

卓治は、こころのなかでうなった。

イセと出会って、もう25年になる。これまで、どれだけの
苦難を、ともに乗りこえてきただろう。

いつも、最後の決断をするのは、イセだった。

どんなときも、だめだとた無理だとかあきらめずに、超える
ためにはどうすればいいかを考えてきたのは、イセだった。

いったん言い出したら、てこでも引かないのも、イセだった。

卓治は、考えた。

イセに万が一のことがあったとき、うしなうものはあまりに
も大きい。

戦争景気や、軍馬の購買のおかげで、思いがけずかなり
の額の借金を返せてはきたが、まだすべてを返せたわけ
ではない。

清をうしない、おさない子どもを育てている愛子のことも気
がかりだ。

いや、何よりも、自分とイセには、これからの人生が残って
いるはずではないか。

しかし、どのみち、止めても聴くイセではない。そのことは、
当の卓治が誰よりもよく知っている。

「わかった」

卓治は、ひとこと言って、奥の座敷に引っ込んだ。

ほどなくしてもどってきた卓治の手には、ひとふりの日本刀
がにぎられていた。

「イセ、これをもっていけや。普通の女には使いこなせない
だろうが、おまえなら大丈夫だろう。これを使え」

「あんた…」

手わたされた日本刀は、ずっしりと重かった。

その重さを感じながら、イセは、胸の内が熱くなるのを感じた。

卓治が、賛成するはずがないことはわかっていた。どんなこ
とをしても、説得するつもりであった。

けれども、卓治は、何もかもすべてわかって、それでもこの
無茶な提案を、受け入れてくれたのだ。

イセは、ともに過ごしてきた、25年の月日を思った。このひ
とと一緒になって、まちがいではなかったと思った。

「ありがとう。だけど、宗治や愛子には、このことは内緒に
して。婦人会のお役目で、出かけているって」

「わかった」

一刻の猶予もなかった。米軍は、今夜にも上陸してくるとい
ううわさが、立っているのである。

卓治は、牧場に残っている馬のなかから、一番足の速いも
のを選びだし、イセを乗せた。

「ありがとう。じゃあ、行ってくるわ」

「おう」

イセは、馬の背に飛び乗り、たづなを引いた。

馬がいきおいよく走り出す。

イセがでかけていくのを見て、何も知らない宗治と愛子が、
牧舎から手を振った。

イセも、手を振り返して、さらに速度をあげた。

走らせていると、オホーツクの海岸線が視界に入った。

夏の日差しを受けて、美しくきらきらと輝いている。いまの
ところ、そのどこにも、軍艦の姿は見えない。

そのことに少し安堵して、イセはひたすら、馬を飛ばした。


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2016年11月02日

物語版「零(zero)に立つ」第15章 米軍上陸?!(3)/通巻115話

天童で産まれ網走で活躍した、中川イセさんの半生を描いた
『零(zero)に立つ〜激動の一世紀を生きた中川イセの物語〜』
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イセもまた、真剣な顔で、みなを見回した。そして、もう
一度言った。

「逃げましょう。生き延びることを考えるんです!」

町長夫人が、するどく叫んだ。

「イセさん、なんてことを言うんです。非国民として、つ
かまりますよ!」 

しかし、イセはひるまなかった。もう一度、みなの顔を見
回すと、語気を強めて言った。

「みなさん、聴いてください。わたすは、生き残ることは
卑怯ではないと想います。死んでしまったらおしまいなん
です!」

また別のひとりが、叫んだ。

「口をつつしみなさい! 兵隊さんたちは、いのちをかけ
て、この国を守っておられるんです。死んでしまったらお
しまいなんて…、そんな言いかたは…」

イセは、きっぱりと首を横に振った。

「兵隊さんを侮辱するつもりはありません。
だけど、こんな地方のちいさな町まで、戦闘機がやってき
ているんです。先ほど、町長夫人がおっしゃったとおり、
いつ米軍が上陸しても、おかしくない状態です」

そのことばに、みなが、顔を引きつらせる。

「このまま、全員、やられてしまったら、この先の日本が
なくなってしまいます。だから、生き延びるんです。私た
ちは、女子どもが助かる方法を考えましょう!」

たしかに、イセの言うとおりだった。

仮に竹槍をもってたたかったところで、万にひとつも勝て
ないことはわかりきっている。

自分たちはともかく、自分たちの子どもや孫のいのちまで、
むだにしていいはずがない。

軍部の前ではけっして言えない想いではあったが、みなの
こころは、次第に揺り動かされていった。

「だけど、どうやって…」
「いったん上陸されたら、逃げられない」
「逃げたとしても、きっとつかまる…」

次々と、不安の声があがる。

イセは、そんな声を打ち消すように、言った。

「わたすが、おとりになります!」

みなが、えっという顔で、イセを見た。

「海岸線を見ながら、ずっと考えていたんです。
米軍が上陸するとしたら、能取岬のような断崖ではなく、
藻琴とか北浜とか、海と陸の段差のないところだと」

たしかに、トーチカもそのあたりに建てられている。

「米軍が上陸したら、見張りが見つけて、すぐに放送が入
るでしょう。そしたら、わたすは腰巻一枚の裸で馬に乗っ
て、日本刀を振りかざして、海岸線を走ります!」

イセの突拍子もないことばに、みなは、あっけにとられた。

「イセさん! 何を言い出すの! 頭がおかしくなった
んじゃないの!」

そんなことを叫ぶものさえいたほどだ。だが、イセは、み
じんも気後れするふうはない。

「そうして、大声で叫んで、兵隊たちを引きつけます。
アメリカ人は好奇心が強いといいます。わたすの姿を見た
ら、おかしな女だと想って、つかまえようとするでしょう。
そのすきに、みなさんは、逃げてください!」

イセの真意はそこにあったのか。
反論しかけていたものも、思わず口をつぐんだ。

イセはつづけた。

「この身ひとつ投げ出すことで、ひとりでも多くの命が救
えるんであれば、走って走って走り回ります。
たとえその場で殺されても本望です。
わたすはみなさんにいのちを落としてほしくない。
生き延びてほしいんです!」

言い切って、イセは、ふたたびみなを見回した。

気迫に押され、みなは沈黙したまま、イセを見つめた。
町長夫人が、かすれた声で、ようやく言った。

「イセさん、あなた、なぜそこまでして…」

イセも、言うべきことを言い切って、ほっとしたのか、
声の調子をいくぶんやわらげて、言った。

「わたすは、山形県に生まれて、2歳になる前に母親を亡
くして、17のときに、この網走にわたってきて、遊郭の
女として働きました。
いまは結婚して、子どもや孫と一緒に、幸せに暮らしてい
ます。
これもすべて、わたすのような者を、網走のみなさんが、
温かく迎えいれてくれたおかげだと想っています。
どうか、わだしの考えどおりにさせてください。
みなさんに恩返しをさせてください!」

「イセさん…」

婦人会の幹部のなかには、イセが遊廓の出身であることを
知って、こころよく想っていなかったものたちもいた。

けれども、その誰もが、ことばをうしなって、イセの話を
聴いていた。


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2016年11月01日

物語版「零(zero)に立つ」第15章 米軍上陸?!(2)/通巻114話

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町長公宅に着くと、もう、ほかの婦人団体の幹部たちは集
まっていた。みな、一様に不安な表情をかくせない。

国防婦人会の会長である、町長夫人が、口火を切った。

「みなさん、よく聴いてください。

もうご存じのことと思いますが、今朝、網走に敵機が襲来
しました。被害も出ています。
かなりの町が、同じようにやられているようです。

いつ、米軍が、上陸してくるかわかりません。もしかした
ら、今夜にかもしれません。
私たちも、いよいよ、覚悟しなければなりません」

町長夫人の、「今夜」ということばに、みなは、緊張した
表情で目を見合わせた。

「あの、覚悟…って」

ひとりが、おずおずと質問した。

「それは…。それをみなさんで話し合っていただくために、
集まっていただいたんです」

町長夫人にも、こたえはないのだった。

「駐屯しておられた師団は…?」

「おられません。おそらく、何か任を受けて、そちらに出
立されたのだと思います」

この網走での非常事態において、一体、どんなほかの任務
があるというのか。

誰もが思ったが、口には出さなかった。

「み、みんなで、竹槍をもって、海岸線で米軍を待ち受け
ましょう!」

ひとりが、意を決したように言った。

たしかに、「御国のために、女子どもも、武器をもってた
たかえ」と、軍事訓練も受けてはきた。

藁束を米兵に見立てて、突き刺す訓練である。

しかし、すでに、家の鍋・釜さえ、武器をつくる材料にす
るため徴集されていた。

竹槍など、どこにも残っていないのだ。木の枝でも伐って、
武器にして立ち向かえというのか? 

そんなことをすれば、まちがいなく、全員死ぬ。

「御国のために死ぬのは名誉なこと」と、教えられてはき
ても、誰だって、進んで死にたくはないのだ。

白旗を振って、降伏する…。

助かるためには、それしか方法はないように思えた。

しかし、「降伏」という手段は、ゆるされていなかった。
国の指令は、「最後のひとりまでたたかえ」である。

降伏などすれば、非国民になってしまう…。

いや、仮に降伏したとしても、うわさに聴く米軍は、鬼の
ようにおそろしいものたちばかりだという。

いのちは助かっても、奴隷にされ、ひどいあつかいを受け
るとしたら、死んだほうがましではないのか。

たたかっても、地獄。待ち受けても、地獄…。

みなは、あらためて自分たちが直面している状況に、おの
のくのだった。

「では、一体、どうすれば…」

そのあとも、いくつか意見は出されたが、どれも現実的で
はないものばかりであった。

とうとう、誰も、発言しなくなってしまい、座は、しーん
としてしまった。

みな、目を伏せて、町長夫人のほうを盗み見るばかりだ。

そのときである。イセが立ち上がった。

「みなさん! 聴いてください! 生き残ることを考えま
しょう! 逃げるんです!」

みんなの視線が、一気にイセに集まった。


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