2016年10月31日

物語版「零(zero)に立つ」第15章 米軍上陸?!(1)/通巻113話

天童で産まれ網走で活躍した、中川イセさんの半生を描いた
『零(zero)に立つ〜激動の一世紀を生きた中川イセの物語〜』
※この作品は、もともと、女優・夢実子が演ずる語り劇として書かれたものを、
 脚本を担当したかめおかゆみこがノベライズしているものです。

※これまでのあらすじと、バックナンバーは、こちら


1941年暮れに開戦したのち、勝っていたのは最初のうちだ
けで、翌1942年夏には、もう連戦連敗におちいっていた。

国民のほとんどは、そんなことは知る由もなく、ただただ、「御
国のために」と、御旗をふり、家族を戦場に送り出したのだ。

1944年になると、網走でも、米軍上陸にそなえて、海岸線を
中心に、各地に、トーチカ(コンクリート製の防御陣地)が掘ら
れた。

それとて、男手はほとんどなくなっていたから、女や老人たちが
かりだされた。

1945年に入ると、海から離れた場所に、疎開をはじめるひと
もあらわれた。

そのころになると、おおっぴらには言わないものの、軍関係者を
中心に、日本の敗戦を予想するものは少なくなかった。

あるとき、出入りしていた陸軍師団に立ち寄った折、イセは、顔
見知りの将校に呼び止められた。

「これ、もっていきなさい。…勝てない戦争だから、死ぬときは
きれいにだよ」

小声で、ちいさな包みを、そっとわたされた。

その場ではたずねていけないような気がして、帰宅して開けてみ
ると、薬包紙のなかに、少量の白い粉末が入っていた。

(青酸カリだ…)

イセは直感した。

背筋がぞくっとしたが、そのまま、たんすの奥にしまい、誰にも
見せなかった。

愛馬婦人会の会長として、「外事軍曹」とまで言われていたイセ
である。

(女であっても、戦犯になるかもしれないな…)

あらためて、そう覚悟せざるを得なかった。

1945年7月14日・15日。米軍は、13機の航空母艦を引き
連れて、北海道にやってきた。

そこから、3000機の戦闘機を、北海道全土に飛ばした。

根室では、全家屋のうち7割が焼失。死者369名。
釧路でも、1618戸が焼失。死者192名。
室蘭は、2日間にわたる艦砲射撃で、436名が死亡。
函館では、すべての青函連絡船が損壊。死者350名。

計70の市町村で、2000名近い死者が出た。

網走も例外ではなく、15日の早朝、4機の戦闘機の襲来に
より、機銃掃射を受け、14名が死亡した。

それにより、町は、上を下への大混乱となった。

「米軍が、いまにも、浜から上陸してくるぞ!」
「男は奴隷にされて、こき使われるって!」
「女は襲われないように、顔を汚してかくれろ!」

流言蜚語がとびかい、誰もが冷静さをうしなった。

しかも、頼りとなるべき兵隊たちは、隊ごと、いつのまにか
どこかに移動してしまっていた。、

生まれたばかりの、愛子の赤ん坊が、火のついたように泣く。

「母さん、どうしよう。どうしたらいいの?」

「落ち着くんだ。絶対に、おまえは、赤ん坊を守るんだよ。
大丈夫。おまえたちに指一本だってふれさせるもんか」

イセのことばに、愛子青ざめたまま、うなずく。

町に、ようすを確認するために出ていた卓治が、やせ馬に鞭
打って、もどってきた。

「イセ、招集だ。国防婦人会、愛馬婦人会の幹部は、町長の
公宅に集まれと! 俺は、これから、組合員の状況を確認し
に、もう一度まわってくる!」

いつもはおだやかな表情を絶やさない卓治も、このときばか
りは、こわばった顔つきだ。

「わかった! 宗治! 愛子! 留守宅を頼んだよ!」

イセも、軍馬として徴用されずに残った馬に飛び乗り、町
長公宅に向かった。

町のそこかしこに、きなくさい匂いがたちこめていた。

イセは、たずなをしっかりとにぎり直すと、さらに馬の速度
をあげた。


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札幌★夢実子 語り劇「掌編・中川イセの物語」
ほか
日時/2016年11月26日(土)10時〜16時45分
会場/ちえりあ演劇スタジオ1
(地下鉄東西線宮の沢駅約5分)
詳細/こちら 
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「零(zero)に立つ」第1巻
イセさんの誕生〜北海道に渡るまで。波瀾万丈の人生の幕開けです!
 
1200円+送料200円=1400円 ※2冊以上でも、送料は据え置き200円
詳細は、こちら
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2016年10月30日

「掌編・中川イセ物語」は、「武勇伝」編です。

天童で産まれ網走で活躍した、中川イセさんの半生を描いた
『零(zero)に立つ〜激動の一世紀を生きた中川イセの物語〜』
※この作品は、もともと、女優・夢実子が演ずる語り劇として書かれたものを、
 脚本を担当したかめおかゆみこがノベライズしているものです。

土日祝日は、連載はお休みさせていただいています。

これまでのあらすじ


いつもご愛読ありがとうございます

「掌編・中川イセ物語」は、本編「零(zero)に立つ」に盛り込
みきれなかったエピソードを、盛り込んだ内容です。

…というご紹介をしたところ、「どんな内容なんですか?」
というおたずねを、いただきました。

たしかに、内容がわからないと、興味も湧きにくいですよね。

本編「零(zero)に立つ」は、サブタイトルにあるとおり、ま
さに「激動の一世紀を生きた中川イセの物語」なのですが、

この「掌編」のほうは、イセさんの「武勇伝」編なんです。

物語版「零(zero)に立つ」の連載をお読みいただいているか
たは、ご存じでしょうが、イセさんは、武術の達人です。

とくに、柔道。一本背負いが大得意。

そして、イセさんのなみなみならぬ、「弱い立場のものを守
りたい」という気持ち。

このふたつが合わさると、権力をかさにきたり、暴力で相手
をねじふせようとするものを、やっつけちゃう!という、実
に爽快なお話になるわけです。

しかも、当然ながら、実際にあったお話なんです。

連載でも、女性のかたから、「かっこいい!」「ほれる!」な
んて感想をいただいたりしました♪

これを、夢実子さんが、臨場感たっぷりに語るわけです。

現代では、この時代(戦前)のような、遊廓はなくなりました。

でも、ちから(実際の腕力でも権力でも)の強いものが、弱い
ものを蹂躙するようなできごとは、たくさんあります。

ごらんいただくお客さまは、無意識のうちに、そのような現
状を重ね合わせておられるのではないでしょうか。

イセさんの痛快なありかたに、あこがれをいだかれるかたも、
いらっしゃるでしょう。

負けない。けっしてあきらめない。

そんな気持ちを揺さぶられたいかた、ぜひ、会場に足をお運
びください。

お待ちしています!

おもて面.JPG うら面.JPG

この「武勇伝」(笑)が、ナマの語りで聴けますよ〜
                

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ほか
日時/2016年11月26日(土)10時〜16時45分
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(地下鉄東西線宮の沢駅約5分)
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2016年10月29日

これまでのあらすじ/語り劇「掌編・中川イセ物語」の魅力について

天童で産まれ網走で活躍した、中川イセさんの半生を描いた
『零(zero)に立つ〜激動の一世紀を生きた中川イセの物語〜』
※この作品は、もともと、女優・夢実子が演ずる語り劇として書かれたものを、
 脚本を担当したかめおかゆみこがノベライズしているものです。

土日祝日は、連載はお休みさせていただいています。


これまでのあらすじ

★第1章★ いせよ誕生
明治34年(1901年)、今野安蔵・サダの娘、いせよ(のちの中川イセ)
誕生。サダは、産後の肥立ちが悪く、死を予感。ヤクザものの安蔵にあとを
託すことを怖れ、佐藤コウに里親を頼むと、その年のうちに亡くなった。
    

★第2章★ 差別と貧しさのなかで
イセは佐藤家の里子になった。佐藤家は貧しく、イセはまわりからいじめられ
たり、差別を受けたりするが、コウの愛情、親友・渡辺みよしの存在、自身の
負けず嫌いの性格で、それらをはね返して成長していく。
     10 11 12 13 14 

★第3章★ はじめての家出
10歳で実家に連れもどされイセは、学校にも行けず、仕事に明け暮れる。
11歳の夏、モヨとの口論から、初めての家出。山形の船山先生夫妻の
家で住み込みの女中をし、かわいがられるも、翌春、船山先生に満州へ
の転勤辞令が出て、再び実家にもどることになる。
15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25

★第4章★ イセの初恋
またまた家出し、米沢の寮づきの織物工場ではたらく。仲間もできて楽し
い日々。そんな中、隣に住む名家の次男坊・戸田茂雄との初恋も体験。し
かし、安蔵にイセの居場所を知られたことで、イセは実家に帰ることに…。
26 27 28 29 30 31 

★第5章★ 女優志願
実家にいる間、地域巡演で山形にきた松井須磨子(実はにせもの)にあこが
れ、家出して上京する。しかし、たずねた帝国劇場に須磨子はおらず、い
くつかの仕事を転々とするが、結局あきらめて山形にもどることになる。
32 33 34 35 36 37 

★第6章★ 運命の歯車
人絹工場、機織り工場などではたらくうち、かつて実家に出入りしていた
芸人・八重松と再会。乱暴されて子どもを身ごもり、17歳で娘・愛子を
出産。その後、北海道の遊廓への話をもちかけられ、悩んだ末、イセは3
年で500円の借金をし、そのお金で愛子を里子に出すことにする。
38 39 40 41 42 43 44 

★第7章★ 網走まで
大正7年暮れ、イセは北海道に旅立った。ところが途中で虫垂炎から腹
膜炎をおこし、到着した旭川で即入院。借金が倍の1000円となり、
網走の遊廓に売られることに。駅前の島田食堂の夫婦にかわいがられる。
45 46 47 48 49 

★第8章★「お職」になる!
自転車を借りて町内を乗り回したり、柔道場に通ったりしたイセだが、娼
妓になると今度は、囲碁や将棋をおぼえ、お客を楽しませる工夫をした。
また酒に強く、何度も杯を重ね、そこから収益をあげることも考えた。
51 52 53 54 55 56 57 58 59

★第9章★「小梅」の死
イセは、娼妓に乱暴した客を一本背負いで投げ飛ばすなどで、娼妓たちの
信頼を勝ち得ていった。しかし一方で、妹ぶんの「小梅」が、失恋を苦に
自死。小梅の死をきっかけに、娼妓みんなでちからをあわせることを誓う。
60 61 62 63 64 65 66 

★第10章★中川卓治という男
イセは、柔道場で出会った中川卓治と親しくなり、急速に気持ちが近づい
ていく。卓治の妹・タマは、2人の交際をはげしく反対するが、卓治はイ
セに求婚し、イセは身請けされて、ついに遊廓を出る。
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★第11章★樺太にて
中川家よりもイセを選んだ卓治。2人は樺太にわたり、仕事を見つけて
はたらき、暮らしを立てた。卓治は、酒がもとでけんかをして大けがを
したりもするが、ついに茂市の許しが出て、網走に帰れることになる。
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★第12章★岬の日々
網走の能取岬にある中川牧場の管理をまかされたイセたち。その雄大な
景色にイセは魅了される。乗馬も覚え、少しずつ馬との暮らしに親しみ、冬
になれば、流氷の美しさに見とれる。平和な日々がすぎていく。
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★第13章★茂市の死
卓治の父・茂市が、娘婿・東条貞の選挙資金調達で14万円の借金を残
して死去。イセと卓治はその借金を引き受ける。拓銀に50年割賦(ロー
ン)を頼むため、イセは札幌本店に出向き、交渉を成立させる。
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★第14章★戦況のなかで(2016.10.28ぶんまで)
借金返済のため、卓治とイセは、牧場経営だけでなく、馬喰として馬の
売買にもかかわる。また、念願の愛子をひきとり、やがて、調教師にす
るべく養子にした清と、結婚させる。しかし、幸せのさなかにも、戦争の
影は刻一刻とせまり、清は、海軍に招集され、戦死する…。
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いつもご愛読ありがとうございます

語り劇「掌編・中川イセ物語」の魅力について

脚本家が、自分の作品の魅力について語る…というのは、
少々おこがましい気がするのだけれど、それができてしま
う理由があります。

それは、この作品が、私の作品であって、私の作品ではな
いからです。

「零(zero)に立つ」もそうなのですが、脚本を書いている
とき、自分が書いているのではなく、イセさんに書かされ
ているという気持ちになることが、しばしばありました。

もとより、史実にもとづく作品というのは、作家の自由に
はなりません。

時代考証も必要ですし、まして近年のひとであれば、子孫
のかたもいらっしゃるので、おいそれと適当なことは書け
ません。

「零(zero)に立つ」は、もともと、山谷一郎さんの「岬を駈け
る女」を主要資料とさせていただいていますので、流れは
先にできあがっていました。

だから、その意味ではゼロからの創作ではなく、ずいぶん
気持ちは楽だったのですが、それでも、苦労はありました。

103歳で脳梗塞で倒れるまで、現役だったイセさんには、
エピソードがありすぎるのです。

複数のひとが登場する劇ではありません。まして、「語り」
がメインですから、動きまわるわけでもありません。

企画段階で、「上演時間は、1時間ちょっと。できれば1時
間15分くらい」という合意ができていました。

それが、演者にとっても、お客さんにとっても、ベストの
時間だろうというのが、結論だったのです。

が、そのために、削ったエピソードの数々…。

夢実子さんが、今年1月の、アポックシアターでの「ひとり
芝居フェスティバル」に出演することが決まったとき、演目
をどうしようという話になりました。

ひとりの持ち時間は60分。75分かかる「零(zero)に立つ」
は、もともと無理。

これまでやってきた、語り劇「真知子」なら25分でおさま
るので、あと1本、30分くらいの作品はないだろうか?

という話になったとき、前々から構想していた、「零(zero)に
立つ」に載せられなかった、エピソード編の話が再浮上した
のです。

異論はありませんでした。

もともと書きたかったので、書き始めて、脱稿までは早かっ
たです。

載せられなかったエピソードのうち、「武勇伝」を集めたみ
たいな作品になりました。

とにかく、痛快! 豪快! 気分爽快!(笑)

演じる夢実子さんも、思わず、ノリノリ。

そうして、1月28日の初演の幕をあげることができたのでし
た。(おかげさまで、好評でした!)

その後、ぱたぱたと、山形県内数か所で、上演の依頼があり、
さらにブラッシュアップ。

8月27日の、山形市・シベールアリーナでの本編「零(zero)
に立つ」があった関係で、小休止していましたが、このたび、
札幌で再々々々…演!

ぜひぜひぜひ、ごらんくださいね。

「札幌は遠すぎる〜」というかたは、ぜひ、札幌周辺のお知
り合いに、おすすめしてくださいませ。

お客さまの感想で、「本編(「零(zero)に立つ」)では、生きる
ことの重厚さに感動したが、「掌編」のほうは、イセさんの人間
味が伝わってきて、それぞれにちがう感動があった」そう。

脚本家冥利、役者冥利に尽きるおことばですね。


この「武勇伝」(笑)が、ナマの語りで聴けますよ〜
                

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2016年10月28日

物語版「零(zero)に立つ」第14章 戦況のなかで(13)/通巻112話

天童で産まれ網走で活躍した、中川イセさんの半生を描いた
『零(zero)に立つ〜激動の一世紀を生きた中川イセの物語〜』
※この作品は、もともと、女優・夢実子が演ずる語り劇として書かれたものを、
 脚本を担当したかめおかゆみこがノベライズしているものです。

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愛子の妊娠がわかり、よろこびに湧いていた中川家に、一通
の通知が届いた。

海軍への召集令状。いわゆる「赤紙」である。宛て名は、清
であった。

よろこびは、一気に、かなしみへと変わった。

けれども、見送るものは、涙を流すことはゆるされない。

「この子と一緒に、ご無事を祈っています」

愛子は、芽生えたばかりのいのちをかかえるように、おなか
に、そっと手をそえて言った。

「日本は神風の国だもの。負けやしないさ」

清は、愛子とイセたちに、ちからづよく敬礼をして、旅立っ
ていった。

1943年に入ると、戦況は刻一刻ときびしさをましていた。

卓治もイセも、軍馬をあつかう関係上、軍の人間とかかわる
機会が、しばしばあった。

開戦当時は、威勢のいいことばを発していた軍人たちが、そ
うしたことばを口にしなくなっていく。

戦況のきびしさは、ことばに出さずとも伝わってくるものが
あった。

また、当時、すでに衆議院議員になっていた、東条貞(卓治
の妹・タマの夫)が帰郷する折、話をもれ聴く機会もあった。

東条は、翼賛政治会・大日本政治会に所属していたので、上
層部の情報に通じていた。

もちろん、軍事機密を簡単に話してくれるはずもなかったが、
イセは、ことばの端々や、地元の支援者たちとのやりとりか
ら、その様子を察知した。

清の戦死が伝えられたのは、愛子が臨月に入ろうとするとき
であった。

B4判の薄い和紙に「死亡告知書(公報)」と書かれたそれ
には、「中川清」の名前、所属、死亡した地名などが書かれ
てあった。

そして、「英霊に就ての御知らせ」という、はがき大のちい
さな紙がそえられ、「死亡賜金」のことなどが書かれていた。

「清…、なんで死んだ…、生まれてくる子の顔も見ないで…」

戦死公報をにぎりしめ、イセは、必死に涙をこらえた。

当時は、戦争で亡くなったものは「英霊」としてたたえられ、
けっして、泣いたり悲しんだりしてはいけなかったのである。

イセも、人前では涙をこらえた。

けれども、養子とはいえ、かわいがって育てた子どもが死ん
で、かなしくない親がいるだろうか。

何よりも、残された愛子が不憫であった。

「子どものためにも、生きるんだ。絶対に、変な気を起こす
んじゃないよ」

ひとには聴かれぬよう、イセは、愛子をはげました。

立場はちがえど、大切なひとを想って悼む気持ちは、ふたり
一緒だった。

もしかしたら、このときようやく、イセと愛子の、埋めがたか
った溝が埋まったといえるのかもしれない。

ちなみに、この年の5月、アッツ島の戦いで、日本軍2638
名が、いのちを落とした。

生き残ったものわずか28名という、凄惨な戦いであった。

そのほとんどが、北海道から出征していったものたちだった。

それまでは、対岸の火事のような想いでいた北海道民も、い
よいよ、戦争が身にせまるものを感じたのである。

こうして、日本は、しりぞくことを選ばぬまま、各地で、たく
さんの尊いいのちを散らしていった。

第2次世界大戦での日本の戦没者数は、310万人といわれ
ている。

また、戦争末期ともなると、軍馬の数も、思うようにそろわ
なくなってきた。

ついに、イセがかわいがって、いつも乗っていた「初梅」が、
買い上げられることになる。

「初梅を戦地に? いやだ…」

しかし、そんなことを口にすれば、イセだけでなく、家族や
馬喰組合の仲間すべてが、処罰の対象になりかねない。

「初梅…」

イセは、涙をこらえて、最後の手入れを、それはていねいに
おこなった。

引かれていくとき、初梅が、ひと声おおきく、いなないた。
その目からは、涙が伝っていた。

(初梅…、おまえ…)

馬はかしこい生きものである。初梅は察知していたのである。
これがイセとの最期の別れであると…。

初梅の、その涙を、イセは、一生忘れることはできなかった。


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2016年10月27日

物語版「零(zero)に立つ」第14章 戦況のなかで(12)/通巻111話

天童で産まれ網走で活躍した、中川イセさんの半生を描いた
『零(zero)に立つ〜激動の一世紀を生きた中川イセの物語〜』
※この作品は、もともと、女優・夢実子が演ずる語り劇として書かれたものを、
 脚本を担当したかめおかゆみこがノベライズしているものです。

※これまでのあらすじと、バックナンバーは、こちら


ときは前後するが、1941年12月、日本は、真珠湾を攻撃。

翌1942年1月にはマニラを占領、2月にはシンガボール占
領、そして、3月にはジャワ島を占領…と、破竹のいきおいで
進撃をつづけた。

けれども、日本の勝利はそこまでだった。

1942年6月、ミッドウェイ海戦において、空母4隻をうし
ない、また、3000名以上の兵士がいのちを落とす。

そこから先は、撤退の一途を強いられるのだが、軍部に牛耳
られていたマスコミは、連戦連勝のごとき報道しか流さない。

ましてや、軍港もない網走は、さほどさしせまった危機感な
ど、感じることのなく、いまだ戦争景気に酔いしれていた。

このころ、卓治は、牛馬商組合・畜産組合の責任者として、外
に出る機会がふえた。

そこは、ほとんど男ばかりの仕事ゆえ、酒はつきものである。

しばらくなりをひそめていた、酒ぐせの悪さが再燃するよう
になっていた。

それと同時に、羽振りがよさそうに見える卓治に、目をつけ
る女もあらわれた。行きつけの料亭の芸者であった。

せまい町のこと、イセの耳にも自然とそのうわさは入ってきた。

しかし、イセは卓治を問い詰めることもなく、つとめて平静
をたもっていた。

ところが、ある夜のこと。

「おい、イセ、いま、帰ったぞ」

卓治がいつものように、したたかに酔って、車に乗せられ
帰ってきた。

こんなとき、イセは、「お疲れさまです。お世話をかけまし
て」と、何がしかの心付けをいれた祝儀袋をわたすのが常
であった。

けれども、この夜、車のなかに、卓治とうわさのある芸者の
姿を見たとき、イセの胸のなかに押し込められていた想い
が、ボッと音を立てて燃え上がった。

「あら、せっかく送っていただいたのに、いまはあいにくと
手元にお金がなくて、ごめんなさい」

そう言って、そっけなく、そのまま帰してしまったのだ。

けれども、そのあとが大変であった。

「わずかばかりの金で、男の顔さ泥ばぬりやがって!」

酔った卓治が、太い腕を振り上げて、イセにかかってきた
のだ。

ふだんの温厚な卓治なら、こんなことは、けっしてしない。

だから、イセも、これまでは、黙って耐えるか、うまく身
をかわして逃げてきた。

だが、この日のイセはちがった。きっ!と卓治をにらみつ
けると、どこからでもこいと身がまえたのだ。

その姿勢を見た卓治が、一瞬とまどい、動きが止まった。

イセはそのすきをのがさず、卓治の腕をとるや、ふところに
飛び込み、もたれかかる巨体の勢いを借りて、得意の一本
背負いをかけた。

どっすーーーーん。

卓治は大きな円を描いてすっ飛び、ものすごい音を立てて、
土間にたたきつけられた。

イセの動きはそこで止まらない。

駆け寄って卓治に飛びつくや、太い首に腕をまわし、全身の
力をこめて締め技に入る。

卓治の顔が紫色に変わっていく。そのうち、からだからちか
らが抜けて、くったりとのびてしまった。

イセは、しばらく肩で大きな息をついていたが、気持ちが落
ち着いてくるにしたがい、事の重大さに気がついた。

「あんた! あんた! 起きて! 起きてちょうだい。ねぇ、
目を覚まして!」

ほおをぺたぺたたたいたり、抱き起こして背骨にひざをあて、
後ろに反らせて活を入れるまねごとをしてみたが、まったく
反応がない。

「このまま息を吹き返さなかったら…」

イセが、仏壇のご先祖様にもすがりたい気持ちになったとき、
卓治が「うーん」とうなって起き上がった。

おおきな目をぎょろりと開いて、不思議そうにあたりをなが
めている。何が起きたか、まだ把握できていないようだ。

イセは、急に全身の力がぬけた。

「あんた! 生きてた! よかった!」

そうして、おいおいと、大声で泣きだしてしまった。

卓治がことの次第を理解するのは、翌朝、酔いから醒めた
あとのことである。

けれども、この一件がよほどこたえたのか、以後、卓治は、
酔って暴力をふるうことはなくなったという。


この「武勇伝」(笑)が、ナマの語りで聴けますよ〜
                

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札幌★夢実子 語り劇「掌編・中川イセの物語」
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日時/2016年11月26日(土)10時〜16時45分
会場/ちえりあ演劇スタジオ1
(地下鉄東西線宮の沢駅約5分)
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「零(zero)に立つ」第1巻
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2016年10月26日

物語版「零(zero)に立つ」第14章 戦況のなかで(11)/通巻110話

天童で産まれ網走で活躍した、中川イセさんの半生を描いた
『零(zero)に立つ〜激動の一世紀を生きた中川イセの物語〜』
※この作品は、もともと、女優・夢実子が演ずる語り劇として書かれたものを、
 脚本を担当したかめおかゆみこがノベライズしているものです。

※これまでのあらすじと、バックナンバーは、こちら


しかし、イセたちが過ごしたこの時代は、また、15年戦争
の時代とぴたりと一致している。すなわち、

満州事変 1931年
日中戦争 1937年
太平洋戦争 1941年

これらは、相互に不可分の関係にある、ひとつづきの戦争と
して、「15年戦争」と呼ばれるのである。

(戦争状態がつづいたという意味で、ひとつの戦争という意
味ではない)

それは、1945年の第2次世界大戦終結までつづく。

同時に、戦況が悪化する1942年までは、この一連の戦争
によって、日本は戦争景気にわいた。

この時代がなければ、イセたちは、あの巨額の借金を返すこ
とができていただろうか。

(少なくとも別の方法を嵩じる必要があっただろう)

いずれにしても、このかんの記録は、ほとんど残されていない。

時代のうずに巻きこまれ、日々を忙しく、また楽しくはたら
き、10年という年月が、あっというまに過ぎていくのである。

イセは、愛馬婦人会の会長として、100名をこす会員をまと
めた。

国防婦人会の活動にもかかわった。

女ながらに「軍曹待遇」という呼称もあたえられ、馬をつらね
て、師団の慰問などにでかけていったりもした。

卓治は、牛馬商(馬喰)組合や畜産組合の会長として、網走
地方を一手にまとめた。

中川牧場の経営は、ほとんど、息子の卓治がになうようにな
っていった。

養子にした清も、調教師として成長し、中川牧場の支え手と
なった。

もちろん、その時間は、イセと愛子のあいだをも、次第にや
わらかなものにしていった。

ぎこちなさはあったものの、愛子は、イセを「母さん」と呼ぶ
ようになり、家での仕事を手伝った。

のちになって、愛子は、

「正直、はじめのころは、これが本当に、血のつながった母
親なのかとうたがったわ」

と笑って話すのだが、それが笑い話として話せるようになっ
ていった、ということでもある。

記録には残っていないが、おそらく、このかん、卓治の母親
も、静かに、あの世に旅立っていると思われる。

(イセより11歳年上の卓治は、1941年当時、51歳になっ
ていたはずだから、その母親は、70歳以上。当時の平均寿
命を越している)

1941年4月、東京で開催された、興亜馬事大会で、イセは、
愛馬婦人会会長として、国策に貢献したとして、表彰された。

イセの乗馬姿が全国紙に載り、もちろん、網走じゅうの評判
にもなった。

そんなさなかに、さらに、うれしいことがあった。

清と愛子のあいだに、恋が芽生えたのである。

もともと同い年の2人は、ともに暮らすなかで、少しずつこ
ころの距離をちぢめていった。

清もまた、この家では新参者であったから、愛子とは、気持
ちが通ずるところもあったのかもしれない。

清は、中川家の養子ではあるが、愛子は引き取ったとはいえ、
中川家の「養女」にしたわけではない。

2人が一緒になることは、血のつながりのうえでも、形式的
にも、なんの問題もないのであった。

いや、しいていえば、愛子の父親は、地方のしがない芸人で
ある。かつてなら、親戚筋が文句を言ったかもしれないが、

愛馬婦人会での活躍で、最近では、中川家の親戚たちも、お
もてだって、イセの批判をすることもなくなっていた。

愛子が、中川家にやってきて、10年。

1942年、24歳になった2人は、祝言をあげた。そして、その
年のうちに、愛子は身ごもることになる。

海の向こうでは、戦況は悪化しはじめていたが、北の果ての
網走では、まだそれをさほど感じることはない。

ひとときの幸せが、中川家をつつんでいたのである。


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2016年10月25日

物語版「零(zero)に立つ」第14章 戦況のなかで(10)/通巻109話

天童で産まれ網走で活躍した、中川イセさんの半生を描いた
『零(zero)に立つ〜激動の一世紀を生きた中川イセの物語〜』
※この作品は、もともと、女優・夢実子が演ずる語り劇として書かれたものを、
 脚本を担当したかめおかゆみこがノベライズしているものです。

※これまでのあらすじと、バックナンバーは、こちら


そんな一件がありつつも、中川家は、ついに、あたらしい家
族をむかえた。

愛子である。

「帰ったぞ」

卓治の声に、イセは玄関先に飛び出した。

14年ぶりに会うわが子が、目の前に立っていた。

「さあ、今日からここが、我が家だ。遠慮はいらん」

卓治が、愛子の肩をぽんぽんとたたいた。愛子が、はにかみ
ながら、うなずく。

そのようすを、イセは、不思議な気持ちで見ていた。

あれほど待ち焦がれていた愛子を目の前にして、なぜか、
どうにも実感がわかないのである。

うれしいというよりも、戸惑いの気持ちのほうが、イセの胸
にうずをまく。

数えで15の愛子は、もう立派な娘ざかりである。

けれども、実の母でありながら、ここまでおおきくなるまでの
姿を、自分は何一つ見ていない。

どんな体験をし、どんな想いで生きてきたか、まるで赤の他
人のように、何ひとつ知らないのだ。

愛子もまた、はじめて会うイセを、すぐに「お母さん」と呼ぶ
ことができずにいた。

14年間、自分を育ててくれた五十嵐家のほうが、愛子にとっ
ては、本当の家族のように思えていたのだから。

それでも、じっくりと時間をとって、これまでのいきさつを聴
けば、少しは、その空白も埋められるかもしれない。

けれども、イセはそうしなかった。

家族にあいさつをさせ、部屋に荷物を置かせると、すぐに台
所に立つように言ったのだ。

「イセさん、いま着いたばかりなんだから、まずはゆっくり、
休ませてあげたら…」

さすがに見かねて、卓治の母までが言ったほどだ。けれども、
イセは、首を振った。

「いいえ、最初がかんじんですから。愛子、五十嵐の家で、
手伝いは、ちゃんとやっていたかい?」

「はい」

愛子も、緊張した気持ちのまま、ちいさな声でうなずく。

言われるまま、まるで、親戚の家にでも来たかのように、台
所に立ったのである。

その夜、皆が寝静まったあと、卓治とイセは、ストーブを囲
んで、茶をすすった。

「あんた、無事に愛子を連れてきてくれて、ありがとうね」

イセは、卓治に頭を下げた。卓治は言った。

「そのことだけんど、イセよ、おまえ、愛子にきびしすぎる
んでないか。今日くらい、何もせんで休ませてやってもよか
ったろう」

イセは、茶を飲む手を止めて、じっとうつむいていたが、や
がて、ぽつりと、ひとりごとのように言った。

「わたすだって、愛子が来てくれて、うれしいよ。だけど、
これから一緒に暮らしていくのに、ここで甘やかしてしまっ
たら、清や宗ちゃんにしめしがつかないと思うの」

「イセ…、そんなことは…」

卓治は、言いかけて、思わずことばを止めた。

イセは、愛子が加わることで、ここまで築き上げてきた中川
家の調和がくずれることを、何よりもおそれたのである。

それは、本当の家族と暮らすことなく、生きてきたイセの、
不器用さであったかもしれない。

「実の子だもの、愛子はきっとわかってくれる…」

自分に言い聴かせるように、ひとりごつイセを、卓治は、じ
っと見つめているしかないのだった。


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2016年10月24日

物語版「零(zero)に立つ」第14章 戦況のなかで(9)/通巻108話

天童で産まれ網走で活躍した、中川イセさんの半生を描いた
『零(zero)に立つ〜激動の一世紀を生きた中川イセの物語〜』
※この作品は、もともと、女優・夢実子が演ずる語り劇として書かれたものを、
 脚本を担当したかめおかゆみこがノベライズしているものです。

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山岡は、風のうわさで、父親と親交のあった、中川茂市が死
んだこと、その借金を、息子夫婦が引き受けたことを知った。

そのとき、自分の家にあった、一枚の借金証書のことを思い
出したのだ。

死んだ父親の遺品を整理しているときに、見つけたものだ。

もう10年以上経って、効力は消失している。捨てるしかな
いと想っていた矢先に、そのうわさを聴きつけた。

これはひと芝居打てば、金になる。そう踏んで、わざわざこ
こまでやってきたのに、とんだ眼鏡ちがいである。

ここで、下手に、詐欺だ、おどしだと騒がれてはたまらない。

そう判断した山岡は、次の瞬間、ひとが変わったようにぺこ
ぺこしはじめた。

「あ、いや、奥さん、失礼しました。実はちょっとばかり、金
が入り用なところへ、この証文が出てきたもんですから。ええ、
東京へ帰ったら、一か月以内に返済します」

イセは、表情を変えずに、山岡をまっすぐに見ている。
山岡は、さらに、追従笑いを浮かべて、杯をさしだした。

「まあ、お気持ちを直して。ここは私がおごりますから…」

イセは、むしずが走る思いがしてつっかえそうとしたが、
ふと頭にひらめくものがあった。

「山岡さん、杯でちびちびではなんですから、コップでいた
だきませんか」

そう言って、山岡に酒をつがせると、そのコップの酒を、一
気に飲み干した。

イセは、遊廓時代から、めっぽう酒が強いのだ。一升飲ん
でも酔わなかったほどだった。

それは、三十路を超えたいまも、おとろえることはない。

山岡もいける口だが、すでに下地ができあがっている。

しかも、「なんとかこの場をごまかせる」と安心して、いき
おいよくコップ酒をあおったものだから、急速に酔いがまわ
っていく。

たまたま、そこにいた芸者のひとりが、イセの遊廓時代の顔
なじみだった。

山岡が、足をふらつかせながら、手洗いに立ったすきに、イ
セは、その芸者に、すっと近寄った。

「米吉さん、ごぶさたしてました。ちょっと頼まれてほしい
んだけど…」

「姐さん、お久しぶりです。ええ、なんなりと」

イセは、耳元で、そっと何事かをささやいた。それを聴いた
米吉が、承知したとばかりにうなずき、にっこり笑う。

やがて、山岡が厠からもどってきた。米吉は、その山岡に誘
いをかけた。

「お客さま、このあたりで河岸を替えて、ゆっくりとおやり
になってはいかがですか」

山岡は、いきおいよくそれを受けた。

「よかろう。席を変えて飲み比べといきましょう」

しかし、ことばは威勢がいいが、すでに山岡は、ひとりでは
立てぬほどに酔っている。

その山岡の腕をかかえるようにして、米吉が案内した先は、
網走一の料亭だった。

山岡のふところには、先ほど、イセからむしりとるようにし
た300円が入っている。

そのことは、すでに米吉がやった使いをとおして、店に伝わっ
ている。

料亭では、10人の芸者が繰り出して、山岡を待ち受け、鳴り
物入りの大宴会となった。

3日後。

料亭の女将が、菓子折りをもって、イセをたずねてきた。

「このたびは、粋なお計らい、ありがとうございます」

あのとき、イセは、米吉にこうささやいたのだ。

「こういうやつは、少しこらしめてやったほうがいいんだ。
帰りの汽車賃くらいだけ残して、あとはしぼりとっておやん
なさい」

山岡は、10人の芸者に囲まれて、さんざん飲み食いし、遊
びほうけたあげく、さしだされた勘定書きを見て顔色を変え
たそうだ。

そして、かろうじて残った金で、しょんぼりと帰っていった
という。

それを聴いて、イセはすましてこたえた。

「料亭にお金をおとすために、わざわざ北海道までくるなん
て、山岡さんも酔狂なおひとだね。あっはっは」

のちに、網走市市議会議員となったイセは、女性の人権を
踏みにじるものたちに、とくにきびしく対処したという。

その片鱗は、すでに、こんなところにもあらわれていたの
かもしれない。


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2016年10月23日

夢実子さんの熱い語り★かめおかメルマガ13周年記念イベントより

天童で産まれ網走で活躍した、中川イセさんの半生を描いた
『零(zero)に立つ〜激動の一世紀を生きた中川イセの物語〜』
※この作品は、もともと、女優・夢実子が演ずる語り劇として書かれたものを、
 脚本を担当したかめおかゆみこがノベライズしているものです。

土日祝日は、連載はお休みさせていただいています。

これまでのあらすじ


いつもご愛読ありがとうございます

昨日は、かめおかのメルマガ13周年記念イベント
「いのちの使いかた」でした。

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夢実子さんにゲスト出演していただいて、「中川イセのあきらめ
ない精神」を語っていただきました。

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いつもながら、話をしている内に、どんどん熱を帯び、参加され
たみなさんの気持ちを引き込んでいきました。

来年、首都圏公演をめざしています、というくだりになると、
みなさん、もう、すっかり「応援します!」「協力します!」という
雰囲気に♪

終わってからの懇親会も、遅くまでもりあがりました!

参加いただいたみなさんに、こころからの感謝!


また、イベントの前に、夢実子さんと2人で、ランチ・ミーティング。

「零(zero)に立つ」首都圏公演に向けての準備をどうすすめてい
くか、おおもとの話をしました。

まだ、日程も会場も決まっていませんが、準備しなければいけない
ことは、たくさんあります。

いま、一番必要なのは、核になって一緒に動いてくれるひとです。

それも、制作の経験のあるひとが必要です。

また、それ以外にも、さまざまなかたちでサポートしてくれるひ
とを募集しています。


これをお読みいただき、興味がある!と想っていただけるかたは、
ぜひ、お声をかけてくださいね。

お待ちしています!


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2016年10月22日

これまでのあらすじ/第2巻を出したいのです!

天童で産まれ網走で活躍した、中川イセさんの半生を描いた
『零(zero)に立つ〜激動の一世紀を生きた中川イセの物語〜』
※この作品は、もともと、女優・夢実子が演ずる語り劇として書かれたものを、
 脚本を担当したかめおかゆみこがノベライズしているものです。

土日祝日は、連載はお休みさせていただいています。


これまでのあらすじ

★第1章★ いせよ誕生
明治34年(1901年)、今野安蔵・サダの娘、いせよ(のちの中川イセ)
誕生。サダは、産後の肥立ちが悪く、死を予感。ヤクザものの安蔵にあとを
託すことを怖れ、佐藤コウに里親を頼むと、その年のうちに亡くなった。
    

★第2章★ 差別と貧しさのなかで
イセは佐藤家の里子になった。佐藤家は貧しく、イセはまわりからいじめられ
たり、差別を受けたりするが、コウの愛情、親友・渡辺みよしの存在、自身の
負けず嫌いの性格で、それらをはね返して成長していく。
     10 11 12 13 14 

★第3章★ はじめての家出
10歳で実家に連れもどされイセは、学校にも行けず、仕事に明け暮れる。
11歳の夏、モヨとの口論から、初めての家出。山形の船山先生夫妻の
家で住み込みの女中をし、かわいがられるも、翌春、船山先生に満州へ
の転勤辞令が出て、再び実家にもどることになる。
15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25

★第4章★ イセの初恋
またまた家出し、米沢の寮づきの織物工場ではたらく。仲間もできて楽し
い日々。そんな中、隣に住む名家の次男坊・戸田茂雄との初恋も体験。し
かし、安蔵にイセの居場所を知られたことで、イセは実家に帰ることに…。
26 27 28 29 30 31 

★第5章★ 女優志願
実家にいる間、地域巡演で山形にきた松井須磨子(実はにせもの)にあこが
れ、家出して上京する。しかし、たずねた帝国劇場に須磨子はおらず、い
くつかの仕事を転々とするが、結局あきらめて山形にもどることになる。
32 33 34 35 36 37 

★第6章★ 運命の歯車
人絹工場、機織り工場などではたらくうち、かつて実家に出入りしていた
芸人・八重松と再会。乱暴されて子どもを身ごもり、17歳で娘・愛子を
出産。その後、北海道の遊廓への話をもちかけられ、悩んだ末、イセは3
年で500円の借金をし、そのお金で愛子を里子に出すことにする。
38 39 40 41 42 43 44 

★第7章★ 網走まで
大正7年暮れ、イセは北海道に旅立った。ところが途中で虫垂炎から腹
膜炎をおこし、到着した旭川で即入院。借金が倍の1000円となり、
網走の遊廓に売られることに。駅前の島田食堂の夫婦にかわいがられる。
45 46 47 48 49 

★第8章★「お職」になる!
自転車を借りて町内を乗り回したり、柔道場に通ったりしたイセだが、娼
妓になると今度は、囲碁や将棋をおぼえ、お客を楽しませる工夫をした。
また酒に強く、何度も杯を重ね、そこから収益をあげることも考えた。
51 52 53 54 55 56 57 58 59

★第9章★「小梅」の死
イセは、娼妓に乱暴した客を一本背負いで投げ飛ばすなどで、娼妓たちの
信頼を勝ち得ていった。しかし一方で、妹ぶんの「小梅」が、失恋を苦に
自死。小梅の死をきっかけに、娼妓みんなでちからをあわせることを誓う。
60 61 62 63 64 65 66 

★第10章★中川卓治という男
イセは、柔道場で出会った中川卓治と親しくなり、急速に気持ちが近づい
ていく。卓治の妹・タマは、2人の交際をはげしく反対するが、卓治はイ
セに求婚し、イセは身請けされて、ついに遊廓を出る。
67 68 69 70 71 

★第11章★樺太にて
中川家よりもイセを選んだ卓治。2人は樺太にわたり、仕事を見つけて
はたらき、暮らしを立てた。卓治は、酒がもとでけんかをして大けがを
したりもするが、ついに茂市の許しが出て、網走に帰れることになる。
72 73 74 75 76 77 78 79 80 81 82 83 84 

★第12章★岬の日々
網走の能取岬にある中川牧場の管理をまかされたイセたち。その雄大な
景色にイセは魅了される。乗馬も覚え、少しずつ馬との暮らしに親しみ、冬
になれば、流氷の美しさに見とれる。平和な日々がすぎていく。
85 86 87 88 89 90 

★第13章★茂市の死
卓治の父・茂市が、娘婿・東条貞の選挙資金調達で14万円の借金を残
して死去。イセと卓治はその借金を引き受ける。拓銀に50年割賦(ロー
ン)を頼むため、イセは札幌本店に出向き、交渉を成立させる。
91 92 93 94 95 96 97 98 99

★第14章★戦況のなかで(2016.10.21ぶんまで)
借金返済のため、卓治とイセは、牧場経営だけでなく、馬喰として馬の
売買にもかかわり、良心的なイセの仕事は、評判を呼ぶ。昭和7年、つ
いに2人は愛子を引き取ることにし、卓治がむかえにいくが、その間…。
100 101 102 103 104 105 106 107


いつもご愛読ありがとうございます

さて。連載は、すでに、第2巻を出せる分量になっているの
ですが、第1巻の資金回収がまだ終わっておりませぬ。

連載を読んでいないかたも、第1巻を読むと、「これはおも
しろい」と言ってくださっています。

読んでいただいたかたからは、「第2巻はいつ出ますか?」
というおたずねも、複数いただいています。(感謝)

そこで、ぜひぜひ、第2巻を出したいのですが、
私の告知力のなさで、まだ、第1巻の制作費が回収できて
いないのです…。

「零(zero)に立つ」前に、まだマイナスなのであります。

このブログの連載を読んでくださるかたに、お願いです。

イセさんの生きかたをもっとたくさんのひとに、お知らせし
ていきたいのです。

また、ネットをやっていないかたにも、お伝えしていきたい
のです。

そのために、よかったら、冊子「零(zero)に立つ」を購入し
てくださいませ〜。

また、すでにご購入いただきましたかたは、お友だちにおす
すめくださいませ〜。

あと、約80冊売れたら、第1巻制作にかかった費用が回収
できます。(少部数印刷なので、それなりに費用がかかります)

そしたら、第2巻に着手できます。

私もますますがんばりますので、応援いただけたらうれしいです

詳細は、こちらから


さて。これから、今日の午後のイベント準備にかかります。

こちらも、定員にまだよゆうがあります。当日参加も歓迎です!

本日開催!!
---------------------------------------------------
夢実子ゲスト出演!講話「中川イセのあきらめない精神」
日時/2016年10月22日(土)13時30分〜16時45分
会場/東京・日本橋ホール(馬喰町・馬喰横山・東日本橋から数分)
   中央区日本橋馬喰町1-9-1 NKビル5階
   ※三越前の「日本橋三井ホール」ではありません。ご留意ください。
   お申し込み/こちら
   お問い合わせ/info@kamewaza.com
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「零(zero)に立つ」第1巻
イセさんの誕生〜北海道に渡るまで。波瀾万丈の人生の幕開けです!
 
1200円+送料200円=1400円 ※2冊以上でも、送料は据え置き200円
詳細は、こちら

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札幌★夢実子 語り劇「掌編・中川イセの物語」
ほか
日時/2016年11月26日(土)10時〜16時45分
会場/ちえりあ演劇スタジオ1
(地下鉄東西線宮の沢駅約5分)
詳細/こちら! 
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夢実子の語り劇を上演してみませんか?




網走市観光協会さまのサイトより、ご承諾を得て
網走の写真をお借りしています。ありがとうございます。
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「北の新大陸発見!あったか網走」 
一般社団法人網走市観光協会さまご提供
posted by 夢実子「語り劇」プロジェクト at 07:40| Comment(0) | 報告 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする