2016年09月30日

物語版「零(zero)に立つ」第13章 茂市の死(3)/通巻93話

天童で産まれ網走で活躍した、中川イセさんの半生を描いた
語り劇『零(zero)に立つ
〜激動の一世紀を生きた中川イセの物語〜』


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日時/2016年11月26日(土)10時〜16時45分
会場/ちえりあ演劇スタジオ1(地下鉄東西線宮の沢駅約5分)
詳細/こちら
お申し込み/こちら
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脚本担当・かめおかゆみこです。

山谷一郎著『岬を駈ける女』を主要資料としながら、かめおかの視点で、イセさんの
物語をつむいでいます。物語ですので、すべてが事実ではなく、想像やフィクション
がまじる部分もあります。けれども、イセさんの生きかたの根本ははずさないで書い
ていくつもりです。ご感想をいただければ励みになります。よろしくお願いします。


第1章     第2章      10 11 12 13 14 
第3章 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25
第4章 26 27 28 29 30 31 第5章 32 33 34 35 36 
37 第6章 38 39 40 41 42 43 44 第7章 45 46 47 
48 49 第8章 51 52 53 54 55 56 57 58 59
第9章 60 61 62 63 64 65 66 第10章 67 68 69 
70 71 第11章 72 73 74 75 76 77 78 79 80 81 
82 83 84 第12章 85 86 87 88 89 90 第13章 91 
92 
※これまでのあらすじは、こちら


1928年(昭和3年)秋。

卓治の父、茂市がたおれたとの一報が、能取岬のイセたちの
もとにとどいた。

あわてて駆けつけると、すでに親戚たちも集まってきていた。

さいわい、一命はとりとめたが、心臓がかなり弱っていると
のことだった。

状態が安定するまで、数日、入院し、その後は、茂市の希望
もあって、自宅にもどることになった。

そのかん、イセは、献身的に看病につとめたが、そんななか
で、親戚たちのうわさ話がもれ聴こえてくる。

「相続が…」

「借金が…」

聴いてみて、おどろいた。

町の資産家、町の名士として名の通っていたはずの茂市が、
実は、莫大な借金を背負っているというのだ。

「選挙だよう」

「そうそう。町の選挙ならまだしも、国の選挙となると、そり
ゃあ途方もない金がかかるだろ」

「相当ばらまいたらしいからねえ」

娘の夫である、東条貞の選挙資金の話だった。

4年前の北海道議会議員選挙にはじまって、この春の衆議
院選挙にいたるまで、茂市は、自分の資産を担保に入れま
くって、東条の選挙資金を捻出した。

「なんでも、それが、14万円にもなるっていうじゃないか」

当時の14万円は、現在に換算すると、およそ2億8千万円に
なる。計算方式にもよるだろうが、少なく見積もっても1億は
くだらない。

いずれにしても、途方もない額である。

「それを、卓治さんが相続するのかい?」

「背負いきれるものかね。まさか、我々にまで火の粉がふりか
えるなんてことはないだろうね」

「いや、法律で、限定相続っていうのをすれば、借金は相続し
なくてすむんだってさ」

「そんならいいけど…」

ここでいう限定相続とは、正式には、「相続の限定承認」の
ことをいう。

「相続によって得た財産の限度においてのみ被相続人の債務
及び遺贈を弁済すべきことを留保して」相続の承認をするこ
とである。 ※詳細は、こちら

実際、茂市自身も、自分のいのちはもう長くないことを察し
て、卓治に、そっと、限定承認をするように、すすめていた
のだ。

けれども、町の名士としてやってきた茂市にとって、それは
苦渋の決断であったにちがいない。

自分が一代できずきあげてきたものを、すべてうしなってし
まうばかりか、かけがえのない息子に、何ひとつ残してやる
ことはできないのだから。

イセは、決心した。

いまわのきわの茂市の枕元で、こう宣言したのだ。

「お義父さん、安心してください。お義父さんの借金、私たち
がはたらいて、必ず返します。お義父さんがきずきあげてき
た財産、なくすようなことはしませんから」

まわりの親戚たちは、顔を見合わせてざわめいたが、茂市
の手前、おもてだって何かを言うことはできない。

いや、内心では、死んでいく茂市にたいする気休めとしか、
想っていなかったかもしれない。

しかし、それを聴いた茂市は、ほっと安堵の表情を見せた。

そして、糸が切れるように意識をうしない、こんこんと眠りつ
づけ、数日後、静かに息を引き取ったのだ。


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2016年09月29日

物語版「零(zero)に立つ」第13章 茂市の死(2)/通巻92話

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70 71 第11章 72 73 74 75 76 77 78 79 80 81 
82 83 84 第12章 85 86 87 88 89 90 第13章 91 
※これまでのあらすじは、こちら


タマの夫、東条貞(とうじょう・ただし。通称は「てい」)は、茂市
と同じく、網走町会議員であった。

それが、3年前の1924年に北海道議会議員に鞍替えし、さ
らに、衆議院議員に立候補しようとしていた。

この年、1927年。翌1928年は、日本ではじめての普通選
挙がおこなわれることになっていたのである。

それまでの法律では、立候補できるのは「直接国税3円以上
納める25歳以上の男子」というきまりがあり、それは、全対
象者の5.5パーセントにすぎなかった。

しかも、この時代、まだ女性の参政権はみとめられていない。

普通選挙.JPG
※出典は、こちら

もともと、富裕層しか立候補できない仕組みだったから、選挙
現場も、すべて金次第という空気が蔓延していた。

いわゆる「札束が飛び交う」というのは、けっして比喩ではな
かったのである。

法律が変わったからといって、その空気がおいそれとあらたま
るはずがない。

そのなかにあって、東条貞は、新聞記者を転任した経歴をもち、
珍しく弁舌の立つ男であった。

雄弁ぶりがみとめられ、一町議会議員から衆議院議員までの
ぼりつめることになるわけだが、その東条とて、金なしには選挙
はできない。

金庫番として、采配をふるったのが、ほかでもない、東条の義
父となった、中川茂市だったのである。

もともと、町議会でいちはやく東条の才能を見抜いていた茂市
にとって、タマとの結婚は、願ってもないことだった。

それ以来、ことあるごとに、うしろだてとなって、資金の調達に
奔走してきたのである。

翌1928年(昭和3年)2月20日、東条は33歳の若さで、
衆議院議員に立候補。惜しくも落選するが、2年後の1930
年の総選挙では、当選し、計5期をつとめることになる。

しかし、その後、戦時中、翼賛政治会に所属していた経歴
などがもとで、戦後は公職を追放となり、引退するのであった。

…と、話は横道にそれたが、ともかくその日は、東条の衆議
院議員立候補表明の内祝い会となり、とても、愛子のことを
言い出せる雰囲気ではなかった。

「しかたない。イセ、またにすべえ」

卓治が言い、イセも、うなずかざるを得なかった。

しかしこのあと、事態が急展開し、愛子を引き取るまでに、
さらに、4年の歳月を要しようとは、このときの卓治とイセ
は、知る由もなかったのである。


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2016年09月28日

物語版「零(zero)に立つ」第13章 茂市の死(1)/通巻91話

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どれほど、幸せな日がつづこうと、イセのこころのなかには、
いつもひそかに、絶えない悲しみがあった。

それは、もちろん、郷里においてきた娘、愛子のことだった。

いつしか故郷を離れて、10年の月日が流れていた。愛子も、
もう10歳になっているはずだった。

あのとき、後妻のモヨに、2年分の借金500円を、愛子の
育て賃にとあずけて、実家をあとにした。

その500円が、ただの一銭たりとも、里親である、寒河江
の五十嵐家にわたっていないと知ったのは、樺太からもどっ
てきてからだった。

どうしても、愛子に直接、着物を送りたいからと、実家に、
五十嵐家の住所をたずねたのだ。

これまではすべて、モヨに託して、わたしてもらっていた。

けれども、暮らしによゆうもでき、愛子もおおきくなって、
文字も書けるようになったろうから、直接やりとりしたいと
思ったのだ。

モヨがしぶしぶ教えてくれた住所に、送ったところ、返っ
てきた返事に、そのことが書かれてあった。

それだけではない。これまでなけなしの金をはたいて送っ
ていたものすべてが、モヨによって、粗末なものにとりか
えられていたことを知ったのだ。

「私が毎月届けてあげるから」と言った、モヨの赤いくち
びるが、鮮明に脳裏によみがえった。

だまされたのだ。一度ならず二度までも…。
自分は何のために、遊廓へと身を落としたのか…。

怒りよりも、情けなさとくやしさがこみあげてきた。

そして、愛子はそのことを聴かされているのだろうか。
自分を、どれほど薄情な親と想っているだろうか。

さいわい、五十嵐家は、イセが育ててもらった佐藤家
とちがい、暮らしにはよゆうがあった。

手紙を読むかぎりでは、愛子は、わが子のように大切
に育ててもらっているようだ。

それだけが、せめてものすくいだった。

そうこうするうち、能取岬に落ち着いて3年が経った。

あるとき、イセは思い切って、卓治に、「そろそろ、
愛子を引き取れないだろうか」と、もちかけた。

卓治も、そのことは考えてくれていたようだった。

牧場の経営は安定していて、愛子ひとりふえても何も
問題はない。

宗治も、「オレに、妹ができるのかあ」と言いながら
も、まんざらでもない顔をしている。

しかし、そのためには、中川家の当主である、茂市の
許可がいる。

思い立って、ある日、2人は、網走市内(当時はまだ
網走町であるが)の中川家をたずねた。

ところが、着いてみて、イセと卓治は顔を見あわせた。
玄関先に、くつがあふれんばかりに散らかっていたのだ。

家のなかからは、わいわいとにぎやかな声が聴こえ、
何やらもりあがっているようすが、伝わってくる。

「しまった。前もって連絡しておけばよかったかな」

そう言い合っているうち、なかから出てきた卓治の妹、
タマが、めざとく2人を目に止めた。

「あら、兄さん! ちょうどよかった。知らせをやるとこ
ろだったわ。うちのひとが、来年の選挙に正式に出る
ことが決まったの」


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2016年09月27日

物語版「零(zero)に立つ」第12章 岬の日々(6)/通巻90話

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第4章 26 27 28 29 30 31 第5章 32 33 34 35 36 
37 第6章 38 39 40 41 42 43 44 第7章 45 46 47 
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70 71 第11章 72 73 74 75 76 77 78 79 80 81 
82 83 84 第12章 85 86 87 88 89
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イセは、冬になるとやってくる、流氷を見るのが好きだった。

それは、たいてい12月下旬か1月はじめ。その冬一番に、
ずしんと冷え込む晩がやってくる。

オホーツク地域の人間なら、外に出てみなくてもわかる。
「あ、今日、氷が着いたな…」と。

実は、オホーツク海は、世界的に見ても、流氷の南限であ
る。通常は、これほど南の位置で、流氷ができることはない。

では、なぜ、オホーツク海にだけ、流氷が生まれるのか。

オホーツク海.JPG
※出典は、こちら

通常、寒気によって、海表面が冷やされると、水は重くなって
沈み、その下のあたたかい水と入れ代わる。

そうして、海の水は、常に循環している。太平洋や大西洋が
凍らないのは、そのためである。

ところが、オホーツク海は、シベリア、カムチャッカ半島、千島
列島、北海道に囲まれた、「閉じられた」海だ。

そこに、遠く、ユーラシア大陸のアムール川から、閉じられた
海域の表面をおおうように、大量の真水が、流れ込む。

すると、海表面と海中とで、極端な塩分差が生じる。

塩分の低い水は、冷えても沈みにくいので、循環が起こりにく
くなるのである。

そこへ、シベリアからの冷たい風が吹きつけると、海表面が、
そのまま凍ってしまうのだ。

そうしてできた海氷が、ゆっくりと成長しながら、北海道の
オホーツク沿岸に向かって、南下する。

これが、北海道にやってくる流氷のなりたちである。

もちろん、イセには、そんな理屈はわからない。

けれども、毎年冬になると、青い水平線が、真っ白に変わる
季節がやってくると、わくわくするのをおさえられない。

その白い帯は、日に日に岸に近づいてきて、やがてある朝、
海は、真っ白に変わっている。

さらに、流氷とともに、いろいろな生きものたちもやってく
る。アザラシ、トド、オオワシ、オジロワシ…。

はじめて見たときには、そのおおきさに度肝を抜かれたが、
アザラシなど、よく見ると、かわいらしく、しぐさもほほえま
しい。

また、真っ白な海の下にも、さまざまな生きものたちがい
ることを、知り合いになった、アイヌの老人が教えてくれた。

その雄大な自然のなかに、身をゆだねていると、ちいさな
ことなど、どうでもよくなってくる。

イセは、岬の突端に立つと、胸いっぱいに、その清冽な空
気を吸い、吐き出さずにはいられない。

ようやく、自分の生きる場所を見つけた…。そんな気持ち
がしてならないのである。

こうして、能取岬での、おだやかでなごやかな日々が、ゆ
っくりと過ぎていった…。


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70 71 第11章 72 73 74 75 76 77 78 79 80 81 
82 83 84 第12章 85 86 87 88
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樺太ほどではないけれども、オホーツクの冬は長くきびしい。

お盆がすぎると秋風が吹き、9月もなかばになると霜が降り、
10月には初雪が降って、早ければ12月のはじめには根雪
(冬のあいだ溶けない雪)になる。

本州のひとは、「雪が溶ければ水になる」と言うが、北海道
の人間は、「雪が溶ければ春になる」と言うと言われる。

その春がやってくるのは、ようやく、4月になってからだ。

そんな北海道でも、能取岬の冬は、さらにきびしかった。

三方が吹きさらしの牧草地では、風はとどまるところなく、
木々や建物に吹きつけてくる。

湿気の少ない北海道の雪は、「パウダースノー」と呼ばれ
て、スキー客にはよろこばれるが、生活をするうえでは、
ゆだんがならない相手だ。

その強い風にあおられて、いったん降った雪が、ふたたび
四方に舞い狂うのだから。

地吹雪である。

視界はさえぎられ、30センチ先も見えないほどだ。能取
岬のような、吹きっさらしの場所では、まさに一寸先は、
白い闇である。

いまとちがって街灯も何もない時代、そんななかで道に迷
えば、容赦なく死が待っている。

しかし、それほどにきびしい能取岬の冬が、イセは、好き
だった。

さすがに猛吹雪のさなかに、出歩くことはないが、雪がや
むと、すぐに外に飛び出さずにはいられない。

強い風にあらわれたあとの、真っ青な空。誰も踏みしめた
あとのない真っ白な雪原。そして、その向こうにどこまで
も広がる海。

そのどれもが、イセのこころをひきつけてやまないのだ。

「母ちゃん、オレも行く!」

小学生になって、すっかり背丈の伸びた宗治が、イセのあ
とにつづく。

凍傷にかからぬよう、幾重にもしっかりと着込み、雪をこ
いでいくイセたちの姿を、卓治はいつもあきれてながめて
いる。

「こんな日は、ストーブごんごん炊いて、甘酒でも飲んで
るにかぎるべや」

そうして、そのことばのとおり、居間のダルマストーブの
うえに鍋をおいて、ゆっくりと甘酒をかき混ぜる。

イセたちがもどってきたら、一緒に飲むためである。

しばらく経つと、頭のてっぺんから足のつまさきまで冷え
きったイセたちが、ころがるように、家に駆け込んでくる。

「わあ、いいにおい!」

宗治が、すかさず声をあげる。

そうして、一家3人、はふはふと甘酒を飲んであったまると、
また着込んで、今度は3人一緒に、雪かきにでかけるのだ。

家のまわり、厩舎のまわり、そして、町へとつながる道まで
の通り道。雪かきの量も半端ではない。

それもまた、3人でやれば、つらくはない。

そして、イセには、さらにもうひとつ、楽しみがあった。


ぜひ、感想をお聴かせください
物語版「零(zero)に立つ」の感想を、ぜひお寄せください。
ブログのコメント欄にお書きいただくか、
こちらまで、メールでお寄せいただければ幸いです。
※メール画面が立ち上がらない場合は、こちらまで→info@kamewaza.com

その際、掲載してよいお名前を教えてください。(匿名・イニシャル可)
また、ブログ等をおもちのかたは、URLも、よかったらお知らせください。
あわせて、ご紹介させていただきます。

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「零(zero)に立つ」第1巻 
1200円+送料200円=1400円 ※2冊以上でも、送料は据え置き200円
※イセさんの誕生〜北海道に渡るまでを、まとめて一気に読めます。
詳細は、こちら! お申し込みは、こちら

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網走市観光協会さまのサイトより、ご承諾を得て
網走の写真をお借りしています。ありがとうございます。
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2016年09月25日

9月21日★「首都圏公演実現させるぞ!」チーム・ミーティング報告

天童で産まれ網走で活躍した、中川イセさんの半生を描いた
語り劇『零(zero)に立つ
〜激動の一世紀を生きた中川イセの物語〜』


夢実子の語り劇を上演してみませんか?

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札幌★夢実子×ゆみこ 語り劇&ワークショップ

日時/2016年11月26日(土)10時〜16時45分
会場/ちえりあ演劇スタジオ1(地下鉄東西線宮の沢駅約5分)
詳細/こちら
おもて面.JPG うら面.JPG
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脚本担当・かめおかゆみこです。

土日祝日は、連載はお休みさせていただいています。


※これまでのあらすじは、こちら


9月21日に開催された、
「零(zero)に立つ」首都圏公演実現させるぞ!
チームミーティング


首都圏ミーティング_n.jpg

まだ、チーム募集もまだなのに、チーム・ミーティング。

急な呼びかけにもかかわらず、雨のなか、夢実子さん・私を
ふくめて、8名が集結。

ほかに、急用で欠席のかた2名、ご自身やご家族が体調不
良で欠席のかた2名おり、

「応援してますので、またお知らせください」など、ていねい
なご連絡をくださいました。感謝です。


まず、集まっていただいたメンバーに、この作品の成り立ちに
ついての話をさせていただいた。

夢実子さんのなかでは、10年以上あたためていた構想だった
けれども、それが動き出したのが、2014年9月。

その後、2014年12月に、網走まで、取材旅行にいったあた
りから、話はどんどん加速する。

このへんのいきさつについては、2015年3月21日のブログに、
「中川イセ物語」(仮題)が生まれるまで として、簡潔にまとめた。

また、網走取材旅行については、夢実子さんが、自分のブログ
にアップしていたものを、「旅行記」としてまとめたものをPDF化。
こちらからダウンロードできる。

それからわずか1年半のあいだに、網走市、山形県天童市、同
山形市の3か所で、公演が実現してしまったわけである。


首都圏公演についても、日程のこと、会場のことなど、いくつか
案が出されたが、決定にはいたらず、継続審議となった。

けれども、もうすっかりみんな、やる気満々

まずは、この気持ちに共感してくださるかたをつのりながら、細
部を詰めていこうという話になった。

今後は、月例の集まりをひらきつつ、チーム専用のフェイスブッ
クページや、メーリング・リストなども、つくっていく予定である。

具体化したら、ぜひ、ご参加いただけるとうれしいです。


以下は、山形公演の際に、以前観劇してくださったかたにあてた
案内文に、添えたメッセージです。

この想いを、首都圏公演にも継承していきたいと想っています。

どうぞ、応援してください。


中川イセさんの「あきらめない精神」は、本当にすばらしいです。

将来を不安に思う10代の子が、
「こんなひとにはじめて会った」と、未来への夢がふくらむのです。

人生の曲がり角で立ち止まっていたひとが、
「もう一度やってみよう」と、生きる勇気が湧いてくるのです。

挫折感に、うつむいていたひとが、
「まだまだやれるはず」と、立ち上がる元気が出てくるのです。

70歳、80歳になったひとが、
「もっとしっかり生きよう」と、前向きな気持ちになるのです。

(何しろ、イセさんは103歳まで、現役でしたから!)

何よりも、イセさんをとおして、
「誰もが、やればできるんだ」と、力づよいはげましをもらえる、

そんな舞台を、私たちはつくっています。

イセさんの「あきらめない精神」を伝えたい!

私たちの想いは、これに尽きます。

どうぞ、劇場に足をお運びいただけますよう、お待ちしています。

               感謝をこめて

            演者・夢実子&脚本・かめおかゆみこ



なお、10月22日、都内にて、かめおかのメルマガ13周年
イベントとあわせ、首都圏公演プレイベントをおこなう予定! 

詳細はできるだけ早めにアップしますので、ぜひ、10月22
日午後は空けておいてください。お楽しみに!


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1200円+送料200円=1400円 ※2冊以上でも、送料は据え置き200円
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2016年09月24日

札幌公演「掌編・中川イセ物語」のちらしができました!

天童で産まれ網走で活躍した、中川イセさんの半生を描いた
語り劇『零(zero)に立つ
〜激動の一世紀を生きた中川イセの物語〜』


夢実子の語り劇を上演してみませんか?

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札幌★夢実子×ゆみこ 語り劇&ワークショップ

日時/2016年11月26日(土)10時〜16時45分
会場/ちえりあ演劇スタジオ1(地下鉄東西線宮の沢駅約5分)
[ここに地図が表示されます]

詳細/こちら
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脚本担当・かめおかゆみこです。

土日祝日は、連載はお休みさせていただいています。


※これまでのあらすじは、こちら


YYプロジェクト札幌企画「掌編・中川イセ物語」ほかの、
ちらしができました!

まだ、版下の段階で、これからすぐに印刷にまわしますので、
10月に入ったら、実際に配布できます!

ぜひぜひ、受け取ってくださいね。そして、お友だちに配り
ますよ〜というかたも、大歓迎です!

おもては、こんな感じ!

おもて面.JPG

うらは、こんな感じ!

うら面.JPG


また、フェイスブックのイベントページのURLが変わりました。

こちらになります!
https://www.facebook.com/events/339053243094443/

ご参加いただけるかたは、ぜひ、「参加」を押してください。

ただし、正式なお申し込みはフォームからになります。
https://ws.formzu.net/fgen/S80123661/

参加はできないけれど、おもしろそう〜と想っていただけるかたは、
ぜひ、「興味あり」をクリックしてください。はげみになります!

それでは、いよいよ正式告知スタートとなります。
あなたのご参加、お待ちしています!!


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1200円+送料200円=1400円 ※2冊以上でも、送料は据え置き200円
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posted by 夢実子「語り劇」プロジェクト at 10:32| Comment(0) | 情報 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

これまでのあらすじ/「『使いかた』がちがったのです」

天童で産まれ網走で活躍した、中川イセさんの半生を描いた
語り劇『零(zero)に立つ
〜激動の一世紀を生きた中川イセの物語〜』


夢実子の語り劇を上演してみませんか?

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日時/2016年11月26日(土)10時〜16時45分
会場/ちえりあ演劇スタジオ1(地下鉄東西線宮の沢駅約5分)
詳細/こちら
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脚本担当・かめおかゆみこです。

土日祝日は、連載はお休みさせていただいています。


第1章     第2章      10 11 12 13 14 
第3章 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25
第4章 26 27 28 29 30 31 第5章 32 33 34 35 36 
37 第6章 38 39 40 41 42 43 44 第7章 45 46 47 
48 49 第8章 51 52 53 54 55 56 57 58 59
第9章 60 61 62 63 64 65 66 第10章 67 68 69 
70 71 第11章 72 73 74 75 76 77 78 79 80 81 
82 83 84 第12章 85 86 87 88

★第1章★ いせよ誕生
明治34年(1901年)、今野安蔵・サダの娘、いせよ(のちの中川イセ)
誕生。サダは、産後の肥立ちが悪く、死を予感。ヤクザものの安蔵にあとを
託すことを怖れ、佐藤コウに里親を頼むと、その年のうちに亡くなった。

★第2章★ 差別と貧しさのなかで
イセは佐藤家の里子になった。佐藤家は貧しく、イセはまわりからいじめられ
たり、差別を受けたりするが、コウの愛情、親友・渡辺みよしの存在、自身の
負けず嫌いの性格で、それらをはね返して成長していく。

★第3章★ はじめての家出
10歳で実家に連れもどされイセは、学校にも行けず、仕事に明け暮れる。
11歳の夏、モヨとの口論から、初めての家出。山形の船山先生夫妻の
家で住み込みの女中をし、かわいがられるも、翌春、船山先生に満州へ
の転勤辞令が出て、再び実家にもどることになる。

★第4章★ イセの初恋
またまた家出し、米沢の寮づきの織物工場ではたらく。仲間もできて楽し
い日々。そんな中、隣に住む名家の次男坊・戸田茂雄との初恋も体験。し
かし、安蔵にイセの居場所を知られたことで、イセは実家に帰ることに…。

★第5章★ 女優志願
実家にいる間、地域巡演で山形にきた松井須磨子(実はにせもの)にあこが
れ、家出して上京する。しかし、たずねた帝国劇場に須磨子はおらず、い
くつかの仕事を転々とするが、結局あきらめて山形にもどることになる。

★第6章★ 運命の歯車
人絹工場、機織り工場などではたらくうち、かつて実家に出入りしていた
芸人・八重松と再会。乱暴されて子どもを身ごもり、17歳で娘・愛子を
出産。その後、北海道の遊廓への話をもちかけられ、悩んだ末、イセは3
年で500円の借金をし、そのお金で愛子を里子に出すことにする。

★第7章★ 網走まで
大正7年暮れ、イセは北海道に旅立った。ところが途中で虫垂炎から腹
膜炎をおこし、到着した旭川で即入院。借金が倍の1000円となり、
網走の遊廓に売られることに。駅前の島田食堂の夫婦にかわいがられる。

★第8章★「お職」になる!
自転車を借りて町内を乗り回したり、柔道場に通ったりしたイセだが、娼
妓になると今度は、囲碁や将棋をおぼえ、お客を楽しませる工夫をした。
また酒に強く、何度も杯を重ね、そこから収益をあげることも考えた。

★第9章★「小梅」の死
イセは、娼妓に乱暴した客を一本背負いで投げ飛ばすなどで、娼妓たちの
信頼を勝ち得ていった。しかし一方で、妹ぶんの「小梅」が、失恋を苦に
自死。小梅の死をきっかけに、娼妓みんなでちからをあわせることを誓う。

★第10章★中川卓治という男
イセは、柔道場で出会った中川卓治と親しくなり、急速に気持ちが近づい
ていく。卓治の妹・タマは、2人の交際をはげしく反対するが、卓治はイ
セに求婚し、イセは身請けされて、ついに遊廓を出る。

★第11章★樺太にて
中川家よりもイセを選んだ卓治。2人は樺太にわたり、あとからきた島田
夫婦のもとではたらき、冬は、たんぽもちをつくって売って、暮らしを立
てた。卓治は、酒がもとでけんかをして大けがをしたりもするが、ついに
茂市の許しが出て、網走に帰れることになる。

★第12章★岬の日々(20160922ぶんまで)
網走の能取岬にある中川牧場の管理をまかされたイセたち。その雄大な景
色にイセは魅了される。一方、馬に慣れるため、馬糞を手づかみさせられ
るなど大変な想いもするが、少しずつ馬との暮らしに親しんでいく…。


今日は、今朝発行の私のメルマガ「今日のフォーカスチェンジ
第4710号に掲載した、「『使いかた』がちがったのです」を転載します。

これは、先週掲載した「いのちの使いかた」の、いわば続編です。


 「使いかた」がちがったのです。

2014年、語り劇「零(zero)に立つ」の
脚本を書くことになって、

原作を読ませていただき、不思議に思ったのが、
主人公のイセさんの無類の「強さ」でした。

幼少時から、ありえないほどの不幸の連続。

普通のひとなら、一度や二度どころか、
20回、30回、ザセツしたって、
おかしくないような境遇。

にもかかわらず、なぜこうして、
何度でも何度でも立ち直り、
乗りこえていくことができたのか。

その理由を解明できないまま、脚本はできあがり、
公演にいたったのですが…。

最近、もしかしたら、と思うことがあります。

イセさんの父・安蔵は、人間的には、
あまりほめられた人物とは言えませんでした。

桑の仲買人をやる一方、興行師もやり、
うらでは、賭場をひらいたりもしていました。

自分勝手で、気が向かないと、
平気で支払いを踏み倒したりもしています。

弱い立場のひとを守り、
みんなが幸せになることを願って生きた
イセさんとは、真逆のようにも見えます。

でも、よくよく考えて、気がつきました。

イセさんの負けずぎらいの性格は、
まちがいなく、この安蔵ゆずりなのです。

(夭折した生母は、お嬢さん育ちの、
 気のやさしいひとでした)

ときにはったりをかますこともできる、
度胸のよさ。

臨機応変に対処できる、判断力や決断力、
そして行動力。
これもまた、安蔵そのものです。

ただ、その「使いかた」がちがったのです。

安蔵は、それを、自分や、
自分の気に入ったまわりのもののためだけに、
使ったのです。

自分の利益になることのために使ったのです。

それにたいして、イセさんは、
誰もが幸せになれる社会の実現を願い、

自分の損得は計算に入れず、
相手の幸福のために行動したのです。

真反対に見えるこの生きかた。

けれども、私は、こんなとき、いつも
陰陽の図を思い出すのです。

円のなかに、白と黒がまじりあう、あの図です。
キャプチャ.JPG

白い部分のなかに黒があり、
黒い部分のなかに白があり、
両者はわかちがたくつながっています。

陰極まれば陽に転じ、陽極まれば陰に転ず。

安蔵とイセさんの関係は、
まさしくこれではなかったかと。

安蔵のもつ才知を受け継いだからこそ、
イセさんは、
人生のピンチを切り抜けることができたのです。

安蔵の度胸のよさが、
イセさんの決断をたすけたのです。

安蔵なしに、イセさんは存在しなかったのです。

結局のところ、
すべてに、いい・悪いは、ないのです。

ただ、それをどう使うかだけ。

今日のメッセージは、
そのまま、あなたの人生につなげることが
できると思います。

あなたがもしも、
自分の何かを否定しているとしたら、
それはもったいないことです。

そこには、必ず
いま見えていない、うらの意味があります。

片方から見ると、マイナスに見えることが、
もう片方からは、プラスになるかもしれません。

あなたがそれを、
どう活かすかにかかっているのです。

どう活かすか。
いまはまだ、わからないとしても、

まずは、それを
肯定するところからはじめてみませんか。

どんなことであっても、肯定されたときに、
それは、光をはなちはじめるものです。

肯定し、見つめてみてください。

そして、あなたのなかの、
かくされていた光を見いだしてください。

あなたの、あたらしい一歩のために。


ぜひ、感想をお聴かせください
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日曜日のブログにて、紹介させていただきます。
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2016年09月23日

物語版「零(zero)に立つ」第12章 岬の日々(4)/通巻88話

天童で産まれ網走で活躍した、中川イセさんの半生を描いた
語り劇『零(zero)に立つ
〜激動の一世紀を生きた中川イセの物語〜』


夢実子の語り劇を上演してみませんか?

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日時/2016年11月26日(土)10時〜16時45分
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詳細/こちら
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「零(zero)に立つ」第1巻 
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※イセさんの誕生〜北海道に渡るまでを、まとめて一気に読めます。
詳細は、こちら! お申し込みは、こちら

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脚本担当・かめおかゆみこです。

山谷一郎著『岬を駈ける女』を主要資料としながら、かめおかの視点で、イセさんの
物語をつむいでいます。物語ですので、すべてが事実ではなく、想像やフィクション
がまじる部分もあります。けれども、イセさんの生きかたの根本ははずさないで書い
ていくつもりです。ご感想をいただければ励みになります。よろしくお願いします。


第1章     第2章      10 11 12 13 14 
第3章 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25
第4章 26 27 28 29 30 31 第5章 32 33 34 35 36 
37 第6章 38 39 40 41 42 43 44 第7章 45 46 47 
48 49 第8章 51 52 53 54 55 56 57 58 59
第9章 60 61 62 63 64 65 66 第10章 67 68 69 
70 71 第11章 72 73 74 75 76 77 78 79 80 81 
82 83 84 第12章 85 86 87
※これまでのあらすじは、こちら


しかし、牧場をやるからには、ただ、馬に乗れればいいとい
うわけではない。

牧場の仕事は、馬の飼育。馬の世話をすることである。

はじめての廏舎(きゅうしゃ。馬小屋のこと)掃除のとき、卓治
がとんでもないことを言い出した。

「イセ、ここにある馬糞ば、手で片づけろや」

「ええ? いやだよ。なしてそんなこと」

「それが、馬と仲良くなる一番手っとり早い方法だも」

「そんな…」

卓治は、イセの困惑など、おかまいなしに、

「したら、おらは、外まわりを掃除してくるから。けっぱれ(が
んばれ)や」

言うなり、厩舎を出ていってしまった。

あとに残されたのは、イセと馬糞の山だけだ。

振り返ると、馬たちが、いっせいにイセを見ているような気が
する。

これはもう、やるしかない。イセは、目をぎゅっとつぶって、
馬糞をわしづかみにした。

そうして、バケツにつめこんでは、堆肥小屋に運ぶ。

馬糞は、乾燥させると肥料になるので、農家が買ってくれる。
ひとつもむだになることはないのだ。

ようやく、すべての馬糞を片づけて、外の流し場で、せっけん
でごしごし手を洗う。

ころあいをみはからってか、卓治がひょいと顔を出した。

「おお、終わったか。それじゃ、あとはおらがやるから、食事
のしたくに行っていいぞ」

そうして、てきぱきと作業にとりかかる。

ほっとして、家の炊事場にもどるが、なんだか手に、馬糞のに
おいが残っているようで、料理をしていても、落ち着かない。

いや、実際、手のにおいをかぐと、ふうっと、たしかににおう
のだ。おかげで、食欲もすっかり落ちてしまった。

「母ちゃん、なした? 具合でも悪いのか?」

宗治にまで気にされてしまった。

それでも、慣れというものはおそろしいものだ。毎日毎日、
作業をしていると、だんだん平気になってくるのである。

それどころか、においや色やかたちで、その日の馬の健康
状態もわかってくる。

「お、どうした。具合悪いか? 大丈夫か?」

そんなふうに話しかけると、馬のほうも、親しげにイセに視
線を返したり、鼻づらを寄せてきたりする。

実際、馬は、かしこい生きものだから、自分にこころを向け
てくれる人間のことは、すぐに見抜くのである。

最初のころは、食欲もなくなるほどだったにおいにも、いつ
か慣れてしまったのか、気にならなくなってきた。

「なんだか、厩舎に入るとね、馬たちが、わたすがきたのを
よろこんでくれてるような気がするんだよ」

ふっと、卓治にもらすと、卓治はにんまり笑って言った。

「きっと、自分らの仲間だと想っているんだべ」

「そっか。おんなじにおいがするって、想ってるのかもしれ
ないね」

二人の笑い声が、厩舎にひびいた。


ぜひ、感想をお聴かせください
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2016年09月22日

物語版「零(zero)に立つ」第12章 岬の日々(3)/通巻87話

天童で産まれ網走で活躍した、中川イセさんの半生を描いた
語り劇『零(zero)に立つ
〜激動の一世紀を生きた中川イセの物語〜』


夢実子の語り劇を上演してみませんか?

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札幌★夢実子×ゆみこ 語り劇&ワークショップ

日時/2016年11月26日(土)10時〜16時45分
会場/ちえりあ演劇スタジオ1(地下鉄東西線宮の沢駅約5分)
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脚本担当・かめおかゆみこです。

土日祝日は連載をお休みさせていただいていますが、今週は月
曜日も祝日だったので、お休みが多すぎるのと、今日は、私が書
きたくて書いています。(笑)


山谷一郎著『岬を駈ける女』を主要資料としながら、かめおかの視点で、イセさんの
物語をつむいでいます。物語ですので、すべてが事実ではなく、想像やフィクション
がまじる部分もあります。けれども、イセさんの生きかたの根本ははずさないで書い
ていくつもりです。ご感想をいただければ励みになります。よろしくお願いします。


第1章     第2章      10 11 12 13 14 
第3章 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25
第4章 26 27 28 29 30 31 第5章 32 33 34 35 36 
37 第6章 38 39 40 41 42 43 44 第7章 45 46 47 
48 49 第8章 51 52 53 54 55 56 57 58 59
第9章 60 61 62 63 64 65 66 第10章 67 68 69 
70 71 第11章 72 73 74 75 76 77 78 79 80 81 
82 83 84 第12章 85 86
※これまでのあらすじは、こちら


日本の馬は総じて小型である。

こちらがサラブレッド。
サラブレッド.JPG

それにたいして、こちらが、北海道和種…、いわゆる「道産子」である。
道産子.JPG

いずれも出典は、こちら

サラブレッドと比較すると、ちょっとずんぐりむっくりの感がある。

けれども、「1頭あたり30〜60貫(113〜226s)の荷物を
駄載することができる」と、上記サイトには書かれている。

小柄ではあるが、ちからもち、北海道開拓には欠かせない存
在だったのである。

「イセ、おまえ、馬に乗れるか?」

翌朝、朝ごはんを食べながら、卓治が不意に訊く。

「ええ? わたすが? とんでもない」

乗るどころか、そもそもみぢかに接したことさえなかった。

「じゃあ、乗りかたをおぼえないとな」

「わたすが、馬に、乗る?!」

「牧場で暮らすんだから、当たり前だべ。よしっ、今日から、
おらが教えてやる」

「やったー。母ちゃん、オレも一緒に教えてやる!」

宗治までが、目をかがやかせて言う始末だ。

「教えるったって、宗ちゃん、あんたも、馬に乗れるの?」

「ちっこいころ、父ちゃんによく乗っけてもらったから、大体
わかる」

そのことばのとおり、宗治は、卓治に手ほどきを受けると、
すぐにひとりで乗れるようになってしまった。

けれども、イセは、そうはいかない。

そうでなくても、144センチの小柄なイセにとって、馬は、
とてつもなくおおきな生きものに想えるのである。

しかも、馬はかしこい生きものだから、おっかなびっくり近
寄れば、すぐにそれを見抜いてしまう。

そうなると、言うことなんか聴くものではない。

そして、いつもはやさしい卓治も、馬のことになると、とた
んに、きびしい教師に変身する。

ようやく馬の背に乗れたと思ったら、今度は「姿勢が悪い!」
と言いざま、バチンとむちを鳴らす。

もちろん、地面にたいして打つだけだが、馬がブルンと身
震いし、イセは思わず馬の背にしがみつく。

なんとか歩き、走らせることができるようになっても、今度
は、止めるのがむずかしかった。

いくらイセが手綱を引いても、ちっとも止まってくれないの
である。

「止まって! 止まって! 止まってくれー!」

思わず叫んでしまい、卓治に、「ばか」とあきれられた。

「母ちゃん、もっと自信もって、はっきり伝えなきゃだめだよ」

宗治にまで、言われてしまう始末である。

あるときなど、少し走れるようになったかと思ったとたん、馬
がいきなり前足をふりあげ、そのまま、どすんと落とされてし
まった。

イセがもどるのを待っていた卓治と宗治のもとに、馬は、背中
をからっぽにしたまま、意気揚々と帰って来た。

「ありゃ、落とされたな。迎えに行くか」

それでも、卓治の特訓のおかげで、一週間もすると、少しずつ
馬をのりこなせるようになっていった。


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posted by 夢実子「語り劇」プロジェクト at 07:24| Comment(0) | 物語版「零(zero)に立つ」 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする